保存地区 Conservation Area と歴史建造物 Listed Building(イギリスの都市計画④)

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イギリスを旅行すると、古い建物が新しいものと共存している例を見ることが多いでしょう。これまでイギリスの都市計画について紹介してきましたが、古い建物が多いイギリスで歴史的重要建築保存のシステムについて触れないことはできません。これには2種類あって、ひとつは1軒ずつの建物を保護するListed Building、もうひとつは建物や空間で構成された地区・地域を保護するConservation Area です。

リスティッド・ビルディング(Listed Building)

歴史的、建築的に重要な建物を1件ずつ指定して保護する仕組みはListed Building (リスティッド・ビルディング)と呼ばれ、3つのグレードに分かれています。もっとも重要なものはグレード・ワン(Grade I)、次に重要なのがグレード・ツースター(Grade II*)、その次はグレード・ツー(Grade II)です。リスティッド・ビルディングはイギリス中でおよそ374,000件あります。そのうち92%がGrade II、5.5%がGrade II*、2.5%がGrade Iです。

リスティッド・ビルディングには実にさまざまなものがあります。教会や市庁舎、博物館などの公共の建物、大学や学校、駅舎、邸宅やカントリーハウス、古民家、工場や橋、水道橋なども。税金で維持修理される大規模な公共の建物だけでなく、普通の人が住んでいる小さな住宅も含まれます。所有者はリスティッド・ビルディングのステータスにふさわしい維持修復をする必要があり、自分の家といえども勝手に工事をすることはできません。建物の改築をする場合は市の都市計画課で特別な許可(Listed Building Consent)をもらう必要があるのです。コンサヴェーション・オフィサー(Conservation Officer)と呼ばれる歴史建造物専門家にお伺いをたてて許可をもらうのですが、たとえば普通の家では許される2重窓もつけられないとか、ペンキの色も真っ白ではなくくすんだ白にしなくてはいけないとか、いろいろな制約があります。

それでも、こういう家を買って住んでいる人は古い家や建築的に優れた建物が好きな人たちがほとんどで、中には荒れ果てた建物を買って自分たちで修復するのを趣味にしている人たちもいます。それなりにお金もかかりますが、特別な工事をしなくてはならないので余分にお金がかかると言う場合は市から助成金が出ることもあります。

私の友人にもやはりこういう家を買って、自分たちで少しずつ修復をした人がいます。何年もかけて少しずつ、ビルダーの助けを借りてぼろぼろだった建物をきれいにしました。窓をサッシュ・ウィンドーと呼ばれる昔ながらのスタイルの窓枠にするため、また、屋根のスレート瓦をオリジナルのものに近い天然スレートを使うためのコストを助成金で補うことができたと言っていました。完成した家は見た目もきれいだし住みやすいのももちろんですが、資産価値もぐっと上がります。不動産屋に見積もりをしてもらったところ、現在の価値は家を買ったときの値段の2倍以上になるということでした。でも自分たちで修復した家に愛着があるので、売る気はないそうです、少なくとも次に修復に取り組みたい家をみつけるまでは。

コンサヴェーション・エアリア(Conservation Area)

リスティッド・ビルディングが建物1軒1軒を保護するのに対し、コンサベーション・エリアと呼ばれる保存地区は建物や自然の景観などをひとつのまとまりとして保護しようとする制度です。建築または歴史的に重要な地域が指定されていて、イギリス国内に8,000以上あります。コンサヴェーション・エリアも、その種類や指定理由にはさまざまなものがあります。古い村、町、郊外、カントリーハウスがある地区、運河や線路沿いの区域から、工場や店舗群、自然の景観など、大きさもさまざまで、ロンドン市内には26あります。保存地区は普通、地方自治体が指定しますが、場合によっては国が指定することもあります。

保存地区内では、通常の都市計画申請よりも厳しい基準があります。たとえば、窓枠を変えたり、衛星アンテナを立てたり、ポーチやサンルームをつけたりといったようなことですが、通常なら許可される小規模の工事も保存地区内の建物の場合かなり厳しくチェックされます。

また、保存地区内の木は守られているので、自分の庭にあるからといって勝手に切ったり枝を刈ったりすることができません。地方自治体にお伺いを立てて許可されたら切ってもいいのですが、 Tree Preservation Order (ツリー・プリザヴェイション・オーダー)という木を守る命令が発されてできなくなるかもしれません。緑が大切にされているイギリスらしい決まりですね。

こういう保存地区内に住む人はやはりその価値を認める人が多いので、そういう制限を受け入れて景観を損なわないように気を使っているようです。こういうエリアは人気が高いのでこの中にある家は他のところにある同じような家にくらべ、おおむね資産価値が高いといえます。イギリス人は家を買うときロケーションをとても重視するからです。

日本の歴史的建造物保存

日本にも似たような制度として登録文化財としての建築物や伝統的建造物保存地区がありますが、イギリスの制度とはずいぶん違うようです。日本の場合は特別な建物が登録文化財となっていて数も全国で27,200件くらいしかありません。その多くは神社仏閣など普通の人が住む家ではなく、その保存修復も政府が公の資金で行っています。

伝統的建造物保存地区も全国で115ヶ所にすぎず、その多くは観光名所、博物館的な扱いを受けているかのようです。維持修理も市町村や国の指導や助成金でなされているのが多く、そこに住んでいる人たちが自ら住んでいる地域の景観を守ろうと自主的に努力する意識はまだ一部の人の間にしか育ってきていないようです。

日本ではイギリスのように何百年も建つ家に住むことは珍しく、家も中古住宅を買うより新築することが多いことなど、事情がかなり違うことから、一概に比較はできません。けれども、何でも新しくてきれいなものがいいと昔の建物をすぐ取り壊して新しい家を建てる前に、その建物の建築的歴史的価値を考え、それが周りの景観にどのように貢献しているかを検討してみることも大切なのではないでしょうか。

 

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