【歴史的建造物保存】ロンドンのセント・パンクラス駅 St. Pancras Station

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St Pancras Station

2007年末に国際列車ユーロスターが発着する新国際駅としてリニューアルしたロンドンのセント・パンクラス駅。クラシカルな概観とモダンな内装が融合する建築美は圧巻です。古い建物の保存と復元の観点からも必見の建築物です。

 

セント・パンクラス駅(St.Pancras Station)

ロンドンのセント・パンクラス駅はユーロスターを利用する人には見慣れている風景ですが、そうでなくても一度は見ておきたい建築物です。

2007年の改装工事では、くすんでいた外見もレンガの化粧直しでいっそう美しくなり、屋根も拡張されました。今では、規模も設備もたたずまいも、ヨーロッパを代表する国際駅にふさわしいターミナル駅舎となっています。

セント・パンクラス駅の歴史

セント・パンクラス駅はイギリスの有名な建築家スコット(Sir Gilbert Scott)の設計による、ロンドン屈指のネオゴシックの建物で、1868年に開業以来さまざまな変遷を経てきました。

ネオ・ゴシックというのは18世紀後半から19世紀のヴィクトリア朝時代に人気があった建築様式でゴシック・リヴァイヴァルとも呼ばれ、昔のゴシックスタイルを復元したもの。当時、世界最大規模だったセント・パンクラス駅の壮麗なアーチ型の屋根のデザインはこのあと、ニューヨークのセントラル・ステーションほか世界中で使われました。

セント・パンクラス駅は開業当時はロンドンの重要な玄関口で、マンチェスター、リヴァプール、リーズ、ブラッドフォードなどへ行く列車がこの駅を使っていました。そして、その後スコットランドまでルートを広げ、食堂車などが完備されたプルマン車や寝台車もこの駅から出ていました。また、貨物車もこの駅を利用していて、石炭やビール、牛乳、魚、じゃがいもなどがあちこちから運ばれてきました。

戦争の被害と取り壊しの危機

Bomb damage in 1941 (National Railway Museum/Science ‘ Society Picture Library)

しかし、第一次世界大戦、第二次世界大戦の折には空襲を受け、セント・パンクラス駅は大きな被害をこうむりました。特に1941年の空襲はプラットフォームや床を直撃し破壊したということです。当時爆撃されたあとの駅の様子を撮影した写真が残っていますが、無残な様子がみてとれ、この後の再建は容易ではなかったようです。

また戦後、道路交通が盛んになり、鉄道の需要が減ったこともあって、1966年にはセント・パンクラス駅はキングス・クロス駅とともに取り壊されることになりました。

けれども建築史家のペヴスナー(Pevsner)などによって、この重要な建築物を保存しようとする運動がおこり、この駅は1967年に歴史的建築物保存のための リスティッド・ビルディング グレードIに指定されました。グレードIというのはイギリスの歴史的重要建築物の中でも最高クラスのものなので、この駅舎がいかに大切かということがわかります。

保存運動の後、駅は取り壊しを免れましたが、当時の英国鉄道( British Rail )は資金不足のため改修工事もされず、駅は長年の蒸気機関車やディーゼル機関車によるすすで真っ黒になっており、雨漏りもひどいものでした。

セント・パンクラス駅のリニューアル

その後、セント・パンクラス駅はまた列車交通に利用されるようになり、1980年代にはテムズリンク路線が開通しました。そして1993年にそれまでウォータールー駅だったユーロスターのターミナルを2007年からセント・パンクラス駅にすることが決まったのです。このため、駅は新しくプラットフォームを6つ追加し、大幅な増築改築をすることが必要になりました。とはいえ新しいターミナル駅を一から作るというわけにはいきません。

セント・パンクラス駅の改築工事は、歴史的建築物保存のために注意深く行われる必要があります。そのため、2004年から2007年まで長い期間をかけて歴史的建造物保存の原則にのっとって行われました。歴史的建造物保護団体である イングリッシュ・ヘリテージ (English Heritage)やヴィクトリアン・ソサエティ (Victorian Society)、また地方自治体の協力を得て建物の歴史を調べた上で改修工事が計画されました。

リスティッド・ビルディングであるもともとの建築を保存するためには、新しい増築部分は古い建物とは異なることを意識した方法で行われます。このため、セント・パンクラス駅の新しい増築部分は、主にレンガや石でできた古い建築部分とは対照的にコンクリート、ガラス、鉄、アルミニウムといったモダンな建築素材を使って建てられました。

もともとの建築部分で修理、改修しなければならない部分は旧デザインや建築素材になるべく近いものが使われました。たとえば、屋根のスレート瓦はウェールズの最高品質のもの160,000枚を昔と同じ釘で固定させ、新築時に使われたレンガ工場はすでに閉鎖されていたため、近くの工場でなるべくそれに近い素材を使ってレンガを製造させました。セント・パンクラス専用のレンガを手作りで作らせ、そのため6人のベテラン職人が1週間に12,000から16,000個のレンガを製造していたということです。

駅の大時計はデント (Dent & Co.) 社によるものでしたが、壊れた後、安物のレプリカが使われていたため、同社がオリジナルのデザインで新しく作り直しました。時計の歴史をリサーチした上ですべて同じデザインを使い、ペンキの色まで調べて同色のものにしたそうです。この時計の外枠、針、数字は23カラットの金でできています。

このようにして、リニューアルされたセント・パンクラス駅舎は2007年11月6日にエリザベス女王によってオープンされ、開業を記念してロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラのコンサートが行われました。

セント・パンクラス・ルネッサンス ホテル

セント・パンクラス駅構内にあったミッドランド・グランドホテルは1876年にオープンし、当時はロンドンでも名声高いホテルでしたが、1935年に閉鎖されたままでした。その後オフィスとして使われた時期もありましたが、1985年から20年もの間、この建物は放置され衰退の一方。けれども、セント・パンクラス駅リニューアルと共に、ホテル部分も改装してモダンなホテルに生まれ変わることになりました。

2011年5月にオープンしたセント・パンクラス・ルネッサンス・ホテルは歴史ある外観や内装を修復したもの、モダンなホテルとは違う格別の風格があり、一度は泊まってみたいところです。高い天井、ゴシックスタイルの意匠、ヴィクトリアン朝のインテリアなどが楽しめる旧館はミッドランド・グランドホテルを忠実に再現したものになっています。

ヨーロッパの古い建物は水回りや暖房設備など便利さからは程遠いところも多いのですが、こちらはさすがに5つ星ホテル。ヘルスクラブ、スパ、プールなども併設された21世紀のモダンで快適な機能も兼ね備えています。

また、ホテルはセント・パンクラス駅に直結していて、ユーロスターを利用するのに便利です。ユーロスターに乗車するときに、スーツケースなどの荷物をセント・パンクラス駅のチェックイン・ポイントまで運んでもらうことも可能です。

2018年は駅開業150周年

1868年に開業したセント・パンクラス駅は2018年に150周年を迎えました。一時は取り壊されてしまうのではないかと危ぶまれた駅舎が年月を経て復元され、無事150周年を迎えたことに感銘を受けます。

この背景にはたくさんの人々の強い意志と努力に加え、長い時間と資金がかかりました。ここまで大規模な建築物を復元し、現代社会の機能に見合う生きた建物として使うことは並大抵のことではありません。けれども、その価値は十分あるということは復元された駅を見ると誰でもわかるに違いないと思います。

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