イギリスの都市計画:共有財産としての景観を守る

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London Street Scene

お友達がマイホームに念願のコンサーバトリー(サンルーム)を作るのに、都市計画申請を出さなければならないとぶつぶつ言っていました。イギリスでは新築はもちろん、建物の増築、改築、はては用途変更のときにも都市計画許可を取らなければなりません。たとえば、勝手に衛星放送のアンテナとか看板をつけることができないし、それまで住居として使っていた建物をお店として使うときにも許可が必要です。

都市計画許可 Planning Permission

日本人女性である友人はイギリス人男性と結婚し小さな家を買ったのですが、日当りがあまりよくなくて家の中が暗いのが不満です。そこで「そうだ、サンルームを作ろう!」と思い立ち、さっそくイギリスではコンサーバトリーといわれるサンルーム業者に来てもらい話を聞きました。好みのデザインを選んでビルダーに建ててもらえばいい、完成したら朝日の差し込むお部屋でゆっくり朝食を楽しむのだと簡単に思っていたら、都市計画許可 Planning Permission (プラニング・パーミッション)が必要だということが分かりました。しかも、自分が選んだデザインだと大きすぎて許可されない可能性も高いと言われてしまいました。友人は「どうして自分の家なのに勝手にサンルームつけちゃいけないの?」と不満顔。

この人はまだ建てる前なのでいいほうです。イギリス人の知り合いで、せっかく建てたものを取り壊さないといけなくなったという話も聞きました。ここはご主人がDIYが得意で、はりきって自分でウッドデッキをつけたのですが、都市計画申請 Planning Application をしないで建ててしまったのがあとでばれてしまい、そのあとに申請したのですが、近所から反対意見が出たこともあり結局都市計画申請を許可されなかったため、せっかく建てたものを取り壊さなければならなくなったそうです。

保存地区 Conservation Area と 歴史的建造物 Listed Building

上記した例は普通の建物なのでまだ制限がゆるいほうですが、Conservation Area コンサベーション・エリアと呼ばれる保存地区内では規制がさらに厳しく、自分の庭にある樹木でも勝手に切ってはいけないことになっています。こういうところでは古い木製の窓枠を新素材で2重窓にするというイギリスではよく行われている工事でも問題になることがあります。

また、Listed Building リスティッド・ビルディングと呼ばれる個々の歴史的建造物の場合は規制がさらに厳しく、建物の外だけでなく外からは見えない内装を変えるのさえ厳しい審査を通り抜けなければなりません。

どうして規制が厳しいのか

日本では所有者が自分の不動産に何をしようと勝手ではないかと思われがちなので、イギリスのこういう厳しい規制には戸惑ったり、納得いかないと思ったりする人もいるかもしれません。もちろん、イギリス人の中にも自分がしたいと思った改築や用途の変更ができなかったりする場合は不満を持つ人もいますが、みんなだいたいこういう規制は必要だと受け止めています。これはイギリスに限らずヨーロッパ諸国で共通する認識で、このためにヨーロッパの町や村は美しい景観が保たれているのです。

いくら所有しているといっても、外から見える建築というものはプライベートだけでなくパブリックの側面を持っているので、せめて外から見える部分では周りを配慮してデザインされるべきでしょう。自分が好きなら奇抜なファッションをして家の中をピンクだらけにしても勝手ですが、コミュニティーの中で暮らしている以上は騒音を立てたり、ゴミを家の外に捨てたりしてはルール違反ですよね。それと同じことで、せっかく通り一面の建物が調和しているのに、その中の一軒だけ「目立ちたいから」「他とちがう家にしたいから」といって外壁一面をピンクに塗ったりするのはどうでしょうか。

別にそれは新築でも周りと同じ古いデザインで建てなければならないというわけではありません。新しい建築スタイルでも、そのサイズ、建築素材、ディテールなどを考慮して景観を構成するのにふさわしいものをデザインするべきだと考えられています。そして、イギリスで街を歩いていると、そういう実例を見つけることがあって、そういう建物をデザインした現代建築家に拍手したくなります。本来ならそれと気がつかないくらい、まわりにとけこんでいるというのが名建築といえるかもしれません。大規模なランドマークとしての建物でない限り。

共通財産としての景観をみんなで守る

私はヨーロッパの街や村の普通の人たちが暮らす界隈をあてもなく歩き回るのが昔から好きでした。いわゆる観光地でなく、普通の家や店、学校や公園、教会にパブやカフェがある界隈。心落ち着く街並みが偶然そこにあると思っていたら、その影にはそこに住む人々が自分のわがままや不便さをちょっとだけがまんして都市計画の規制に従って守ってきた歴史があるのです。それは一人ではできないこと、みんなが協力し合って続いてきたコミュニティー全体の宝物です。だから、みんな本当は「ここにバルコニーつけたいのに」とか「家の一部を改造してカフェにしたいのに」とか個人レベルでは不満があっても、都市計画のシステムそのものは守らなければならないものと受け止めています。

昔日本人がイギリス観光というとロンドンのビッグベン、バッキンガム宮殿などいわゆる観光名所をめぐっていましたが、最近はコッツウォルズの村をめぐるといったツアーにも人気があるようです。まさに私が昔から一人で歩き回っていた界隈を代表するものですが、イギリスにはこういう「絵になる」村や町がいたるところにあって、別にコッツウォルズだけの専売特許ではありません。まあ、住民にとっては普通に暮らしている生活の場に観光客が来て見世物のようにされるのは気持ちがいいものではないでしょうから、コッツウォルズにまかせておけばいいのかもしれません、気の毒ですが。

それにしても、わざわざ日本からイギリスの「普通の」村を見に来て「かわいい!」と感動し、セルフィーを撮っている人たちを見て、この人たちはどうしてイギリスにこういう景観があるのか考えてみたことがあるのかなと思います。そして、この人たちが日本で住んでいるところはどんなところなんだろう、自分たちが住んでいる町の景観をきれいにするということは考えたことがあるのだろうかと。

日本の景観

東京などはもうあのカオスが珍しくて、逆にヨーロッパの人になどは違った意味での観光資源に映っています。でも、住んでいる人が歩いていて景観がきれいだとか心落ち着くとかいった街並みは少ないのではないでしょうか。もちろん、昔から火事が多く、戦争中は空襲にもあったし地震もある、その上狭い中にたくさんの人が住んでいて雇用の場、商業地などなども確保しなければならず、景観を気にする余裕がないということもあるでしょう。でも結局、一般市民の間に景観が公のものであり、コミュニティーの共通財産だから個人の好みや損得は多少我慢してみんなで守るいう認識が少ないのが一番の原因だと思います。

交通が不便な田舎で、開発に取り残されたところなどにまとまった懐かしい街並みを見ることがあったりしますが、それは意識的にそうしたというよりはただ単に新しい建物が建てられなかっただけという結果のたまものだったりします。

日本人は島国で人口密度も高いため、人に迷惑をかけないとか、わがままは言わず他人と折り合って生きるとかいうモラルを大切にしている国民だと思いますが、こと景観になると無頓着になる人が多いのが不思議です。他の事では横並びでみんなと同じことを望むのに、「マイホームを建てる」とかいうことになるとなぜか「人と違う家にしたい」と思うのはなぜなんでしょうか。まわりの自然や建物に調和するデザインにしようという意識はあまりないように思います。

日本の景観保存地区

最近は日本でも重要伝統的的建造物保存地区の制度があり、そういう特別な地区では街並み保存に力を入れています。でも、そういうところはどちらかというと特別なところですね。今現在全国に115か所、京都や奈良などの古都、飛騨高山や白川郷、萩や津和野など街並みが保存され維持改善されていますが、観光スポット、土産物屋やカフェなどが並ぶ観光地になっているものが多いようです。こういう街並みはもちろん守っていかなければならないものですが、もっと普通の街や村にも守るべき景観や改善できる部分があるのではないでしょうか。

イギリスのConservation Area (保存地区)には、ロンドンのウエストミンスターのようにいわゆる観光地もありますが、もっと「普通の」地区も含まれていて、数もたくさんあります。2017年時点でロンドン市内で27、イングランド全国に9793あるということです。こういう保存地区内に家を持つと、規制が厳しくて大変なので避ける人もいるのではと思うかもしれません。が、逆にこういうエリアは景観がきれいで環境がよく、規制が厳しいがゆえに将来もこの景観や環境が守られるだろうとして、人気があるだけでなく資産価値も高いことが多いです。コンサヴェーション・エリアに住んでいることが誇りともなり、一種のステータスにもなるというわけです。

では、イギリスでは具体的にどのようにして景観を守る仕組みができているのか、イギリスの都市計画法とそのシステムについて次回でもう少し詳しく説明します。
 
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