イギリスに住んでいるとイスラム教徒と知り合うことも多いのですが、その時に知っておきたいこととしてラマダン行事があります。ラマダンがどういうものなのか、それに対して非イスラム教徒である私たちが気にしておきたいのは何なのかをご紹介します。
Contents
ラマダン(Ramadan)とは
ラマダン(ラマダーン)とはイスラム暦の9月のことです。けれども「ラマダン」のことを一般的にはイスラム教徒(ムスリム)の断食を意味して使う人が多くなっています。
ラマダン月の一か月は預言者ムハンマドにコーランの啓示が下された神聖な月。このため、この期間中イスラム教徒は夜明けから日没まで断食(サウム)を行うことによって空腹や自己抑制を経験し、食事を満足に採ることができない貧しい人へ思いを馳せるのです。
禁じられているのは飲食だけではなく「舌に関わる罪」一般なので、ゴシップや不適切な言動も禁じられています。また、性交渉、口づけ、喫煙、けんかなども禁止されています。この期間はイスラムの祈りに身を捧げ、貧しい人々への施しを行う時期でもあるとされているのです。
2020年のラマダン日程
ラマダンはイスラム暦の1ケ月間で29日、または30日間です。
イスラム歴は月の満ち欠けの周期に基づいた太陰暦で1年が345日のため、西暦(グレゴリオ暦)より11日短いことになります。
このため、西暦にすると毎年11日ずつ次期がずれ、33年で季節が一巡します。
ラマダンの開始と終了はイスラム教の長老などによって決められます。
およその日程は決まっていても、月の観察によってずれることもあり、国によってもその期間がちがうことも。
一般的にいうと下記のようになっています。
2020年のラマダンは4月24日から5月23日まで。
2021年は4月13日から5月12日まで
2022年は4月2日から5月1日までとなっています。
ラマダン期間中の挨拶
ラマダン期間中は「ラマダン・ムバラク」(Ramadan Mubarak)と挨拶をします。これは「ハッピー・ラマダン」の意味です。
キリスト教でいう「メリー・クリスマス」日本の「あけましておめでとう」のような感じですね。
ムスリムたちはお互いにこの挨拶を交わしますが、非イスラム教徒でもこの挨拶をして大丈夫です。
ラマダン中は水も禁止
ラマダン中は1日に2度食事をします。日の出前に「サフール」suhoorと呼ばれる朝食、日没後すぐに「イフタール」ilfarと呼ばれる夕食をとります。家族や友人と共に豪華な食事を楽しみ、モスクではイフタールを無料でふるまうところもあります。
イフタールは水やジュース、スープなどの飲み物、デーツ(ナツメヤシ)などの果物、お菓子から始まりメインの豪華な食事を楽しみます。
ラマダン期間、日が出ている間は食べ物はもちろん、水や飲み薬も禁止されています。
日が長い季節のラマダンでは15時間以上飲まず食わずの状態が続くこともあります。特に、この季節になると日が長いアイスランドなどでは22時間日が出ているので、飲み食いする時間が1日に2時間しかない状態です。
とはいえ、断食は誰もがしなければならないというわけではなく、できる人だけするのです。病人、妊婦、母乳育児をしている人、生理中の女性、子供、老人、旅行者、重労働者など、合理的な理由がある人はしなくてもいいとされています。
モハメド・サラーはCLでも断食?
英サッカープレミアリーグ、リヴァプールのモハメド・サラーは目覚ましい活躍を続ける選手。彼はエジプト出身のイスラム教徒でエジプトで国民からは「神」と讃えられています。かれは敬虔なムスリムとしてイスラム圏で絶大な人気を誇っており、その活躍を讃えイスラム教の聖地メッカの土地が彼に贈呈されるという話さえあります。
彼もラマダン中は断食をしなければならないのでしょうか。サラーは以前ラマダンとフットボールの試合を両立することは難しいと認めていました。確かにプレミアリーグ、チャンピオンズリーグの試合や練習は「重労働」といえるでしょう。
エジプトのムスリム長老もその辺は理解していると見えて、サラーほかの国際チーム選手たちには、断食をワールドカップの後まで延長してもいいという特別許可を与えたのだそうです。
けれども、サラーは今年のラマダン中もサウムの教えを忠実に守っていて、試合のある当日も断食を継続します。チームメイトのマネも同様に経験なムスリムなので同じく断食をしているようです。
ラマダン期間の断食がスポーツ選手に与える影響に関しては懸念の声も上がっていて、パフォーマンスが低下することが心配されます。
ラマダンはダイエットになる?
ラマダンというと食事をしないということでダイエットになるのではないのかと思ったのでムスリムの友人に聞いてみました。すると、断食と言っても日中だけで夜にたくさん食べるので、ダイエットになるというわけでもないのだそうです。お腹ペコペコの状態で日没と共にご馳走を食べるため、普段より食べ過ぎてしまい「ラマダン太り」してしまう人もいるとか。
国によっては屋台やレストランで「ラマダンプロモーション」として日没後の時間に食べ放題を提供するところもあるのでつい食べ過ぎてしまうのですね。断食期間中に消費される食糧は普段よりも多くなると言われています。
また、日中水も飲めないということで体力を使う運動や労働ができなくなるため、運動不足になって太ってしまう人もいるそうです。
ラマダン中のイスラム教徒
ラマダン中もイスラム教徒は通常通り仕事をしたり学校に行ったりします。
ラマダン中断食をしている人とは通常通り接してかまいませんし、イスラム教やラマダンについて質問するのも理解を深める意味でいいでしょう。でも、宗教的なことに関してジョークを言ったりからかったりしないことが大切です。
また、断食をしているイスラム教徒の前で食事をすることもなるべく避けた方がいいでしょう。
断食をしている人は午後になると疲れているでしょうから、体調を気遣ってあげるのもいいでしょう。
職場によっては、体力を消耗する重労働を免除したり、自宅勤務を可能にしてあげるなどの理解を示すこともいいとされています。
非イスラム教徒がイスラム圏に旅行する場合
では、非イスラム教徒がイスラム圏に行く時がラマダンと重なったらどうなるでしょうか。
イスラム教徒は世界中に約16億人おり、2020年には世界人口の4分の1を占めると言われています。
ムスリム人口の多い国はパキスタン、インドネシア、インド、バングラデシュ、ナイジェリア、エジプト、イラン、トルコ、アフガニスタン、イラクなどがあります。
イスラム圏というと中東を思い浮かべがちですが、日本に近いアジア圏にもモスリムが多いのです。シンガポール、インドネシア、マレーシアなど旅行や仕事で訪れることがあるかもしれませんね。
それがラマダン時期と重なったらどうしたらいいのでしょうか。
まずイスラム教徒でない限りは、イスラム圏の国でも断食する必要はありません。観光客用のレストランでは問題なく飲食ができます。
けれども、周りのイスラム教徒は断食をしているかもしれないということには留意する必要があります。日中は断食中のムスリム前で飲食を慎んだり、派手な言動や服装は慎んだほうがいいでしょう。
ラマダン明けのお祭り
ラマダンが終わった翌日、イスラム歴第10月「シャッワール」の初日は「イド・アル・フィトル」と呼ばれる祝日になっており、イスラム教徒はラマダン明けをみんなでお祝いします。
この日にはご馳走が並んだ食卓をみんなで囲い、モスクで礼拝をします。また、プレゼントとしてお菓子を交換したりするのです。
この期間、イスラム教徒は「イド・ムバラク」(Eid Mubarak)という挨拶をして、共にお祝いします。イスラム教徒にこの言葉であいさつしましょう。
ラマダン時期のテロ
ラマダンの期間中はいつもより宗教心が高まることは想像にかたくありませんが、過去においてラマダン期間中にテロ事件が多く起こったことがあり各国は警戒もしています。
去年のラマダン中にはアフガニスタンやイラク、エジプトで過激派などによるテロ事件が相次ぎました。
イスラム諸国だけでなく、ロンドンでも7人が死亡するテロ事件がありました。また、ラマダンの少し前にはマンチェスター・アリーナでアリアナ・グランデのコンサート観客を狙った自爆テロで死者22人が出ています。
2016年のラマダン中にもバングラデシュの首都ダッカで起きたテロがあり、日本人7人を含む20人がレストランで殺害されました。
これらのテロ事件のうち多くは「イスラム国」(IS)の犯行だと推察されており、ISが犯行声明を出すことも少なくありません。ISはイスラム過激派で、ラマダンの前になると「異教徒を攻撃せよ。」などというメッセー時をSNSなどで流します。
大多数のムスリムはラマダンの時期、普段より敬虔になり、貧しい人への施しをしたり、自己犠牲をしたりするのですが、ごく少数のイスラム過激派は今だにジハードと称して異教徒を討伐しようとするのです。
まとめ
イギリスではもちろん、日本でもムスリムの旅行者や滞在者が増えています。
また、日本からイスラム諸国に旅行する人も多いでしょう。
習慣が違うからといって敬遠するのではなく、イスラム文化を理解し、ラマダン時期には特に気遣いをするようにしたいです。