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アストラゼネカワクチンのデマで多くの命が失われる悲劇

アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンは、その効果、値段、使いやすさのため、世界中で期待されていました。けれども根拠のない評判によって、ワクチンへの信頼性が落ち、結果として貧しい国でたくさんの命が失われることになりました。

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アストラゼネカワクチン


オックスフォード・アストラゼネカ製ワクチンはWHO(世界保健機関)やMHRA(英国医薬品規制庁)、EMA(欧州医薬品庁)をはじめ、世界で100か国以上が承認し使用している新型コロナウイルスワクチンです。

厳しい審査の後承認されたのですから、安全性も有効性も高いワクチンです。このワクチンはアデノウイルスベクターを使ったもので、ファイザーやモデルナなどmRNAワクチンと異なり、低温冷凍庫で保存する必要がありません。

アストラゼネカ製ワクチンは世界各国に貢献するために利益をのせずコストベースで提供しているため、ファイザーやモデルナ製の1/5~1/7の値段です。使いやすく安いということで、開発途上国にとっては特に重要なワクチンといえ、世界中の国がこのワクチンの供給を心待ちにしていました。

しかし、ようやく承認されて一般接種が始まったいなや、いわれのない評判によってワクチンの信頼性が疑われることになってしまったのです。

アストラゼネカワクチンは安全?副作用は?なぜ安い?

アストラゼネカワクチンの評判

2021年1月にフランスのマクロン大統領は「アストラゼネカのワクチンは65歳以上の高齢者に効果がない」と公の場で語りました。これは根拠のないデマだったのですが、一国の大統領が特定のワクチンの効果についてコメントしたものですから、信頼性は一挙に落ちてしまいました。

一方で、これと同じ時期にEUへのワクチン供給に関して遅れが出ているということでEUはアストラゼネカ社を厳しく批判しました。Brexitのため、EUのイギリスに対する反発があったことも背景にあるようです。イギリスは離脱後だったので、EUと歩調を合わせることなく独自にワクチンを承認し、一般接種を一足早く進めていたため、EU諸国では国民から不満の声が上がっていました。この期間EU諸国で、アストラゼネカワクチンの納入遅延でワクチン接種が遅れたせいで、失った命もあったと非難されました。

しかし、アストラゼネカワクチンが無事に納入されてEUで一般接種が始まると、さらに大きな問題が起きました。ワクチン接種後に血栓症を発症する人が出たことで、ドイツ、フランス、イタリアを含む国々が使用を一時停止したのです。

EMA(欧州医薬品庁)はすぐに厳密な調査に取り掛かりました。その結果、科学的な判断に基づいてワクチンの使用を引き続き推奨するとしました。「ワクチンと血栓との間に関係がある可能性は否定できないが、あったとしても起きる確率は非常にまれであり、ワクチン接種による利益の方がずっと大きい」という見解です。

けれどもEMAのワクチン推奨にもかかわらず、国によってはアストラゼネカワクチンの使用をやめたところもあるし、30歳以上、40歳以上と年齢制限を付けたうえで接種を再開した国もあります。副作用について様々な憶測が報道され議論された中、一度失った評判を回復するのは難しく、もともとワクチン忌避者が多い国では特に信頼を落としました。

その後、EU諸国は使わなくなった余剰のアストラゼネカワクチンをアフリカをはじめとする発展途上国に大量に「寄付」しました。

そして、それはちょうど南アフリカが自国で購入したインド製アストラゼネカワクチンを他のアフリカ諸国に売却している時だったのです。当時、南アフリカで流行していたベータ変異株に対して、アストラゼネカワクチンの有効性が低いという理由でした。

アフリカのワクチン接種

アフリカ諸国のワクチン接種は先進国に比べ、大幅に遅れを取っています。2021年6月の時点で、アフリカ諸国13億人の人口で接種されたワクチンは6000万回分にすぎません。ワクチンを完全に接種している人の確率はやっと1%を超えたところです。

WHOはCOVAX(コバックス)というコロナワクチンを途上国に提供するプログラムを主導していますが、ワクチン接種は供給だけが課題ではありません。ワクチンが届いたとしても、医療従事者やワクチン運搬・保存・接種のインフラが不足している地域も多く、ロジスティックスの問題があります。

さらに問題を大きくしているのが、ここに来てアフリカでもワクチン接種をためらう人が増えていることです。アストラゼネカワクチンの有効性や副作用疑惑について、主にEU諸国で取りざたされた議論が広く報道されたため、一般民にワクチンに対する不安が広まってしまったのです。また、他の国で使われなくなったワクチンが寄付されたと聞き、警戒して接種を拒否する人々も出てきました。

このような状況で、アフリカの多くの地域では当初予定していたワクチン接種プログラムがなかなか進んでいません。例えば、ウガンダでは964,000回分のワクチンを受け取ったのに、230,000回分しか接種できていません。

ワクチンには使用期限があるので、そのうち使いきれないものも出てきます。マラウイでは、19,000回分のアストラゼネカワクチンを使用期限切れのために処分しなければなりませんでした。その時点で国民のワクチン接種率はわずか2%に満たなかったのにもかかわらず。

マラウイの使用期限切れワクチンは一般国民の目の前で焼却処分されました。国民に安全なワクチンだけを使用するのだということを見せて、ワクチンや保健当局への信頼を高めて接種を促すためです。

ワクチン未接種者が多く、そのためにコロナ感染で重症化したり命を落とす人もいる中で、未使用のワクチンを大量に焼却処分しなければならないのは実に残念ですが、仕方がなかったのでしょう。

ワクチンデマで命が失われる悲劇


アストラゼネカ製のワクチンはこれまで複数承認されたワクチンの中でも、貧困国も含めて世界中で多くの命を救うと、かねてから期待されていたものです。

特別な冷凍庫での保存が必要ないため、運搬・保存・接種が比較的容易なこともあるし、価格が安いこともあります。値段が安いのは他のワクチンに比べて性能が劣るからではなく、アストラゼネカは利益なしの実費ベースでワクチンを提供しているからです。

このワクチンを開発したオックスフォード大学のセーラ・ギルバート教授チームは「私たちはお金を稼ぐためにワクチンを開発しているわけではありません。これまでの研究費はイギリス政府や他の公的資金から得てきたので、このワクチンは製造にかかる実費だけのコスト価格で提供します。そうすることで、世界中の人にこのワクチンをいきわたらせ、一つでも多くの命を救いたいのです。」と語りました。

オックスフォード大チームは、この条件を受け入れたアストラゼネカ社と提携し、イギリス政府の支援のもとでワクチンの大量生産までこぎつけました。他のワクチンは利益を上乗せしているため、販売価格がこの何倍にもなっています。すでに利益が出ているので増産時には値下げしてもよさそうなものですが、各国からの需要があいついでいるため、新契約分は逆に値上がりしているということです。

とはいえ、EUなど高価なワクチンを購入する余裕のある先進国にとっては、そう問題はありません。困るのは、アフリカをはじめとする途上国です。アストラゼネカワクチンをめぐる副作用疑惑で一般国民からの信頼が落ちてしまった今、ワクチン接種を進めることが難しくなってしまっているのです。

このままではコロナが大流行して重症化する人や死亡する人がたくさん出てこない限り、ワクチン接種にしり込みをする人が多いままになってしまう可能性があります。

そして、ワクチンは接種してから数週間、2度接種の場合は数か月しないと効果は出てこないので、流行してからあわてて接種しても間に合わないかもしれないのです。このせいで、本来ならワクチン接種で予防できていた重症化や死亡、さらにコロナ後遺症で長く苦しむ人々が出てきてしまうでしょう。

まとめ

新型コロナウイルスが感染し始めた当初、被害がそれほど大きくなかったアフリカ諸国でも感染が広がっています。医療サービスが十分に整っていない地域が多い中、ワクチン接種は緊急の課題です。ワクチン普及が十分でないうちに感染がこれ以上広がったら、助かっていたかもしれない命を救うことができなくなります。

そして、これはアフリカ諸国だけの問題ではありません。ウイルスは変異を続け、地域から地域へ、国から国へと広がっていきます。アフリカで感染者数が増え、その中から新たな変異株が生まれたら、それが他の国にも広がり、従来のワクチンが効かなくなってしまう可能性もあります。

パンデミックに国境はありません。自国のワクチン接種さえ進めればいいというわけではなく、世界中でコロナ感染を抑えることが必要なのです。

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