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イギリスがEUを離脱した日:2020年1月31日

Brexit Day

2020年1月31日に、イギリスが正式にEUを離脱し、47年間に及ぶ加盟にピリオドが打たれました。2016年に国民投票でEU離脱を決めて以来、もめにもめて3年半たっての離脱となりました。ブレグジットが現実となったらどんな変化が起こるのでしょうか。また、そもそもイギリスはどうしてEUを離脱することになったのかについても今一度簡単におさらいしておきましょう。

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イギリスのEU加盟

イギリスは1973年にEUの前進であるEEC(欧州経済共同体)に加盟後、47年という間欧州連合に加盟していました。

とはいえ、他の多くのEU諸国とちがい、加盟機関を通して完全に統合をしていたとはいえませんでした。ポンドという通貨を手放してユーロを使うことはなかったことなど、常に一歩引いたスタンスでヨーロッパ連合に参加していたのです。

イギリスのEU離脱

2016年6月にイギリスがEU離脱するかどうかの国民投票が行われ、残留が48.11%、離脱が51.89%という僅差で離脱が勝利をおさめました。

その後、残留を支持して国民投票の実施に踏み切ったキャメロン首相は辞任。後任のメイ首相が離脱案を巡ってEUとの交渉と英国議会での協議に紆余曲折が続きました。議会での採決が繰り返され、離脱期限が何度も延期されたあげく、メイ首相が退任。

ボリス・ジョンソン首相が就任してからもEU離脱交渉は難航を重ねました。が、2019年12月の総選挙でジョンソン保守党が大勝利した結果、議会での承認が可能になった政府は離脱交渉を推し進めました。

2020年1月29日にはヨーロッパ議会でイギリスのEU離脱協定案が賛成多数で承認され、イギリスは1月31日の正式離脱を現実のものにしたのです。

この日の議会では、EU議員が議場で「蛍の光」として知られるスコットランドの別れの歌「オールド・ラング・ザイン」を合唱する風景が見られました。

Brexit Day 2020年1月31日

とうとうイギリスがEUを離脱する「Brexit Day」の2020年1月31日。

ブリュッセルのEU会議室からユニオン・ジャックが降ろされるのと対象的に、バッキンガム宮殿前の大通りにはユニオン・ジャックがはためきました。

ジョンソン首相は「新しい国家としての始まりだ」と述べ、議会広場ではEU離脱を祝うイベントも行われました。

けれどもイギリス国民の半分は今でもEU残留を希望していて、その人達にとってはこの日はお葬式のような一日でした。EUとの別れを悲しむ人や怒りを隠せない人も見られ、各地でEU離脱を抗議するデモも行われました。

ブレグジットで分断されるイギリス

日本の人によく「どうしてイギリスはEUを離脱したいの?」とか「イギリスは一体ブレグジットをしたいの、したくないの?」と聞かれます。この問題についてはイギリスの中でもまっぷたつに分断しているからこそ「イギリス」という一言でくくれないのです。

EU離脱を決めた国民投票から3年経っていますが、そのあいだイギリスはEU離脱と残留のはざまで国民投票の前よりいっそう断絶と議論が続きました。家族や友人とのあいだでもブレグジットの話題になると溝が深まり、交友関係に影響が出た人も多いようです。

イギリス人もさすがにそれにあきあきし、これ以上分断が続くのは国や社会としても個人的にもよくないと思うようになってきています。

ブレグジットでこれからどうなる

1月31日にイギリスがEUを離脱したからといって、2月1日になったきょう、すぐに変化があらわれるわけではありません。これから離脱移行期間に入り、2020年年末までに離脱にむけてさまざまな交渉を行っていくことになります。

47年間加入していたEUを離脱するのですから、法律やビジネス上の取り決め、人々の移動や就労など多方面での取り決めが必要となります。その上、イギリスはEUの一国としてではなく、個別に世界各国と通商協定などを結ぶ必要もあり、やることは山積みです。これからの1年間でその一つ一つが形になっていくのでしょう。

ブレグジットの理由

さて、そもそもイギリスはどうしてEUを離脱したいと思うようになったのでしょうか。

この理由について、日本では移民問題について語られることが主なようです。イギリスは外国人にとって住みやすく給与水準や社会保障レベルも高い方で移民が多いので、その負担や影響が大きい。それで国境を自国で管理する権限を取り戻したいという理由です。

けれどもブレグジットを希望する理由はそれだけではなく、自国の法律やシステムを自分たちで決められないという主権の問題でもあります。EUという巨大な組織で決められた決まりを、独自の考え方や個々の状況と関係なく受け入れなければならないジレンマです。

さらに国民投票や2019年総選挙で見られた選挙区別の結果を見てわかるのは、地方の「取り残されたと感じる人々」の不満がブレグジットに向かったということです。グローバル経済で潤うロンドンなどの国際都市を尻目に、これまでの伝統的な地場産業が衰退し生活が苦しくなっている人たちの多くがEU離脱派であることがこれを物語っています。

たとえば、かつてサッチャー首相が誘致して日産が自動車工場を建てたイギリス北部のサンダーランドは炭鉱町でした。炭鉱が閉鎖されたあと失業者となっていた人たちを日産の工場が雇用したことで地元経済は復活したのです。

けれども、そもそも日産はヨーロッパ市場への窓口としてイギリスに工場を作りました。ブレグジットでヨーロッパ市場で車を売るのに関税がかかるようになるのならそのメリットはなくなります。日産をはじめ、イギリスにある日本企業は在英大使とともに、イギリス政府に対してブレグジットによるデメリットについて警告し続けてきました。

イギリスEU離脱で日産工場に影響:Brexitで被害をこうむる人たち

そんなサンダーランドでも、EU離脱の国民投票では61%が離脱に投じたのです。

サンダーランドだけではありません。イギリスの地方に住んでいる人たちはグローバル経済による地方経済の衰退の上に、長く続く保守党の緊縮財政による公的事業や社会保障、地方自治体予算の縮小によって「見放された」と感じ、その抗議票としてブレグジットに投票した側面もあるのです。

だからといって、ブレグジットによって彼らの生活が豊かになるわけではないでしょう。イギリスのEU離脱の影響で国際企業がイギリスを撤退するなどの事例は多くあり、日産もサンダーランドでの生産予定縮小を発表しています。英国ホンダも南西部のスウィンドン工場を閉鎖すると決めました。

ブレグジットにより、少なくとも短〜中期的にはイギリス経済は悪影響を受けるということが大方の意見の一致です。EU離脱国民投票の前に残留派である保守党政府がキャンペーンで呼びかけていたのも経済面でのメリットが主でした。

けれども地方の「持たざる者」は、イギリス経済がどうなろうと自分たちにはあまり関係がないと思ったのではないでしょうか。実際、グローバル経済によって富を得ているのはロンドンやその周辺の国際企業や投資家、富裕層であり、彼らは何の恩恵も受けていないのですから。

このような地方の「庶民」の不満は2019年12月に行われた総選挙でも見て取れました。これまでそのような人たちは労働党を支持していたのですが、その労働党さえ見放されてしまったのです。労働党はコービン党首のもと極左政策を打ち出していましたが、地方の労働者にはその公約は虚ろにひびいたようです。結果的にジョンソン保守党が大勝してブレグジットを推し進める力となったわけです。

サンダーランドで閣議

イギリスがEUを離脱する1月31日、イギリス政府はサンダーランドで臨時閣議を行いました。この日にわざわざ北部の地方産業都市で閣議を開くことで、地域経済や雇用への悪影響を防ごうとする政府の姿勢を示しているようです。

そのサンダーランドのパブでは、「英国独立」のお祝いの乾杯をしている人たちがいます。

私は15年くらい前にサンダーランドの近くを訪れたとき、パブで日産関連の仕事をしているという中年男性に「日本人かい?」と話しかけられたことを今でもよく覚えています。

彼は「ここは少し前まで炭鉱が閉鎖して失業者が多かったんだが、日産工場のお陰で街がまた元気になったんだよ。すごく感謝している。」と語っていました。

彼もきのうはあのパブでブレグジットの乾杯をしていたのでしょうか。それとも、イギリスEU離脱により日産関連の地場産業に悪影響が出ることを心配しているのでしょうか。

スコットランドが独立してアイルランドは統一?

EU離脱をめぐり、イギリスは引き続き数多くの障害に取り組んで行かなければなりません。その道は決して簡単なものではないでしょう。

懸念されるのは経済的な影響だけにとどまりません。英国という国家にとって一番の問題は、EU残留派が多いスコットランドや北アイルランドがこれからどうなるかという課題です。

スコットランドではブレグジットの日にもグラスゴーの街でEUの旗がはためくなどして、イングランドと共にEUを離れることに対しての抵抗が根強くあります。

スコットランドはイギリスからの独立を決める国民投票の実施を希望していますが、ジョンソン政権はそれを許さない方針です。

北アイルランドでも、アイルランドとの統一を望む住民の声が強くなってきている上に、かつてのIRAテロの再発を心配する向きも出ています。

イギリスはEUから離脱して一国の団結を深めたというわけではありません。それによってイギリスという国家じたいの分断が進むかもしれないのです。

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