サイトアイコン 【英国発】news from nowhere

女子の学力は男子よりも高いのか:世界的な成績調査結果PISA

School children

日本では東京医科大学の入試で女子の試験成績がいいため、女子の入試得点を減点するというニュースが話題になりました。そもそも普通に競争すると男子よりも女子の方が試験成績はよくなるのだということですが、これはイギリスでもよく言われていることです。男の子よりも女の子の方が頭がいいというのは世界的な傾向なのでしょうか。そしてそうだとするとその理由は何なのでしょうか。


Contents

東京医科大入試問題

東京医科大医学科の一般入試では、女性の入学者の割合を全体の30%に抑えるために女子学生の入試の得点を一律低く計算する操作が行われていたとして問題になりました。

その理由は、男女同じように採点すると、どうしても女子学生の方がいい成績になってしまうからということのようです。この一件に限らず、一般的に言って女子学生は男子学生より成績がいいとはよく聞く話です。特に、小・中学校の頃はそういう傾向にあるようです。自分が子供の時のことを思い出しても、だいたいそんな感じがしてました。これは日本だけの現象なのでしょうか。

イギリスでも女子の方が頭がいい

実は、イギリスでも男子より女子のほうが学校の成績がいいと言われています。特にイギリス一般庶民が行く公立学校では、男子の成績が悪く、落ちこぼれ状態の男の子も少なからずいることが問題となっています。これに比べ、女の子の方は上下の差が比較的小さく、ほとんどがある程度の水準の成績を保つと言われています。これは、家庭が特に教育熱心でなくても同様です。

イギリスには無料で行ける公立学校のほかに、少数のエリート(人口の10%以下)が行くイートンなどのボーディング・スクール(寄宿制学校)を含むグラマースクールなど学費の高い私立学校があります。こういう私立学校、特に古くからあるものに男子校が多いのは、エリート養成のため男子を特別な環境で教育する目的があったからでしょう。私立学校にも女子だけの学校や共学校もあり、これらの学校の成績もかなりいいのですが。

本来なら女子の方が成績がいいはずなのに、イギリスでは名門大学になればなるほど男子学生が多いのはこの私立学校の存在ゆえです。名門大学のオックスフォードやケンブリッジなどには昔からこういう私立学校の卒業生(多くは男子)がたくさん入学して多数派を占めていました。これではすべての生徒に機会の平等が与えられないとして、各大学は奨学金を出したり、公立学校出身の生徒に入学基準を緩くしたりして門戸を広げようとしていますが、なかなか実を結ばないようです。特に中流階級以下の男子にリーチするのが難しくなっています。

イギリス全体の大学進学者の割合を見ると、近年は男子よりも女子学生の方が多くなってきています。2017年度の大学入学者の数は男子は103,800人ですが、女子はそれより約3万人多い133,280人となっています。イギリス人男子の大学進学率は27.3%ですが、女子の場合はは37.1%なのです。この差は近年だんだん大きくなってきているので、これからも続く傾向なのかもしれません。なのでイギリスに限っていえば、全体的にみると女子学生の方が進学率も高いし成績もいいのだが、トップエリートは未だに私立学校出身の男子学生が多いということになります。

女子が男子より成績がいいのは世界的な傾向

OECD諸国の15歳の男女生徒の成績を比較したPISA(Programme for International Student Assessment)という調査がありますが、この結果によると国際的に見ても15歳児で比べると全般的に女子の方が男子より得点が高いようです。調査対象国の70%で女子の方が男子よりも成績がいいという結果なのです。

特に読解力では男女格差が大きく、15歳児の女子は男子よりずっと成績がいいということなのですが、他の科目、通常男子のほうが得意だとされている科学、デジタル読解力などの分野でも女子の方が男子より成績がいいという結果になっています。

ただ、数学においては、調査対象国の大多数の国において女子よりも男子の方が成績がいいという結果が出ています。香港、上海、シンガポール、台湾など成績上位国・地域の一部では女子は男子と同じ成績を収めています。女子は学校で日常的に取り組んでいるような数学や科学の問題は得意なのですが、自分で科学者のように考えることが必要な問題に関しては男子より成績がよくないのです。例えば状況を数学的に定式化する問題では女子は男子より平均16点低いことになります。

一般的に言って、女子は数学や科学の問題を解く能力に対する自信が低く、数学に対する不安が強い生徒の比率も女子の方が高くなる傾向にあるそうです。成績のいい女子の場合でも数学に対する自信がなかったり不安に思ったりしていると言うことなのです。このため、女子はテストになると緊張してしまったり、間違いを恐れて試行錯誤を避けるということがあるのかもしれません。

習熟度が極端に低い生徒には男子が多い

次に、習熟度が極端に低い生徒の場合をみてみましょう。右の図は2012年に行われた調査で各国の学習習熟度の男女差を比較しています。

PISAが測定している主な3つの科目である読解力、数学、科学のいずれにおいてもベースラインの習熟度レベルに達していなかった生徒の比率を調べ、女子をグレイの棒線で男子を赤と白の◇マークで国別に示しています。◇マークが白で薄いグレーの線になっている国は男女差が少ない国を表しています。

すべての国を平均した数値では、3科目のいずれの科目においてもベースラインの習熟度に達していない生徒の比率は男子が14%、女性が9%でした。基本的な習熟度に達していなかった生徒の10人に6人は男子という割合です。

習熟度が極端に低い生徒の割合や、その男女格差は国によってかなりばらつきがあります。日本は中国、韓国、エストニアなどの国と同様に、ベースラインの習熟度レベルに達していない生徒が少ないのが特徴です。

男女格差を見ると、習熟度レベルが低い生徒の割合は日本でも男子が多いということがわかります。

一般的に言って男子に習熟度レベルが低い生徒の割合が多い理由としては、男女の行動の違いに関係しているのではないかといわれています。例えば、宿題に費やす週あたりの時間は男子が女子より1時間少ないのです。

男子は女子よりビデオゲームなどを楽しむ時間が多く、小説などの読書に費やす時間が少ないことも指摘されています。これが読解力が伸びない要因となっているのかもしれません。読解力は他のすべての学習の基礎であるため、読解力が十分でない男子は他の科目の成績も悪くなりがちという結果になります。

そして、この結果は男女平等意識が高いとは思えないイスラム諸国などでも同様です。女子が男子よりも劣るのはたった4%の国においてだけです。平均してみると女子の成績は全体的に見て男子より約10ポイントほど勝っており、国別に見るとスウェーデンで18ポイント、ノルウェーで15ポイント、ギリシャ13ポイント、日本13ポイント、イタリア12ポイント、フランス6ポイントとなっています。イギリスとアメリカは女子と男子の成績がほぼ同等でした。

PISAは、教育における新たな男女格差が生まれつつあるということを懸念しています。若い男子は若い女子よりも就学年数が短く、低技能と低学歴の比率が高いのです。例えばOECD諸国の中で、「学校は時間の無駄」と回答している生徒の比率は男子のほうが女子より8ポイント高くなっています。

また、高等教育以上を見た場合は別の懸念が出てきます。数学、科学、コンピューターなどの分野で女子の比率が低いということです。2012年の場合、大学に進学した男子のうち科学関連の専攻分野を選択した者は39%でしたが、女子の場合は14%にしか過ぎませんでした。女子は理系に行きたがらないというのは世界的な傾向のようです。

STEMの取り組み

STEMという言葉を聞いたことがあるでしょうか。これはScience, Technology, Engineering, Mathematicsのこと、つまり科学・技術・工学・数学といった分野を総称する言葉です。

この分野での女性の進出が遅れているとして、男女比を均衡させようとする取り組みが各国でなされています。STEM分野は女性の進出が少なく、女性が占める割合が米国で25%以下、イギリスで約13%、日本では約8.1%にしかすぎません。全体的にみた大学生の割合は男子より女子の方が高いのにもかかわらず。

STEMで働く女性はほかの分野で働く女性より平均で33%高い収入を得ていることからも、女性がこの分野に参画するメリットはたくさんあります。けれども、女性がこの分野に進出しないのは「女性は理系が苦手」という固定観念と偏見があるせいで、当の女子学生自身もこのような科目を専攻したがらない傾向があるようです。また、この傾向は教師、進路アドバイスをする人、親、雇用者など周りの根拠のない偏見によってもさらに強められるのです。

16歳以降ではどうなる?

16歳までの段階で一般的に女子が男子よりも成績がいいのは、男子よりも女子の方が発達が早いからと言われています。これは知能に限ったことではなく、精神性、社会性などの面において12歳の男の子は10歳の女の子と同じくらいのレベルだと言われているのです。

しかし、16歳を過ぎるとこれが変わってきます。男の子が追い付いてくるのです。これは16歳を過ぎると女子の成長が止まるわけではなく、ただ単に男の子が成長する率が女の子と比較して早くなってくるということです。それで、大人になる頃には女性と男性は大体同じくらいのレベルになってくるようです。

ただ、15歳以下の男女でもみられるように、16歳以上の女性は平均して頭がいいけれども、男性はばらつきがあるということです。男性の中には突出して頭のいい人がいる半面、とても頭の悪い人もいるということなのです。

男子校女子校には利点がある

私は昔、男子と女子を隔離して学習させる学校は不自然だし不平等だと思っていました。社会には男女が半々なのに、無理に性別で分けて学生生活を送らせると異性に対していびつな感情を抱くような若者に育つのではないかと危惧していたのです。また、何かと男女が不平等な社会において、学校まで男女に分けることによって女子生徒が若いうちから不利な立場におかれるのではないかとも思っていました。

それもあって息子が公立の男女共学の小学校(イギリスでは小学校はほとんど共学)を卒業した後は、中学校以降も男女共学の学校に進ませるつもりでいました。けれども近郊にある何校か候補の中学校の説明会やオープンデーに行く中でいちおう男子校も「参考に」見に行ったのです。それは私立の男子校だったのですが、その校長先生のスピーチを聞いて考え方が変わりました。

それは、これまで話したような男女の発達の違いを統計を使って説明した上で、それだからこそ中学校から高校くらいの段階の男子は女子がいない環境で教えた方がいいということでした。それくらいの年齢では男女同じ歳の生徒を1クラスに入れると、女子の方がどうしても精神的にも大人だし知識も学習に対する意欲もあるため、男子生徒はやる気や自信をなくしたり、自分の意見をのびのびと発表することができず内にこもるようになったり、学習意欲をなくす場合が少なくないとのことでした。また、その年代の男の子というのはエネルギーが有り余っているので普通に授業をすると集中力が続かないため、例えばスポーツをさせて体力を消耗させてから頭を使う授業をさせるとちょうどいいということもあるそうです。

逆に女子の場合は女子だけでも男女混じったクラスでも学習面では同じように能力を発揮するのだそうです。でも女子校だと、女子は理系でなく文系が適しているというような思い込みから解放されたり、リーダーシップをとったりスポーツで活躍したりというような活動も異性を意識せずにのびのびとできるので利点があるということもあります。

その私立校(中高一貫校)では男子校、女子校が分かれてはいるものの、様々なイベントや活動を男女共同で行ったりして、授業以外で交流を深めるようにしていました。例えば音楽やドラマなどの活動では男女が共同して練習してコンサートや発表会を行っていました。そのため男女間の交流も比較的自然にできているようで、大学に入ってから異性とのつきあい方がわからずぎこちないといったことにもならないようです。

まとめ

この世の中はまだまだ男女差別に満ち満ちていて女性が何かと不利な境遇にいるとはずっと感じていましたが、それは学生でなくなり社会に出てからのことだと思っていました。けれども、この度の東京医科大学入試問題で女子学生が大学入学時点ですでに差別されていることを知り驚きました。それでなくても女性が進む確率が少ない理系の大学でこのような差別をされるのでは一生懸命勉強をしている女子学生が気の毒です。問題の解明を進め、このようなことが2度と起こらないよう厳しく制度を整えてほしいものです。

参考資料

PISA(Programme for International Student Assessment)
Sex differences in academic achievement are not related to political, economic, or social equality

モバイルバージョンを終了