サイトアイコン 【英国発】news from nowhere

免税返金小切手(円建て)の現金化:日本の地方銀行のガラパゴス化

Duty Free Form

去年80代になる母親がイギリスに遊びに来て、いろいろお買い物をし免税手続きをしたのですが、その免税分金額が帰宅数ヵ月後日本円立ての小切手として日本の実家に郵送されてきたそうです。それを現金化するにあたっての騒動をお話します。

Contents

海外旅行時の免税手続き

海外旅行でお買い物をして免税手続きをした人はわかると思うのですが、免税の書類に返金方法というのがありそのクレジットカードにチェックを入れクレジットカードの情報を記入すればそのカードに自動的に返金されます。これはどんなクレジットカードでもどこの国発行のカードでもかまいません。通常は、買い物をしたときと同じカードを使うことが多いです。観光客に慣れている大手の店舗やデパート、たとえばハロッズなどでは専門の免税カウンターがあり、レシートとクレジットカード、パスポートを提示するとすべてを処理してくれます。

しかし、一般店舗ではレジから印刷されるレシートがビラビラーと長く出てきて、そこに自分で必要事項を記入しなければならないことが多いです。

そこで、返金方法に小切手(Check/Cheque) を選んだり、クレジットカード番号を入れるのを忘れたり、情報が間違っていたり、手書きのため判読が不可能であったりする場合、グローバルブルーなど免税手続き代行会社はその本人名義の小切手を発行して本人の実家に郵送するわけです。

さて、母親が受け取ったのはこのグローバルブルーからの小切手で5万円ちょっと。昔はこういう場合の通貨は現地の通貨(ポンドとかユーロとか)だったような気がするのですが、こちらはちゃんと日本円建てで三井住友銀行東京本店発行です。

母親には何がなんだかわけがわからないというわけで、私が一時帰国したときに現金化にトライすることに。結果は。。。さんざん時間と手間(私、母親、銀行員たちすべてに)がかかった上にこのご時勢の日本の銀行の信じられない実情を垣間見るということになったのです。私はイギリスの銀行に慣れているからそう思うのであって、日本に住む日本人にはこれって普通なんでしょうか?

日本の地方銀行

まず、母親が住む実家に近い銀行は中規模の地方銀行(仮に、A銀行としますが、群馬銀行とか鹿児島銀行のたぐいです)母親も家族一家も全員昔からここに口座を持っています。だいたい、このあたりに住む人は世代を通して、みんなそうなのではないでしょうか、給料が口座に振り込まれ各種の税金や経費などは毎月口座から自動的に引き落とされます。

私はこのA銀行が田舎銀行で、ちょっと頼りない気がしたので、東京へいるときに小切手の現金化について三井住友銀行で聞いてみました。すると、三井住友銀行は小切手の発行銀行であるので実際に現金化するのは本人が口座を持っている銀行口座に入金する必要があるとのことでした。それで、少し不安に思いながらA銀行の中でもかなり大きな支店で外国為替専門分野も備わっているところにタクシーで行きました。母親はあまり長い距離が歩けず、私は日本滞在中車がないもので。10時くらいだったでしょうか、晴れて5万円を現金化できたらおいしいランチでもと思っていたのですが。。。

A銀行で小切手現金化にトライ

まず、受付で来行目的を聞かれたのでその旨を言うと、外国為替カウンターの受付で待つように言われ10分くらい待つと担当の若い男性銀行員に呼ばれました。小切手を見せるとクエスチョン・マークがいくつも並んだような顔で「少々お待ちください」といわれ、彼は奥に入って周りの同僚や先輩、上司にいろいろ相談したり、コンピュータースクリーンをにらめっこしたり、マニュアルらしきものやファイルを調べたりしていましたが、そのうちこちらに戻ってきて

「この小切手には三井住友銀行の名前があるのでそちらの銀行に行ってください。」と言うのです。(ちなみに母の実家の近くには三井住友の支店はありません。)それで、東京の三井住友銀行で言われたことを伝えると

「え、そうなんですか。すみません、ちょっと調べてみます。」と言ってまた同じことの繰り返し、その挙句今度は電話をして誰かと話していました(たぶん三井住友銀行かA銀行の本店あたりでしょう)。ここまでですでに銀行に入ってから1時間近くたっています。

そのあと、ふたたび遠い書棚に管理してあったと思われるファイルと書類を取り出してきて「この書類に記入してもらえると小切手をご本人様の口座へ入金させていただけるようです。手数料が若干かかりますがよろしいでしょうか。」

「いくらかかるんですか。」

「500円だと思います。」

「それではお願いします。500円は銀行口座から引き落としてもらってもいいし、小切手の額面から差し引いて入金してもらっても、どちらでも構いません。」と順調にコトが運ぶかに思えたんです、しかし。。。

まず、申込用紙は3枚複写のカーボン書類で記入が必要な情報は氏名、住所、小切手の発行会社や額面金額など特に多くはないのですが、80代の母はこういう書類を記入するのに時間がかかります。まちがえたり、老眼鏡がなかったため、はみ出したりすることがあり、その1字1語句を銀行員がそばでじっとチェックするものなので余計に緊張したのかもしれません。何度か書き直す必要がありました。

その時にこれと同じように書いてくださいと言われて見せられたのが、同じ用紙を使ってこれまで提出されたものの銀行控えだと思われる紙が10cmほどもファイルされている紙束です。ということは、これまでもこの用紙を使って提出されたことが何度もあっただろうに、どうしてここにたどり着くまで1時間以上かかったのか不思議です。とりあえず前回同じ提出をした人と同じように記入して(この人も免税返金だったようです。)ハンコを押しました。

それを吟味して「それではまた少々おまちください。」と言われ待っていると、途中にアメリカ人2人が入ってきて両替だかなんだかの手続きをし始め、わたしたちはそれがすむまで待たなくてはならず、また時間がたちます。そのうち戻ってきた担当のお兄ちゃんは「すみませんが、ハンコが銀行にお届けのお届け印と異なるようです。」となりました。母親はこれのはずだと言いますが違うと言われたら仕方ありません。

「拇印や署名での本人確認はできないのでしょうか。」

「当銀行ではお取り扱い業務のいくつかにおいてはハンコ以外の本人確認制度を導入させていただいておりますが、こちらの業務ではハンコが必要になります。」

ハンコなんて、誰かが落としたのを拾うということもあるのだから、確実な本人確認の証明にはならないはずなのに。

ここで、どちらにしても今回小切手を現金化手続きをすることは無理だとわかったし、既にお昼時を過ぎてお腹がすいてきたので、

「それでは家に戻りまして、今一度ハンコを押して郵送してよろしいでしょうか。」

「いえ、もう一度ご来行していただきこちらでも確認の上で提出していただきたいと思います。」

「そうですか、しかし母は高齢でここまでまた来るというのも大変です。私が書面をしっかり確認してハンコも押しますので私が1人で書類を持参すると言うことでいかがでしょうか。」

「そうですか、本来はご本人様のご来行が理想的なのですが、そういうご事情でしたらしかたありませんね、ただくれぐれもハンコはお届け印ということでお願いします。」

しかしながら母は自分が持参したハンコが正しいものだと思っているため、私も不安になってきました。そこで「届出印を見せてもらえませんか?」と聞くと、手元にそれがあるにも関わらず「いやー、それは。。。少々お待ち下さい。」とまた先輩にお伺いのあと

「申し訳ないのですが、決まりで届出印をお見せすることはできないんです。」

「でも、自分のハンコですよね、どうしてだめなんですか。」

「いやー、そういう決まりになっているんで。どういうハンコであるか説明はできるんですが。まん丸で名前が縦に2文字で入っています。」

「でも、母が持参したものもその描写にぴったりです。」

「いや、上下の文字がハンコの丸枠にくっついている位置が少し違うんです。」

母も家には似たようなハンコがたくさんあるのでどれが正しいのか不安そうです。ちょうどその時口座の通帳も持っておらずそれで確認することもできません。母は最近忘れやすいこともあり、銀行口座の通帳はなるべく持ち歩かないようにしていて姉に預けているそうです。普段はカードでATMマシーンからお金をおろしたりできるので通帳は必要ないわけです。ここで母がはじめて思い出したのは、通帳と一緒に届け出印も姉に預けているに違いないということです。

いちおう、一安心して、書類に正しいハンコを押して私が持参するということでその日は終わりました。かかった合計時間2時間半で、お昼も随分遅れてしまいました。

再度銀行へ

さて、翌日姉に預けていたというハンコを使って書類を完璧に揃え、それを私が銀行に持っていきました。しかし、姉に通帳とハンコを持って来てもらわなければならなかったため、銀行についたのは3時ちょっと過ぎになってしまい、窓口がしまってしまいました。(イギリスの銀行は窓口が大体4時半くらいまで空いているので油断してしまいました。)ATMコーナーは空いていてそこに窓口のシャッターの中から人が出てきました。ギリギリセーフのお客さんだったのでしょう。すかさずその対応をしていた銀行員をつかまえ、この書類を外国為替の人に渡したいのだがと言うと、中に入って担当の人を呼んでくれました。

書類を確認し、ハンコもあっているということで「それではこれでご対応させて頂きます。」ということとなり、ほっとして銀行をあとにしたのですが、家に戻ると電話がかかってきました。

「すみません、手数料の500円なんですが。。。」

「ええ、口座から差し引いてくださるということでしたよね。」

「それが、こちらが勝手に口座から差し引くということはできないんです。」

「えっ?それならそうと2度も銀行に来たのにどうしてそのときに言ってくれなかったのですか。」

「すみません、こちらの不手際でお手間を取らせることになりまして。もしご来行いただき現金で500円支払っていただくということでしたらより簡便になるかと思います。」

ここで私は堪忍袋の緒が切れてしまいました。

「申し訳ありません。私はとても忙しくて、しかも車がないので銀行に来るのも簡単ではないんです。それなのに無理して2度も来て合計何時間も費やして500円支払うためにまた来いと言うのですか。」

「もういいです、このことは忘れてください。小切手は破棄してください。たかが5万円のためにお互いの時間と労力をこれ以上使うは無駄です。最初から手続きをしようなどと思わなければよかったです。」ガチャン。電話を切りました。

そうすると、それから何度も電話がかかって来て無視すると留守番メッセージでおろおろしている様子の銀行員が「本当に申し訳ございません。お電話お待ちしております。」とメッセージを残しています。

最初は電話を無視していたけどしつこく何度もかけるので、他の人から電話がかかってくると困るしと思い、電話に出ると

「申し訳ありません。もし銀行においでいただけないということでしたらこちらからご自宅にお伺いし、500円をお支払いいただこうと存じますが、それではいかがでしょうか。」

「そこから母の実家まで車で20分くらいはかかりますが、いいんですか。」

「はい、お客様のご都合のいいようにさせていただきます。」

いくら何でもそこまではしないだろうと思っていたのですが、結局銀行からはるばる母の実家に500円を取り立てに来たのです。そのために使ったガソリン代や銀行員の時給を考えるととても500円には合いません。

まあ、これまでの経過からたかが5万円の小切手を現金化するために、どれだけ銀行員の時間や手間を使っているか考えると、日本の銀行というのはコスト・パフォーマンスということは最初から考えない組織であるといえるわけですが。

日本の銀行のガラパゴス化

長々と説明しましたが、実に長々と時間がかかったので仕方がないんです。もう私はびっくりしました、A銀行のガラパゴス化に。

最初に私を担当した銀行員は若くてそれなりに情報処理能力もあるのではないかと思うのですが、

「電話や手紙でなく、Eメールでメッセージをもらえたらうれしいのですが。」というと、

「そうですよね、でも当行ではそれができない決まりになっているんですよ。」

「そうですか、私でもそう思うのだからあなたのような若い人はもっとそう思うでしょうね。まあ、別にあなたが悪いのではなく銀行の仕組みが旧態化しているのが悪いんでしょうから。」というと頭をかいています。

このような若い人員もこのガラパゴス諸島に足を踏み入れたら最後、その周りのおじさんたちと一緒に化石化していくのだろうなと思いました。

ネット銀行

もちろん、私は通常のクレジットカードの支払いなどは楽天銀行などネット銀行を通じて行っています。世界中どこにいてもアクセスできて人に支払いしたり、入金を受け付けたり毎月決まった額を支払い続けるサービスも利用しています。

海外送金はトランスファーワイズを利用しています。楽天銀行の海外送金ならまだしも、日本の普通の銀行で海外送金をすると手数料が馬鹿みたいに高いので今時使っている人はいないのではないでしょうか。

A銀行には昔から口座があるのでいちおう使っていて、市役所関係の引き落としはこちらを昔から利用していました。でも、インターネット環境がある人は、地方銀行よりネット銀行のほうが断然使いやすいですよね。振込手数料なども無料だったり安かったりするし。

ただ、こういう地方銀行が化石化しても今のところ生き延びているのは、うちの母のようにインターネットを使わない世代がまだ一定数いるからでしょう。これから、10年、20年たってこういう人たちがいなくなったらA銀行なんて潰れてしまうのではないかと思いますが、彼らは同じやり方で50年とか続いて来ているわけなのでそれが当たり前になってしまっていて砂に頭を埋めているのでしょう。

日本の神対応サービス

イギリスに長く住んで、たまに日本に帰ると日本のサービスの良さに感銘を受けることが多いです。

宅配便の便利さといったらどうでしょう。イギリスで宅配というと平日の9時から5時までだけですよ。それもいつ来るかわかりません。配達されたときに家にいなかったら「次の日に再配達」「または自分の都合の良い日を指定して再配達してもらうのですが、それには日にちしか選べず、時間帯は選べません。なので来るかどうかわからない荷物を1日中待っているはめになります。そしてそのうち金曜日になってしまうと月曜まで待つしかないということに。

郵便局も、通信販売の配送も同様です。家に洗濯機や冷蔵庫などを購入した場合、イギリス人は年次休暇を取ってその配送を自宅で待機するのです。また、日本の店舗ではお客様は神様レベルで扱いますよね、イギリスではそういうことはなく、サービスが良くないことも多いです。

しかし、そういう神対応サービスに比べ、日本で信じられないほど不便なのが銀行と役所ですね。結局競争がないからいけないのでしょうか。ATMマシーンなんてものは銀行窓口がしまっている時間のためにあるはずなのに夜間や休日あいていないとか、こういう国って先進国では日本だけじゃないですか。
そういえば民営化の前の郵便局や国鉄もサービスが悪かったのではないでしょうか。今はコンビニに24時間使えるATMがあるので助かっていますが、コンビニがないところは不便でしょうね。

イギリスの銀行

イギリスではATMは原則として365日24時間空いています。日本よりずっと治安悪いはずなのに。そして、ATMからお金を下ろすときに手数料は無料のことがほとんどです。
また、イギリスでは新興のネット銀行だけでなく、老舗大手のバークレイズ銀行なども近代化が進んでいます。そうでないと競争が激しくて生きて行けないという危機感があるのだと思います。以前は窓口が5つくらいあった支店でも今は一つだけであとは機械が並んでいて、引き出し、送金、預入などができるようになっています。
日本の地方銀行はまだまだうちの母のような人がお得意様として使ってくれるので、今のところは安泰と思っているのでしょうが、いつまでもそれが続くとは思えません。進化することを考えないのなら衰退が待っているばかりです。
モバイルバージョンを終了