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東京医科大学入試女子差別問題:外国からも非難の声【海外の反応】

Female doctor

先日は裏口入学の件で捜査を受けていた東京医科大学ですが、その捜査に相まって分かったことに、入学試験の女子受験者の点数を低く計算し、女性の合格者数が抑えられていたことがわかりました。裏口入学については不正には変わりないものの一個人の話でしたが、今回は女子学生全員に関わる問題です。あまりのニュースに日本国内ではもちろん、既に海外でも英語圏諸国をはじめ、フランス、インドなど様々な国で報道されています。


Contents

東京医科大学

東京医科大学(東京医大)は東京都新宿区に本部を置く男女共学の私立の大学で、創設は1916年。旧医科大学の一つで、医学部医学科、医学部看護学科を有する、在籍者数約1,200人の総合大学です。

同大学の医学科の一般入試では、2010年に女子の合格者が69人と全体(181人)の38%に達したため、2011年から女子学生の入試の得点を一律低く計算する操作が行われることになりました。東京医科大医学部の入試はマークシート式の第1次試験と面接と小論文から成る第2次試験があるのですが、その第1次試験の段階で女子受験生の試験結果の点数を一定割合で一律減点していたというのです。

このことについては公表されないまま、秘密裏のうちに今までずっと行われてきて、今回別件の裏口入学の件で捜査中に判明したものだそうです。関係者によれば「いわば必要悪。暗黙の了解があった。」と語っています。

差別の理由は?

東京医大出身者は医師国家試験に合格したあかつきには多くが系列の病院に勤務することになります。病院側では、女性医師はやっと経験を積んだ頃に結婚し出産するために職場を離れてしまうと敬遠する声が多いと言います。特に緊急の手術が多く、勤務体系が不規則で重労働の外科などでは「女3人分で男1人分」と言われているのだそう。

それで、大学に入る時点で女性の数を減らすのが目的で入試得点の操作が行われてきたのです。

実は女子の大学入学者を3割程度に収めるという措置は以前からあったそうなので、その時は第2次試験の段階で操作していたのかもしれません。けれども2010年に女子合格者が38%にまで増えたので、それでは間に合わなくなり、第1次試験の段階での足切りとなったのでしょう。

女性の医師を減らすのが解決策?

このような不正まで働いて、人口の半分である女性を貶め、だましてまで女性の医師を減らすのが医師不足の解決策なのでしょうか。

女性が育児休暇を取って休んでいる間、代わりの医師が代理でき、医師が働きやすい環境を整えることが本当の解決策でしょう。これでは男性医師だって休めもしないし長時間労働に文句を言わず、自分の体調が悪くても無理を推して仕事をするという、過労死に至るような働き方につながります。医師が働きやすい環境がないということは、女性のみならず、男性医師にも過酷な労働条件でしょう。でも、男性医師は「死ぬまで」働いてくれるし、育児や家事は専業主婦の妻にすべて任せることができるのでOKということでしょうか。

これでは優秀な医師が減ってしまい、今に外国人医師に頼るようになるかもしれません。諸外国、たとえばイギリスでは現に、イギリス人の医師はだんだん少なくなっており、主にアジア系の医師が活躍しています。

日本でもインド人の医師が活躍するのもいいのではないかと私は思いますが、インド人は英語が通じるし労働環境もいいイギリスならまだしも、言葉が難しく、過労死するほど働かされる日本には来てくれないでしょう。

それに、日本人患者の方が外国人の医師に診てもらいたいなどとは思わないのではないでしょうか。それならまだ日本人の女性医師の方がいいんじゃないですか?

この問題は根が深い?

このニュースが公になってから、ツイッターなどで「実をいうと」とか「ココだけの話ですが」という感じでひっきりなしに出てくるのが「こういうことは東京医大だけでなく、昔からほかの大学でもあった。」「これまでは、入試結果は闇に葬り去られていたのでそれが表に出なかっただけだ。」という意見です。これは私立大学だけでなく、公費でまかなわれている国立大学でも、医学部に限らず裏でひっそりと行われてきたと語られています。

こういう問題ってこれまでは単に公に出なかっただけで普通にあったことなのかもしれません。

それから驚いたのが、主に女性の怒りと悔しさに満ちたコメントに比べ、男子学生を優先的に入学させるのは「仕方ない」とか入試での差別は「必要悪」であるとか、「だって女はすぐ辞めるから困るんだよね。」という消極的な肯定論もかなりあったことです。

この問題について高須クリニック院長高須克弥は「強い信念があるのなら、東京男子医科大に改名すればよい。」と述べて話題になりました。

高須院長は自分自身が卒業した昭和大学医学部も裏口入学だったと認めています。

この高須院長の投稿に対して、同感の声も上がっていました。「隠れてやったのがよくないのであって、堂々とやればいい。」というわけです。公立だと問題だが、私立大学ならOKという意見もありました。前述したように、国立大学でもひそかに行われているという情報も入っていますが。

海外の反応

この手のニュースが出ると、私は正直気が重いのです。#Me Too、LGBT、移民難民排斥、捕鯨、環境汚染などでも同様の気分になりますが、男女差別の場合は特にそう。だって、国民の半分に関わる問題だから。

日本ではこういう問題は「よくあることだ」ですまされてしまうかもしれません。そしてこれまで、日本は国内の井戸の中で議論しているだけですんだのです。誰も日本の国内問題になど興味ないですから。でも、最近の世の中はグローバルで、日本で起きた国内問題でもすぐに海外に知れ渡ります、特に悪いニュースは。

今回もこの記事が日本で出た半日後には、私が気が付いた限りでも米国 The Wall Street Journal、The New York TimesイギリスでもBBC ニュースが報道していました。Japan Timesや毎日新聞(英語版)も英語で記事をのせています。ほかにも、フランスやインド、中国、韓国 メキシコ、トルコ、インドネシアなどで報道されていました。「フランスでは医学大学で女性を広く受け入れているので、フランスで学びませんか?」というのまでありました。

海外のニュースでは、今回の医大入試における問題については、どの記事もはっきりと女性差別として批判していて、日本は時代錯誤も甚だしいといった口調が目立ちます。そして、安倍首相はウーマノミクスと言って女性の職場進出を応援すると何年も言っているが、実際には何も進展していないと辛辣な意見がたくさん飛び交っています。

ツイッター上にも早くも批判というよりあきれたような声がたくさんあがっています。

日本の有名私立大学で教えたことがあるからこういう話には全然驚かない。

この記事のコメントを読むと、こういうことは日本のほかの大学でも起こっていることだと言っている。実に幻滅することだけど、驚きはしない。

クレイジーで、心が痛くなるような話。日本はいまだに1950年代から抜け出ていないよう。

そして、これは東京医大に限った話ではない。他の多くの医大でも、企業でも同じようなことが何年もの間ずっと起こっている。ここは日本だから。

女性が医師を離職する解決策として有名医大がとったのが、彼女たちが働き続けるための障害を取り除くことではなく、最初からその道に進む女性の数を少なくしたということ。とても日本らしいやり方だ。

女性の医師の割合世界比較

では、諸外国では医師という職業の女性進出はどのようになっているのでしょうか。

医師というと男性をすぐ思い浮かべてしまうのは日本だけの現象だと言ったら驚きますか?でもこれは本当です。日本は世界的に見ても、女性の医師の割合がダントツに低いのです。

世界的にみると東ヨーロッパ諸国をはじめ医師の女性率が半分を超えている国が多いのがわかります。ラトビアなどは医師の約75%が女性なのです。
そして、日本は調査対象国の中、最下位で20%ちょっと。

上記の統計は全年代を対象にした調査ですが、35歳未満の若い世代を調べた結果はどうでしょうか。医師の男女比、35歳未満を調べた結果、OECD関連国の大半で女性医師が5割を超えています。ラトビア、リトアニア、エストニア、スペイン、ベルギー、オランダと続き、フランス、イタリア、イギリスなどほとんどの国で女性医師が半数以上となっているのです。

日本の場合も若い世代に限ると女性比が33.5%と高くはなっているのですが、半数になるまでにはまだまだ道が遠そうです。

イギリスではGP(家庭医)を選ぶとき女性の医師を選択することができます。女性なら、女性の医師に診てもらいたいと思うのは自然ではありませんか。女性ならではの男性にはわからない症状や悩みをわかってくれるのですから。

日本では、女性の医師の絶対数が少ないため、女性医師に診てもらいたいと思っても難しいと思っていましたが、これにはこのような背景があったとは知りませんでした。

日本の男女問題は根深い

世の中は不公平に満ち溢れています。裕福な家庭に生まれるか貧しい家庭に育つかで将来の大体のゴールが決まってしまうし、職場に出たら、というより就活においても女性はさまざまなシーンで差別されます。そんな中、唯一努力や才能が平等に評価されるべき大学受験で「性別」といった個人の属性によって女子受験生が差別されるなんてあってはならぬことです。

寝る暇も惜しんで一生懸命受験勉強した女子学生たち、そしてこれから受験しようとしている女の子たちがこのニュースを聞いて怒りを覚えたり、なんて理不尽な世の中なんだと将来に絶望するのではないかと思うと心が痛んでなりません。

男女差別はもちろん大学受験に限ったことではなく、これまでは大学を出るまでは男女公平だったが、就活と同時に変わってくると言われていましたが、それが4年早まるというのですから重大な問題です。

日本では民間企業でも男女差別は根強く、女性がキャリアを積みあげたり、出世するのは難しいのは周知の事実です。けれども、医師という公的な要素の強い職業だからこそ本当に医師になりたいという使命をもち、その目標に向かって受験勉強に打ち込んできた女子学生が報われる世の中であってほしいものです。
 


まとめ

今回の医科大入試における男女差別の問題は、この問題に限ることなく、その背景やそもそもの理由などを徹底的に分析した上で、このようなことが将来2度と起こりえないように改革をすべきです。マークシート式の問題なら、受験者の氏名がなくてもいいわけなので受験者の属性に関する情報を排除した上で採点する。採点した記録は公開し、捜査団体が希望するときに調べることができるようにする、など。

そして、何より改革が必要なのは、日本社会全体の働き方の問題と男女の役割の在り方です。仕事を持たない専業主婦である妻がいない限り働き続けることができないような長時間労働は男性にとっても撤廃するべきだし、医師だけでなくすべての職業において育児休暇や病欠の仕組みを整えるべき。女性が安心して働ける社会は男性も安心して働ける社会。そして、そういう働き方ができてこそ、男女とも家事、育児、趣味、レジャーに使える時間ができるはず。女性が出産するとき、その時その時で育児や家事の分担は当の2人が決めればいい。

おりしも、きょうニュージーランド首相が6週間の育児休暇の後、首相職に復帰したというニュースを聞いたばかりです。こういう日がいつか、日本にもくるのでしょうか。

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参考記事

The Wall Street Journal
BBC ニュース
The New York Times
Japan Times
毎日新聞(英語版)
City-Cost (Kyodo News)
DNA India
世界各国比較:医師の男女比ランキング・年代・診療科別

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