世界最大級の魚市場を有し、「日本の台所」と呼ばれてきた東京都中央区にある築地市場が10月6日に幕を下ろし、10月11日に江東区の豊洲へ移転しました。来場者が1日4万人を超えるという築地市場は国内外の訪問者が訪れる人気観光スポットですが、どうして移転したのでしょうか。移転に遅れが出た問題や新しい市場の施設について説明します。ベッカムをはじめ海外のファンも多い築地市場の移転を悲しむ海外の声もあわせてご紹介。
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築地市場とは
築地市場(つきじいちば、つきじしじょう)は1935年に開設された日本・世界共に最大売上高を誇る中央卸売市場。面積は23ヘクタール(230,836㎡)あります。一日当たりの取扱量は水産物2167トン、青果1170トン。そのほかにも鶏肉、卵、漬物、加工品などを取り扱っています。
築地市場は銀座から1キロ以内という立地条件で、築地駅、東銀座駅、新富町駅などからアクセスがいいのが人気です。2000年には都営地下鉄大江戸線が開通し築地市場駅の出入り口が市場の敷地内にできました。築地市場場内の業者と買い出し人を合わせると一日の入場者数は約42,000人、これに場外の店舗や買い物客、観光客が加わります。
通常「場内」と呼ばれる場内市場では、卸や仲卸など業者への販売が行われます。東京の食品需要を担う市場、特にブリ、アジ、マグロなどの水産物の取り扱いは世界最大級。築地市場でついた値段が全国の他の市場での取引の参考価格になると言われています。
「場内」は業者専門プロの買い出し人のテリトリーで、一般客が参加することはできませんが、場内には市場で働く人たちが食事をするお店もあり、一般客も新鮮な食材を使った料理を楽しむことができます。
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場内市場への見学は原則禁止となっていますが、冷凍マグロの競り場にロープで区切った見学エリアを設置して時間指定で見学が可能になっていました。見学用のパンフレットも5ヶ国語で用意されていました。けれども市場のルールやマナーに反する客が増え、市場本来の業務に支障をきたすようになったため、規制が行われるようになり見学時間が制限されています。見学は当日申し込み順となっていて、見学者数も制限されています。豊洲への移転が決まってからは見学希望者が増えているということです。
築地では業者が取引をするエリアである「場内」とは別に、「場外」と呼ばれる築地場外市場商店街が隣接し、飲食店や小売店が一般客や観光客を相手にしています。新大橋通りと晴海通りとの交差点から市場にかけての地域で、ここでは誰でも普通の商店街のように買い物や食事ができます。食料品や飲食店だけでなく、台所用品など食に関するありとあらゆるものがそろう商店街です。
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この築地場外市場は築地市場が豊洲に移転した後も築地に残って営業が続けられます。
築地市場の問題と移転理由
開場から75年以上が経過している築地市場は建物や施設の老朽化や過密化が問題になってきていました。また、物流面や駐車場の不足、震災の影響といった問題もあり、1970年代以降移転が検討されてきました。現在地での再整備も検討されたのですが、長期にわたる工事、整備費の増大、拡張スペースの不足、営業活動への影響などから断念。現在地での再整備から移転に方向転換し、2001年に江東区豊洲の東京ガス跡地への移転が決定しました。当初の予定は2016年11月と予定され、市場設備も完成していたのですが、土壌汚染対策に不備があるとして延期されました。
東京都は築地市場移転前に、老朽施設に含まれる有害な石綿の飛散防止、市場に生息している数千匹のネズミの駆除を行う必要があります。そのため、東京都では2018年5月から何度か殺鼠剤や粘着シートを使っての駆除を実施し約1600匹のネズミを捕まえたそうです。
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75年の歴史がある築地市場はファンが多く、移転を惜しむ声が多く上がっています。築地市場で取引を行ってきた業者や店舗の中にも、このまま築地市場に残りたいという人たちが少なくありません。築地市場を残そうという運動も行われています。外国人にも絶大な人気を誇る観光スポットだったので、何らかの形で築地市場を残すことが検討されてもいいのではないでしょうか。
ベッカムもファンで外国人に人気
築地市場は観光地として非常に人気があります。当初は業者以外は入れなかったのですが、最近は観光客の誘致を行うようになり一般客がたくさん訪れるようになりました。今では日本人だけでなく外国人にも大人気の観光スポットとなっています。今年の5月にはデヴィッド・ベッカムが息子を連れて築地市場を訪れた様子がインスタグラムにアップされていました。
築地市場の移転についてのニュースはイギリスでもBBC,ガーディアン、インデペンデント、タイムズ、フィナンシャルタイムズ、デイリーメールなど、様々なメディアで取り上げられていて外国からの関心の高さが伺えます。米国ABCやロイター、ほかジャカルタポストなどアジア諸国のメディアでも取り上げられていて、その移転を惜しむ声が世界中から上がっています。Kyodo Newsでは「Sayonara, Tsukiji」と題して、昔の白黒写真を交えた築地市場の歴史とそれを支えている人々を紹介する記事が載っていて印象的でした。
移転延期から移転日決定まで:最新情報
2016年に豊洲市場が開場したことを受けて築地にある市場機能は移転し、築地市場の施設は解体されることになっていました。けれども、豊洲市場の土壌汚染問題により延期されました。地下水から環境基準値を上回るベンゼンなどが検出され安全性に問題があるとされたのです。
問題発覚後に市場移転は延期となり、専門家による調査の末、地下水管理システム機能などの追加対策工事が行われました。最終検査の結果農水省の認可を受け、開場しても安全とのお墨付きが出ました。
2018年10月6日に築地市場の最後のセリが行われ、営業を終了しました。この日から豊洲市場へ引っ越しとなりました。
Tsukiji: Japan’s famed fish market to relocate https://t.co/y8hFu3iq4f
— BBC News (UK) (@BBCNews) 2018年10月6日
10月11日に豊洲市場が開場し、築地市場はこのあと解体工事着工の予定です。予定通りにいけば2020年2月に解体工事完了で、その後は東京五輪・パラリンピックの輸送拠点、駐車場となります。とはいえ、築地市場の解体を惜しむ声も上がっていて、何らかの形で保存すべきではないかという運動も起こっています。これからどういう展開になるのか注目に値します。
豊洲市場とは
豊洲市場は築地から約2.3㎞南、臨海部の埋め立て地の島を橋でつないだところにあり、東京都心方面からは晴美通りを南に進んでアクセスすることになります。東西を貫く都道豊洲有明線との交差点を右折すると豊洲市場があります。この辺りは工場や倉庫が立ち並んでいたところですが、ここ最近はタワーマンションがたくさん立てられているエリアです。
豊洲市場開場初日には夜明け前から午前中にかけて商品の仕入れで訪れた業者の車両で渋滞が発生するなど、交通面での問題も指摘されています。東京都は築地市場の跡地を通って臨海部と都心をつなぐアクセス道路として環状2号線の整備を進めていますが、全線開通は2022年の見通しとなっています。これに伴い、都は市場関係の車両に限って環状2号線の一部区間が利用できるようにしているそうです。
築地市場は屋根と柱だけで壁がなく外気が入る開放型の施設でした。豊洲市場ではすべての施設が屋内にあるため、空調や冷蔵設備など最新設備が完備されています。外気温屋雨風の影響もなく、鳥や小動物などの侵入も防ぐことができるし、商品を低温のまま新鮮に保ち高度な衛生管理ができます。こちらでは築地市場のようなネズミ問題に悩まされることもなさそうというわけです。
豊洲市場の敷地は築地市場の1.7倍の40ヘクタールで、青果棟、水産仲卸売場棟、水産卸売棟、管理施設棟があります。
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豊洲市場は一般客に公開され見学者コースに沿って青果棟、水産卸売場棟、水産仲卸売場棟などの見学ができます。一般客は日曜祝日、市場は休みの日を除き、午前5時から午後5時まで入場できます。
水産卸売場棟の見学者用通路からマグロの競りを間近で見られますが、競り場の専用スペースでの見学は2019年1月15日からになります。見学者通路の窓ガラスからは仲卸業者が客と対応している売り場の様子を眺めることができます。
また、およそ70の店舗が軒を連ねる魚がし横丁で、飲食店、食品や雑貨などの販売店も利用できます。
屋上緑化広場からは臨海部や東京タワーなどが一望できます。豊洲市場には観光施設「千客万来」が設置される予定ですが、こちらは2020東京五輪以降に着工し、2023年の開業となる見通しです。
豊洲市場には日本語、英語、中国語、韓国語のパンフレットが用意されていて、開場早々訪れた外国人観光客の姿も見られます。
築地市場外は変わらず営業
築地市場場内の業務用仕入れは10月6日を最後とし、豊洲市場に移転しますが、築地場外市場は、市場移転期間中もその後も変わらず営業します。場外の店舗数は400以上あり、精肉、加工食品、調理道具など食に関するあらゆるものがそろいます。
これまでは場内・場外が隣接していたため、どちらをも訪問することが可能でした。けれども築地から豊洲までは距離があるので移動時間がかかります。そのため、場外に新たに「築地魚河岸」が設置されました。これは、仲卸企業が経営母体となった約60店舗が入った2棟の生鮮市場です。こちらは本来の移転日だった2016年11月に合わせてオープンしています。
市場が豊洲に移転した後も、築地は場外市場を中心に活気が続いていきそうですね。
築地市場のドキュメンタリー映画
築地市場を記念したドキュメンタリー映画も作成されていて、予告編が紹介されています。
知られざる市場ワールドを撮影したリアルで不思議な世界という触れ込みで、おもしろそうですね。
『築地ワンダーランド』 遠藤尚太郎監督