Last Updated on 2023-03-13 by ラヴリー
イギリスBBC2TV番組で3月7日にジャニー喜多川についてのドキュメンタリー「Predator: The Secret Scandal of J-Pop(プレデター(捕食者):J ポップの隠されたスキャンダル)」が放送されました。ジャニーズ事務所の創業者であるジャニー喜多川が事務所に所属する少年らに行ってきた性的虐待について取り上げたものです。
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ジャニー喜多川とは
ジャニー喜多川は1931年に米国ロサンゼルスで生まれ、幼い頃に家族と日本に戻りました。1962年に「ジャニーズ」と名付けたポップグループを結成して芸能界に進出。
それから彼の「ジャニーズ事務所」は男性アイドルタレントを次々と生み出しました。
70~80年代にかけてはフォーリーブスや郷ひろみ、近藤真彦、田原俊彦、少年隊、光GENJIらの人気タレントが次々と輩出。
その後もSMAP、TOKIO、嵐など、人気男性アイドルやグループを次々と世に送り出し、「J ポップ界のゴッドファーザー」的存在となりました。
あまり表には出ない人物でしたが、2019年に87歳で亡くなった時は東京ドームで「お別れの会」が行われたり、当時の安倍晋三首相からも弔電が届くなど、国民的英雄として扱われました。
けれども、その名声のかげでジャニー喜多川にはあまり公には語られてこなかった暗いうわさがあったのです。
それは、彼がジャニーズ事務所に所属する少年たちに性的虐待を行ってきたという疑惑です。
少年への性的虐待についての疑惑
ジャニー喜多川は生涯にわたって、多数の少年を自らがスカウトして事務所に所属させ、その育成に関わってきました。
そしてその多くが寝泊まりする「合宿所」で、外部の目から離れて少年たちに接していました。
「ジュニア」と呼ばれる少年たちは、他のグループのバックダンサーをしたりしながら、ジャニー喜多川に選ばれ、タレントとして売り出されることを夢見ます。
その立場を利用して、ジャニー喜多川は少年たちに性的交渉をせまり、たくさんの少年たちに性的虐待を行ってきたというのです。
BBC番組ではかつての被害者にインタビューを行っていますが、そのうちの一人は「そのような性的虐待を我慢しないと売り出してもらえないから、みんなあきらめていた。そのことについて、周りに相談できる大人もいなかった。」と語っています。
ジャニー喜多川によるこのような一連の性的加害の話はもう何十年も前から出回っていて、知っている人は知っているといったことのようです。
下記のツイートをした時、たくさんの人からリプがありましたが、「知らなかった」と驚く人もいた半面、「誰でも知っていることだと思っていた」「公然の秘密」といった声もたくさんありました。
https://twitter.com/1ovelynews/status/1630063218969178112?s=20
「プレデター:J ポップの隠されたスキャンダル」BBCで3月7日21時(イギリス時間)放送予定https://t.co/os2Kk6GnRM
— ラヴリー@news from nowhere 🇬🇧 (@1ovelynews) February 27, 2023
『週刊文春』の報道と高裁判決
ジャニー喜多川による性的虐待について、新聞やTVなどのメインメディアで報じられることはなかったものの、1999年には『週刊文春』が告発するといったことがありました。
その時ジャニーズ事務所は文春を名誉毀損で訴えたのですが、東京高裁判決では、損害賠償を命じたものの、複数の少年たちによるジャニー喜多川の性的行為についての証言は真実性があると認定。
また、性的行為を拒否するとデビューさせてもらえないとか、ステージの立ち位置が悪くなるなどの脅しがあったという事情も事実であると認めています。
被害者である少年らの年齢や社会的ないし精神的に未成熟であるといった事情、少年らと一審原告との社会的地位・能力等の相違、当該行為の性質及びこの行為が少年らに及ぼしたと考えられる精神的衝撃の程度等に照らせば、少年らが自ら捜査機関に申告することも、保護者に事実をうち明けることもしなかったとしても不自然であるとはいえず、また、少年らの立場に立てば、少年らが、一審原告のセクハラ行為を断れば、ステージの立ち位置が悪くなったり、デビューできなくなると考えたということも十分首肯できるところであって、この点の前記〈証拠〉の各証拠は信用できるものというべきである。
メインメディアの沈黙
とはいえ、ジャニー喜多川による性的虐待についての文春報道も、高裁判決についても、新聞やTVほか、他のメインメディアで取り上げられることはありませんでした。
これについて、BBC記者はどうして日本メディアがこのことについて沈黙をしているのかと首をかしげます。
番組制作にあたってBBC記者は警察、芸能プロダクション、新聞、TV、ジャーナリスト、公共放送にまで取材を申し込みましたが、全て断られました。
唯一取材に応じた文春やこの件について調べた過去があるジャーナリストに聞いて分かったことは、ジャニーズ事務所と日本のメインメディアとの癒着についてです。
ジャニーズの少年アイドルたちはジャニー喜多川の性的虐待をスターダムにのし上がるために受け入れざるを得なかった。
彼に逆らうとアイドルをメディアに出演させてもらえなくなるので、日本メディアはこの件について報道してこなかった。https://t.co/tlGj5IC262— ラヴリー@news from nowhere 🇬🇧 (@1ovelynews) February 27, 2023
ジャニー喜多川の性的虐待という深刻な人権問題について、なぜ日本メディアは長年問題にしてこなかったのかと聞くBBC
「ジャニーズを敵にしたくない」「広告絡みでNG」
海外メディアは報じたが、国内では報じられなかった。
衆議院委員会で取り上げられたのにもかかわらず。https://t.co/qRVdzHxajO— ラヴリー@news from nowhere 🇬🇧 (@1ovelynews) February 28, 2023
巨大な力を持つ大手芸能プロダクションであるジャニーズ事務所に対し、テレビ局をはじめとする日本のマスメディアは、逆らうことができなかったのです。
そんなことをすれば、自社の番組にジャニーズの人気タレントを出演させてもらえなくなるし、出版社としても雑誌にアイドルを載せることができなくなるからです。
実際、文春スクープよりずっと前の1980年代に『週刊現代』の元木 昌彦記者がジャニー喜多川の性的嗜好についての記事を掲載した時、ジャニーズ事務所が「今後、講談社には、一切うちのタレントを出さない」と通告してきて、この記者はのちに他の部署に異動させられたという話があります。
さらに、ジャニーズ事務所のパワーは日本のメインメディアだけにとどまらず、YouTubeやTikTokといったインターネット配信メディアにも及んでいるようです。
この件について外国の報道機関であるBBCが報道するしかなかったのも、こういう事情があるのでしょう。
ここ半年
色々な法律解説の動画をアップしてきましたが
唯一、YouTubeで事後的に非収益になり
TikTokで削除された動画が
ジャニーズ性被害関係の動画でした https://t.co/RpQJZKvLW9— 弁護士 髙橋裕樹(アトム市川船橋法律事務所代表) (@ichifuna_law) March 1, 2023
BBC英語記事の日本語版。
いつもは和訳に時差があるのに、今回は番組放映前に間に合うよう日本語版が出ている。#ジャニー喜多川「事件」について、このTV番組についても、日本のメインメディアが沈黙を決め込んでいることへの警告であり、日本国民に知らせたい思いからか。https://t.co/2VZmZnJrbo— ラヴリー@news from nowhere 🇬🇧 (@1ovelynews) March 7, 2023
性的虐待とメディア報道
自らの力を利用して自分より地位が低いものに対してセクハラや性的虐待を繰り返し行うという行為は日本だけでなく、世界中で行われてきました。
最近では米国のハーヴェイ・ワインスタイン事件を思い出しますが、彼の事件は勇気ある被害者たちの告発後、大きく報道され、彼は失脚して逮捕もされています。
ジャニー喜多川の件も、それ自体ももちろん問題であるにせよ、BBC記者が一番解せないと思ったのは、なぜ日本メディアがこのことについて報道しなかったのか、そしてそれを知っていた人たちがなぜ大きな声を上げてこなかったのかということです。
もしそうしていたら、ジャニー喜多川が半世紀以上にもわたって同じような行為を繰り返すことなく失脚し、このような悪夢が繰り返されることはなかったはずです。
このようなことになるとはつゆ知らず、スターになることだけを夢見てジャニーズ事務所に入った少年たち、それを純粋に支えた家族や友人たち、そしてそれらのアイドルタレントに熱狂したファンたち。
数十年にもわたって、彼ら彼女たちが騙されてきたのは、日本メディアがこのことについて沈黙を通していたからにほかなりません。
この番組を取材したモビーン・アザー記者が「この番組がきっけかになり、日本でこの件についての議論が進むことで、被害者たちが報われることを望む」と語っていたのが印象的です。
グルーミングとは
このBBC番組で出てきた言葉で日本人にはあまり聞きなれないかもと思ったのが「グルーミング」です。
英語で ‘grooming’ というのは「毛づくろい」という意味ですが、性的な目的で子どもや青少年に近づき、本人の好意や信頼を得てから性的虐待に至るという手口です。
グルーミングによって性的行為に至るケースでは、相手が自分に対して愛情や親切心を持って接してくれていると思いこんでしまい、被害者が虐待を受けていると気が付かないこともあるのです。
このBBC番組には、ジャニーズ事務所で長くバックダンサーをやっていた「リュウ」という男性が取材に応じています。
彼もジャニーズ喜多川に性的な誘いを受けた少年の1人ですが、彼は今でもジャニー喜多川を「世話になったから。」と崇拝しています。
また、元ジャニーズジュニアで、今はバーで働いている男性も、ジャニー喜多川のセクハラについて「それを受け入れているジュニアもいるのだから、悪いこととは思わない。」と肯定的です。
BBC記者はこのような若者と話していて、これはグルーミングされた被害者が口にするのと同じ言葉だと感じています。彼らは、自分が性的虐待を受けた被害者だということさえ認めることができていないのです。
被害を認めること
番組で取材された男性専門の日本人セラピストは「回復への第一歩として、まず虐待があったことを認めることが必要」だと語っています。
ジャニーズ喜多川から性的虐待を受けた被害者たちにとって、それを認めることは精神的に多大な重荷を背負うことでしょう。
そして、日本で多くの人が熱狂してきた少年アイドルたちのかげに、このような暗い過去があったことについて、歴代のファンたちも、ジャニーズジュニアの家族や友人たちにとっても、日本のエンターテイメント業界に関わる人たちにとっても、その事実を認めることはつらいことかもしれません。
けれども、くさいものにふたをしていたは、次の一歩は踏み出せず、同じような被害者が次々に生まれるだけです、
誰かがこの疑惑について真実を突き止め、このようなことが二度と起こらないように声を上げなければなりません。
それが日本メディアにできず、外国メディアであるBBCに頼らざるを得ないというのは、伊藤詩織のレイプ疑惑についてのBBC番組「日本の秘められた恥」の時と同様です。
BBC番組の日本での放映情報
BBCドキュメンタリー「Predator: The Secret Scandal of J-Pop」は2023年3月7日午後9時(イギリス時間)、 BBC Twoでイギリスで放送されました。
イギリスからは BBC iPlayerでも視聴できます。
イギリス以外では、3月下旬にBBCワールドニュースで3月下旬に放送予定。
日本ではAmazon Video, Hulu, ケーブルテレビなどの動画配信サービスで視聴できます。
視聴方法については上記リンクを参考にしてください。
(敬称略)
参考情報:
BBC TWO ‘Predator:The Secret Scandal of J-Pop’
加害が明るみに……それでも崇拝され 日本ポップス界の「捕食者」
「1999年以来、絶望しきっています」BBCも注目するジャニー喜多川の性的虐待問題、日本のメディアが“無視”するワケ
ジャニーズの暗部に触れないメディアの罪少年たちへの”性的虐待”という事実
裁判所が認定したジャニー喜多川による少年への「淫行行為」