イギリス料理は本当にまずい? その理由を歴史と国民性から考察

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English Breakfast

Last Updated on 2021-11-22 by ラヴリー

「イギリス料理はまずい」というのは世界的に有名で、イギリス人自身もそう言っています。フランス人が外国の人に料理がまずいと言われたら憤慨しますが、イギリス人はそういう自虐的ジョークを楽しむ傾向があるので、余計にそういうことになっていたりもします。じゃあ、どうしてイギリス料理はまずいのでしょうか。


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イギリス料理は本当にまずい?

私はイギリスに長いこと暮らしていて、おいしいイギリス料理も食べたし、まずいものも食べました。イギリスの家庭や外食で口にする食べ物の全体的なスタンダードや、買うことのできる食材の種類や品質は、過去20年間のうちに格段によくなってきました。

これは、いろいろな理由が考えられます。

  • 一般のイギリス人がホリデーで外国に出かけることが増え、それまでは珍しかった食材に慣れたり、様々な外国料理を食べ、自分でもそのような料理を作ったり、外食でそういうものを食べることが多くなったこと。
  • 冷蔵輸送や保存技術の向上のおかげで外国から輸入した幅広い食材が手に入るようになったこと
  • テレビや書籍で人気シェフがおいしい料理の作り方を披露して、一般のイギリス人の料理の技術があがり、料理を一種の趣味として楽しむ人(男も女も)が増えたこと
  • トリップアドバイザーやグーグルマップなどのレビューが普及し、多くの人が外食する際に口コミをチェックするようになったこと
  • 高級レストランをはじめ、グルメパブ(居酒屋)やカジュアルなレストランでも、「モダン・ブリティッシュ」と呼ばれる、洗練されたオリジナリティーのあるイギリス料理を出すようになったこと

ということで、昔にくらべれば外食しても、まずくてがっかりということは少なくなったのですが、それでも「がっかり」確率は日本などに比べれば高いです。

なので、私などはイギリスで外食するときはなるべくおいしいと分かっているお店に行くようにしていますが、旅行者などでそういう情報がない人にはそれも難しいでしょう。日本人旅行者がロンドンでいきあたりばったりにレストランで何か食べたら「まずい!高い!」という感想を持つ確率は高いといえます。

とはいえ、最近はパリもローマもそんなところが増えてきました。大都市や観光地と言うのは一見さんを相手にするところが多いので仕方がないのかもしれません。

イギリス家庭料理もまずい?

レストランでなかなかおいしいものが食べられないとすると、イギリスの家庭で食べているものはどうなのかと知りたくなりますね。

これは個人差があるので一概にはいえないのですが、平均すると日本人に比べ料理の質もレパートリーも落ちると思います。これは私が日本人で日本食に飢えているということもありますが。

イギリス人の多くは料理にあまり時間をかけません。いまどき専業主婦はほとんどいないし、共働きで忙しいので普段の食事はスーパーマーケットで出来合いのラザーニャとかパイとかを買ってオーブンに入れ、付け合せのサラダをつけるだけという人が多いようです。自分で一から作ると言ってもパスタとかの一皿料理で済ませたりします。

週末は少し時間をかけて料理をする人もいますが、それもサンデーロースト(日曜日のロースト料理)と呼ばれるローストした肉(ビーフやチキン)にポテト料理(フレンチフライやローストまたはマッシュポテト)と茹で野菜の付け合せといったワンパターンが多いようです。

そういうものがまずいのかといえば、そういうこともなく、イギリス人はおいしいと思っているし、子供の頃からそういったものを食べているので、慣れてもいます。

ただ、私たち日本人からすると、同じ様なものばかりで飽きてしまうんです。私もそうですが、ひとつのメニューにしても幕の内弁当式に少量の料理を少しずつ楽しみたいと思うのに、それが1食当たりでもできないし、毎週同じものを食べるのも「またか」という気になります。

イギリス料理がまずい理由

イギリス人は食にこだわらない

イギリス料理がまずい理由にはいろいろありますが、結局イギリス人自体がさほど気にしていないのが元凶といえます。イギリス人は料理がまずいことや天気が悪いことを自らブラックユーモアとして話します。天気はどうしようもないとしても、料理は改善の余地があるんじゃないかと言うと、インド人、中国人やイタリア人が本場のレストランやテイクアウトの店を開いてくれるので、おいしいものを食べたいときは外国料理を食べればいいと笑っています。

また、あまり食にこだわらない人もいて、そんな人はおなかさえ満たされればいいと思っています。そういう人の中には政治的、宗教的、心情的な理由でヴェジタリアンだったりヴェーガンだったりと、自ら食べるものに制約を課す人もいます。おいしいものよりももっと崇高で大切な信条があるということなのでしょう。

天気が悪い

イギリスは南ヨーロッパ諸国に比べると、気温が低く日照時間が短いため、多くの果物や野菜の生産に向いていません。特に冬は野菜などの生鮮食品が手に入りにくく、高価になるため低所得者層にはなかなか手が出ません。イギリスの気候風土にあった小麦などの穀物が中心の食事になってしまいます。

今では食料輸送や保存の技術が発達しているので、イギリスでも世界中から輸入される食材を比較的求めやすい値段で買うことができます。イギリスのスーパーに行き、野菜や果物、肉などの原産国を見ると、スペインのオレンジ、ブラジルのバナナ、南アフリカのりんご、ニュージーランドのラムといったように実に多様です。

けれども戦前はスパイスやティーなど保存の利くものは輸入されていたにせよ、生鮮食料品は手にはいりにくかったのです。これは、イギリスだけでなく北ヨーロッパの国々でも同様です。特にEUができて関税や国境のチェックなしでスペインやギリシャなど暖かい国から野菜や果物が輸送されるので国内流通と同じくらいの便利さで生鮮食料品が出回っています。

とはいえイギリスがEUを離脱することになったら、これまでのようにスペイン産の安くておいしい果物などを手に入れることがむずかしくなるかもしれません。ちょっと心配です。

イギリスの食の歴史

ちなみに、イギリスの食の歴史を振り返ってみると、イギリス料理は昔からずっとまずかったわけでもないようです。イギリスの食の歴史を少し紐解いてみましょう。

イギリスには歴史上ローマ人、サクソン人、バイキング、ノルマン人などさまざまな人種が居住していて、それぞれの食文化をもたらしています。中世のイギリス料理は大陸ヨーロッパ料理に似てスパイスをたくさん使った料理だったと言われています。

運河や鉄道による人や物の移動が容易になるまでは、各地方特有の食材や料理方法があり、バラエティーに富む地方料理を食べていました。

また、イギリスは大航海時代から世界中の料理に接し、インドやアフリカなどからさまざまなスパイスを大量に輸入して料理に使っていました。イギリスでは畜産農業がさかんで、18世紀から19世紀にかけて輸出していた「ブリティッシュ・ビーフ」は世界的に有名でした。

17世紀のピューリタン革命

イギリスの食生活を質素にすることになったのは、オリバー・クロムウェルによるピューリタン革命(1649-1660)も影響しています。この時代、ありとあらゆる享楽は罪悪視されました。サッカーをはじめとするスポーツは禁止され、劇場は閉鎖され、女性は化粧も華やかな衣装も許されませんでした。

クロムウェルは食事をも質素にするべきだとされ、伝統的なクリスマス・プディングでさえ禁止されたのです。また、月に一度は何も食べない断食の日が課せられました。

産業革命~ヴィクトリア朝時代

18世紀後半におこった産業革命では、農村から多くの人が都市へ移り住み、農村が衰退しました。それと同じ頃、農業革命も起こりました。小規模の自衛農が衰退し、大地主に集約され、資本主義的農場経営が導入されたのです。

農村では自給自足できていた新鮮な野菜や乳製品を都市に移り住んだ庶民は市場や店で買うことになりました。その頃は生鮮食品を保存し輸送する技術がなかったため、多くの人はパンとバターを街の屋台で食べたりしていました。ロンドンなどの過密都市で労働者が住むスラム住宅にはキッチンさえないところも多かったのです。あったとしても、工場での過酷な長時間労働で料理する時間もありませんでした。

下層階級が惨めな食生活をしていたのにくらべ、上流階級は贅沢な食事をしていましたが、その頃のイギリスは上下水道の設備も不十分で衛生安全面での問題が多く、コレラなどの疫病が流行りました。そのため、食材を十分すぎるほど加熱するのが常識になり、生野菜などは食べなくなったのです。たとえば、きゅうりのサンドイッチといえば、上流階級のアフタヌーンティーの定番ですが、きゅうりがコレラの蔓延の原因だとされ、敬遠されるようになりました。

二つの大戦

第一次世界大戦、第二時世界大戦という二つの戦争のため、島国であリ、多くの食材を輸入に頼っていたイギリスは食糧不足におちいりました。農村で働いていた男性は徴兵され、農業生産も被害をこうむり、肉、砂糖、バター、卵などの配給制度が導入されました。食料の配給は1945年に戦争が終わってからも、1956年まで続きました。1950年代冬の間、野菜や豆類は庶民の手には届かないものとなっていました。

また、戦時には男性が兵士として次々に徴兵されたため、農村だけでなく工場や一般的な職も人手不足になり、それまで主婦だった女性が借り出されていきました。戦争が終わってから女性は家庭に戻るかと思いきや、職に就いた女性は多くがそのまま働き続けました。戦後の貧困の中で、家計を支えるためには男女とも働かなければならなかったのでしょう。その結果、専業主婦が家庭で長い時間をかけて家事をするという習慣が廃れていったともいえます。

イギリスのフード・ルネッサンス?

前述したように、イギリスの食事はここ最近、急速に改善してきています。全体的に、食べることや料理をすることに熱意を持つ人が増えたような気がします。デリア・スミス、リック・スタイン、ナイジェラ・ローソン、ジェイミー・オリバーなどの人気シェフがテレビの料理番組で啓蒙した影響もあるのではないでしょうか。

2010年に行われたBBCの調査では、フランス人は夕食の準備に平均27分かけるのに比べ、イギリス人は30分かけるということです。3分しかちがいませんが。(ちなみに、日本人だと1時間くらいになるのではないでしょうか。)

個人的にうれしいのは、これまでなかなか手に入らなかった白菜やもやしなどといった食材がスーパーマーケットで買えるようになったことです。これからも、イギリスの食文化が発達を続けてくれるよう祈るばかりです。

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