「働く意識」について国際比較調査をしたところ、日本人は上昇志向がなく自己研鑽をせず、独立心が低く、勤続意欲が低いわりに転職意向も低く、ダイバーシティ需要度が低いという結果になっています。就業意識や成長意識に関して、日本は他のアジア・オセアニア諸国と比べて1人負けと言っていい状況。ますますグローバル化するビジネス界で日本の国際競争力低下が浮き彫りになり懸念されます。
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APAC「働く意識」調査結果
2019年にパーソル総合研究所が行ったアジア・オセアニア14ヶ国を対象に行ったAPAC就業実態・成長意識調査(2019年)は、各国1000人の男女20~69歳の就業者を対象に行ったインターネットでの調査です。
対象国と、調査対象となった年は下記の通り。
1.中国(北京、上海、広州)
2.韓国(ソウル)
3.台湾(台北)
4.香港
5.タイ(バンコク)
6.フィリピン(メトロマニラ)
7.インドネシア(ジャカルタ)
8.マレーシア(クアラルンプール)
9.シンガポール
10.ベトナム(ハノイ、ホーチミンシティ)
11.インド(デリー、ムンバイ)
12.オーストラリア(シドニー、メルボルン)
13.ニュージーランド
14.日本(東京・大阪・愛知)
この調査では各国の労働者の働く意識について様々な質問をしてその国際比較をしています。
上昇志向
管理職につきたい、出世したいという上昇志向があるかどうかの質問では、日本は管理職志向、出世意欲ともに低いことがわかりました。
日本では管理職になりたい人の割合が21.4%、出世したい人が2.9%で14ヶ国で最も低いという結果です。
学習や自己啓発
「あなたが自分の成長を目的として行っている勤務先以外での学習や自己啓発活動についてお知らせください。」という質問は、選択肢11項目から複数選ぶことができるものです。
「読書」「研修・セミナー」「資格取得のための学習」「語学」「通信学習・eラーニング」「副業・兼業」「社会活動」「大学」などのチョイスから選ぶようになっています。
このうち「何も行っていない」と答えた人が日本は46.3%で一番低い結果となっています。2位のオーストラリアでも22.1%と日本の半分以下となっています。
アジア諸国では「何も行っていない」と答えた人が1割未満のところが多く特にベトナム、インドネシア、インド、タイ、中国では何もしていない人が2~6%台となっています。
起業・独立志向
「会社を辞めて独立・起業したい」という人は日本では15.5%で最も低い結果となっており、次のオーストラリア25.9%をも大きく下回っています。
東南アジア諸国では独立志向が軒並み4割を超えていてインドネシア、インド、タイでは半分を超えています。
仕事選びで重視する点
「仕事を選ぶ際に重視することは何か」という質問に対して1位はどの国も希望する年収を得られることとなっていますが、2位以外は各国にばらつきがあります。
その中でも日本は「職場の人間関係」が2位「休みやすさ」が3位に入っていますが、このような傾向は日本だけです。
他の国では「会社に将来性があること」「仕事とプライベートのバランスがとれること」「自分のやりたい仕事であること」「自分の能力や個性が生かせること」「いろいろな知識やスキルが得られること」が重視されています。
ダイバーシティ受容度
「女性上司の元で働くことに抵抗はない」や「外国人と一緒に働くことに抵抗はない」で日本は最下位となっています。
「年下の上司の元で働くことに抵抗はない」では日本は儒教文化の強い韓国に続いて2位です。
ダイバーシティに関しては日本、韓国、中国と言った国で受容度が低い結果となっており、ニュージーランド、タイ、ベトナム、フィリピンでは受容度が高い傾向です。
高齢者労働
「何歳まで働きたいと思っているか」の質問で日本は63.2歳と最も高くなっています。後は韓国、オーストラリア、ニュージーランドと続き、最下位のマレーシアは53.9歳と日本とは10歳近開きがあります。
この質問については男女別の結果も出ていますが、どの国も性別による差はほとんど見られません。
勤務先での満足度
日本では現在の勤務先に関する満足度が低く、今の勤務先で働き続けたいと思う人の割合が最下位となっています。
満足している人の割合が下記の項目で日本は最下位となっています。
- 「会社全体」52.3%
- 「職場の人間関係」55.7%
- 「直属の上司」50.4%
- 「仕事内容」58.2%
同項目における14ヶ国の平均はすべて70~80%台です。
今の勤務先で働き続けたい人の割合は日本は52.4%で最下位。この割合はインド、ベトナム、中国では80%を超えています。
転職意向
日本人は現在の勤務先に満足していない人が多いわりに、積極的に転職したいとも考えていないようです。日本の転職意向は25.1%で、こちらも国際比較で最下位です。
これに対して、勤続意向が高い中国、ベトナム、インドでは転職意向も4割以上となっています。
とはいえ、これも仕方がないことなのかもしれません。というのも、別の質問で日本は転職で年収が上がりにくいという結果が出ているからです。
転職後に年収が上がった人の割合が日本は43.2%ですが、これは最下位となっており、他の国ではいずれも6割以上が年収アップ、インドでは92.4%という数字です。
各国の労働者が働きたい国は?
この調査ではアジア・オセアニア各国の労働者に働いてみたい国や地域があるかどうかを聞く質問がありました。
「自国のみで働きたい」という日本人の割合は57%と比較的高いようにも見えますが、これはあくまで希望か夢であって実際にそうするかどうかというわけではないのでしょう。
他国では外国で働きたいという人の割合が日本よりずっと高く、自国のみで働きたいという人の割合が一桁の国も結構あります。比較してみると日本だけ「内向き」という傾向が見てとれます。
日本型雇用の弊害
このような国際比較調査結果をみてみると、日本型雇用の特殊性が改めて浮き彫りになってきます。
- 新卒一括採用と終身雇用で会社に一生を捧げる企業戦士育成
- 企業内だけに通用する業務習慣や研修によって自己企業カラーに染める圧力
- 年功序列制度で上司に物言えず成果が認められにくい
- 年齢や上下関係を重視し、男性中心で同調圧力が強い
- 転職でキャリアアップする機会が少なくヘッドハンティングも少ない
このような雇用習慣は高度経済成長時代に企業のために一生を捧げ物言わず働くロボットのような企業戦士を育てるためにはある程度の効果はあったでしょう。けれども、めまぐるしく変化するビジネスとグローバル化する世界の中ではこのような古い体制を引きずることは役にたちません。
企業にとっては革新的なアイディアが枯渇し新陳代謝ができず、イエスマンが従来と同じ商品を延々と作り続けていくうちに国際競争力のはざまで敗退していくという結果に。
働く人々にとっては、尊敬できない上司の顔色をうかがい好きでもない仕事をして、長時間労働で身も心も疲れ切ってしまい、自己研鑽をする暇も意欲もなく毎日を過ごしているという結果に。
それでも終身雇用が約束されていたなら、出世意欲がなくても一生仕事には困らない安定した生活ができていたかもしれません。けれども、最近では大企業といえども従業員の一生を面倒見ることはできないという本音が出てくるし、現在働いている会社自体がつぶれてしまう可能性もあります。
将来のために
日本以外のアジア・オセアニア諸国や欧米諸国では日本のような雇用体系はほとんどありません。教育を終えた若者を一括採用する制度がないため、自らの市場価値を高めるために大学生は在学中に一生懸命勉強します。職を得て社会に出てからも自ら学んで市場価値を上げ、転職や起業をしてキャリアを積んでいくのが普通です。
同じ会社内で出世するにしても年齢が上がるにつれてエスカレーター式に出世するのを待つのではなく、いいポストがあいたときに意欲のあるものが自ら名乗り出て競争の結果勝ち取るのです。そのために、出世意欲や向上心がある人は現在の仕事には直接役に立たない学習やスキルを身に付ける努力を続けます。これは民間だけではなく公務員であっても同様です。
今後さらに広がるグローバルビジネスや外国人を含む優秀な人材の獲得のことを考えると、日本企業及び日本の労働者の国際競争力の低下という観点からも日本の特殊な雇用体系・慣習の弊害については真剣に考えないといけないときに来ています。
別の調査で日本は「外国人が働きたくない国」となっています。日本の特殊な労働状況は国際的にも知られつつあり、日本では働きたくないという外国人が増えているのです。これまで日本に働きに来ていた中国、インド、タイ、フィリピン人なども、これからは日本を敬遠するようになるでしょう。
そして日本の経済がさらに衰退して日本人が海外に仕事を求めに出なくてはならない時代が来るかもしれません。そのような時代になった時、これまで自己研鑽を怠ってきた日本人に国際的な労働市場で競争してやっていく力があるでしょうか。