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アストラゼネカワクチンは安全?副作用は?なぜ安い?

Vaccine

アストラゼネカ製のコロナワクチンを40歳以上を対象に公的接種に加えると日本政府が発表しました。このワクチンは既に承認されていましたが、ファイザーやモデルナと違い、これまで使用されなかったのはなぜなのでしょうか。

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コロナワクチン:日本とイギリス


日本ではコロナウイルスワクチンとしてこれまでファイザー製とモデルナ製のワクチンを使用してきました。アストラゼネカ製のワクチンも1億2000万回分を購入契約済で、厚労省は5月にモデルナと共に承認しました。

けれども、モデルナは職域接種に使用開始したものの、アストラゼネカについてはこれまで使用を見合わせていました。ファイザーやモデルナの供給が順調にいっている間は、自国用に確保していたアストラゼネカワクチンを台湾やベトナムなどアジア諸国に寄付してきました。

でも、ここに来てファイザーとモデルナのワクチンの供給がとどこおり、職域接種と自治体での接種用に提供できる量が足りなくなってしまいました。あちこちでワクチンの受付ができなくなった、供給はどうなったのだと要望の声が大きくなり、アストラゼネカ製ワクチンの供給にようやく踏み切ったということのようです。

こんなことなら、早くからすべてのワクチンを計画的に並行して使用していれば、接種ももっと早く広くいきわたっていたでしょう。何事も行き当たりばったりなのが日本のやり方のようです。

目下、日本ではデルタ変異株が猛威を振るっていて、毎日感染者数は急増中です。とはいえデルタ株はすでにインドやイギリスで流行していて、日本にも早い段階で感染が確認されています。外国の状況を見ていれば、デルタ株が増えれば感染爆発は避けられないということは予測できていたはずです。

感染者数が増えるに従い、入院患者も増えて医療機関が圧迫する中、重症者以外は原則自宅療養になると発表されるほど事態は悪化しています。幸いにも65歳以上の高齢者へのワクチン接種が進んでいるため、高齢者の重症化はかなり防げているものの、40~50歳代のワクチン未接種者の入院が増えています。感染が収まらない中、これからはワクチン未接種者の重症化や死者が出てくるのは避けられないでしょう。

イギリスでもデルタとワクチンのレース

イギリスでもデルタ株感染が急増した今年5~7月はワクチン接種との競争の様相でした。ワクチン接種が早かったイギリスでは高齢者はすでに2度目の接種を終え、中年層が2度目を打っている段階でした。若者はまだ順番が回っていなかったのですが、デルタ株急増地域は急遽18歳以上なら誰でも接種できるようになったほか、1度目と2度目の接種期間も当初の8週間から短くしたりと柔軟に対応してデルタ株と「競争」していました。

イギリスでワクチン接種が始まったのは2020年12月で最初はファイザーだけでしたが、それからアストラゼネカとモデルナのワクチンも使われています。イギリスはほかにも4社のワクチンと早い段階で契約を結んで確保しています。

というのも、イギリスはコロナワクチンについては2020年1月の時点で着手し、3月にはワクチンタスクフォースを立ち上げて取り組んで準備を整えてきたからです。

コロナワクチン②イギリスの接種状況と開発秘話

この早い段階での計画と周到な準備があったおかげでイギリスはイスラエルと共に、他国に先駆けてワクチン接種プログラムを進めることができました。

イギリスで春から夏にかけてデルタ株による感染者が年末年始のピーク同様に出たのに、死者数や重症者数がそれほどでなかったのは、ひとえにワクチン効果と言えます。

特にイギリスの場合、リスクベースでワクチン接種は厳密に高年齢から順に優先接種したために、重症化する人が守られたのです。ワクチン接種がなかったら死者は100倍にもなっていただろうと予測されています。

日本でも、もう少し早くワクチン接種が進んでいたら、今重症化している中年層が守られていたのにと思うと、タイミングが悪かったと言わざるを得ません。ワクチンが足りないのなら早くから高齢者にアストラゼネカのワクチンを使用していたらよかったのにとも思います。

どうして日本政府は、承認までされていたアストラゼネカワクチンの使用に今まで踏み切らなかったのでしょうか?

アストラゼネカワクチンの効果と評判

アストラゼネカ製のワクチンはオックスフォード大学が開発したワクチンで、ファイザーやモデルナに使われているmRNAタイプとは異なり、アデノウイルスベクターを使用したものです。他のワクチンに比べ、価格も安く、低温度での冷凍保存の必要もないことから保存や輸送、取り扱いも簡単なため、世界中で注目されていたワクチンです。

感染予防効果はmRNAより少し劣るものの、今猛威を振るっているデータ株に対しての重症化予防効果は92%と、ファイザーの96%に比べ、あまり見劣りはしません。デルタ株への発症予防効果については2度接種でファイザーは80%以上の効果があるとされてきましたが、最近のイスラエルの調査では60%くらいになっていて、アストラゼネカワクチンとあまり変わりありません。

下記は、左が発症予防、右が重症化予防効果を各ワクチンで表したものです。点線が1度接種で実線が2度接種。青がファイザー、赤がアストラゼネカ、緑がモデルナ。

中国製のワクチンなどはもっと効果が低いと言われていますが、コロナワクチンはつい1年前は開発できるかどうかもわからず、効果が50%もあれば御の字と言われていました。それを考えると、どのワクチンでもしないよりはした方がいいに決まっています。コロナに感染するリスクに比べるとベネフィットがずっと大きいからです。

イギリスでは、年末年始にアルファ株で感染爆発した後、一時感染がおさまっていましたが、6月にデルタ株によって感染が急増して7月中旬には1日の感染者数が6万人にまでなったのですが、1日の死者が1,300人も出ていた第2波に比べて、死者数のピークは78人とかなり抑えることができました。

これは、成人の88%が1度、73%が2度ワクチン接種をすませていること、特に高齢者から順番にワクチン接種を進めたことで、重症化リスクの高い人たちが守られているからにほかなりません。

アストラゼネカワクチンはなぜ価格が安い?

アストラゼネカワクチンは正式名称は「オックスフォード・アストラゼネカ(Oxford AstraZeneca)」ワクチンで、オックスフォード大学の(天然痘ワクチンを開発したジェンナーにちなむ)ジェンナー研究所のセーラ・ギルバート教授率いるチームが開発したものです。

ギルバートチームは他の感染病のワクチン開発に取り組んでいたのですが、MERSワクチンの治験中にCovid-19が発生したため、Covid-19のゲノム情報を応用してワクチンを設計しました。けれども、小さな研究所ではそのワクチンを大量に製造するための資金もリソースもなかったため、アストラゼネカと提携することになったのです。

開発当時、ギルバート教授がイギリスでの会見で語ったことを覚えています。

私たちは研究者であり、お金を稼ぐためにワクチンを開発しているわけではありません。

これまでの研究費はイギリス政府や他の公的資金から得てきたので、このワクチンは製造にかかる実費だけのコスト価格で提供します。

そうすることで、世界中の人にこのワクチンをいきわたらせ、一つでも多くの命を救いたいのです。

下世話な私などは、開発に手間もお金もかかるのだから、少しは利益を上乗せしてもいいんじゃないかと思っていましたが、「世界の人のために」というのはイギリスの研究者らしい言葉だなと思い直しました。そして、アストラゼネカ社もこの条件を承知で製造に協力したのです。

ワクチンの値段は言い値?

ワクチンの定価というものはあってないようなもので、交渉次第で異なり、各国が契約した価格は秘密だそうです。

値段の目安としては、接種2回分でだいたい下記のとおりとなっています。

アストラゼネカのワクチンは、他の二つに比べ、1/5~1/7の値段ということになります。

オックスフォード・アストラゼネカは自分たちが実費ベースで販売価格を決めると早い段階で発表することで他のワクチンもそれにならうのではないかと期待していたけれど、そういうわけにはいかなかったようです。逆にアストラゼネカが安い値段でワクチンを売るのは市場価格が下がると心よく思っていなかった人もいたと聞きます。

アストラゼネカやJ&Jなどベクターワクチンと血栓副作用の懸念が高まったときに、ファイザーとモデルナはEUとワクチン供給の再交渉をしたのですが、その時にも市場での独占的な地位を使って、ワクチン価格をさらに釣り上げたと言われています。

ワクチン開発は政府や大学、研究機関などの公的資金を受けているし、すでに利益は出ているので、量産するとなったら値下げするのが当たり前のはずなのですが、製薬企業のビジネスというものはそういうものなのでしょう。価格や納入時期などの決定権は企業側にあり、非公開でもあるため、世界中から「今すぐに提供してくれ」と需要があるうちは価格を釣り上げることはたやすいのです。

そして、実際の製造コストが同じだとしても、値段が高い物の方が安い物より価値があるように感じるのは世の常で、そのせいでブランド価値が上がるということもあるでしょう。

アストラゼネカワクチンの副作用

アストラゼネカワクチンは無事に開発、治験、承認を経て、各国で使用されることになりましたが、数か月のうちに様々な不幸な出来事に見舞われ、評判を落とすことになりました。

2021年1月にドイツの新聞が「65歳以上への有効性は6%」という根拠のないデマを掲載し、フランスのマクロン大統領が「アストラゼネカワクチンの有効性には疑問がある」と公の場で語ったのが始まりです。

これはのちに偽情報だとわかりましたが、主要国の大統領が公の場で口にしたことは国民のワクチン信頼性にかなりの影響を与えました。ただでさえワクチン懐疑派の多いフランスで、大統領の発言がワクチン接種の遅れに加担したことは否めないでしょう。フランスでは接種希望者があまりに少ないので、最近ワクチン接種・検査陰性証明がないとバスにも乗れずバーにも入れないというパスポートを発行するに至り、それで接種率は上がりましたが、その反面、反対デモも起こっています。

このデマが消えてからしばらくして、今度はアストラゼネカワクチン接種者に極めてまれな確率で血栓ができるリスクが指摘され始めました。その確率は10万分の1くらいと言われ、血栓発症がワクチンと直接の因果関係があるのかどうか証明はできなかったのですが、念のため調査のためにEU諸国は接種プログラムを一時停止しました。

2週間の調査の結果、EUの欧州医薬品庁(EMA)は、ワクチンと血栓の因果関係が証明できないとして、アストラゼネカワクチンの継続使用を推奨しました。ワクチンと血栓の因果関係を全く否定はできないが、関連するとも確定できず、ワクチン接種による利益がまれに起こるかもしれない血栓リスクを上回るということです。

血栓症とワクチンとの因果関係は未だにはっきりしておらず、調査研究は続いています。7月27日にLancetに発表された最新のスペインの査読前論文では、ワクチン接種により血栓症の発生リスクが高まることはないという結果となっています。

アストラゼネカに限らず、ワクチン接種後に副反応はかなりの確率で起きますし、まれに重症化したり死亡したりということもあります。これについては死亡の要因を調査してはいるものの、ワクチンが直接の要因なのか、それ以外に理由があるのか、因果関係を証明することはむずかしいことが多いのです。だからと言ってワクチンのためにそうなったのではないと言い切ることもできません。結局「わからない」としか言えないことがほとんどです。

アストラゼネカワクチンと血栓症

アストラゼネカワクチンを接種した後で血栓を発症したと言っても、必ずしもそれがワクチン接種のせいではないかもしれません。人は様々な理由で、様々なタイミングで死に至るもので、ワクチン接種後に交通事故に遭うこともあるというのと同じ理屈です。

血栓症リスクは喫煙や避妊薬、妊娠などで高確率だし、新型コロナウイルスに感染すると16.5%の割合で起こります。

どちらにしても、まれに起こるかもしれない血栓症のために、コロナに効果的だとはっきりわかっているワクチンを使わないというのは、交通事故にあうかもしれないから自動車に乗らないというようなものです。万が一の血栓症リスクとコロナで重症化するのを9割予防できるベネフィットを天秤にかけると、利益の方が大幅に大きいということで、イギリスではこのワクチンをずっと継続使用しています。

血栓症が起こるのは高齢者より若い人に多いというデータがあることや、新型コロナに感染して重症化するリスクは年齢が上がるほど高いため、このワクチン対象者を年齢で絞った国もあります。カナダでは30歳以上、フランスでは55歳以上など、接種推奨年齢制限を定めている国もあれば、オーストリア、台湾、インドなど誰にでも接種しているところもあります。

イギリスでも40歳未満には他のワクチンを使うことが望ましいという方針になっていることから、日本でもこれにならって40歳未満には原則として接種しない方針にしたということです。

コロナワクチン接種が進んでいるイギリスでのワクチンの副作用や政府のワクチンに関するコミュニケーションについては下記に詳しく記載しています。こちらでイギリスがワクチンの副作用リスクについて国民に説明した情報を見ることができます。

アストラゼネカワクチンで副作用?コロナ接種状況(日本と海外)

開発スピードが速すぎるからこわい


アストラゼネカに限りませんが、コロナのワクチンはたった1年ほどで開発されたため、そのスピードが速すぎて怖いという人もいます。

実際、通常のワクチン開発は少なくとも3年を要し、治験によって安全性や有効性を確認するのに10年近くかかることもあります。これは、開発や治験、審議や承認のプロセスを順番に踏んでいくからです。

mRNAタイプもアデノウイルスベクタータイプも同様ですが、コロナワクチンが短期間で開発されたのは、これらの技術がコロナのために突然出てきたものではないからです。長年にわたりエイズやRS、MERS、SARSなど他の病気を対象としたワクチン研究開発の過程で得られた知見がコロナワクチンに適応されたからであって、数10年にわたる地道な基礎研究や臨床研究の成果のたまものといえます。

さらに、コロナワクチンの開発は通常の開発→サンプル製造→動物実験→臨床治験→製造→審議→承認→大量生産の順番を飛び越えて、すべてのプロセスを並行してできる限り早いスピードで開発するやり方が取られたため、通常のワクチン開発と比べて数倍も早くできたのです。

もちろん、mRNAやアデノウイルスなどは新しい技術なので10年、30年と経った場合に何か問題が起きることがあるのではないかという可能性が皆無ではありません。けれども今現在、目の前でコロナ感染して重症化したり死んでしまったりする人が出ている中、それを予防するワクチンを使わない手はないでしょう。

アストラゼネカワクチン接種すべき?

アストラゼネカワクチンについては、イギリスはもちろん、WHOもEUの欧州医薬品庁(EMA)も接種を推奨している安全なワクチンです。すでに世界中100か国を超える国で幅広く使われていて、数多くの人の命を救っています。

このワクチンについてEUであまり評判が芳しくないのは政治的なものだという声もあります。多くの国からなるEUでは規制も厳しいためワクチン承認が遅かったこともあり、承認後すぐに納品ができず、EUがアストラゼネカ社を強く批判したことがありました。イギリスがEUに先駆けてワクチン接種を進いたことことで、EU諸国では国民の不満が高まっていたことも影響したようです。この時ばかりはイギリスはBrexitの恩恵を受けて、EUとは独立したプロセスでワクチン開発・承認・調達ができたので早かったのです。

イギリスではリスクヘッジのために様々なワクチン開発・契約に投資していましたが、アストラゼネカのワクチンはメインに使用しているもののひとつです。これがなかったら何百人、何千人の人がコロナで命を落としていたでしょう。イギリス人はこのワクチンに対して100%信頼していて、みんなワクチンが開発されたこと、自分が接種を受けられることに大きな感謝の念を抱いています。

先日、テニスのウインブルドン大会に開発者のオックスフォード大学ギルバート教授チームが招待されていることがアナウンスされたとき、誰かが立ち上がって拍手を始めました。それを見て観客全員が立ち上がって拍手を始めたのです。ウインブルドン大会の観客となるためにはワクチン接種済またはコロナ検査陰性証明が必要だったので、ワクチンの恩恵を受けていた人も多かったでしょう。

それをTVで観ていたイギリス人もワクチン開発チームには感謝の気持ちでいっぱいのはずです。自分や愛する人の命や健康が守られ、日常の生活に(注意しながらも)戻ることができるのですから。

ちなみに私もアストラゼネカワクチンを2度接種済みですが、副作用もなく「効いているのか」と疑問になるほどでした。(若い人ほど副作用が出るとも聞いているので、単に年を取っているだけなのかも?)

なので、ワクチン接種については、個人的には強くおすすめします。でも、不安なら自分で情報を調べ、コロナに感染するリスクとワクチンで得られるベネフィットを比べて考え、1人1人が判断すべきだと思います。

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