イギリスのBBCラジオ4で、朝6時から9時まで ‘Today’ というニュース番組があり、朝ごはんを用意したり後片付けをしているときに何となく聞き流しています。NHKの朝のニュースといったところでしょうか。とはいえ、3時間にわたって、多岐にわたる国内・国際ニュース、またそれについて詳しく掘り下げる現場取材やインタビューを交えた番組です。
Contents
BBCの日本についてのインタビュー
今週はじめ、おりしもイギリスのメイ首相が日本を訪問していたのですが、その内容は一般的なニュースとしてはほとんど取り上げられませんでした。たまたま日本でインタビューされたメイが首相を辞めないと答えたということについては、さかんに報道されていましたが。
そんな中、この番組が終わる直前ほんの5分くらいの間に日本関係のトピックが出てきました。鋭い質問でときにインタビュー相手をたじろがせるのでも有名な人気コメンテーターのジョン・ハンフリーズのインタビュー相手として出演したのは2人。海外特派員として以前日本に住んでいたというインデペンデント紙記者ピーター・ポッパムとロンドン キングス・カレッジで海軍史を専門とするランバート教授です。
このとき、ジョン・ハンフリーの皮肉たっぷりの言い方がちょっと気になりました。「ともに海洋国家でありで民主主義国家であるということで英国と日本が似ていると日本側が言っています。ピーター・ポッパム氏はかつて英国が日本を『弟』のように考えてきたというがそれはどういうことですか。」と質問したのですが、そのときに ‘in a funny sort of way’ という表現を付け加え、「それって変じゃない?」とほのめかしました。
英国と日本は似ているか
それに対して、ピーター・ポッパム氏が1860年代から第一次世界大戦までのあいだ、英国は日本を「弟」のように考えていたと話しました。そして、英国のヨーロッパ大陸に対する位置と日本のアジア大陸に対する位置とを比べ、両国には様々な点で共通するところがあると述べました。
ランバート教授も、両国とも島国であるため海が自然な国境になっていることから、陸軍に多大な投資をする必要がなかったと説明しました。その分、海軍防衛に力を入れ海軍を大きくできたし、また海外貿易による経済成長も図ることができたと話しました。
このあと、ピーター・ポッパム氏は戦後民主主義国家となった日本はイギリスと共通点があると言いましたが、それはあくまで1945年以降の話だという条件をつけました。
日本は残酷な国?
そこで、ジョン・ハンフリーは1945年までの日本について言及し「我々イギリス人は普通、日本をいろいろな意味で ‘brutal’(残酷)な国だと思っている」と言いました。
特にその理由までは説明しませんでしたが、日本が日清・日露戦争以後アジアに対して行った侵略行為や真珠湾攻撃に始まる第2次世界対戦中の行いのことを言っているのだと思います。
国際的な戦争でのルールを無視した日本軍の戦い方や捕虜の扱いなどについてイギリス人は今でも日本に対していいイメージを持っていません。そういう日本を批判する話はイギリス人の内輪の会話では普通にされるのでしょうし(日本人である私の前ではしませんが)、タブロイド紙と呼ばれる大衆紙などでは記事になったりもします。でも「天下の」BBC4のベテランコメンテーターまでが ‘brutal’ という言葉を使うのは、同じ日本人として居心地が悪い感じがしました。
そして、こういった言葉がBBCのような番組で今でも普通に使われるということを日本人はわかっているのかなと思いました。イギリス人は普通は礼儀正しいので公の場では日本に対しても褒めるようなことしか言いませんし、誰でも自分の国が非難されるよりは褒められたほうが気持ちいいので、日本のメディアにはポジティブな感想しか取り上げられないのではないかと思います。
日本での自画自賛記事
それに、何だか最近日本国内で「日本はすばらしい」「日本人は世界中から尊敬されている」というスタンスの記事や本がすごく目につく気がするのです。たまに日本に帰るとテレビでもそういう日本礼賛の番組、特に外国人が日本のいいところを褒めるというものが増えてきているのに気づき「なぜだろう?」と思っていました。
長年の不景気や東日本大震災、高齢化や少子化、そのほか社会に対する漠然とした不安感、自信の喪失といったものから目をそらせて「日本って素晴らしいんだ」と自画自賛して自らを元気づけようとしているってことなんでしょうか。
日本人である私は、母国を誇りに思っています。もちろん日本にも日本人にも素晴らしいところはあると思うし、同時にそうでないところも少なからずあると思っています。私が住んでいるイギリスやイギリス人についてもそうだし、それが当たり前ですよね。完全な人や国なんてあり得ないでしょう。
最近世界的に「自分の国さえよければいい」という排他的ナショナリズムがはびこっていく傾向にあり、日本の自画自賛ブームもそういうトレンドの現れのようで健康的ではない感じがします。また、中国や韓国などの隣国に対しての否定的な意見も昔に比べて目につきます。この感情は日本人が隣国に対して持っていた「自国の方が優れている」という優越感が経済発展などの分野で脅かされていると感じる人の焦りや妬みの結果なのかもしれません。かつて日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時に米国からバッシングを受けたように。
「日本はいい国だ」「日本人はすばらしい」と言って何が悪いと言われそうですが、おめでたいことだけでなく、日本に頑としてあるさまざまな問題にも目を向け解決するように努力することなしには本当に「すばらしい」国にはなり得ません。そして、そんな努力をしている姿勢を見せることで、今現在日本に対してネガティブな印象を持っている外国の人たちの日本観を改善できたらと願います。