メーガン妃とハリー王子の第一子アーチ―誕生というおめでたいニュースで沸いているイギリスですが、ロイヤルベビーに関して「人種差別的」なツイートをしたという理由でベテラン司会者ダニー・ベイカーがBBC番組を首になりました。彼はどんなツイートをしたのでしょうか。
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ダニー・ベイカー
ダニー・ベイカー(Danny Baker)は今年61歳になるベテラン司会者です。これまで音楽ライター、コメディライターやジャーナリストの仕事をしていて、BBCでもBBCラジオ5ライブなど、ラジオやテレビの司会を務めていました。
5月8日にベイカーはメーガン妃とハリー王子の第一子誕生についてTwitterでツイート。身なりのいい男女がスーツを着こなしたチンパンジーを連れている白黒の写真に「ロイヤルベビーが退院」というテキストをつけて投稿しました。このツイートに「人種差別だ」という非難が続き、彼はその後すぐツイートを削除し謝罪しました。
ダニー・ベイカー(コメディライター、ジャーナリスト)ロイヤルベビーをチンパンジーにたとえる写真をTwitterにアップ。
ツイートが人種差別だと指摘されすぐ削除し「そういうつもりはなかった、ただのジョークだった」と謝罪したが、BBCをクビになる。https://t.co/RZzS1J28GD @MetroUKさんから— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) 2019年5月9日
ロイヤル・ベビーのツイート
ベイカーが言うところによると、ツイートはロイヤルファミリーの格式ばった様子をからかったものであり、人種差別的な意味合いはなかったということです。けれどもチンパンジーの写真を使ったことで、人種的な意味合いが含まれていると解釈されたことからツイートを削除したと言っています。彼はもしそうとられたのだとしたら、自分の認識不足であったと釈明しました。
けれども、ベイカーがツイートを削除し謝罪してからも、この件に関しての批判がたくさんの人から相次ぎました。ツイッター上ではBBCは彼を首にすべきだという声も上がっていました。
BBCはベイカーを解雇
BBCは彼の行いはBBCが放送局として目指す価値観にくみしないとして彼を解雇すると発表しました。彼のプレゼンターとしての資質は認めるが、BBC番組の司会からは降板となると述べています。
ベイカーはBBCの解雇発表について「あのツイートが間違いだったということは認める。けれども人種差別の意図はなかったと説明したのに聞き入れてもらえなかった。」としてBBCの対応を非難しました。
このツイート日本人なら「なんて失礼な」と思うかもしれないが、これが問題になったのはメーガン妃が黒人の血を引いているからで、ダニー・ベイカーはそれに思い至らなかったと言っている。
これがウィリアムとキャサリン妃の子どもなら問題にならなかったろう。https://t.co/vDVaZzYwTU— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) 2019年5月9日
問題は不敬?人種差別?
この写真を見て日本人ならロイヤルファミリーに対して尊敬の念に欠けるので失礼であるという「不敬」の問題ととらえるのではないでしょうか。たとえば日本の皇室メンバーに対してこういう写真を使うなんて考えられないことですよね。
けれども、イギリスではこれくらいで「不敬」だと問題になることはないと思います。もちろんそういうことを好まない保守的な層やロイヤルファンはいるにしても、一般的なイギリス人は単なるジョークだととるでしょう。
ベイカーも、あの写真を使ったのはロイヤルファミリー、つまり上流階級の立派な身なりの家族がこれまた立派な身なりをした子供を連れて退院することをからかうジョークのつもりだったのだと言っています。元外相で上流階級出身のボリス・ジョンソンの子どもにだって同じ写真を使っただろうと。
また(これは本当かしら?とも思いますが)彼は王室ネタには明るくなくて、今回のロイヤルベビーの母親がどのプリンセスなのかも知らなかったと言っています。キャサリン妃だと思ったのかもしれず、黒人の血を引くメーガン妃だとは認識してなかったということなのです。
ということは、もしこの写真をキャサリン妃が退院した時に使ったのだとしたらそれはジョークとして許容されるということです。
これが問題になったのはメーガンが黒人の血を引くからであり、非白人をサルにたとえることが人種差別だと認識されているからです。彼には人種差別的な意図がなかったのかもしれませんが、この写真を見た人にはそう解釈する人が多かったのです。そして、かねてからサルに関連付けて人種差別的な扱いを受けてきた非白人にとって、これがただのジョークとは受け取れないとする人がいるのも理解できます。
BBCの解雇は適当か
BBCは放送局としての独立性を重んじており、特定の政党や組織からの影響を受けず中立的なジャーナリズムを目指しています。毎年クリスマスにエリザベス女王のスピーチを放送したりはしますが、王室に過度におもねくこともありません。
たとえば、国会議員がイギリスEU離脱と女王の90歳の誕生日を記念して番組終了時に国歌である「God Save the Queen」を流すべきだと要求した時、代わりに英国パンクロックバンド、セックス・ピストルズの「God Save the Queen」を流したこともあります。
1982年のフォークランド戦争のときも中立性を保つために「わが軍」ではなく「英国軍」と呼んだりイギリス国防省の情報を「英国側の情報によれば」と表現し、サッチャーがIRA関係者をメディアに登場させないように要望したことにも抵抗しました。
そんなBBCはベイカーが単に王室に対して不敬な行いをしたということでは彼を解雇したりはしなかったでしょう。やはり、彼のツイートが人種差別的な要素を含んでいたことが理由だと思います。BBCでは、そしてイギリスでは人種差別的な発言というものがいかにセンシティヴな問題であるのかということがうかがえます。
けれどもそうだとしたら、そしてベイカーが言っていることが本当だとしたら、人種差別ととられることを認識せずにツイートしてしまった間違い、しかもそれを指摘されて削除し謝罪もした彼を一方的に解雇するというのも気の毒な感じもします。ダニー・ベイカーの行いを批判する人は多いのですが、純粋な間違いであり謝罪もしたのにBBCの処置は厳しすぎるという意見もありました。
また、この日BBCがイギリスのEU離脱を推進してきたナイジェル・ファラージを討論番組に出演させたことでBBCの「二枚舌」を批判しているものも。ベイカーが人種差別したと言ってクビにするのに、移民が行列をなす背景をポスターにして移民流入を防ぐためにはEUを離脱するしかないと煽ったレイシストはBBCに出演させるのかというわけです。
Danny Baker’s been sacked for a racist tweet but don’t forget to tune into this guy on Question Time tonight. pic.twitter.com/TbPFDrNKIo
— Matt Brannigan (@Matthew_Who) 2019年5月9日
ベイカーとは40年来の知り合いであり仕事仲間だというジャネット・ストリート=ポーターは「ベイカーはレイシストではない」と語ります。10年前には当たり前だったジョークも最近の過剰なほどセンシティヴなメディア界においては口にすることができなくなり、ベイカーはその犠牲になったのだと。
SNSで発信するのも気をつけなければならないという教訓ですね。