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フランスパリなどで拡大イエローベストデモの理由は燃料税値上げ、マクロンの対応は?

Yellow Vests

11月17日にパリで始まった「イエロー・ベスト」デモは毎週末続きフランス全土に広がりました。12月1日にはパリの観光名所、シャンゼリゼ通りで大規模なデモが行われ一部が暴徒化、100人以上が負傷する騒ぎに。パリの名物、凱旋門が落書きされた上にマリアンヌ像などが破壊され、路上駐車された車や建物は火をつけられ、店が略奪される事態となりました。このデモはどんな人がどういう理由でおこなっているのでしょうか。そして、それに対するマクロン政権の対応はどのようなものなのでしょうか。


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イエロー・ベストとは?

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デモに参加している人々は、フランス語で「ジレ・ジョーヌ」と呼ばれていますが、これはイエロー・ベスト(黄色いベスト)の意味です。黄色のベストとは工事現場などで着用される蛍光色の安全ベストで、フランスで運転する際に車両に備えるように義務付けられているもの。車を運転する人なら誰でも持っている服でもあるし、労働者を代表する服ともいえます。パリを始めフランス全土に広がった抗議デモには約13万6000人が参加したと伝えられています。

ヨーロッパ各地で勢いを増すポピュリズムの波がフランスにも押し寄せてきたとみる人もいますが、このデモは特定の党派や集団によるものではなく、はっきりしたリーダーもいません。ルペン率いる極右政党「国家連合」を支持し国旗を振り回す右派と格差や貧困問題を扱う組合関係者などの左派が政治的な分断を超えて合流しているのです。そして、双方が一致した矛先はマクロン政権。

様々な立場の参加者が生活への不満と反マクロンで一致し、SNSなどを通じて集まった寄り合い所帯というわけで、そのほとんどは穏健派ですが中には過激派も入り混じっています。多くは地方の低~中層所得層の労働者で、地方の庶民対パリのビジネスエリートという図式だと見る人もいます。

何に抗議しているのか

この抗議デモが始まったきっかけは燃料税の増税をめぐる不満でした。マクロン政権が地球温暖化防止のためディーゼル燃料に対する税金の値上げを導入しようとしていることに日々の生活や仕事の上で自動車を運転せざるを得ない人たちの不満をあおったのです。それでなくてもガソリンや軽油価格は高騰が続いていてディーゼル料金は1年で20%上がっており一般市民の負担は重くのしかかっていました。

さらにこのデモは、燃料税だけでなく広く生活費全般の高騰に対する、庶民による抗議活動になっています。将来的に大きな問題になる可能性がある地球温暖化より、今日の食卓に何をのせるかということが切実な問題だとする一般庶民が「エリート」政治家に異をとなえているのです。

マクロンといえば「右派でも左派でもない」ことを強調して極右政党のル・ペンを抑えて大統領に選ばれた人です。公共サービスの縮小、富裕層向けの減税、法人税の引き下げ、規制緩和などのネオリベラル路線はビジネス界やエリート層には受け入れられています。実際、フランス経済は上向きになってきているし企業の業績は上がりました。

その反面、若者の失業率は改善せず物価も高くなりパリと地方との格差も大きくなってきています。富裕層向けの富裕税を廃止する一方で庶民に支払う税金を上げ年金受給額が減るなど、社会の底辺に生きる人にとって生活は苦しくなるばかりです。

ビジネスエリート臭の強いマクロン大統領の言動も庶民にとっては批判の対象となっています。「仕事がないのは努力しないから」「貧乏人はいつまでたっても貧乏人」というようなことを平気で言ってのけるマクロンの言葉は庶民には冷たく突き放したような物言いに聞こえます。

また緊縮財政のもと、庶民に犠牲を強いる一方で、大統領官邸のエリゼ宮に公費で50万ユーロ(約6400万円)相当の食器を買ったり、コート・ダジュールにある大統領専用の別荘にプライベートプールを建設したりしたことも大きく批判を受けています。

デモに参加した人は国全体から見るとほんの一握りなのですが、イエローベストのデモを支持しているという人はフランス人全体の約70%にも上がるということです。イエローベストの中でも過激化した一部ばかりが目立ちますが、その背後には暴力まで行使するのは反対だが、言いたいことはわかるという人々がたくさんいるのです。いわば、エリート階級と庶民階級の階級闘争と言ってもいいかもしれません。

デモを支持している70%の中には地球温暖化の問題についても真剣に考えている人がいるでしょう。でも、それならその問題解決のしわ寄せが過度に庶民に向かうような政策を避ける方法があったかもしれないのに、マクロン政権はその点で一般市民を納得させることができなかったと言えます。

このデモに触発されたのか、フランスの中等学校生徒約100人が教育改革に反対するデモ、救急車運転手が医療制度改革に反対するデモも同時進行で起こっています。

デモの被害

11月中旬から12月はじめの2週間以上にわたるデモで、100人以上がけがをしたほか、死人が4人出ました。パリ市長はこのデモで1日につき300~400万ユーロ(約3億8600万~5億1500万円)相当の損害を生んだと推計しています。

店舗など民間企業も建物に対する直接の損害だけでなく、大きな商業的な損害を受けています。この時期の土曜日というと、クリスマスギフトのためのショッピング需要でデモが行われた界隈は大いににぎわうかき入れ時。シャンゼリゼ通りやオペラ界隈などデパートや高級ブティックが連なるエリアでのデモで、プランタンやギャラリーラファイエットなどのデパートが閉まるなどの影響がありました。

メトロなど交通機関もストップするなど、パリ市内に足を向ける人も激減した結果、店舗、ホテル、レストランなどの売り上げが20~50%落ちるなどの商業的な被害があったということです。

デモの結果は?

大規模デモを背景に、マクロン大統領の支持は先月に比べ6%低下して23%とこれまで最低となりました。これは抗議デモに参加しないまでも、その要望を支持する国民世論の表れともいえるでしょう。マクロンはもともと強い支持があって選ばれたというよりは、極右のルペンが政権を握るのを阻止するために票を得たという背景があり、その支持は確固としたものではないのです。

毎週末に繰り返されるデモを鎮静化する必要があると判断したフィリップ首相は12月4日に2019年1月に予定していた燃料税引き上げを6か月間延期すると発表しました。首相は「どんな税金でも国家の連帯を危険にさらす価値はない」と語りました。これはマクロンが2016年に政権を取ってから初めての敗北と言っていいでしょう。

これからの展開

ヨーロッパではEUをけん引してきたドイツのメルケル首相が与党党首を退く予定とあって、共にEUをリードしていたフランスのマクロン大統領のリーダーシップに対する期待が大きくなっていました。今回のイエローベストのデモ騒ぎとそれに対して政策を転換せざるを得なくなったマクロン政権の顛末を見ると「強いリーダー」としての自信が揺らいできたと言えます。

イギリスのEU離脱騒ぎや欧州各国でのポピュリズムの蔓延、移民対応などで揺れているヨーロッパで、EUをけん引すべき存在だったマクロン大統領の権威が失墜するとなると、ことはフランスだけにとどまらない問題となります。実際、マクロンはパリで4日に予定していたEUのユンケル委員長との会談を中止したり、5日から予定していたセルビア訪問も延期しました。

マクロン政権がイエローベストの要望、そしてその背後にある一般庶民の不満に対してどのように対応していくのか、それをフランス国民が支持するのか、その展開が注目されます。

まとめ

イエローベストのデモを見ていると、フランスという国はやはり革命を行い王様を断頭台に追いやった国民たちの国だということを感じます。政府の政策が国民の怒りを買うと暴動がおこるし、革命を起こしかねない国民を恐れて政府も政策を変更するのですから。のちに断頭台の露と消えたマリー・アントワネットが王妃だったとき、パンが食べられない貧民がいると聞いて「それならケーキを食べればいいのに」と言った事は有名です。高価な食器やプール付きの別荘を使うマクロンとその妻ブリジットも、社会の底辺で生きる人から見ると貧民層を顧みず自分たちだけが贅沢三昧をする憎き敵に見えてしまうのでしょうか。

それにしても、いかに革命の血を引くお国の出来事とはいっても、フランスの様子を日本と比べるとあまりの違いに驚きます。水道民営化、高プロ、入管法改正、技能実習生、沖縄基地、消費税増税、種子法廃止、公文書改ざんと挙げればきりがないほどの現政権批判の声がありながらお行儀のいいデモさえなかなか起らず、いつのまにかことが決まってしまう国。マクロン大統領は安倍首相がうらやましくて仕方がないことでしょう。

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