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カズオ・イシグロ氏ノーベル文学賞受賞

Kazuo Ishiguro

Francesco Guidicini/The Times/NI Syndication/Redux

カズオ・イシグロ氏(62歳)が2017年度のノーベル文学賞を受賞しました。イシグロ氏は日本人の両親を持つ日本生まれですが、国籍はイギリス人です。

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カズオ・イシグロの生い立ち

カズオ・イシグロは1954年に長崎で生まれ5歳のときに海洋学者の父親と家族と共に英国に移住しました。お姉さんと妹との5人家族でイギリス南部のギルドフォードに住んでいました。両親はいずれ日本に戻ると思っていたので、カズオ・イシグロが15歳のときまで日本から教科書を送ってもらっていたそうです。その年に父親に日本の大学で働く話が出たのですが、父親はそれを断って最終的にイギリスに残ると決めました。ギルドフォードでの子供時代は幸せだったようで、日本人だからといって差別にあったりもしなかったそうです。

イシグロ氏の両親はずっとギルドフォードに住んでいます。家庭では日本語を話していたということですが、イシグロ氏は大学入学とともに両親の元を離れ、今ではほとんど日本語がしゃべれないということです。

卒業後の職業

カズオ・イシグロは1974年からケント大学で英語と哲学を学んだあと、ホームレスのチャリティーで働きました。そのときに出会ったイギリス人のソーシャルワーカー、ローナさんと1986年に結婚しナオミさんという女の子がいます。1978年からイースト・アングリア大学でマルカム・ブラッドベリのもと、創作ライティングを学び、作家の道をたどりはじめます。1983年に「Best of young British Writers」 と呼ばれるイギリスで注目される若手作家の一人に選ばれました。

このころ、英国籍を取ることにしたのは、日本語はあまり喋れなかったし、ずっとイギリスで暮らすことになると思ったからということですが、ブッカー賞などの文学賞の対象となるにはイギリス人であることが条件だったこともあるようです。(2014年からは英語で書いてあれば外国人でもブッカー賞を取れるようになりました。)

イギリスは2重国籍を認めているのですが、日本が認めていないため、イギリス国籍をとるためには日本国籍を返上しなければならないのです。日本がイギリスのように2重国籍を認めれば、カズオ・イシグロ氏もこのような選択をせずにすんだということになり、残念に思います。

現在の住まい

イシグロ氏は今はロンドン在住です。5歳でイギリスに来てから1989年まで30年以上も日本に帰っていなかったそうです。それでは日本語も忘れてしまうでしょうね。

とはいえ、ご両親はずっとイギリス在住だし、ご両親とはいまだに「5歳程度の日本語」で話をするそうです。(たぶんそれは謙遜で本当はもっと日本語ができると思いますが。)

カズオ・イシグロの作品

イシグロ氏の著書は(英語タイトル):

寡作の小説家で、特にブッカー賞を取った ’The Remains of the Day’ 以降は5年に1冊くらいしか書いていないのではないでしょうか。日本が小説の舞台に出てくることもありますが特に日本に影響されて書いているわけではないと言っています。確かに ’The Remains of the Day’ のような作品はどう考えても生粋のイギリス人が書いたもののように見えます。小説のヒントは映画から得ることもあるそうです。映画が好きで、家にホームシネマがあるとのこと。日本の映画では小津安二郎のもの、日本の作家の中では村上春樹が好きだと言っていました。確かにハルキ・ムラカミはイギリスでとても人気があります。

カズオ・イシグロの作風

 カズオ・イシグロはインタビューでこう語っています。
「若いときは自分の意見やプリンシプル、モラル、政治的な意見などが重要だと思っていて、そういう意見や考え方の違いのために人を判断しがちだ。
でも、年をとるにつれて実際の人生というものはそう簡単に自分でコントロールできるものじゃないとわかってくる。
風に吹かれて何処かに飛ばされているようなものだ」
彼の小説にも自分たちのおかれている場所で、みずからの運命を受け入れて静かに生きていく人々の姿が描写されています。
それは時にははかなく悲しい生き方ではあるけれど、そういうものであるという一種の諦念とそういう人たちに対するいとおしい愛情が感じられます。

私的感想

私はカズオ・イシグロの小説が好きで、特に ’The Remains of the Day’ と ’Never Let Me Go’ は名作だと思います。
ただ、彼の小説はずっと英語で読んでいて、日本語に訳されたものは読んだことがありません。彼の小説の英語の文体は静謐で淡々と語られる行間から情緒がにじみ出る感じで、はかなく美しいのです。
なので、日本語訳で雰囲気が伝わるのだろうか、がっかりするのではないかという心配が少なからずあります。文学作品というものはやはりできたら原語で読むのが一番なのではないかと思うし。
とはいえ、日本の人はカズオ・イシグロをやはり日本語訳で読むのだと思いますし、ノーベル賞を取ったのも各国語に訳されてそれが評価されたわけなので、この機会に私も日本語訳でも読んでみたいなと思っています。

 

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