2020年東京オリンピック・パラリンピックの誘致をめぐり、贈賄疑惑があるとしてフランス司法当局が日本のJOC(日本オリンピック委員会)竹田恒和会長を捜査の対象としていることが話題になっています。日本国内でもこの件については取り上げられていますが、この不正疑惑に大きな関係を持っているであろう会社の名前が上がらないようです。海外メディアではこの件に関する「電通」の役割について報道しているので、それをご紹介します。
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米AP通信の記事
世界的な通信網を持つ米国の大手通信社AP Newsでは2019年1月24日、「フランスのオリンピック捜査で疑問視される日本企業」という記事を掲載しました。フランス司法当局が日本の巨大広告会社である電通(Dentsu Inc.)について疑問を持っていると伝えています。
2013年に東京が2020年度の五輪開催都市に決まってから1年後に電通が東京五輪のマーケティング契約を獲得した。
電通は国内で総額30億ドルに上る58のスポンサーを取り付けた。
これはこれまでの五輪スポンサー記録の2倍以上の金額だ。
前IOCマーケティングダイレクターのマイケル・ペインは電通についてこう語る。
「日本では電通なしでは何も起こらない、こんな会社は世界のどこにもない。」
東京五輪招致収賄疑惑
APの記事ではフランス司法当局が竹田会長がシンガポールのコンサルタント会社ブラック・タイディングズ(Black Tidings)社代表タン・トン・ハン(Tan Tong Han)に支払いを承認した200万ドルについて捜査しており、前IOC委員であるセネガルのラミン・ディアク(Lamine Diack)の息子、パパ・マッサタ・ディアク(Papa Maasat Diack)に資金を譲渡した疑いがある事、ラミン・ディアクはアフリカのIOCメンバーに強い影響があったこと、フランス司法当局は200万ドルは東京への投票を買収するために使われたという疑いを持っていることを報じています。
電通の関与
APは、投票の数週間前に電通が日本の五輪委員会に招致コンサルタントについてアドバイスをしたこと、そのコンサルタントの中にはタンが含まれていた事を報じています。竹田会長はブラック・タイディングズとディアク親子との関係は知らなかったと言っています。
さらに、電通のディアク親子との関係も指摘しています。電通はラミン・ディアクが会長を務めていた国際陸上競技連盟(IAAF)と2001年から商業上のパートナーであり、2029年まで続く契約があるとしています。
同記事は電通がフランス司法当局の捜査対象になっているかどうかは明らかにされていないと述べています。
電通はアンタッチャブル
APは電通が世界5位の広告会社であり、日本ではエンタメ、広告、テレビ、マーケティング、PR界で君臨していると説明。さらに、東京五輪の58の国内スポンサーのうち6社は朝日、読売、毎日、日経、産経、北海道という新聞社であるとしています。
そして、元博報堂のセールスマンであり、2011年の東日本大震災、津波、福島原発事故における電通の役割についての本を書いた、本間龍の言葉を紹介しています。
電通は日本のメディアではアンタッチャブルだ。
日本の新聞やメディアはどれも電通を通して大きな広告収入を得ているため、その名前を出したがらないのだ。
電通と政権との関係
APはさらに、電通が日本の大学卒業生に人気の企業であること、安倍昭恵首相夫人もかつて電通で働いていたこともあり、電通は自由民主党のアカウントを扱っていると言及。
電通が月に100時間以上の残業を余儀なくされ自殺した24歳の社員の件で話題になった事、同社で過労死が起きたのはこれが初めてではなく、同社は社員に過酷な労働を強いることで知られている事も伝えています。
同記事では電通が何十年もの間、オリンピックに影響を与えてきており、30年以上前にはパナソニックをトップの承認なしにオリンピックのスポンサーにさせたことがあること、パナソニックは今でもIOCのメイン・スポンサーに名を連ねていることも報じています。
Asia Timesの記事
電通のかかわり
香港の英字紙であるAsia Timesでもこの件について2019年1月14日の記事で報道しています。東京五輪招致贈賄疑惑の一連の経過を説明したあと、この五輪誘致収賄資金は電通によって支援されたと思われるのに、日本のメディアが「電通」の名前を報道したがらないと語っています。さらに、電通はディアクの家族と秘密の契約をしたと伝えられていると報じています。
共同通信
2016年に共同通信はパパ・マッサタ・ディアクにインタビューをしているが、ディアクは資金を受け取っていないと語ったとされているとしています。
そして、電通が共同通信の株を所有しており、共同通信はこれまでの報道で電通のことを報道していないと説明しています。
Facta誌の報道
同記事はさらに、2018年3月に日本のFacta誌がディアク一家と電通首脳部が結んだ秘密の契約についての情報を得て報道したこと、フランス司法当局は、これらの契約が2020年東京五輪招致に関する収賄に関係があり、竹田会長に委任されて電通が賄賂の支払いを行ったと考えていると報じています。
過去の不祥事
この記事では、日本五輪委員会はこれまでも数々のスキャンダルに見まわれてきたことを紹介。竹田に近いとされる元JOC田中理事長のヤクザとの関係、当時の下村文部科学大臣が暴力団から寄付金を受け取っていたこと、アマチュアボクシング山根会長の山口組森田正雄との関係、1998年長野五輪招致収賄疑惑などについても報じています。
竹田会長はアンタッチャブル
Asia Timesはこのような不祥事について説明した後、最後に記事をこうくくっています。
フランス司法当局の捜査にもかかわらず、竹田が起訴されることはないだろう。
竹田は皇室に関係があり、明治天皇のひ孫であり「アンタッチャブル」なのだ。
2016年の英ガーディアン記事
東京五輪招致買収疑惑については2016年に英ガーディアンが「東京オリンピック:極秘口座から130万ユーロの支払い」と言う記事で報じたことで広く知られることになりました。この記事でガーディアンは東京招致委員会がパパ・マッサタ・ディアクに賄賂を支払い五輪招致の投票を買った疑いについて、また東京側のディアク親子やブラック・タイディングズとの関係も説明しています。さらに、パパ・マッサタ・ディアクの口座を管理していたタン・トン・ハンは電通の子会社であるAMSのコンサルタントを務めていたと指摘していました。
支払いの流れを表す相関図に電通(Dentsu marketing company)の名前が挙がっています。
ガーディアンが電通に問い合わせたところ、電通は「ブラック・タイディングズの支払いについては何も知らない、タンをコンサルタントとして雇ったことはない」と答えたと報じていました。
この記事が出た後この疑惑については日本の新聞やメディアでも報道されましたが、日本ではガーディアン記事を引用しながらも「電通」の名前が掲載されないのはなぜかという声も上がっていました。
(敬称略)