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「裸のシェフ」ジェイミー・オリヴァーの学校給食改善キャンペーン

ジェイミー・オリバー(Jamie Oliver) は Naked Chef (裸のシェフ)として知られるイギリスのシェフです。若い頃ロンドンのイタリアンレストラン、リヴァー・カフェで働いていたときにBBCにスカウトされてテレビに出たのがきっかけで幾つもの料理の本を出版したり、テレビの料理番組シリーズに出て一躍有名になりました。


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ジェイミー・オリヴァーとは

ジェイミー・オリヴァーは2003年にはOBEという英国の勲章までもらっているセレブ・シェフなのです。

1975年生まれのジェイミー、若い頃はイケメンで(とはいえ好みは分かれるところですが)元気がいいシェフとしてテレビなどで活躍していたのですが、私には「やたらうるさい若者だ」としか思えなくてあまり興味がなかったんです。

でも、そんな彼も結婚して子供(15歳を筆頭に今では計5人)を持ってからは落ち着いてきたようで、父親らしく子供の食生活に興味を持ち始めました。

イギリスでは、特に庶民の食生活はだんだんとアメリカ式のファストフードが主流を占めるようになってきていますが、この傾向をジェイミーは公に批判し始めます。

これについては私も気になっていたので彼の言動に注目し始めました。だって、私がイギリスに来たばかりの頃はイギリス人の体型は普通でしたが、ここ数十年であれよあれよと太った人が増えたのを目のあたりにしているからです。

Feed Me Better キャンペーン

 

ジェイミーはイギリスの子どもたちのジャンクフード中心の食生活や肥満に目を向け、それにはまず学校給食を改善しなければならないという思いを強くし、2005年にフィード・ミー・ベター (Feed Me Better) キャンペーンを始めました。「もっといいものを食べさせて」という運動で、これはテレビシリーズにもなり話題を呼びました。

テレビ番組では、ジェイミーが実際にイギリスの公立学校に行って、そこの給食を改善する取り組みの様子を放送しました。驚きの事実ですが、イギリスの公立学校給食の一人あたりの予算はたった37ペンス(54円)だったそうです。なのでチキンナゲットやバーガーなどの安い加工食の献立にならざるを得ないということなんです。

ディナー・レディー(調理師)がすることといえば、そういうできあいの冷凍食品を袋から出して温めるだけ。そんな給食を改善しようとジェイミーは安価でヘルシーなレシピを考案し、調理師たちへ料理するように指示するのですが、彼女たちは「手間がかかりすぎる」と不満続出です。

その上、せっかくできた手作りの料理を子どもたちは食べようともしないんです。家庭でも学校給食でも食べ慣れているファストフードのほうがいいというわけです。

ジェイミーはこれに懲りずに辛抱強く子供に食育をします。まず野菜を見たことがないという子どもたちに野菜の名前を教えることから始め、普段子供たちが食べているチキンナゲットなどの加工食品に何が入っているのかを教えます。チキンナゲットというのは骨の間のクズ肉や脂身をミキサーで混ぜて砂糖と脂を加えてできているんですが、この実態を子どもたちに実際に見せて説明するんです。

また、まともな料理を作ったことがない調理師たちにトレーニングをすることで、彼女たちの態度も少しずつ変わっていきます。はじめは新鮮な食材を使って料理することを「仕事が増える」と拒んでいた彼女たちも子どもたちに手作りの料理を食べさせる喜びを感じるようになったのです。

それからジェイミーは学校給食改善のための署名を6週間のうちに27万以上集め、当時のトニー・ブレア首相に嘆願書を提出。ブレア首相はその要望を入れて、学校給食改善のための政策を実行し、予算も計上することにしました。

この結果、何が入っているかわからないような加工食品や砂糖の入った飲み物(ジュースやコーラ、スプライトなど)は禁止され、揚げ物のメニューは週に2回までとされるなどの改善案を実施するなど、学校給食改善のためのさまざまな政策が実行されました。

その後も運動は続き、温かい料理を作る施設がない学校に新しいキッチンを作ったり、全国の学校調理師へのトレーニングをしたり、子どもたちにジャンクフード広告について正しく理解を促す取り組みがなされました。

学校給食改善運動の結果は?

さて、ジェイミー・オリヴァーの学校給食改善運動が始まってはや10年経ちましたが、その結果はどうだったのでしょうか。

一部では成功もあったキャンペーンでしたが、全体的に見ると逆に子供の給食離れが進むという残念な結果となりました。ジャンクフードの代わりに栄養のバランスの取れた献立を作った結果、給食を食べる子供の数が約40万人減ったと言われます。

ちなみにイギリスの学校では給食にするか自分でお弁当を持って来るかを選ぶことができます。低所得家庭の子供は給食は無料になるのですが、そういう家庭の子供でも「ヘルシー」な給食よりは家から持ってくるランチボックス(サンドイッチにチョコレートやポテトチップス入り)を食べたいということなんですね。

学校給食だけを変えても、子どもたちは家庭でジャンクフードを食べているわけなので、食生活はそう簡単には変わらないこと、親の意識を変えなければどうしようもないことがわかります。

イギリスの多くの子供はワンパターンのものしか食べたがりません。それに子供用の夕食(主にファストフード)だけ別に作って夕方早い時間に食べさせ、親は違うものをあとで食べるという家庭も多いです。

うちでは日本食を含めいろいろバラエティに富んだものを作り、親子で同じものを一緒に食べるのですが、子供の友達が家に遊びに来る時は何を食べさせるかで頭を悩ませます。はじめは色々考えて手作りのスープとか作っていたのですが、あまりに食べない子供が多いので、結局ピザと野菜スティック(野菜はほとんど食べないけど)とかの献立になってしまいます。

ジェイミーに言わせると、イギリスではヘルシーな食生活というのは裕福な(ミドルクラスの)贅沢であると思われているのが問題だとのこと。中級以下の家庭では共働きで忙しかったりして、ゆっくり料理をする暇もないので安価で簡単な加工食品に頼ってしまいがち。また自分の親もそういう食生活を送って来たのかもしれないので、そうなるとまともな料理の仕方も知らなかったりすんですね。こうなると学校給食だけでなく国民全体の食育をしなければならないわけで、もっと大変な問題というわけです。

ジェイミーの次の取り組み

さて、学校給食改善キャンペーンでは期待したとおりの成果が出なかったジェイミー・オリヴァーですが、彼は簡単には引き下がりません。

今度はイギリス人が飲むソフトドリンクに入っている砂糖についての問題に取り組み始めます。シュガー・タックス(砂糖税)を導入して何とかこの砂糖の量を減らしたいというわけです。

長くなったのでこの件についてはまた別記事で紹介します。

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