タイ北部のタムルアン洞窟に閉じ込められていたサッカーチーム少年たち13人を発見し、全員救出するのに活躍したダイバーたち。不幸にもそのうち一人は亡くなっています。洞窟(ケイブ)での潜水プロのイギリス人7人を中心としたケーブ・ダイバーたちはどんな人たちなのかご紹介します。
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タイ洞窟での閉じ込め事故
タイ北部チェンライ郊外にあるタムルアン洞窟に大雨による増水で13人が閉じ込められた事故で、タイ当局は世界中に救援を呼びかけ、各国から専門家が派遣されました。
タムルアン洞窟の全長は約10㎞で、行方不明になった少年たちがどこにいるのかは不明でした。洞窟の中で高くなっているところに避難している可能性はありますが、そこに行きつくまでに狭い個所、天井まで水が通路をふさいでいるところがあります。
また、雨期の洞窟は水位が上がり潜水以外では行き来できない危険な状況です。その水も透明ではなく、泥水となっているため、視界もよくありません。しかも、水の流れもあるため、暗闇の狭い中をケーブ・ダイビングするのは非常に困難です。
このような状況の中で捜索するには、かなり経験のあるケーブ・ダイバーが必要となります。ダイビングの中でも最も危険な部類に入るというケーブ・ダイビング(洞窟潜水)、タイでの救出活動に参加したのはどんなダイバーたちなのでしょうか。
国際ダイバーチーム
Cave rescue: The divers who got the Thai boys out https://t.co/M4LbKxHoM4
— BBC News (UK) (@BBCNews) 2018年7月10日
タムルアン洞窟での救出活動にはタイ海軍特種部隊ダイバーのほか、タイや世界各国からのダイバーが加わって活躍しました。
ダイバーたちはイギリス、米国、スペイン、オーストラリアなど世界各地から集まっています。どうやってこんなにもいろいろなところから集めることができたのでしょうか。
イギリス人ダイバーチーム
バーノン・アンズワース Vernon Unsworth
幸運にもこの洞窟の近くにはダイビング経験が豊富なイギリス人、バーノン・アンズワース(Vernon Unsworth)が住んでいました。
当初、タイ海軍特種部隊隊員が洞窟に入りましたが、水が濁っていて何も見えなかったためそれ以上進むことができませんでした。
それで、アンズワースはタイ当局と相談し、イギリスからケーブダイビングの専門家を呼び寄せることになりました。
ジョン・ボランセン John Volanthen とリック・スタントン Rick Stanton
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(救助にあたったイギリス人ダイバー、左:ジョン・ボランセン、右:リック・スタントン)
まず、英国洞窟救助協会の副会長ビル・ホワイトハウスが「Aチーム」と呼んでいる2人、リック・スタントンとジョン・ボランセンの名前があがりました。2人は世界でも一番の救助ケーブダイバーと言われているのです。
とはいえ、彼らは仕事でダイビングをしているわけではありません。2人とも中南部ウェールズケーブ・レスキュー・チームのボランティアなのです。イギリス人は本業以外に趣味やボランティアとして、さまざまな分野で専門家と言われるようになるほど打ち込む人が少なくありません。
2011年にもこの2人はスペイン北部の洞窟で、9㎞も奥に入り、ケーブダイビングの世界記録を打ち立てました。
リック・スタントンは56歳、引退するまで英ミッドランズのコヴェントリーで消防士をしていました。
ジョン・ボランセンは47歳、イギリス、ブリストルに住むITコンサルタントで、趣味でケーブ・ダイビングをしています。
ケーブ・ダイビングの経験豊かなこの2人はまず洞窟に入ってあとからほかのダイバーがついてくることができるようにガイドラインを付けました。
そして、少年たちが避難していた場所までたどり着き、見事に彼らを発見しました。少年たちが発見された時ビデオで聞こえた声はこの2人のものです。
ロバート・チャールズ・ハーパー Robert Charles Harper
行方不明になった少年たちがどこにいるのかを推測し、捜索する作戦の監督にあたったのは70歳のロバート・ハーパーです。
彼は英サマーセット出身の洞窟探検専門家で、洞窟の地理に詳しいスペシャリスト。
クリス・ジョウエル Chris Jewell とジェイソン・マリソン Jason Mallison
見つかった少年たちを救出するために、イギリスダイバーチームはさらにメンバーを加えました。イギリス最古のアマチュアダイビンググループのメンバーであるクリス・ジョウエルとジェイソン・マリソンが救出チームに参加。
2人ともケイブ・ダイビングの熟練者で、マリソンはメキシコの洞窟でイギリス人ダイバー6人を救出した経験があります。彼は2010年にスタントンとボランセン、そしてオランダ人のホウベンのチームでメキシコにある未踏の洞窟で8.85㎞にわたり50時間地下に潜るという記録を作りました。
ティム・アクトン Tim Acton
もう1人のイギリスダイバーは39歳のティム・アクトン。彼はエセックス出身のダイバーで今はタイでホリデー事業を営んでいます。
亡くなったタイ人ダイバー Saman Kunan
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(亡くなったタイ人ダイバー、サマン・クナン)
7月6日午前1時ごろ元タイ海軍特殊部隊のダイバー、サマン・クナン Saman Kunan(38歳)が救助活動に参加中亡くなるという事故がありました。
サマン・クナンは海軍を引退していましたが、少年たちが行方不明になった事で2週間近く前に始まった捜索に自主参加していました。彼は少年たちの無事が確認された後も救助活動を続けていたのです。
彼は洞窟内の少年たちのいる場所まで空気ボンベを運んだあと、洞窟の入り口に戻る途中で酸素を使い果たし意識を失ってしまいました。ただちに応急処置が施されましたが、そのかいもなく午前2時ごろ亡くなったと発表されました。
他の国からも救助に参加
リチャード・ハリス Richard Harris
Adelaide doctor & cave-diving specialist Richard Harris, gave up his holidays so he could assist with the Thailand rescue operation. @9NewsAdel pic.twitter.com/DgVROfywqL
— Edward Godfrey (@EdwardGodfrey9) 9 July 2018
リチャード・ハリスはオーストラリア、アデレードの医師で、何10年もの経験があるケーブ・ダイバーでもあります。オーストラリア、中国、ニュージーランドなどでケーブ・ダイビングの経験があります。専門は麻酔医学。これまでも同じような状況で野外医療や救助活動をしてきました。このようなダイビングの経験がある医師は少ないので、彼を知っているイギリスのダイバーチームが要請し、彼は自分のホリデーを返上して、タイの洞窟救助隊に加わったのです。
ハリス医師は危険な洞窟内にダイビングして入り、少年たちを診察し、手当てをしました。また、少年たちの体力や精神力をみて、ダイビングにより救出できるかどうかを判断しました。医師である彼の協力がなければ、その判断は難しかったでしょう。
まとめ
ケーブダイビングはダイビングの中でも最も危険とされています。真っ暗闇で迷路状になった洞窟の中を潜水するというのですから、訓練を重ねた熟練者でも危険が伴います。救出活動にあたった元タイ海軍のダイバーが不幸にも命を落としてしまったことからもそれがよくわかります。
そんな大きな犠牲もあった中、当初は発見の可能性も危ぶまれていた少年たちが賢明な救助活動のおかげで洞窟から無事無事救出されました。この救出に大きな貢献をしたダイバーは自らの危険も顧みず外国の少年たちを助けるという偉業をなしとげました。心から拍手を送りたいです。
また、自主参加した救助活動中に命を落とすことになってしまったダイバーのご冥福を心からお祈りします。
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下記に洞窟内の詳しい地図や、捜索活動の様子を時系列で簡潔にまとめた記事があるので参考にしてください。
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