イギリスでトランスジェンダーとして自らを女性だと主張し女性用刑務所に収監されていたカレン・ホワイトが収監中に他の女性受刑者2人に性暴行をはたらき、無期懲役の刑を受けました。この事件はトランスジェンダーの受刑者をどのように扱うべきかという難しい問題をなげかけています。
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カレン・ホワイトとは
自らをカレン・ホワイト(Karen White)と名乗るトランスジェンダーは52歳です。男性として生まれ、出生時の名前はスティーブン・テレンス・ウッド(Stephen Terence Wood)ですが、その後クリストファー・ウッド(Christopher Wood)と名乗るようになりました。2001年にまだクリストファー・ウッドとして知られているとき、小学生の子供に性暴行をはたらいたとして18か月刑務所に入りました。
2003年には妊娠2か月の女性の飲み物にウォッカを入れ意識がなくなった時にレイプしました。また、2016年には20代の女性を複数回レイプしました。しかし、この二つの犯行については、2017年に刑務所に入ってから、被害者の通報で明るみになったということです。
その後、ウエスト・ヨークシャーの公営住宅に住んでいたときに自らをカレン・ホワイトと名乗りだし、トランスジェンダーとして扱われることを求めました。その頃のホワイトは隣近所に暴力や暴言を吐くことで恐れられていました。
近所の人たちの証言によると、他にも1人トランスジェンダーの女性がいてコミュニティーにとけこんでいたので、ホワイトがトランスジェンダーであること自体は問題がなかったといいます。けれどもホワイトは周りの人に、ことあるごとにヘイト・クライムをしているとののしり続け、そのうち暴力をふるうようになりました。
カレン・ホワイトの収監
そんなある日、ホワイトは自分に性暴行をはたらいたと言って年配の男性をステーキナイフで数回刺しました。この犯罪で逮捕され2017年に刑務所に入った時、ホワイトは自分が女性であると主張しました。その時のホワイトはブロンドヘア、メークアップに女性の服装をしていました。
ホワイトの主張は受け入れられ、女性用の刑務所である、ウエスト・ヨークシャーのニューホール刑務所に収監されました。女性になるための性転換手術は受けていなかったのもかかわらず。
その頃、法務省はトランスジェンダーの受刑者について新しい政策を導入したばかりだったのです。それ以前はトランスジェンダーを認めるためには医療上の診断か性別違和(ジェンダー・ディスフォリア)が必要だったのですが、新しい政策は受刑者が自分自身のジェンダーを定義し、それに従って扱うというものです。
というのもその直前に男性刑務所でトランスジェンダーの受刑者が2人自殺するという事件があったばかりで、収監されているトランスジェンダーを保護するべきだという批判が起こったからです。この2人の受刑者は共に女性用刑務所に収監されることを希望していましたが、男性用刑務所に送られ精神的な苦痛を受けていたということです。
ホワイトは2017年の9月に女性用刑務所に収監されてから3か月の間に、他の受刑者の女性2人に性暴行をはたらきました。
法務省はのちにこの事件について、ホワイトを女性刑務所に送ったことが適切でなかったとして謝罪しました。
今現在ホワイトはカテゴリーBの男性用刑務所であるリーズ刑務所に入っています。
トランスジェンダーの刑務所での扱い
トランスジェンダーを刑務所に送る場合、男女どちらの刑務所に入れるべきなのかは難しい問題ですが、イギリスではどのようにして決めているのでしょうか。
トランスジェンダー権利団体のTransforumのジェニー・アン・ビショップによると、ホワイトのようなトランスジェンダーが逮捕された場合、男女どちらの刑務所に送るかを決定するのに、3段階の決定方法があるということです。
まず、拘留後3日のうちに、その地域のトランスジェンダー委員会(刑務所管理職員、心理学者からなる)がどの刑務所に送るべきかを決めるようになっています。この委員会は受刑者の意見を聞いた上で、そのリスクや受刑者が自らを定義するジェンダーとして生活を送ってきたかどうかを考慮し、受刑者をどちらのジェンダーとして扱うかを決定します。
もしこの委員会の決定に疑問を示すものがあれば、地域の審査会がすべてのエビデンスを再度検討することになります。
そして第3段階として「複雑事件委員会」が設けられることもあるということです。これは、21歳以下の受刑者、または受刑者自身および他人に害を加えるリスクがあると考えられる者の場合に導入される方法です。
ホワイトの場合、女性刑務所に入れる決断は最初の段階である地域のトランスジェンダー委員会のみでなされました。ビショップによるとホワイトの過去の犯罪歴を考慮に入れるべきだったといいます。けれども、ホワイトが「男性に性暴行を受けたからナイフで刺した」と言って「女性として」逮捕された時には過去に女性をレイプしたことはまだ明るみに出ていなかったこともあり、女性として扱うことになったようです。
とはいえ、ホワイトは性転換手術は受けておらず、身体的には男性のままでした。
ホワイトは異常だった
ビショップはホワイトに5年前にトランスフォーラム・サポート・グループの会合で実際に会ったことがあるそうです。「彼女に会った時、彼女はまだ女性になる最初の段階だった。他人のアドバイスに耳を貸さない人であるような印象を受けた。」と言います。
また、「アドバイスを聞かず、自分の権利を振りかざす人であるような感じだった。女性としてふるまうような努力をしないのに、他人が自分を女性として扱うように強制していた。男性の名前で呼ばれたらヘイト・クライムとして報告するようなやり方だった。妥協を許さなかったのでコミュニティーに受け入れられなかった。これまでたくさんのトランスジェンダーに会ってきたが、彼女はひどく変わっていて、関わり合いになりたくないと思った。他の者も彼女がすぐ怒ると言っていた。アンガー・マネジメント・コースに行くべきじゃないかと思っていた。」と印象を語ります。
他にホワイトを知っている人の証言によると、ホワイトが名前やジェンダーを変えたのは、純粋にトランスジェンダーとしての理由からではなく、ただ単に自分が過去に犯した過ちを隠すためではないかということです。
トランスジェンダーの受刑者はどれくらいいるのか
2017年のイギリス政府の統計によると、今現在イングランドとウエールズにトランスジェンダーは受刑者合計85,513人のうち、152人はいるそうです。実際はもっとたくさんいるのではないかと推測されています。
今回のホワイトのような事件が起こったことで、トランスジェンダーの受刑者の扱い方にはこれまで以上に注意が必要だとして法務省は今後の政策を検討していくとしています。
追記:イギリス法務省の発表(2019年2月)
トランスジェンダーの受刑者の服役について検討していたイギリス法務省は、特に危険だとされるトランスジェンダー服役者を女性刑務所から男性刑務所に移しました。そして、2019年2月5日にこのように発表しました。
我々はカレン・ホワイトのケースを重要なものと受け止めている。
このため、2016年に導入したトランスジェンダーの収監に関する政策を見直すことにした。
女性服役者の安全を図ることとトランスジェンダー服役者の人権を尊重することのバランスについて鑑み、近く新しいガイドラインを導入する予定である。
具体的には、自らをトランスジェンダーであるとする男性だけを専用の建物、または建物の一部に収監する案が上がっています。
トランスジェンダーの服役者を女性刑務所から移すという決断は、女性服役者の権利を強く主張していた女性人権運動家に賞賛されました。けれどもその反面、トランスジェンダー運動家からは2016年に導入された政策からの後退だと大きな抗議の声が上がっています。この難しい問題を解決するのは、一筋縄ではいかないようです。