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商業捕鯨再開のためIWC脱退する日本、真の理由は?海外の反応

日本政府は国際捕鯨委員会(IWC=International Whaling Commission)を脱退し、商業捕鯨を再開する見解を表明しました。これまで日本は「調査捕鯨」をしてきましたが、これは「商業捕鯨」とどう違うのでしょうか。日本の捕鯨については多くの国から批判されていますが、それには正当な理由があるのでしょうか。今回日本がIWCを脱退することでこの問題はどう展開していき、海外の反応がどういったものなのかをわかりやすく説明します。


Contents

日本はIWCを脱退

2018年12月20日に日本政府はIWCを脱退する意向であることを表明しました。その後政府は12月25日にIWC脱退を閣議決定し、26日に菅官房長官がIWC脱退と商業捕鯨の再開を正式に発表。

2019年1月1日までにIWC事務局にその旨を通知し、6月末に脱退する予定だということです。脱退したあかつきには約30年ぶりとなる商業捕鯨を再開するという方針です。

脱退の理由としては、9月のIWC総会で日本の商業捕鯨再開の提案が否決されたことをふまえ、IWCにおいて異なる立場の国々が共存する可能性がないことが明らかになったことをあげています。

日本は来年7月から日本の領海や排他的経済水域(EEZ)で商業捕鯨を再開するとしています。

IWC(国際捕鯨員会)とは?

IWC(国際捕鯨員会)とは捕鯨の管理と鯨の保護を目的として作られた国際機関です。89ヶ国の加盟国からなり、各国の代表が専門家やアドバイザーに補佐されて運営、総会を2年に一度開いて重要事項を議論します。

1982年にIWCが商業捕鯨の禁止を決議したため、それ以来日本は「調査捕鯨」と称して南極海と北西太平洋でミンククジラなどを捕獲しています。「調査捕鯨」というのは鯨の生態や資源調査を行うためと言うのが目的ですが、各国はそれは名ばかりで事実上の商業捕鯨であると批判しています。

2010年にIWCは南極海での調査捕鯨を縮小する代わりに日本沿岸での商業捕鯨を認める案を提案しましたが、日本はこれを受け入れませんでした。

なぜ日本はIWCを脱退するのか

これまでIWCにおいて日本は鯨を食べる食文化や伝統があることや、適切な規模の捕獲は正当と主張し商業捕鯨の再開を主張してきましたが、その主張は受け入れられませんでした。

日本が商業捕鯨を再開するには加盟国のうち3/4の賛成を必要としますが、捕鯨支持派はノルウェー、アイスランド、モロッコ、パラオなど39ヶ国しかありません。IWCが日本の商業捕鯨禁止の解除をする見込みはまず無いと言えるようです。

そのため、日本政府としてはこれ以上IWCで話し合いを続けても進展はないだろうと考えて脱退という方針を固めたということです。これでIWC内の浮動票を得る外交手段としてIWCに加盟する捕鯨支持国に支払ってきたODAの支払いや、調査捕鯨のための助成金を節約できるというねらいもあるでしょう。

日本はIWCへの年間約2000万円の支払いも打ち切る方針で、これによってIWC総会での議決権を失うことになります。このようにIWCを脱退するというのは極めて異例で、大胆な行動です。日本が国際的に孤立してまで商業捕鯨を再開したいという理由は何なのでしょうか。

日本の捕鯨は必要なのか?

政府は日本には捕鯨の伝統と歴史があり、国家にとって重要な文化であるという説明をしていますが、日本が本格的に捕鯨を始めたのは主に戦後になってからです。沿岸捕鯨は数百年前から日本各地で行われていましたが、どれも小規模なものでした。

これに対して、地球の反対側にまで船団を送り大規模に捕鯨をするようになったのは戦後のことです。戦後の食糧難の時代、動物性たんぱく質補充のために南極に捕鯨船を派遣して大規模な捕鯨が行われるようになったのです。その頃は牛、豚、鶏肉などは少なく価格も高かっため、庶民の食卓に頻繁に上るものではありませんでした。沿岸地方では魚が比較的安価に食されたものの、内陸部ではそうもいきません。その頃は鯨肉は日本人にとって栄養的にも欠かせない食料だったのです。けれどもその後日本が豊かになり、牛、豚、鶏肉食が広まるにつれ、鯨肉の人気は落ちてきました。

中には好きな人もいるのかもしれませんが、鯨肉を好き好んで食べる人はあまり多くはないと思います。私も子どもの頃鯨肉を食べた時まずかった思い出があるので、国際世論に反しても捕鯨をしたいというほど誰が鯨肉を食べたいのだろうと謎でした。けれどもそれはあながち不思議ではなかったようで、実際日本で鯨肉は今では需要がほとんどないのです。

日本での鯨肉需要のピークは1962年で、その後は右肩下がり。今では日本人は平均で鯨肉を一人当たり年40グラムしか食べないと言います。需要が供給においつかないので、5,000トン以上の鯨肉が冷凍のまま備蓄されているそうです。2008年にはグリーンピース・ジャパンが日本の調査捕鯨で獲った鯨肉が大量に海上投棄されているという報告をしています。

仮に日本に捕鯨の長い歴史があったとしてもそれを理由に捕鯨を続けるべきだという論理にも無理があります。歴史があるからと言ってなんでも続けていたら奴隷も植民地制度も許すということになってしまいます。昔許容されていたことが現在の状況においても通用するというわけにはいかないことがるのは自明のことでしょう。

捕鯨は日本のナショナリズムのあらわれ?

ここまで外国に批判されているというのに、どうして日本はたいして需要がない鯨肉のために商業捕鯨を再開したいのでしょうか。

IWCという国際機関の脱退という行為はかつて国際連盟を脱退し世界で孤立していった日本を思い出させます。1933年の国際連盟脱退から無謀な太平洋戦争へと直進し無残に負けたのはその12年後でした。あの時は満州事変後侵略した満州からの撤退を通告されたことが理由でした。脱退を決めた松岡代表は日本国民と新聞各紙に「英雄」のように扱われたのです。

国際世論を敵に回して自国の行動を正当化し国際組織を脱退する姿は国際的ルールを守るよりも自国の利益だけを追求するナショナリズムの表れともとれます。国際的な場で議論して自国の意見が通らないなら脱退して勝手に侵略戦争をするという行為と、IWCを脱退して商業捕鯨を始めるという行為には共通性があるように感じられるのです。

思えば捕鯨問題は、領土問題や靖国神社、慰安婦問題のように、日本が国として国際的な議論の場で自国の立場を貫き通そうとするナショナリズムの象徴であるとも言えるのではないでしょうか。「日本のことは日本で決める。外国にとやかく言われる筋合いはない。」というような。日本人は異なる状況や意見を持つ人と対話を通じて共存する努力をせず、わかりあえないと決めつけてそっぽをむいてしまうところがありますが、この「反反捕鯨」の姿勢もその例という感じです。

国際政治の場で様々な国が異なる主張を理解してもらおうとする場合、他国の要望を検証と共に論破できる理論が必要となります。捕鯨を続けることが日本にとって重要であると他国を納得させる理由があるとしたらそれはどういうものなのでしょうか。

捕鯨を続ける本当の理由は「捕鯨議員」安倍や二階

日本ではあまり報道されないようですが、BBCでは「Japan and the whale」という記事で日本が捕鯨を続ける理由は捕鯨関係者が多い選挙区の政治家と捕鯨関係の官僚の利権の問題だと指摘しています。

BBC記事では具体的に名前を挙げていませんが、選挙基盤に漁業が盛んな地域を持つ政治家には地元の産業を保護しようとする議員がいます。たとえば安倍首相は「くじらの街」から選出されています。安倍首相の衆議院選挙区は小選挙区比例代表並立制となってからは山口4区ですが、これは山口県西部の下関市と長門市の地区になります。日本海に臨むこの地方は漁業がさかんで、下関は「近代捕鯨のまち」と呼ばれているのです。下関はかつて商業捕鯨で栄えた「くじらの街」として捕鯨母船の母港誘致を目指しており、関係者は政府が捕鯨産業を保護、推進する政策をとることを強く望んでいます。

安倍首相のほかにも捕鯨関連の議員はかなりいて、自民党には「捕鯨議員連盟」が、民主党にも「捕鯨対策議員協議会」があり、捕鯨産業を支持する政治家が参加しています。たとえば、捕鯨対策委員長となっている浜田靖一元防衛相は千葉に捕鯨拠点を持っています。また、二階幹事長の地盤も沿岸捕鯨が盛んな和歌山県太地町です。この地域はイルカ漁も行われていることからアカデミー賞を取った映画「ザ・コーヴ」で扱われた町で各国からの非難の的となっているところでもあるのです。

このような「捕鯨議員」に異を唱える政治家や官僚もいて、特に外国との交渉を担う外務省はこれ以上反捕鯨国との関係を悪くすることを避けたいと考えています。けれども自民党トップの安倍、二階、菅などがおしなべて捕鯨推進派であることもあり、反対意見は圧されてしまうのです。

捕鯨官僚と捕鯨予算の利権

「捕鯨」議員の政治家をサポートしているのが「捕鯨」官僚であり、BBCによると彼らも日本が捕鯨を続ける大きな理由になっているとしています。これは現在行われている捕鯨は商業的に成り立たないため、国の事業として続けられているからです。

遠洋漁業はコストが高い上に捕鯨船には環境保護団体の妨害に対応するコストもかかるため、今では民間企業は撤退してしまいました。このため、現在の調査捕鯨は日本政府の補助を受けて国に関係する団体がおこなっています。年間事業費のうち政府が10億円近い補助金を交付し財団法人「日本鯨類研究所」が科学調査を受け持ち、共同船舶が捕鯨業務を行っています。この日本鯨類研究所も共同船舶も共に水産庁など役人の天下り先になっています。

このような状況の結果、現在は捕鯨事業を行うための官僚組織が出来上がっていて、毎年の計画や予算といった仕事を行う部署が事業を担当しています。その部署で働いている数百人の雇用を守り予算を維持するためにトップ官僚は捕鯨を続けようとするというのです。

仮に商業捕鯨が認められたとしても民間企業が遠洋捕鯨に再び参入する可能性はかなり低いと見られています。かつて南極海捕鯨を行っていた大洋漁業(現在はマルハニチロ)は捕鯨事業から撤退していて再開する予定はないし、鯨肉缶詰を生産していた日本水産も販売不振のため生産終了しています。

日本IWC脱退についての海外の反応

日本がIWCを脱退する方針だという知らせを受けて環境保護団体グリーンピース・ジャパンは「世界との歩調を乱す重大な間違い」と日本を厳しく非難。日本の捕鯨についてずっと反対し続け、捕鯨の妨害活動も行ってきた米国反捕鯨団体「シー・シェパード」は鯨が無差別に殺された血まみれの過去に戻るようだと批判しました。

同様に、これまでも一貫して日本の捕鯨を批判し続けている米国や英国、オーストラリアなど反捕鯨国の反発は必至といえます。12月26日に菅官房長官が日本のIWC脱退と来年7月からの日本領海や排他的経済水域(EEZ)での商業捕鯨再開を公式に発表してから、クリスマスホリデーというタイミングにも関わらず各国メディアの反応は素早いものでした。

NPRは菅官房長官の「日本政府はIWCにおいて各国との話し合いを続けてきたが、9月の総会において異なる立場にある各国との共存が不可能である事が明らかになり、IWC脱退の決断に至った」という記者会見内容を報道しました。さらにグリーンピース・ジャパンが日本政府がこのような声明をクリスマス時期にこっそり出すのは国際的な批判を免れるためだろうと語った感想を紹介。

ロイターはオーストラリアとニュージーランドは日本のいかなる捕鯨活動にも同意できないが、南極での捕鯨を続けないということは評価すると伝えています。また、安倍首相の選挙区が捕鯨港である下関であることにも言及。

英BBCは日本がIWCを脱退するからといって好き放題できることもないこと、日本は他の捕鯨国との協力が得られれば新たに国際機関を作るかもしれないし、現在のノルウェー、アイスランド、グリーンランドなどが加盟する北大西洋海産哺乳動物委員会(Nammco=North Atlantic Marine Mammal Commission)に加盟するかもしれないといいます。

米ワシントンポストは安倍首相の選挙基盤が捕鯨港の下関であることや捕鯨やイルカ漁が盛んな地区から選出されている自民党議員からの圧力があることを伝えています。

英ガーディアンは日本はこれまで30年間「調査捕鯨」と称して3万頭以上の鯨を殺戮しており、今回日本がIWCを脱退し商業捕鯨を再開することはおぞましいことだと強い口調で批判しています。

ツイッターなどSNSでもこのニュースに関して各国からの批判メッセージが相次いで寄せられています。このニュースを紹介するグリーンピースのツイートのリプ欄などを見ると、かなり強い口調の物も多く「日本製品をボイコットしよう」「東京五輪もラグビーワールドカップもボイコットするようにアスリートに呼びかけよう」「これまで日本車に乗ってきたが、もう日本製品は買わない」「今度日本に地震や津波がきたら笑わないように気をつけなきゃ」というものまでありました。

サイエンスマガジンでは2019年1月10日付の記事で「日本のIWC脱退は鯨のためになる」として、科学雑誌らしい冷静な観察眼での記事を掲載。日本がIWCを脱退することにより「調査捕鯨」という名で南極海などで行ってきた遠洋捕鯨をやめ、日本近海でだけ捕鯨活動をすることになるのは鯨保護の観点からいうとメリットの方が大きいと指摘しています。日本近海での商業捕鯨は小規模なものにとどまるだろうとの予測も、日本での鯨肉の需要は下降を続けていて市場がかなり小さいものであり、商業的にやっていけないだろうとの観測に基づいた記事になっています。

日本の捕鯨は海外から強い反対

イギリスのように動物愛護や環境保護の意識が高い国に日本人として暮らしていると、捕鯨問題について敏感にならざるを得ません。日本人である私に個人的に敵意をもって捕鯨問題について批判する人には今まで会ったことはないのですが、声に出して指摘されなくても日本は鯨を殺す残忍な国民だと思われているのだろうと察して肩身の狭い思いもします。日本の捕鯨問題がニュースになるたびに、誰かから鋭い質問をされるのではないかと思い、日本の態度をどう説明したらいいかと考えます。

捕鯨に反対する欧米諸国では鯨は食べずとも他の肉を食べていると言っても、鯨は絶滅の危機に瀕しているが牛や豚は飼育されているので話が違うと言われるでしょう。けれども、鯨は魚や他の動物と違って知能が高く感情もあり愛すべき存在だから食べるのはけしからんと言う感情的な主張や、時にはテロまがいの抗議活動を行うシー・シェパードなどの言動には私も違和感があります。そういう彼らはかつて鯨を油のためだけに大量に捕獲しては残りを捨てていたのです。そういった自らの過去における行動への罪悪感が余計に鯨保護の感情を駆り立て、今でも捕鯨を続ける国への抗議となって表れているのかもしれません。

日本の捕鯨は歴史と伝統に基づいた日本の重要な文化であり、貴重な食料源であるという説明をしたいとは思えども、鯨肉をほとんど食べない今、どうもそんな理屈では捕鯨反対派の批判をかわせそうにありません。もし、仮にそうだとしても日本の沿岸に限って持続可能な範囲内で捕鯨を続けることについて各国の理解を得る努力をすればいいということになります。特に需要もなく商業的にも成り立たない遠洋捕鯨を続ける理由が「捕鯨」議員と「捕鯨」官僚の縄張り確保や、国際世論を敵にまわしての狭量なナショナリズムのためだとしたら、日本の国益のためになるとは言えないばかりか、税金の無駄遣いでもあります。

捕鯨問題で日本は国際的に孤立?

反捕鯨国の批判には感情論に基づいていたり多文化を理解しようとする姿勢を見せない一方的なものがあるのも事実です。しかし、これだけ国際世論が日本の捕鯨に対して批判的な時に自国の主張を論理的に説明する代わりにIWCを脱退するという行為に出るということで、日本が国際的に孤立化してしまう恐れがあります。外交関係への影響は必至で、2019年のG20 大阪サミット、2020年の東京オリンピックを控えてのタイミングも実に具合が悪いと言えるでしょう。総合的、長期的に考えて、一般日本人にはほとんど関心がない鯨肉ごときで外交問題に発展し、国の評判を落として国益を損ねることに意味があるのかどうかを考えるべきでしょう。

もしIWC脱退と商業捕鯨再開について日本が正当な論理と正確な情報に基づいて説明ができるのであれば、国際的に孤立してしまう前に積極的にその説明をするべきです。

さらに、IWC脱退・商業捕鯨再開という国際的にも重大な決断をする前に、政府は日本国民にもこの問題について納得のいく説明をするべきだったのではないかと思います。

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