アルカディアのルシオス峡谷:ギリシャペロポネソス半島旅行③

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Last Updated on 2019-06-22 by ラヴリー

 

ギリシャのペロポネソス半島を個人旅行した体験談の3番目は、普通日本人は行かないようなところ。古代ギリシャでアルカディア(理想郷)と呼ばれた山に囲まれた田舎のど真ん中にある、峡谷をハイキング。険しい岩肌を眺めながら木陰の中を歩き、岩に張り付くように建つ修道院を訪れ、川に飛び込んで遊び、美しい村で休んだ心洗われる一日でした。


Contents

アルカディアのルシオス峡谷(Lousios Gorge)

ギリシャ、ペロポネソス半島の真ん中にある中央山岳地帯アルカディアは古代ギリシャでアルカディア(理想郷)と呼ばれたところ。その後ヨーロッパの文化文芸に影響を与えた「理想の桃源郷」です。

山に囲まれた田舎の真ん中に流れる幅2キロほどの川に沿ったルシオス(Λούσιος)峡谷があります。ギリシャ人、また旅行というといわゆる観光地ではなく自然風景が好きなイギリス人やドイツ人に隠れた人気がある知る人ぞ知る景勝地で、古い面影そのままの小さな村々に小規模なホテルが散在するところ。

この辺りは高い山や峡谷で他から孤立する奥地なのでコンスタンティノープルの陥落(塩野七生の本がおすすめ)のあとペロポネソス半島がオットマントルコに征服された後もトルコ軍の手から逃れていました。そのためギリシャ人が比較的安全に暮らすことができ、ひそかにギリシャの文化や言語が受け継がれた地方なのです。

この地方はギリシャ独立戦争のときもギリシャ軍が隠れるのに格好の地域だったので、独立戦争で活躍した英雄の像や記念碑があったりしてギリシャ人にとっては特別の地であるようです。

アルカディアの標高は1500メートルと高く冬は雪に覆われる地方で、急な坂道がくねくねと続く道路を通るのはスリル満点です。車を運転する人は絶景に目を奪われてカーブを曲がりそこねないように気を付けなければなりません。実際、このあたりの田舎道を運転してくれたタクシー運転手は道路がカーブする前にクラクションを鳴らしては対向車とぶつからないように注意深く進んでいました。

ルシオス峡谷は長さ15キロにわたる広大なエリアで、ハイキングルートがたくさんあります。足や地図を読むのに自信がある人なら、さまざまな道を楽しみたいところですが、お気軽コースもあります。地図がなくても数時間~半日で回ることができ、ルートもしっかり目印が付いているコースもあるのでハイキングを楽しんでみてはいかがでしょうか。

ディミィツアーナ(Δημητσάνα/Dimitsana)

ディミツィアーナの村

ディミツィアーナの村

石造りの壁にオレンジ色の瓦が立ち並ぶ美しい村が何百年も変わらずそこにあるようなたたずまい。18世紀には貿易で重要な街だったとかで、独立戦争の時には火薬工場が14もありました。今では昔の面影をそのまま残す、ひっそりとした平和な村です。

ディミィツアーナの中心にはカフェやレストラン、小さなお店が数軒あるだけ。石畳の路地に立ち入ると壊れかけた古いドアの隙間から子猫がのぞく風景がそこに。

村の真ん中にある食料品店で果物を買い、その左手にある路地を上がったすぐ左にあるカフェで作りたてのチーズ・パイやアップル・パイを買いました。ピクニックのお供にと思って買ったのですが、パイは焼き立てのほかほか。あまり美味しそうな匂いの誘惑に負けて、すぐそこで味見のつもりで一口かじるとペイストリーはさくさくしてとても美味。結局そのままぺろりと全部食べてしまいました。

野外水車博物館 (Dimitsana Open Air Waterpower Museum)

ディミツィアーナ水車博物館

ディミツィアーナ水車博物館

営業時間 (夏) 10AM-6PM (3月~10月)

営業時間 (冬)10AM-5PM(10月~2月)

公共の祝日(1/1、3/25、イースター日曜、5/1、12/25、26)以外毎日営業

入場料 大人1人6ユーロ、子供は半額、17歳以下のEU住民は無料

サイトリンク

(すべて2018年夏の情報なのでその都度確認してください)

ディミィツアーナの村のはずれには野外水車博物館があります。ここでは、昔からこのあたりで水車を使って行われてきた伝統的な産業の展示を見ることができます。

博物館では絨毯やカーペットを洗う公共のランドリー、コーンを粉にする機械、火薬を作るところ、そしてレザー製造の行程が展示されています。展示してある機械を実際に動かしてくれるので、水車がどのように生活や産業のために使われていたのかを見ることができるのです。清流が勢いをたててごうごうと流れる音が聞こえ、暑い夏の日でもすがすがしい風景です。

個人的にはレザーをなめす工程を説明してあるところが興味を引きました。そういえば動物から採った革がどのようにしてバッグや靴に使われるレザーになるのか、具体的な工程をこの年まで知らなかったのですから。

ネア・フィロソフウ修道院(Nea Filosofou Monastery)

ネア・フィロソフウ修道院

ネア・フィロソフウ修道院

ディミツィアーナからネア・フィロソフウ修道院に車で移動。「新しい」フィロソフウ修道院は17世紀にたてられたもの。修道僧が2人いたのですがそのうち一人が去年亡くなってしまったそうで今ではおじいさんの修道僧が1人だけで住んでいます。黒い服を着たその修道僧が部屋の中に招き入れてくれ、お水とお菓子をすすめてくれました。

小さな教会の中には1693年に描かれたというフレスコ画が残っていて、今でもその美しい色が鮮やかに残っています。

この修道院の中庭から谷に降りる石段があり、ここからルシオス峡谷を通るハイキングコースに続いています。

ハイキングコース

ルシオス峡谷のハイキングコースはルシオス川に沿って続いていますが、私たちはそのほんの一部だけ歩きました。私たちが歩いたコースは行く先々に標識や赤い目印でマークされていて、地図がなくても迷うこともありません。最初は石畳の道が小石まじりのものに変わっていきますが、木陰の中を歩くので真夏でも比較的快適です。ゆっくり歩いても約2時間くらいのコースですが、そこかしこで遊んだりして半日は過ごしたいところです。

夏だと道も乾いていてハイキングブーツとまではいかなくても歩きやすいスニーカーでも十分。タクシーの運転手が貸してくれたのでウォーキング・ステッキと救急箱も念のため、持って行きましたが、なくても大丈夫でしょう。水は持っていたほうがいいし、ちょっとしたおやつもあったらゆっくり楽しめます。

ギリシャの夏は暑いので緑が少ない地方も多いのですが、ここは目に沁みとおるような木々の緑と清流の青さがさわやか。歩いていると目に見えなくてもそこかしこからローズマリーやオレガノなどの野生植物の香りまで漂ってきてまさに楽園のようです。イギリスの庭で育てているエリンジウム(Eryngium)などの花も咲いていました。

なおこの辺りは冬には雪が深い地方なので、ハイキングは春から秋にかけて楽しむのがいいようです。山間は雪解けが遅いのですが、春には春の花が一斉に咲き誇ってとてもきれいです。

フィロソフウ修道院

フィロソフウ修道院

廃墟となっているフィロソフウ修道院が岩の真ん中に見えるだろうか?

新しい修道院から20分も歩いていくと古いフィロソフウ修道院(Palea Moni Filosofou)の標識があるので右に曲がります。ここは新しい修道院が建つ前に使われていたもので960年に建てられた、このあたりで最古のものですが、今は廃墟と化しています。

入り口のアーチをくぐって右に進んでしばらく行くと修道院のドアが見えます。危険だし落書きをしたりする人がいるためドアはロックされ今では中に入ることができません。けれどもドアのそばの外から見えるところにフレスコ画が残っているのが今でも見えます。残念ながらその上に落書きの跡がありますが。

フィロソフウ修道院のフレスコ

フィロソフウ修道院のフレスコ

ここを出てさらに進んでいくと峡谷沿いにハイキングコースが続き、青い空の下に広がる絶景を眺めることができます。しばらく降りていくと橋があるのでこれを渡ります。橋の周りは大きな岩だらけで足場が悪いのですが、どうやって行ったのかと思うような岩の上に若者がすわっていました。泳いだ後らしく水着で休んでいます。

プロドロモウ修道院(Prodromou Monastery)

プロドロモウ修道院

プロドロモウ修道院

橋を渡ったあと今度は坂道を登って行ってしばらくすると、左側の急な崖に張り付いたように建てられた建物が見えてきます。これがプロドロモウ修道院で12世紀にできたもの。今でも修道僧が10人くらい住んでいるそうで、バルコニーに洗濯物らしきものが干されているのが見えました。

入り口には鉄のフェンスがありゲートが閉まっていて「午後1時から5時まで休み」と書いてありました。私たちが言ったのは1時過ぎだったので残念ながら中に入れませんでしたが、この時間以外は見学が可能だそうです。ゲート越しに中庭だけ見えました。

ここから左側に教会が建っています。こちらも閉まっていましたが、山並みを背景にしたたたずまいは絶景なので見る価値があります。教会に行く途中の朽ち果てた建物のドアの間から子猫がのぞいていました。

清流の泉

Cistern

プロドロモウ修道院からは右下に降りていく道が続くのでそれを進んでしばらくすると、石橋があります。これを渡ると右側に泉がありきれいな水が流れています。ここで乾いた喉を潤し、汗にまみれた顔を洗い、はだしになって足を冷たい水に浸すと疲れがスーッととけていくよう。木陰に座っておやつタイムにしてゆっくりしました。

ちなみにトリポリをはじめアルカディア地方では、水道の水もそのまま飲めます。これがエーゲ海の島などに行くと水道の水がしょっぱくて飲めたものではなく、コーヒーを淹れるのにも水を買って使わないといけません。

ここでゆっくりしすぎてタクシーの運転手が心配しているかもしれないと思い、このルートの最後の道を進みます。この泉があるところから左に向かい道を上っていくとしばらくして石橋の上を通ります。これがココラス橋(Kokkoras Bridge)でこの橋のたもとは泳ぐのに最適なんだそうです。橋を降りていくとギリシャ人が2人水着を着て木陰に寝そべっていました。

汗にまみれた服を脱いで泳ごうとしたのですが、水があまりに冷たいので足を浸すのがやっとでした。

Bridge

この橋がハイキングコースの終点です。ここでタクシーの運転手が待っていてくれたので疲れ切った私たちは休憩のためにステムニッツアに連れて行ってもらいました。

ステムニッツア(Στεμνίτσα/Stemnitsa)

ステムニッツア

プロドロモウ修道院から7キロほどのところにあるステムニッツアはアルカディアの典型的な田舎町。石壁にオレンジ色の屋根が付いた建物が立ち並ぶさまはまるで中世に戻ったかのような美しさ。

2世紀には廃墟となっていたという記録があるので、その前からあった村なのです。その後7,8世紀にはスラヴ人が住み着いていたそうです。16世紀には925人と言われた人口も今では200人弱でひっそりとしたたたずまいです。ここには民族博物館もありますが、今回は行く時間がありませんでした。

小さな町の真ん中には広場、教会、レストラン、カフェがあって、地元の人やハイキング帰りの人がゆっくり休んでいます。私たちはこの広場にあるテーブルで遅いランチとも早い夕食とも言える食事を楽しみました。

このレストランのメニューにヤギ肉という珍しいものがあったので試してみました。骨のついたヤギの肉をただひたすらに柔らかくなるまで煮たもので、味付けは塩だけ。それにレモンが半分添えられています。レモンを絞って食べてみると肉片が口の中でほろほろとほどけてシンプルながら味わい深いものでした。結構な塊がどかんと出てきて、7ユーロでした。これにサラダとパンでハイキングあとのぺこぺこなお腹も一杯になりました。

ヤギ肉

ヤギ肉

まとめ

トリポリから1日の行程でしたが、こういう田舎を回るのは車がないと難しいです。レンタカーを借りてもいいですが、このあたりの道路はカーブが多く見通しが悪いため、運転に自信のある人でないと不安かもしれません。

私たちはタクシーでディミィツアーナの村、水車博物館、ネア・フィロソフウ修道院までそれぞれ車で連れて行ってもらいました。そのあとハイキングをしてその終点地にタクシーで待っていてもらい、ステムニッツアに行き夕食をとってからトリポリに送ってもらったのです。自分で運転するとなるとハイキングも片道というわけにはいかないので私たちにはタクシーが最適でした。

レンタカーを借りて回るのならぜひステムニッツアやディミィツアーナなどにあるホテルに泊まってみたいものです。バスも1日に数本くらいは通るので、ゆっくりできるのならバスと徒歩でもいいかもしれません。私は数十年前にここに来たときがあって、その時はローカルバスで来たのです。でも帰りのバスの便がないことがわかり、ヒッチハイクをするはめになったのも今ではいい思い出です。

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