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あいちトリエンナーレ少女像批判で「表現の不自由展」中止【海外の反応】

Aichi Triennnale

あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」が、慰安婦をあらわす『平和の少女像』を展示したことや昭和天皇のように見える写真を燃やす作品への抗議があいつぎ炎上。結果として、この展示会は開催後わずか3日で中止となりました。この展示の意図はどういうもので、なぜこのような結果になったのでしょうか。また、このニュースについて海外ではどのような報道、反応があったのでしょうか。


Contents

あいちトリエンナーレ2019

あいちトリエンナーレとは2010年に始まった国際芸術祭で「3年ごと」を意味するイタリア語である「トリエンナーレ」が示すように愛知県で3年ごとに行われています。

愛知県や名古屋市をはじめとする実行委員会が主催しており、実行委員長は大村県知事です。

4回目となる今年の芸術祭は「情の時代」がテーマに掲げられました。芸術監督を務めるのはジャーナリストの津田大介監督は、この芸術祭を通して男女平等を実現させたいと発表。

これには、東京医大の入試で女性受験者が差別された事件があったことやMeToo運動の背景があります。結果として、参加アーティストの男女比を半々にしたということでも話題を呼びました。

「表現の不自由展・その後」

今年のあいちトリエンナーレの企画の一つである「表現の不自由展・その後」は日本の公立美術館で、展示を拒否されたり、展示を撤去させられた作品20数点の現物をその経緯と共に展示するという趣旨のもの。

それによって「表現の自由」という問題に対して、どこまでが許されるのか議論するきっかけにしたいということです。

慰安婦像など韓国関連の作品だけではなく、昭和天皇の写真を燃やすような作品や沖縄の米軍機墜落問題をテーマにしたという理由で撤去された作品などが展示されていました。

抗議の声が上がった『慰安婦』像

「平和の少女像」

その中でも抗議の声が一番多かったのが「慰安婦像」として批判を受けている像ですが、この像の正式名称は『平和の少女像』または『平和の碑』。これは「戦争と軍隊の犠牲にされた痛みを分かち合う場」にしたいとの願いが込められているからです。

韓国人彫刻家であるキム・ソギョン、キム・ウンソン夫妻は在韓日本大使館前の「平和の少女像」も作成しており、それと似た像になっています。慰安婦を象徴する少女が椅子に座っており、そのとなりに誰も座っていない椅子がもう一つ置いてあります。

どうして誰も座っていない椅子が?

横に誰も座っていない椅子をが置いてあるのはなぜなのでしょうか?

それは、見る人がそこに座って少女に語りかけることができるようにとの作者の願いからだそうです。人々が少女と思いを通わせることによって、戦争と性暴力をなくし、共に平和を願ってほしいという作者の思いがこめられているのです。

作者は少女像の横に「隣に座ってみてください。手を握ってみてください。平和に向けた考えが広がることを祈ります」という文を書いて置き、鑑賞する人の参加を促しました。

そして作者は「多くの日本の方々が少女像を直接見て、少女が反日の象徴ではなく平和の象徴であることを知っていただきたいと思う」と話しています。

少女像撤去のいきさつ

この像のミニチュア版は2012年東京都美術館に出品されましたが「政治的表現物」だとして撤去されたいきさつがあります。

「少女像」が平和を願うものとは理解されず、「半日」であり、ナショナリズムを煽っているという見方によって抗議の声を受けたためです。

「慰安婦像」への抗議

今回のあいちトリエンナーレでの少女像展示でも7年前と同じような批判がたくさん寄せられることになりました。

一般からの抗議

8月1日に「表現の不自由展」が開催されてから数日間で電話、メール、ファックスによる批判があいつぎました。中には脅迫やテロまがいの抗議もあったといいます。「ガソリン缶を持って行く」というファックスなど、京都アニメーション放火殺人事件を思わせる脅しもあったということです。

実際に展示を見に来た人の中にもあからさまに抗議する人がいたそうです。少女像の頭に紙袋をかぶせる人がいたり、怒鳴り声をあげる人がいたとの報道があります。

名古屋市長の抗議と大村県知事の見解

あいちトリエンナーレの実行委員会に名を連ねる名古屋市の河村市長は8月2日に少女像を視察しました。

そして「少女像」が「日本人の、国民の心を踏みにじるもの」だとして、展示を中止するよう愛知県知事に要請すると語りました。さらにこのような展示に公金が使われていることに対しても批判を口にしました。

これをうけて8月5日、愛知県の大村知事は「公権力が『この内容はよくてこれはダメだ』と言うのは検閲ととられてもしかたない。河村市長の発言は憲法違反の疑いが濃厚だ」と語りました。

「表現の不自由展」中止

あいちトリエンナーレ実行委員会は8月3日「表現の不自由展」そのものを即日中止することに決めたと発表しました。

その理由としては、開催後数日間のうちに抗議が殺到しており、テロや脅迫ともとれるようなものまであることから、展示の安全な運営が危惧されるというものです。

津田大介監督の説明

津田監督は「表現の不自由展」について、あいちトリエンナーレ実行委員会、「表現の不自由展」実行委員会および芸術監督である自身が、個々の展示作品に対して賛意を認めたり、賛否を述べるものではないと説明しました。

撤去された作品を鑑賞し、その経緯を知ることで『表現の自由』という問題について議論するきっかけにするというのがこの企画の趣旨であり、「実物を見て判断してほしい」と語っていました。

さらにこの企画について津田監督は県庁関係者や施設側ともそのリスクを含めて長い時間をかけ議論や調整を重ねた上で公開に至ったということです。

何らかの炎上も予測していたようで「表現の不自由展」会場で来場者が作品の写真や動画をSNSに投稿することを禁止にしました。実際に展示会場に足を運んで鑑賞する人以外によってネット炎上し、悪影響が及ぶことを避けるためという理由からだったといいます。

それなのにこれだけ炎上し、開催後わずか3日で企画展が中止に追い込まれたということこそ、今の日本社会の「表現の不自由」度がかなり深刻になっているということを表しているとも言えます。

津田監督は「日本が自国の現在、または過去の負の側面に言及する表現が安全に行えない社会となっている。」

「分断がこれほどまでに進んでいて、それによって、また一つ『表現の自由』が後退したかもしれない」と語っています。

英語メディアでの報道や反応

英語・海外メディア

この展示の一連の成り行きについて、日本国内ではさまざまなメディアが取り上げています。けれども、この日本の社会現象について海外ではどのように報道されているのか、また海外のひとびとはどのような反応をしているのかが気になります。

近頃は日本国内のニュースについて海外メディアの報道を待つことなく、日本の報道機関が英語で発信しています。

たとえば毎日新聞英語版では「名古屋市長が愛知の芸術祭で『慰安婦』像の撤去を要求」という記事、朝日新聞英語版では「名古屋での展示が物議をかもす」という記事、ジャパンタイムズ『愛知県の芸術祭で「慰安婦」像を含む展示が閉鎖』という記事などが掲載されています。

いずれも、あいちトリエンナーレや「表現の不自由展」の趣旨を説明し「平和の少女像」が抗議を受けてイベントの安全な運営が危ぶまれるために企画展が中止されたという事実を説明しています。あわせて、戦争中の日本の韓国支配に由来する日韓の歴史的なひずみ、今現在日韓関係が悪化の一途をたどっていて経済問題にも発展していることにも言及しています。

さらに、ロイター記事Kyodo News記事でも同様の情報を掲載しています。

韓国のThe Korea Heradは「日本は芸術祭で性奴隷像の撤去を命令」という言葉を使って報道しています。

新月通信社

私は中国語はわからないのですが、中国でも報道されているようです。

こちらはフランスのフィガロ紙

米ニューヨークタイムズ紙は8月5日付の記事で「その展示は表現の自由をたたえた。そして沈黙させられた」という題で一連の出来事について報道。安倍首相率いる自民党の右派政治家が少女像について抗議したこと、京都アニメスタジオ事件を思わせる脅しにより展示が中止になったことを伝えています。南京大虐殺について疑問を投げかけたことがある河村市長が少女像について抗議し、それに対して大村知事が「表現の自由は守るべきだ」と語ったことも。さらにこれまで安倍政権は慰安婦像問題についての扱いに敏感になっていたこと、大阪市長がこの問題でサンフランシスコ市と姉妹都市解消したことにも言及した上で「日本ではこの種の歴史問題は表現の自由から除外されている」「このような脅しで他のイベント、たとえば、スポーツ行事が中止になるとは考えられない」「日本社会は退行している」という声を紹介しています。

海外の反応

さらにTwitterなどにこのニュースの感想が寄せられています。

オランダ放送協会日本特派員の感想は大文字で強い語調で日本を批判しています。

日本よ、恥を知れ。

あいちトリエンナーレ2019の「慰安婦」を象徴する像がテロ攻撃の不安を掻き立てた。


あいちトリエンナーレ2019での「自由の表現のその後」展中止は日本における表現の自由の問題だ。
だが、それは慰安婦問題にも関係する。
慰安婦問題を扱った映画『主戦場』の視聴をおすすめする。

こちらは、ロンドンのエコノミストによる感想

日本の芸術表現の自由にとって悪い一日となった -
歴史修正主義者、愛国者、批判者により「慰安婦」像展示を含む「表現の自由・その後」展が閉鎖を余儀なくされる。

日本のあいちトリエンナーレで中止されたこの展示に思いをはせてみてほしい。
「慰安婦」像の横に誰もすわっていない椅子が見えるだろう。
これは訪問者がそこに腰掛け、考えにひたることでその作品と一緒になるためにある。
-心を打つ、感動的な情景だ。

日本人アーティスト Yoshiko Shimada が韓国人慰安婦像の隣で「日本人慰安婦像になる」パフォーマンスを行った。

メキシコ人アーティストも像になった。

名古屋のあいちトリエンナーレで検閲された同僚の作品に思いをはせる。

イタリアのアーティストも少女像の検閲に抗議して、自ら像になることを呼び掛けている。

あいちトリエンナーレ展の検閲に抗議して。像としてポーズしよう。
そしてそれを「表現の不自由」と名付けよう。

この、像としてポーズする運動は世界中に広まっていて、自らが椅子に座って像になる写真がSNSに続々と投稿されています。


「ヨーロッパ人」と自己紹介してる人

あいちトリエンナーレの「報道の自由」というテーマの展示。
皮肉にも、占領時に性奴隷として働かされた韓国慰安婦像を日本の右派が撤去しろと言っている。

この件を扱ったジャパンタイムズの記事はクズ。
日本について外国人を「教育する」ための右派プロパガンダメディアという新しい役割にあわせ、慰安婦のほとんどは自ら希望してそうなったと思わせたがっている。
恥を知れ。

まとめ

今回の「表現の不自由」展について、私は展示を見たわけではなく報道によって一連の出来事を知っただけです。また、この企画展の主催者が個々の作品の賛否を問うのが趣旨ではないというので私もそれは語りません。

あえて思ったのは慰安婦問題、天皇の戦争責任問題を想起させるテーマを扱ったのなら、そういう問題を批判しそうな人たちが支持する傾向にある作品(在日外国人に対するヘイトや女性差別を助長するようなものとか?)も何点か選んでおいて、バランスをとるということは考えなかったのかということです。

いずれにせよ、この展示の趣旨は表現の自由について作品を見る人がそれぞれ考え、意見を交わすきっかけにしたいということだと理解しています。それならば、作品についてどう思ったのか個人個人の意見を口にすればいいだけです。

実際に展示会場に足を運ぶことなく、ネット上で展示の写真を見たりメディアで情報を読んだりするだけで抗議するというのはどうかと思いますが、それでも嫌悪や反発を感じたのであれば、そう語ればいいでしょう。それを私は止めません。けれども、一部の人が気に入らないからといって展示そのものをやめさせるために脅迫や脅しに至るというのは行き過ぎであり、これこそ芸術表現の自由をおかす行為です。

「平和の少女像」を展示から撤去するならその経緯について説明を掲げておいてほしいと思ってましたが、企画展そのものが中止になってしまったことでそれもできなくなってしまいました。今の日本社会の「表現の不自由」度を示す象徴となっているように感じます。

今回の件は海外のメディアでも取り上げられ、ニュースになっています。海外からの反応は、日本の右派による少女像への抗議や表現の自由に対する「検閲」におしなべて批判的です。

報道の自由度ランキングで2010年に世界11位だったのが67位に転落している「先進国」日本。ランキングを主宰する国境なき記者団が日本での報道や表現の自由について懸念を語っていた状況がさらに悪化しているのでしょうか。

(敬称略)

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