ジャパン・タイムズが徴用工・慰安婦の定義変更【国内外の反応】

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Last Updated on 2021-12-12 by ラヴリー

国内英字新聞大手『ジャパン・タイムズ』 (The Japan Times) が、「徴用工」(forced labor)を「戦時労働者」(wartime laborers) と言い換え、「慰安婦」という語は使わない、と11月30日に紙上で表明した件が国内外で波紋を広げています。英米などのメディアで右派政権や活動家に屈した歴史修正主義的な決定であると批判の声が上がっています。どんな記事だったのでしょうか。また、この記事の背景にはどういうものがあるのでしょうか。海外からの反応と共にご紹介します。

Contents

ジャパン・タイムズ(The Japan Times)



ジャパンタイムズは日本の日刊英字新聞として大手の老舗です。1897年に創刊され、現存では日本最古の英字新聞社として日本国内で編集されています。日本国内で発行される英字紙の中で最大の日刊紙で、在日外国人に対するカバー率においても他紙を圧倒しています。

設立:1897年

本社:東京都港区芝浦

代表取締役会長:末松(神原)弥奈子

資本金:5億5千万円

従業員数:130人

徴用工・慰安婦の定義

ジャパンタイムズは11月30日付の同紙で韓国の最高裁が三菱重工に元強制労働者10人への補償支払いを命じた判決についての記事の末尾にEditor’s Note(編集者の注釈)として次のような文章を載せました。

(下記はThe Japan Times オンライン版からの抜粋)

Japan Times Editor’s note:

この記事の日本語訳は下記のとおりです。

過去においてジャパンタイムズが使ってきた用語には誤解を招く可能性があるものがあった。「forced labor (強制労働)」という用語を第二次大戦中やその前に日本企業のために働くために雇用された労働者を指して使ってきた。しかし、これらの労働者の労働条件や雇用状況はさまざまだったことから、これからはこれらの人々を「wartime laborers(戦時労働者」と呼ぶことにする。

同様に、これまで「comfort women (慰安婦)」は「第二次大戦中やその前に日本軍に性行為を強制された女性」とされていた。戦時における慰安婦の状況はさまざまであったことから、これからは「慰安婦」のことを「意思に反してそうした女性を含む、日本軍に性行為を提供するために戦時の売春宿で働いた女性」とする。

ジャパンタイムズの従来の方針

ジャパンタイムズというと数年前にはケント・ギルバートが「朝日新聞も顔負けの驚くべき記事が連日掲載される」と苦言を呈したように、慰安婦については「性奴隷」だと言ってはばかりませんでした。

慰安婦問題の日韓合意関連の報道についても、一貫して「性奴隷(sex slaves)」という表現を使っており、岸田外相が「性奴隷という言葉は不適切」と抗議したいきさつもあります。

ジャパンタイムズは2016年1月には岸田外相の抗議に対して下記の署名記事を載せています。

第二次世界大戦前及び大戦中に日本軍に強制的に性行為を提供させられた女性たちのことを「性奴隷」と表現することは妥当だというのが、ジャパンタイムズの方針です。

ジャパンタイムズが数年の間に編集方針を変更したのはどうしてなのでしょうか。

海外メディアの反応

慰安婦と徴用工の表現についての注釈記事がジャパンタイムズの紙面に現れたのは11月30日の紙面でしたが、その後すぐに各国のメディアやジャパンタイムズの読者がこの件を取り上げました。その多くはこの注釈について抗議するものです。

英国ガーディアン紙では11月30日に「慰安婦:日本の新聞が第二次大戦の用語の定義を変え怒りの声」というタイトルで、この記事について新聞読者だけでなくジャパンタイムズのスタッフからも怒りの声が上がっていると伝えています。ジャパンタイムズ東京本社の編集者や記者はこれについて驚きと怒りの声をあげ、「この決定について多くの社員が憤慨しています。このことについては相談などもありませんでした。」と言っていると述べています。

ガーディアン紙はこれは安倍政権の保守路線に合わせての追随であることを示唆、日本のメディアが右派政治家や活動家の圧力に屈し、日本の戦時下の歴史を修正する方向に向かっているとしています。

同紙は読売新聞が「性奴隷」という用語を使っていたことを謝罪したことや、NHK英語版の編集者が「性奴隷」という表現を禁止されていることにも触れています。

米国のラジオ局NPRは「ジャパンタイムズが慰安婦と徴用工の定義を変更する」というタイトルで、第二次大戦時やそれ以前に性奴隷(sex slaves)として使われていた女性や日本企業に過酷な労働を強制させられていた人達の定義を変えたと発表したと伝えています。

NPRはこの決断が広く波紋を投げており、安倍政権の保守的な路線を踏襲し戦時の日本の歴史を書き換えるパロパガンダであるという批判の声が上がっていると述べています。

これらに続き、韓国のKorea Heraldもジャパンタイムズの記事を批判的に報じています。香港の英字新聞South China Morning Postでもこの件は取り上げられています。どちらもガーディアンやNPRと同様に、ジャパンタイムズが政府の圧力に屈し歴史修正主義の方向に向かっていることを指摘しています。

12月5日付のDWではジャパンタイムズの編集方針が安倍政権に寄り添うものになったというAsia Policy Pointのミンディー・コトラーの言葉を紹介しています。安倍政権はこれまでも日本の戦争犯罪を否定し歴史を書き換えてきたとし、日本のファシズムが個人、国家、国際社会へ与えた悪影響を無視し、戦時体制を理想化していると語ります。この背後には電通に近いNews2Uがジャパンタイムズのオーナーになったということにも言及。匿名の元ジャパンタイムズ記者の「慰安婦が自らの意思で売春を行ったというのは歴史を書き換え、日本人に自国の歴史を知らせないことになる」という言葉も紹介しています。

国内外の反応

この件については、メディア以外にも大きな波紋を呼んでおり、ツイッター上でも様々な感想や意見が上がっていました。英語のツイッターコメントはたくさんありすぎて載せませんが、多くがジャパンタイムズが歴史修正主義路線に舵を切ったことに対する抗議と失望の感想です。ジャパンタイムズは日本のニュースについて英語で発信する新聞の代表であっただけに、今回の編集方針変更には英語での憤慨や抗議の声が目につきます。英語で日本についてバイアスのないニュースを読むことができなくなると残念に思うコメントが多く、もうジャパンタイムズは読まないという意見もたくさんありました。

日本語のコメントも同様に批判的なものが多いのですが、逆にジャパンタイムズの方向修正を歓迎するものもありました。


ジャパンタイムズを買収したNews2uとは?

ジャパンタイムズは2017年6月にニューズ・ツー・ユー(News2u)というオンラインメディア会社に買収されました。これ以降、News2uの代表取締役社長末松(神原)弥奈子がジャパンタイムズの代表取締役会長となっています。末松(神原)弥奈子は電通のフェローにも名を連ねています。彼女は安倍首相と近い関係にあるようで、一緒に写っている写真も公開されています。(グレイの着物を着ている女性)

ジャパンタイムズの末松(神原)弥奈子会長は自身のブログでこの件に関してのコメントを発表しています。とはいえ、抽象的な内容で具体的な経緯の説明にはなっていません。Editor’s Noteへの批判に対しては「物事にはいろんな見方がある」としか触れておらず、編集局の中にも多様な意見があり、議論の末に決まったことだとしています。詳しくはブログ記事を参考にしてください。

編集主幹による釈明コメント

12月6日にジャパンタイムズはエグゼクティブ・エディターのメッセージとして同紙にコメント記事を掲載しました。このコメントで「慰安婦」「徴用工」の表記変更についての「Editor’s Note」について説明しています。

「慰安婦」「徴用工」の表記変更については1年以上前から編集部で議論を重ねた上で決めたことで、賛否両論があり簡単には説明できない事象について客観的な視点で表現できるという理由だとしています。

ただ、11月30日付の「Editor’s Note」では複雑な事柄を十分に説明しなかったことで読者の信頼を損ねたとして謝罪しています。しかし、この表記変更は編集方針には影響を与えないとし、外部による圧力があったのではないかという説は否定しています。

Hiroyasu Mizuno Executive Editor と署名がありますが、この水野博泰取締役編集主幹は、新オーナー会社News2uの役員です。ということは、やはり新オーナー会社が編集方針に関与しているということになるのでしょう。

政府からの圧力があった?

ジャパンタイムズの編集主幹は外部の圧力に屈したという説を否定していますが、外国メディアなどからの情報によるとそれが本当であるかどうか疑問です。

日本政府は慰安婦や徴用工問題に対して、韓国側の主張に対抗する姿勢を見せており、国連人種差別撤廃委員会の慰安婦問題に対する審査の場でも「性奴隷」という表現に抗議しています。これに関連するメディアの扱いにも監視の目を光らせていることが想像されます。

実際、外務副大臣である佐藤まさひさ参議院議員(全国比例・自民党)もジャパンタイムズの表記変更について「これまでの努力の積み重ねの結果か、象徴的な変化だ。」とコメントしています。

まとめ

今回のジャパンタイムズの編集方針変更の陰には、現政権に近いと思われる会社による新聞社の買収により、編集局に何らかの圧力がかかったのではないかという憶測もできますが、はっきりしたことはわかっていません。編集局の中でも表現を変えることに葛藤があったようですが、編集者自身の首がかかっていたらどうしようもないということでしょうか。

追記(2019.1.25)

2019年1月25日付のロイターが焦点:「慰安婦」など表記変更 ジャパンタイムズで何が起きたかいう記事で、この件についてはジャパンタイムズ編集部で論争があったとその様子を伝えています。

「慰安婦」「徴用工」の表記を変えるという編集上層部の決定に記者たちが猛反発したというのです。「反日メディアであることのレッテルをはがしたい。アンチジャパンでは存続できない」と説明する水野取締役編集主幹に記者側はジャーナリズムの自殺行為だと批判しました。翌日に開かれた末松会長とのミーティングでは感情的になり泣き出す記者もいるほどだったそうです。

同記事では、ジャパン・タイムズがニューズ・ツー・ユーに売却され新しく水野取締役が編集主幹となってから、リベラルとの定評を得ていた編集部が変わったことを伝えています。これは、水野編集主幹が政権の意向に沿った編集方針を記者に指示するようになったためです。

ロイターはジャパン・タイムズのこのような編集方針の変更について、ケント・ギルバートなどの保守派は歓迎しているが、「政府より右寄りになってしまった」「メディアが政権寄りの報道姿勢に変遷している」などの意見があると紹介しています。

(敬称略)

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コメント

  1. 行灯 より:

    目を覆いたいアンチジャパンタイムズから、本当に日本のことを書くようになる本来のジャパンタイムズになるんじゃないか?

    いつだって左をやめたら右に振り切ったとか馬鹿なこと言うけど、真ん中に来ただけとは考えられないのか。

    嘘なんていらない。もう沢山だ。
    批判ばっかりする目につくような記事だっていらない。だからといって媚びへつらう記事も結構だ。

    今回の変更が少しでも真実を写し出すきっかけになれば、それで十分に良いことだ。

    言いたい人は一生左とか右とか言っていれば宜しい。

  2. 中道者 より:

    「慰安婦」「徴用工」の表現については多様な(応募、徴用など)方法で集められた人々がいるため、全てが強制的に集められたかのように思わせる、これまでの表記の方が偏っていたと思う。
    国益とか、圧力という問題ではなく、報道の中立性を取り戻しただけと理解した。

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