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二重国籍はどうしていけないのか:東京五輪と大坂なおみ、ノーベル賞とカズオ・イシグロ

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大坂なおみが2020年東京オリンピックに米国人ではなく日本人として出場することにしました。彼女は米国と日本の二重国籍を持ち、22歳の誕生日までにどちらかの国籍を選ばなければならなかったのです。いっぽう、2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロは日本生まれで両親が日本人なのにかかわらず、イギリス国籍を選びました。世界の多くの国同様、日本が二重国籍を許していれば、彼らは悩まなくてよかったのですが。

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オリンピックと国籍

五輪憲章には「個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない」と定められています。でも、現実はメディアもファンも自分の国の選手がメダルを取れば喜び、負けると悔しがって「国の」総メダル数を比較しては一喜一憂しているのが実情ですよね。

2012年のロンドンオリンピックのとき、イギリスのデイリーメールというタブロイド新聞(保守系大衆紙)が’Plastic Brit’ (プラスチック・ブリット)という揶揄で五輪代表になるために国籍をイギリスに変えた選手を非難していたのを思い出します。

当時ロンドンオリンピックのチーム・ブリテンの選手のうち約11%がイギリス国外で生まれた人たちだったそうです。

たとえば、ソマリアで生まれ内戦のためイギリスに移住した男子長距離選手モー・ファラーはインタビューで「ソマリア代表として出場しないのですか」と聞かれ

「私はイギリスで育ち人生をスタートした。ここが自分の国だと思っているし、イギリス代表として走ることに誇りをもっている。」

と答えました。オリンピックでは2位に輝きイギリス国民の大喝采を受け一躍人気者になりました。

二重国籍を許している国は多数

イギリスは植民地があった歴史、昔から移民をたくさん受け入れてきたお国柄、また重国籍を許す法律があることから、その国民の出身地や履歴は実に多彩です。たとえば、ロンドンなどの大都市では生まれも育ちもイギリスの白人がだんだん減ってきて、マルチナショナルな移民やEU国籍の人、またその2世、3世や両親が異なる国出身の子供たち、といろいろ。

それに比べると同じ島国とはいえ日本はまだまだ単一民族のお国柄。それでも国際化は進んでいて国際結婚は1989年に2万組を超え、2006年に44,701組とピークを迎えたそうです。となると、その子供たちの世代に東京五輪に出場する選手がいるということですね。

たとえば、柔道男子100キロ級の日本代表ウルフ・アロン選手はアメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた21歳。日本生まれですが、高校のときは米国代表で出るかどうか迷っていたそうです。でも、日本を選んだとのこと。

もっと若い選手は二重国籍を持つことができるので、どちらの国代表で出場するか自分で選ぶことができます。

重国籍を許しているのはもちろんイギリスだけではなく、世界では多数派です。もともとこれは人権、特に女性の人権にかかわる問題として検討されてきました。

外国人と結婚した場合女性は自分の国籍を捨て夫の国籍を取らねばならず、その子供たちもそれに従うというのが慣例だったことに不満を持った女性たちが意を唱えたのです。米国では、第一次世界大戦中ドイツ人男性を夫に持っていた女性が敵国民とされ差別されました。

1920年に女性が参政権を獲得して以来、この法律を改変しようとする取り組みがなされ、米国では1940年代に重国籍が許されることになったのです。その後、同様に重国籍を許可する国が増えました。その割合は下記のように年々増えてきています。

多重国籍の場合の国籍選択は22歳まで

日本の法律では20歳になる前に日本国籍と共に外国籍を持つ場合、22歳になるまで、20歳になった後に多重国籍となった場合は2年以内に国籍選択をしなければならないことになっているので、その年齢制限までは国籍を2つ持つことができるのです。

たとえば、日本人とイギリス人の間に生まれたハーフの子供はパスポートを2つ持つことができます。そして、22歳になるまでにどちらの国籍にするかを選ぶことになります。日本国籍を選ぶ場合はそれを宣言し「外国籍の離脱」に務めなければなりません。

実際は「離脱に務める」という規定はあっても、本当に外国籍を離脱したのかどうかを厳しく追求したり、離脱しなかった場合の罰則というものもないようです。このあたりは非常にあいまいで、日本政府としては二重国籍をそれほど厳しく取り締まる姿勢はないようですが、かと言って法律は法律です。

厳しく追求する必要がないくらいなら、日本の法律を変えて二重国籍を容認するとしてもいいのではないでしょうか。誰だって進んで法律をおかしたいとは思いませんから。

大人が外国籍を取得すると

ちなみにイギリス在住の私は申請すれば英国籍を取得することはできますが、その場合は日本国籍を返上しなければなりません。イギリスは多重国籍を許していますが、日本のほうが許していないからです。

イギリスは最近、移民に厳しくなりましたが、日本などに比べるとまだ比較的移民や外国人に寛大なほうで、イギリスの永住権さえあればイギリスでの生活に特に不便はありません。

こちらでは永住権さえあれば、普通のイギリス人が得ている恩恵は(義務も)大体受けられます。できないのは選挙で投票できないとか、国会議員になれないくらいでしょうか(なる気はないけど)。 国会議員といえば、イギリスでは二重国籍者も、またイギリス国籍がなくてもアイルランド人や旧植民地などのイギリス連邦(Common Wealth) 加盟国の国民ならなれるのです。

逆に日本では日本国籍がないといろいろ不便なことが多いので、日本国籍はあきらめたくないのです。将来日本に帰ることもあるかもしれないし。二重国籍が許されていれば、悩むことはないのですが。

重国籍に関する日本の法律

イギリス他、多重国籍を認めている国はたくさんあり、グローバル化していく国際情勢の中で新たに法律を見直して二重国籍を認めるようにした国もあります。どうして日本では重国籍を認めていないのでしょうか。

最近、蓮舫氏の国籍問題がとりざたされていましたが、その日本での報道を読んでいると二重国籍は重大犯罪でスパイのような扱いをされているような意見も読みました。個々のケースはそれぞれ違うし、蓮舫氏の立場上複雑な問題も出てくるのだと思いますが、二重国籍であるということがそれだけでそれほどまでに問題視する必要があるのかどうかと、イギリス流の考え方に慣れている私には異様に思えました。

現行の日本の法律に反しているということなのかもしれませんが、日々変遷していく状況の中、法律だけ昔のままだということもあり、その更新を検討する必要がある場合もあるのではないでしょうか。

政府の情報によると日本では平成18年度中に出生した子供の100人に1人以上が重国籍者であるということなので、かなり多くの人がそうした状況にいるわけであり、その数はこれからも増えていくでしょう。

カズオ・イシグロの場合

2017年にカズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞したことは、日本でも大きく報道されました。イギリス国籍ではあるが、日本人の両親から日本で生まれたということをことさら書き立てて喜ばしいことだとしているのが目に付きました。ここ数年ノーベル賞候補だといわれ続けている村上春樹がなかなか受賞できない代わりにカズオ・イシグロがイギリス国籍ではあるが「本当は」日本人なのであるということを強調しているような気がしました。

彼の最初の本2冊は日本がモチーフにされていましたが、彼の代表作「日の名残り」は普通のイギリス人が書くよりイギリス的な印象がする作品でした(私は英語で読んだだけで、日本語訳は読んでいませんが)。

それなのに、何かにつけて日本のルーツと関連付けようとする批評家にカズオ・イシグロ自身も違和感を感じているのではないかと思います。彼は、日本人のご両親とは日本語で話しているそうなので、日常会話くらいはできるだろうと察しますが、「日本語は忘れた」と言い、公では日本語を話さないようです。

彼は22歳になる前に日本国籍を捨て、イギリス国籍をとることに決めました。本人に聞いたわけではありませんが、彼は日本が二重国籍を許していたらそうしていただろうと思います。けれども、彼はどちらかひとつを選ばなくてはならなかったため、イギリスで育ち教育やキャリアもイギリスということ、でやむを得ずイギリス国籍にするしかなかったのでしょう。

たとえば、その当時イギリスで有名なブッカー賞(Booker Prize) を受賞するにはイギリス連邦の国籍が必要だったのです。そして彼は1989年に見事、「日の名残り」で名誉あるブッカー賞を取りました。ブッカー賞が「イギリスで出版され英語で書かれた作品」であれば外国人でも受賞できることになったのは、つい最近の2013年です。

もし、日本が二重国籍を許していれば、カズオ・イシグロという日本人のノーベル賞受賞者が生まれていたのかもしれないのです。

二重国籍のメリットとデメリット

こう考えてくると、国籍をひとつにしなければならない意味ってあるのかと考えたくなります。

一番の理由としては個々が所属する「国」への忠誠の衝突ということでしょう。たとえば、戦争になったとき、どの国の国民として戦うかということでしょうね。でも、戦争に直面しているわけではない私たちにはピンとこない発想ではないでしょうか。また、戦時に国籍とは関係なく自分が住んでいて忠誠を感じている国を代表して戦うということは過去にもあちこちであったことです。

日本が二重国籍を許さない原因は、日本が島国で昔から外国を排除してきた歴史もあり、単一民族国家でありたいと願う保守的な考え方から来るものではないでしょうか。そして、その結果、日本に住んだり訪れたりする外国人や海外に移住する日本人、そして日本人と外国人の間に生まれる子供たちに必要のない制約を加えているだけなのではないのかと感じます。さまざまなルーツを持ちどれか一つの国を選べと言っても難しいと感じる人々は多いはずなのに。

グローバル化する世界での国籍というもの

国籍法は国によって異なるので、多重国籍を許している国もあれば、そうでない国もあり問題は複雑になってきています。

グローバル化に加え、世界中で人の移動が盛んになっています。自らの意思で海外に移住したり働いたりする人が増えているし、難民などで海外に行かざるを得ない人もいます。 国籍は個人のアイデンティティーとは異なり、柔軟性のある概念であり、変更することもあります。個々の生まれ育った環境から、2つの国に強く忠誠や愛着を持っている個人に国籍選択を強いるのは適切でしょうか。

日本では国籍と民族が同一であると考えがちで、普通に日本で生まれ暮らしている日本人は、そうでない人たちのことを考えてみたことがないだけなのかもしれません。ますます国際化していく社会で国を超えた移動や出会いがあるとき、1人の人間が国籍という問題によって人生の選択を迫られることもあるのだということを考えてみてはいかがでしょうか。

海外で活躍する日本人が日本国籍を放棄せずに現地の国籍も取得できるようにすれば活躍の幅も広がるし、その人たちが将来外国と日本を行き来して暮らしたり仕事をするようになれば、日本社会にも益があって害はないのではないかと私は思います。

アイルランド国籍をとるイギリス人

余談ですが、イギリスではEU離脱の危機を感じた人たちがあわてて二重国籍をとり始めていると聞きました。今のところ、EU離脱後イギリス人のEU加盟国での扱いがどうなるのかまだ決まっていないのですが。

イギリスは昔からお隣のアイルランドから来た移民が多いのですが、このアイリッシュ系の人たちがアイルランド国籍をとり始めているそうです。英国のEU離脱後でもEU加盟国であるアイルランド国籍を持っていればEU域内を自由に移動したり、働いたりできるだろうという考えです。

アイルランドは移民受け入れに寛大で、祖父母または両親のうち1人がアイルランド人であれば、アイルランド国籍を取得する資格があります。アイルランド人、特にカトリック系は避妊を禁じられていたこともあって子沢山が多いので、潜在的な Plastic Irish 「にわかアイルランド人」はすごい数に上ります。アイルランドの国籍を取得する資格があるイギリス人は600万人ともいわれているので、現在のアイルランドの人口(約476万人)より多いというわけです。

アイルランドでは1840年代に起きたジャガイモ飢饉で人口が激減しました。1841年の人口は約800万人いたそうですが、飢饉で10年間にほぼ150万人が死亡または国外脱出したそうです。その人口は今だに復活してないわけですが、英国EU離脱のおかげでアイルランドの人口が戻るチャンスかもしれません。

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