5月31日は世界禁煙デー、世界保健機関(WHO)が世界中で禁煙を推進するために定めた日です。これにちなんで日本でも5月31日から1週間を禁煙週間とするなどして禁煙への取り組みを行っています。禁煙後進国と言われている日本ですが、外国に比べるとどうなのでしょうか。室内禁煙が導入されてから10年になるイギリスでどのような取り組みがなされているのか、その事情を紹介します。
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世界禁煙デー
5月31日は世界保健機関(WHO:World Health Organization)が定めた世界禁煙デー(World No Tobacco Day)毎年700万人が死亡する原因となるタバコの害について世界中の人に知らせ、少しでも多くの人に禁煙をするように促す取り組みです。
WHOでは今年、喫煙が心血管疾患に及ぼす影響に焦点を当てています。
毎年喫煙が原因で心血管疾患によって死亡する人の数は200万人に上ります。
喫煙は狭心症、心筋梗塞などの冠状動脈性心疾患(かんじょうどうみゃくせいしんしっかん)、脳卒中、末梢血管疾患などのリスクを高めるのです。
イギリスで禁煙導入から10年
イギリスで室内禁煙が導入されたのは2007年なので、今年で10年になります。
この法律は喫煙に関するイギリス人の態度をがらりと変えるもので、公共の建物や交通機関、職場、飲食店などすべて室内全面禁煙を実現しました。
とはいえ、この法律が導入される直前まで強い反対意見が挙がっていたのです。
喫煙室を設けて分煙することや、ある種の建物を全面禁煙から除外するなど、ちょうど今日本で議論されているような案も出ていました。
けれども、中途半端にするよりは一気に禁煙を導入すべきだという案が最終的には通りました。一足先の2004年に、すでに禁煙を導入していた隣国、アイルランドがお手本としてあったことが後押ししたのかもしれません。
ロイ・キャッスル肺がん財団
イギリスで当時有名なエンターティナーであったロイ・キャッスルはタップダンサー、コメディアン、俳優、ジャズ・ミュージシャン(トランペット、ヴォーカル)、テレビプレゼンターと多彩な才能を持つ人気者でした。
自らはタバコを吸わないのにも関わらず肺がんにかかり、その原因は小さなジャズクラブでトランペット演奏していたころの受動喫煙によると語りました。
「その頃のジャズクラブは小さい部屋がタバコの煙でもうもうとしていた。
そんな部屋の中でトランペットを吹くためには肺一杯に息を吸い込まなければならなかったんだ。」
1992年に肺がんにかかったと診断された後、がんを克服するため治療を続けましたが、そのかいもなく1994年に62歳で亡くなりました。
彼は自らが肺がんにかかったと診断された時、「ロイ・キャッスル肺がん財団」を設立しがん研究のために基金を募りました。
そして彼が亡くなったあと、ロイ・キャッスルの妻フィオナは禁煙導入のための運動を続けました。
当時、喫煙が健康に悪いことは周知の事実でしたが、受動喫煙についての理解はまだ知れ渡っていませんでした。
タバコを吸わなかったロイ・キャッスルという有名人が受動喫煙によって肺がんにかかり亡くなったということで受動喫煙の危険度の認識が高まりました。
こうして、この運動もイギリスの室内禁煙導入のために一役かったのです。
禁煙導入から10年たった結果は?
さて、2007年に全面禁煙が導入された結果はどうなったのでしょうか。
イギリス人は一般的に法を順守する国民で、この場合も同様でした。
禁煙導入直後の18か月間、600,000の建物で禁煙が正しく施行されているかどうか審査されたところ、98.2%が法律を守っていました。
また、室内禁煙についての国民の支持も上がり続けています。
パブでは
イギリスというとパブ(居酒屋)がつきもの。そして、パブとお酒というとタバコがつきものです。
普段あまりタバコを吸わない人でもお酒を飲むとタバコや葉巻を吸いたくなる人も多いもの。
なので、パブで禁煙するというのは商売あがったりだと思われていましたが、いざふたを開けてみると、タバコを吸いたくなったら外で吸うというのがすぐ当たり前になってきました。
その上、ただアルコールだけを出すパブではなく「ガストロパブ」と呼ばれる、おいしい食事を目玉にするところや子供連れの家族を対象にするところが増えてきました。
それまではタバコでもうもうのパブを敬遠していた家族連れがそういうところに行くようになり、そのようなパブでは客単価も増え売り上げが上がるという結果になっています。
また、パブのスタッフの健康状態を調査したところ、受動喫煙による影響が高いとされる疾患にかかる比率が減っています。
2007年に約65%だった呼吸器疾患が2008年には40%に減っていました。
室内禁煙導入によって、パブで働く人の健康状態も良くなったということです。
イギリス人の喫煙率は
日本と同様、イギリスの喫煙率はだんだん減ってきて、現在は17%となっています。
とはいえ、この傾向は禁煙導入前から続いているもので、1974年に45%だった喫煙率が禁煙が導入された2007年にはすでに20%に減っていました。
2007年に喫煙の最低年齢が16歳から18歳に引き上げられたこともあり、特に若者の喫煙率が減っていて、16歳以下の喫煙率は5%になっています。
喫煙率はずっと下がり続けているので、禁煙導入じたいに効果があったのかどうかを推測するのは難しいところですが、インタビュー調査によると効果があったようです。
元喫煙者で禁煙した人のうち14%が禁煙導入がタバコをやめることに効果があったと答えています。
また、喫煙者のうち20%が禁煙導入がタバコの量を減らすことに効果があったとしています。
NHS国民医療サービスでは無料の禁煙サービスを提供していますが、その利用者が禁煙導入直後に23%増えているという結果もあります。
また禁煙導入後、心臓発作で病院に運ばれる人が2.4%(1200人)減ったという統計も出ています。
肺がんの85%は喫煙が原因と言われていますが、肺がんと喫煙の関係には長期的なギャップがあるのでその効果を図るのは難しいとされています。
喫煙率でいうと、低所得者層(19%)は高所得者層(10.7%)に比べ2倍喫煙率が高くなっていて、前者の喫煙確率をどう減らしていくかが今後の課題となっています。
イギリスの禁煙の取り組み
イギリスでは室内の全面禁煙のほかにも禁煙のために様々な取り組みがなされています。
下記はイングランドで導入された喫煙規制のリストです。
2007年10月 タバコ購入の年齢制限が16歳から18歳に引き上げられた。
2008年10月 タバコのパッケージに写真(侵された臓器などグロテスクなもの)入りの健康被害警告が導入された。
2011年10月 タバコの自動販売機が禁止
2012年4月 店舗でのタバコ販売時、タバコが目に見えるところに陳列されるのが禁止
2015年10月 子供が同乗している車両での喫煙禁止
2016年5月 すべてのブランドのタバコのパッケージ均一化
また、地方によってはより厳しい喫煙規制を導入しているところがあります。
例えば屋外でも公園、広場、レストランやパブの外、学校や病院の敷地内でも禁煙を導入するなど。
今やイギリスではタバコを吸う人は肩身が狭い思いをすることになります。
特に一定の階級(中流)以上の人が喫煙者であることを認めるのは恥ずかしいことだという風潮があります。
健康に悪いことがわかっているし、周りにも迷惑をかけるのに喫煙するのは、意思が弱く自己管理ができない人ということで、いい印象を与えません。
そのため、就職や昇進などの妨げになることもあるので、喫煙者もそれを隠したりします。
喫煙はがんなどの原因
喫煙が多くのがんの原因になるということは周知の事実です。
特に男性で影響が大きく、がんにかかる人の29.7%、がん死亡の34.4%が喫煙の影響によるものと推定されています。(女性は5%、6.2%)
つまり、タバコを吸わないことでがんのリスクを大幅に減らすことができるのです。
喫煙が肺がんの原因になることは知られていますが、同様に胃がん、食道がん、子宮頸がんのリスクを上げることは「確実」です。
肝がんも「ほぼ確実」大腸がん、乳がんも「可能性あり」とされています。
また、喫煙は心筋梗塞や脳卒中のリスクも高めます。タバコを吸っていると免疫機能も下がるため、インフルエンザにかかるリスクは2.42倍に重症化するリスクは2.81倍になります。
また、自らがタバコを吸わなくても、受動喫煙で健康を脅かされている人々もいます。
たとえば喫煙者と同居している女性はパートナーからの影響が無視できず、がんにかかる人の1.2%、がん死亡の1.6%が受動喫煙のためと推計されています。
まとめ
日本は禁煙後進国と呼ばれていることもあり、東京五輪などに向けて早急に禁煙対策を導入すべきだと言われています。
室内禁煙を導入するための協議が重ねられた結果、結局は部分禁煙にとどまり、小規模の飲食店は除外される見込みです。
イギリスやほかの国の試みをみてみると、部分禁煙には効果がないことがわかっているので残念です。
小規模店舗で喫煙が続くとなると、密閉した小さな空間で働くスタッフの受動喫煙も気になります。
せっかく禁煙を実施する絶好のチャンスなので、機会損失がないことを祈ります。
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