新型コロナウィルスワクチンの接種が世界で進んでいて、イスラエル、英国、米国などは特に出だしが早く先行しています。私もイギリスでアストラゼネカワクチンを2回接種済です。ワクチンの副作用やそれについての報道や政府のコミュニケーションなどについてお話しします。
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コロナワクチン世界の接種状況
新型コロナウィルスワクチンの2021年4月28日においての世界各国の接種状況はこちらです。
少なくとも1度の接種を終えた人がそれぞれの全人口に占める割合となっています。
イギリスのワクチン接種状況
イギリスでは2020年12月に世界で初めてオックスフォード・アストラゼネカ製ワクチンを承認し、一般接種が始まりました。
医療・介護従事者、高齢者、基礎疾患のある人など、優先順位グループに分けて、段階的に接種が進められていて、毎日40~50万の割合でワクチン接種が行われています。
接種ができる段階になると個別に「ワクチン接種の申し込みをしてください」という手紙が来て、電話またはオンラインで申し込みをします。
予約システムは全国で統一されていて、必要な情報を入力すると郵便番号に基づいて接種会場や日時のオプションが示され、その中から希望するオプションを選ぶだけと、とても簡単でスムーズです。
その時点で1度目、2度目の接種を予約し、あとはそれに従って接種会場へ行けばいいだけです。
1度目の接種は最寄りの接種会場の予約がすぐに取れなかったので隣町の大きな接種会場を選びましたが、2度目の接種は家の近くの薬局の予約を取りました。
1度目のワクチン接種はすでに済ませましたが、NHS国民医療サービスのスタッフとたくさんのヴォランティアに助けられて、とてもスムーズでした。受付から接種を終えるまで15分くらいですみました。
ワクチン副作用
アストラゼネカのワクチンを接種した私の場合は副作用どころか、注射を打ったのかどうかわからないほどあっけなく終わり、本当にワクチンが効いているのかどうか疑いたくなくくらいでした。とはいえ、副作用があったという話も聞くので、これには個人差があるようです。
アストラゼネカ製やジョンソン&ジョンソン製のワクチンにより血栓の副作用が出るという疑いがあり、ヨーロッパの一部の国でワクチン接種を一時停止したところや一定の年齢層以上にだけ接種する方針に変えたところがありました。
WHO(世界保健機関)はアストラゼネカワクチンと血栓の関連性はないと主張し、 欧州医薬品庁(European Medicines Agency)も調査の結果、ワクチンと血栓に直接的な因果関係は認められず、ワクチン接種を再開すべきとしました。
ワクチン接種を一時的にせよ停止したことを懸念する専門家の声も多く、フランスでは、50歳以上を対象とする場合、10万人分のワクチン接種が1日遅れるごとに15人が死に至ると分析されました。短期間の接種中止で重症化や死に至る人が出るだけでなく、ワクチンへの一般の不安を煽るのも懸念されています。
どんな薬やワクチンにも副作用があり、ワクチンによって命が救われる人がワクチンの副反応によって亡くなる人よりも多い場合、ワクチン接種をやめるべきではないというのが公衆衛生の考え方です。
2021年初めコロナによる重症者数や死者数が多かったイギリスにおいては、ワクチン副反応による死者が100万人当たり66人未満である限りはワクチン接種を続けるべきだという判断でした。
血栓が起きる確率はアストラゼネカワクチンで100万人に4人、J&Jワクチンは100万人に1人と言われていました。コロナにかかると3%が死に至ることを考えると、ワクチンを打たない方がリスクが高いといえるのです。
通常の薬の副作用でも、100万人に100人起きたら「とてもまれ」と言われるので、これくらいは許容範囲だという考え方です。
血栓をとっても、経口避妊薬、妊娠や喫煙が原因で起こる確率の方がワクチンの場合よりずっと高いし、コロナウィルスに感染して血栓が起きる可能性は16.5%です。
血栓リスクの統計
・0.0004%:AstraZenecaコロナワクチン
・0.05-0.12%:経口避妊薬
・0.18%:喫煙
・16.5%:新型コロナウィルス感染ワクチンによる血栓リスクは妊娠や避妊によるものよりずっと少ない。 https://t.co/8pYfsPKD99
— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) April 14, 2021
ワクチンに関するリスク・コミュニケーション
アストラゼネカ製ワクチンの副作用としての血栓が問題となり、ヨーロッパで使用を取りやめる国も出ていた時でもイギリス国民は比較的冷静に受け止めていました。
政治家だけでなく専門家が科学的根拠に基づいて国民に説明したからです。
ジョナサン・バン・タム副主席医務官はワクチン接種のベネフィットとまれに起きる副作用のリスクを比較したデータを見せて説明しました。
感染状況を低・中・高リスクに分け、各状況において年齢グループ別のコスト・ベネフィットのバランスを示し、ほとんどの状況において副作用リスクよりもワクチンによって重症化を防ぐベネフィットのほうが大きいことを説明。
英バン・タム教授が3つのシナリオを想定して説明。
イギリスの現況、中リスク(1万人中6ケース)の場合はワクチンにより重症化を防ぐベネフィットがすべての年齢層においてワクチンによる副反応リスクより大きい。
高リスク(1万人中20ケース:多くのヨーロッパ諸国の現状)だと、それがもっと顕著。 pic.twitter.com/LZ4gBQY4bH— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) April 7, 2021
感染状況が高リスク(1万人中20ケース)だと、すべての年齢層において、ワクチン接種によるベネフィットのほうがリスクの可能性よりもずっと大きいため、ワクチン接種が推奨される。 pic.twitter.com/vGxhbhjblj
— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) April 7, 2021
唯一の例外は、感染状況がそれほどひどくない場合のみ、30歳以下の年齢層はコロナで重症化する可能性が低いので、ワクチンの副作用リスクのほうが大きくなります。
イギリスは感染状況は「中」の状況でしたが、これから「低」に移行する傾向にあったので、このデータに基づき、30歳以下の年齢層グループにはアストラゼネカ以外のワクチンを接種する方針を決めました。
このような、科学的根拠に基づいた説明を聞くことで、イギリス国民は血栓などの副作用のリスクがあるにせよ、ワクチン接種によってもたらされる恩恵のほうが大きいということを理解しています。
イギリスでワクチン接種を希望する人の確率が高い背景には、こういう、感情に訴えるのではなく、科学的根拠に基づいたリスクコミュニケーションがきちんとなされているところが大きいと思います。
ワクチン接種後亡くなった人の家族の訴え
私が個人的に感銘を受けたのは、実の弟(兄?)がワクチン接種後に死亡したという女性の呼びかけです。
この59歳の男性はアストラゼネカ製ワクチンを接種2週間後に脳に血栓が見つかり、その後亡くなったのですが、この女性はイギリス国民に呼びかけるために取材に応じました。
家族を亡くしたことは大変につらいことだが、彼は運が悪かっただけであり、他の人たちにおそれずにワクチンを接種し続けてほしいと訴えたのです。
この女性は薬剤師だそうで、ワクチン接種について広くイギリス国民にメッセージを伝えたかったということです。
59歳の英男性
3/17アストラゼネカワクチン接種
1週間後、頭痛とめまい
8日後、視力が低下
4/2 入院、脳に血栓が見つかる
4/4 死亡薬剤師の姉(妹?)
「家族としては断腸の思い。
でも、彼はとても運が悪かっただけ。
他の人たちはこのワクチンを接種し続けてほしい。」https://t.co/GTEmHAVgFY— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) April 8, 2021
私もワクチンを受けるにあたって副作用があったらどうしようという思いはありました。けれどもこの人のメッセージを聞いて考え方が変わりました。
そもそも通常のワクチン開発は何年もかかるのに、このコロナワクチンがこんなに早く一般接種できるようになったのは、治験段階でたくさんの人がリスクを承知で接種してくれたからです。
もし万が一副作用で自分の身に何かあったとしても、それはそれで他の多くの人のためになるのだからと納得できるという思いに変わりました。
ワクチン信頼性調査
下記は新型コロナウィルスワクチンについて接種をしたいかどうかを2020年12月と2021年2月に問いかけた調査の結果です。
青が「同意する」ピンクが「同意しない」ですが、日本(JPN)は「同意する」人が少なく、イギリス(UK)は一番高いことがわかります。
下記は「新型コロナウィルスワクチンを信頼していますか」という質問の答えです。
濃いブルーが「とても信頼する」ブルーが「まあまあ信頼する」水色が「少し信頼する」ピンクが「全く信頼しない」です。
日本(JPN)では「まあまあ」と「少し」信頼する人が多いですが「全く信頼しない」人もかなりいます。イギリス(UK)では「とても」「まあまあ」信頼する人がほとんどです。
出典:Global attitudes towards a Covid-19 vaccine by Imperial College London (Feb 2021)
イギリス人と日本人のワクチンに対する考え方がとても対照的なのに驚きました。
これには、この調査が行われたときにイギリスでは新型コロナウィルスによる感染者や死亡者数がかなり多かったのに比べ、日本では被害がそれほど大きくなかったこともあるでしょう。
とはいえ、それだけとは言えません。私はテレビは見ませんが、イギリスと日本のメディア報道や政府や医療保険関係者、専門家の発信を比べてのちがいがわかるのでさもありなんという気がします。
イギリスではエヴィデンスに基づいたデータを使って科学的な情報を一般にもわかりやすいように説明するのに対し、日本では何かと感情に訴えるような発信や報道が多いのです。
日本の政府や専門家の発表は「がんばりましょう」「もうひとふんばりです」「今は我慢してください」というようなものが多く、的を得ません。
詳しいデータを知ろうとすると、数字や専門的な用語がびっしり並ぶとっつきにくいサイトばかり出てきます。(例外的に和歌山県など一部の自治体のサイトに秀逸なものがありました。)
ワクチンもただ「安全なのでうちましょう」と言うだけでは、副作用や有効性について懐疑的な人を説得するのは難しいのではないでしょうか。
日本のワクチン報道
日本では子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の副反応について一部でセンセーショナルに取り上げられた結果、ワクチン接種が進まず、政府がワクチン接種の積極的奨励を取りやめた経緯があります。
そのせいで日本でだけ子宮頸がんでの死亡者が多いという実害が起きているのです。
日本で一般的にワクチンに対する信頼度が低い傾向にあるのは、こういう報道の在り方にも理由があるのではないかと思います。
新型コロナウィルスワクチンについての日本の報道ぶりも首をかしげるものがあります。
「ワクチン接種後死亡」などという見出しで、因果関係の確認もないのに、さもワクチンのせいで死亡したような書き方をして誤解を招くようなものです。
ワクチンに対する不安を煽ったり、副反応について強調したり、ワクチン有効性について疑問を与えたりするような報道は実被害につながることもあり得ます。このような報道については厳しい目を向けるほか、メディアも報道に責任を持つべきです。
もちろん、一般読者もセンセーショナルな見出しに惑わされることなく、自ら信頼のおける情報を自分で選び取ることが重要です。
ワクチン懐疑派をどう説得するか
「自分はワクチンとそのリスクやベネフィットについて正しく理解しているけれど、家族や友人が誤った情報を信じ込んでいてワクチンを受けようとしないので困っている」という話も聞きます。
そういうときにどうやって説得するかですが、よくやりがちなのが、自分が正しいのであるからと正論を述べて相手を納得させようとする方法です。
そうではなく、相手の不安に寄り添ってその感情を理解した上で正しい情報を提供した上で、自らワクチンを接種したいと思えるように導くアプローチがいいというアドバイスがあります。
「ワクチン接種が不安な人にどう説明したらいいか?」
新型コロナワクチンコミュニケーションガイドブックありがちな教育や指導に基づいたアプローチではなく、ワクチン接種が不安な人の思いを聞いた上で正しい情報を提供するといい。https://t.co/PWASgQrdrS pic.twitter.com/WjyTL9VHzV
— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) April 28, 2021
このアドバイスはワクチンに限らず、様々な場合に使えるアプローチで、個人的にも勉強になりました。
コロナワクチンに関してはイギリス人には必要ないアドバイスですが、日本にいる家族や友人でワクチン接種をためらっている人がいたら、参考になりそうです。
これから日本でも医療従事者や高齢者を中心に本格的にワクチン接種が始まりますね。
大阪を中心として感染が拡大している状況なので、少しでも早くたくさんの方にワクチンがいきわたるように願っています。