日本のブラック企業大賞に9社がノミネートされたとして企業名が発表されました。どんな企業がノミネートされているのでしょうか?
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ブラック企業とは
一言で「ブラック企業」と言ってもどういう企業を指すのか、その定義はまちまちです。一般的には労働基準法などの労働者を守る法令を無視し、違法労働、長時間労働、過重労働、劣悪な労働環境、パワハラ等によって従業員を半ば強制的に働かせる企業を指します。
新興産業を主に若者を大量に採用し、使い潰して次々と離職に追い込む成長企業もあれば、伝統的な企業でも長期雇用や年功賃金、企業福祉と引き換えに長時間労働や単身赴任をはじめとする企業側の強大かつ一方的な命令の元で従業員を支配している企業もあります。
最近では、長期雇用や企業福祉が約束されないのにもかかわらず、従業員へのしめつけだけはそのまま、ときには強化されていることもあり、その被害対象は正社員だけでなく、派遣社員やアルバイトにも及びます。
ブラック企業大賞実行委員会
ブラック企業大賞は日本においてブラック企業が生み出される背景や社会構造の問題を広く伝え、誰もが安心して働ける環境をつくることを目的として2012年に始まりました。
この対象を運営するのは、作家や弁護士、大学教授、ジャーナリストなどで構成される委員会です。企画委員には下記の人たちがいます。
- 古川琢也(ルポライター)
- 白石草(Our Planet-TV 代表)
- 河添誠(首都圏青年ユニオン青年非正規労働センター事務局長
- 佐々木亮(弁護士)
- 川村亮平(NPO 法人POSSE事務局長)
- 松本千枝(レイバーネット日本)
- 内田聖子(アジア太平洋資料センターPARC事務局長)
- 須田光昭(全国一般東京東部労働組合書記長)
- 水島宏明(ジャーナリスト・法政大学教授)
- 竹信三恵子(ジャーナリスト・和光大学教授)
- 土屋トカチ(映画監督)
これまでの大賞受賞企業は?
これまでのブラック企業大賞受賞社は下記のとおりです。
2012年 東京電力株式会社
2013年 ワタミフードサービス
2014年 株式会社ヤマダ電機
2015年 株式会社セブンイレブンジャパン
2016年 株式会社電通
東京電力は原発建設現場での被爆労働、特に福島第一原発事故の復旧作業で従業員に被爆労働させたこと、被ばく線量の偽装工作、下請け会社の原発労働者の健康を守る責任を放棄したことなどが受賞理由に上げられています。
ワタミフードサービスは過労自殺者を労災認定されながらその責任を認めようとしなかったこと、セブンイレブンはフランチャイズオーナーの見切り販売をする権利の妨害などが受賞の理由となっていました。
また、新入社員がパワハラ、長時間労働で精神的に追い込まれて過労自殺した電通は、過去にも2度も過労死を出したこと、2015年には是正勧告を受けたにも関わらず再び過労死を出したこと、企業内にパワハラ・セクハラが蔓延していることが指摘されています。
2017年ブラック企業大賞ノミネート社
ブラック企業大賞は裁判において企業側の非が確定した案件や、行政処分がなされた企業など、広く社会的に明白な問題があるとされた企業を対象に選ばれています。
11月27日にノミネートされた9社は以下のとおりです。
- ゼリア新薬
- いなげや
- パナソニック
- 新潟市民病院
- NHK
- 引越社
- 大成建設
- 三振建設
- 大和ハウス工業
- ヤマト運輸
今後、インターネットでの一般投票などを行い12月23日に大賞の発表、授賞式が開かれる予定です。
今年の大賞ノミネート社の受賞理由は?
ゼリア新薬
2013年4月に医療情報担当者として入社した当時22歳の新入社員が新人研修受講中に同期の前で吃音やいじめ体験を告白させられたりしたことから強い心理的負荷を受け精神疾患を発症。自宅に買える途中で自ら命を絶ちました。男性の自殺は2015年5月に労災と認定されました。
いなげや
2014年5月埼玉県志木市の志木柏町店のチーフだった社員が勤務中に入院。一度は職務に復帰したものの、店の駐車場で倒れているところを発見され、意識が戻らないまま脳溢血で死亡しました。男性の死は2016年6月に労災と認定。男性の発症前4ヶ月の時間外労働は96時間35分、またタイムカード打刻前後にもサービス残業をが行われていました。
パナソニック
2016年6月パナソニックデバイスソリューション事業部で働く40代の男性社員が自殺し「過労自殺」と認定されました。この社員の残業時間は2016年5月で100時間を超えていたということです。また、この調査により他の社員にも違法な長時間残業をさせていたことが発見され書類送検されています。雇用関係がないとしていますが、同社の工場で働いていた下請け会社の社員も過労死として認定されています。
新潟市民病院
2016年1月女性研修医(当時37歳)が睡眠薬を服用して自殺しました。この研修医の実際の月平均残業時間は187時間、最も長いときは月に251時間だったにもかかわらず、女性は時間外労働を48時間として申告していました。亡くなる直前女性は「仕事にいきたくない、人とも会いたくない」ともらしていたそうです。
NHK
NHKは2013年7月に首都圏放送センターの女性記者(当時31歳)が過労死し、労基署が長時間労働による過労死として労災認定していたことを今年10月になって発表しました。記者が亡くなる直前の1ヶ月の時間外労働は159時間37分、遺族側の調査では209時間とされています。実行委員会は「昨年の電通事件に引き続き、メディアに関連しており、若い女性の過労死事案としてノミネートした」と理由を述べています。
引越社
男性営業社員をシュレッダー係に配転した後懲戒解雇し、その理由を「罪状」などと記載して男性の顔写真を入れた書類を引越社グループの店舗に掲示。また、同様の文面を全従業員に送る社内報にも掲載しました。男性が労働組合に加入したことにより労組から脱退を促す行為だったとされています。
大成建設、三信建設
東京オリンピック・パラリンピックで使用するメインスタジアム新国立競技場の建設工事の元請け企業である同社で、今年3月新人男性社員(当時23歳)が自殺し、長時間労働による過労が原因の労災であると認定されました。男性が自殺する前の1ヶ月の残業は約190時間だったそうです。
大和ハウス工業
2017年9月埼玉西支社に営業職として勤務していた20代男性が違法な時間外労働をさせられ、同年6月29日付で是正勧告を受けていましたが、その後も多量の業務を課せられ深夜まで残業せざるを得ず、2015年5月の残業は109時間。うつ病になった男性は退職を余儀なくされました。
ヤマト運輸
パート従業員の勤務時間改ざん、賃金の未払いが理由で労働基準監督署から是正勧告を受けました。また、セールスドライバーに残業時間上限を超える月102時間の残業を違法にさせていたとして、労働基準法違反の疑いで書類送検されています。
まとめ
日本の労働現場はますます悪化の一途をたどっていくようです。ブラック企業に代表される典型的な例は社会的にも注目されつつはあり、企業側の改善努力も見受けられるところもあります。
しかし、日本ではブラック企業などを生み出す社会的・経済的・歴史的な構造にそもそも問題があるので、働く現場全体の質の向上にはなかなかつながらないようです。
ブラック企業大賞に代表される極端な例だけでなく、日本全体で、行政、企業、働く人全員が働きやすい職場環境にする努力を続け取り組んで行かなければならない問題でしょう。
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