Last Updated on 2019-12-27 by ラヴリー
有名イタリアブランド、ドルチェ&ガッバーナ(Dolce and Gabbana)通称 D&G またはドルガバが中国を相手にプロモ動画に端を発する炎上事件を起こしました。この騒動で中国ではドルガバをボイコットする騒ぎとなり、D&G創立者2人が動画で謝罪をするという顛末となりました。どうしてこのような騒ぎになったのか、発端となった動画と共に経過を追っていきましょう。(2019年12月更新)
Contents
D&G プロモ動画
ことの発端となった動画はこちらの3編のプロモーションビデオです。
(追記:のちに、こちらの動画は削除されてしまいました。)
最初この動画を見た時、私はどうしてこれが炎上するまでの事件に発展したのかよくわかりませんでした。別に優れたプロモ動画とは思えないし、お箸の文化を尊敬していないところが見て取れますが、特に中国を侮辱しているというわけでもないと思ったのです。
けれども炎上の原因はこの動画ではなく、その後のD&G創立者の1人ステファノ・ガッバーナがインスタグラムで有人に語った差別発言が公開されてしまったことだということがわかりました。
詳しい説明はこの方のツイッタースレッドがとても分かりやすかったのでご紹介します。
中国でブランドを展開する人も多いので昨日のドルガバの事件を解説します。
— なつよ (@chinshonatsuyo) 2018年11月22日
要するにこういう事のようです。
1. D&Gが上海ショーのプロモーション動画を3本アップする。
2. この動画が中国を侮辱しているのではないかと問題視する声があったので weibo(中国で人気のSNS)から削除される。
3. この件についてD&G創立者の1人ステファノ・ガッバーナが友人とのやり取りで下記のように語ったことが公表される。
動画が中国のSNSで削除されてしまった。私のチームの中国人もだが、中国も馬鹿だからだ。私はこれを削除する気は全くなかった。
これからの取材でも中国は糞な国だと言っていく。中国なんてなくたってやっていける。
中国なんて無知で汚くて臭いマフィアだ。
4. このやり取りがリークされて中国中で広まってしまう。
5. ガッバーナはその後「アカウントがハッキングされていたので、私の発言ではない。」と投稿するが、その真偽は不明。
6. 結果的にはこの一件がわずか一日で広まり、上海のショーに招待されていた芸能人、インフルエンサー、モデルなど全員がショーをボイコット。
7. そして、中国すべてのECサイトからドルガバが消えるという状況に。
ドルガバの謝罪
ドルチェ&ガッバーナの2人は一連の騒動の後、公式アカウントに中国でのショー中止についての謝罪をします。1分半ほどの謝罪動画は下記の通り。
Dolce&Gabbana apologizes. pic.twitter.com/eVLoHylnq6
— Dolce & Gabbana (@dolcegabbana) 2018年11月23日
動画で、2人は「世界中の中国人の方々に深くお詫びします。」として、2人が世界中の人と文化を尊敬するように育てられたこと、中国と中国文化が好きであるということを述べました。最期に中国語でも謝罪しています。
この動画は英語と中国語の字幕付きで公開され、中国のSNSであるWeiboにもアップされました。
ドルガバの問題発言は初めてではない
実はドルガバは以前から人種差別など様々なトンデモ発言で物議をかもしていた経緯があります。そして、これは中国人に対してだけではありません。今年の春、ガッバーナは日本人を差別する発言もしています。たぶん日本の企業から買収のオファーがあったのではないかと思われるのですが、
「私たちが死んだらD&Gは終わり。日本人デザイナーなどにドルガバブランドをデザインしてもらいたくない」と言っていたのです。
ほかにも彼の問題発言はいたるところで物議をかもしています。以前は世界中で人気を誇るセレナ・ゴメスのことを「ブス」と言って総スカンを食らったこともあるし、レディーガガのスーパーボウルでのパフォーマンスについて彼女が太りすぎだとほのめかしたことも。
ガッバーナはD&G創立者のもう一人であるドメニコ・ドルチェとゲイカップルだったのですが、家族に関しては「伝統的な」家族形態で育てることがいいと思っているようです。同性愛家族が対外受精で生まれる子供を育てたり、ゲイによる養子縁組に反対しています。体外受精で生まれる子供を「人工的」と述べたのですが、これにはゲイ・コミュニティからも批判を受けました。
夫との間に体外受精により2人の子供を授かっているエルトン・ジョンはこの発言について激怒しドルチェ&ガッバーナの服を着ないと宣言したという経緯もあります。
白人の非白人差別
ドルガバ炎上の根底にあるのは白人が持つ有色人種差別であり、この感情は未だに多くの白人が心の奥底に抱いているものと言っていいでしょう。米国での黒人差別や欧米諸国でのムスリム差別の問題に比べると目立たないかもしれませんが、大っぴらには言わずとも欧米諸国に住む白人が中国人、日本人、韓国人などを差別する感情はなくなってはいません。
ファッション業界など華やかな場所にいる人々の間では特に未だに黄色人種を蔑んで文化的優位性を信じている人が多いようです。また、特に「食」に関してはイタリア人やフランス人は自国の食べ物が一番と思っていて、それを「西洋風」のカトラリーを使わず箸のような「変な棒」を使って食べるなんてと馬鹿にしているところがあるでしょう。
私にしてみればナイフやフォークのような金属でできた凶器のようなものを使って食べることこそ狩猟時代の名残りの野蛮な文化であり、自然素材でできた箸で骨付きの魚でも器用に食すことができる文化の方が上品だと思いますが。
ブルックリン・ベッカムの中国人差別
白人の中国人差別といえば先月も元サッカー選手デヴィッド・ベッカムの長男、ブルックリン・ベッカムが中国人に対して差別発言をしたことも話題になっていました。ヴェニスを旅行していたブルックリンが中国人旅行者がゴンドラに乗っているところやスーパーで買い物をしているところを撮って自身のインスタグラムにアップし「イタリアらしくない。」とコメントしていたのです。
これを見た中国人から「無断で他人を隠し撮りするとは」「中国人があちこちを旅行するのはお金と時間があり、目立つのは単に人口が多いから。どうしてそれがいけないのか」「あなただってイタリアに旅行してるけど、イタリア人じゃない」などと批判が殺到。中には「あなたなんて何物でもない、ただ有名な父親の名声に甘えているだけの子ども。そしてお父さんが築き上げてきた名声をあなたがこわしている。」と辛らつなコメントも。「デヴィッド・ベッカムとヴィクトリア・ベッカム夫妻はこれまで中国でさんざん金儲けをしているけれど、息子を中国に連れてくるのは止めてほしい」という声も上がっていました。
中国にも人種差別の例が
これまで白人が中国人など非白人を差別する話をしてきましたが、中国でも人種差別的なCMを作って問題になったことがあります。2016年のことですが、洗剤のコマーシャルで、こういうのがあったのです。
中国人の女性が黒人を洗濯機に入れて洗ったらイケメン中国人(?)になって出てきたというのですから、これは明らかに黒人を侮辱している内容です。これには、欧米諸国から「中国のマーケティング担当者は人種教育を受けていないのか」と批判が殺到しました。
始めは中国メディアも洗剤会社も「悪気はなかった」「気にしすぎだ」と弁解していたようですが、あまりの批判の多さに根負けしてこのCMは放送中止されたそうです。
こういう例を見てみると人種差別もお互い様という気もするし、肌の色は白ければ白い方がいいとする「世界常識」が未だにまかり通っていることを感じます。
中国人と日本人の差別に対する対応
今回のD&G 炎上事件で驚いたのはこの問題についての中国人の連帯感と上海ショー中止やドルガバボイコットに至るまでのスピード感です。文字通り一夜にして中国市場が消えたわけなのですから、当のドルガバも驚いたことでしょう。
日本人ならこういう動画を作られて中国みたいにブランドに喧嘩を売るでしょうか。不愉快には思っても我慢するのが落ちではないでしょうか。今回の件で日本人の反応を見たところ、馬鹿にされたのは中国人であって、自分たちには関係ないと思っている人も多いようです。中には中国人が過剰反応しているとしてドルガバに同情しているような人もいるようです。日本人の中にはなぜか自分たちを名誉白人と思いたがり中国人や韓国人とは違うとする人がいるのですが、イタリア人にとっては中国人も日本人も同じです。顔かたちも同じだし、箸を使う私たちは中国人と同胞であり、同じく馬鹿にされたのです。
イギリスなど欧米諸国で日本人として暮らしていると、アジアの人に親近感を感じるし、中国人、韓国人となるとなおさらです。そしてそういうところでたまにではあるにせよ差別や偏見を感じたとしても、日本人はおとなしく泣き寝入りをしがちです。そんな時、理不尽な差別に対して団結して真っ向から立ち向かう中国人を私は心強く感じます。これは私たち日本人も見習うべきところでしょう。
(敬称略)