外国人労働者に永住資格、日本政府の移民政策転換の理由

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Diversity

Last Updated on 2022-01-02 by ラヴリー

日本政府は外国人労働者の「特定技能」在留資格について、永住も視野に入れた更新や家族帯同を認める方針を発表しました。これまで移民に対して厳しい措置をとっていた日本にとって大きな方向転換ですが、この背後にはどういう状況があるのでしょうか。

Contents

政府の移民政策転換

「特定技能」在留資格拡大


出入国在留管理庁が「特定技能2号」の範囲を2分野から14分野に拡大し、長期就労や家族帯同を認める業種を広げる方向で調整に入りました。少子化、高齢化による人手不足の中、各業界で必要となる労働力を確保するために、外国人就労者に期待するものです。これまでは5年に限ったり、単身者のみという制限付きで外国人労働者を受け入れてきましたが、それでは来てくれる人がいなくなって来たという状況がありました。

特に、去年はコロナで入国が制限されたことがあって、新規に入国する外国人労働者が減少しました。これは日本だけに限ったことではなく、国際的に国境を越える人の移動が激減し、各国で深刻な人手不足に陥りました。

コロナワクチン接種が進むにつれようやく入国制限を緩和する国が増え、人材の争奪戦が想定されます。労働力の確保は世界共通の課題ですが、日本の5年の期限つきで家族も呼べないという厳しい条件では他国との競争に勝つことができないという状況なのです。

人手不足がますます深刻になるなか、日本が外国人労働者に「選ばれる国」となる必要があるとの思いが、今回の制限緩和につながったと言えます。

政府は「特定技能」在留資格を緩和し、将来の永住も含めた選択肢を増やすことで、外国人労働者に魅力的な条件を提示するねらいですが、この「特定技能」とはどういったものなのでしょうか。

「特定技能」と「技能実習制度」

「特定技能」は外国人材の受け入れの拡大に向けて、2019年4月にできた新たな在留資格です。それまで外国人就労者を確保するためには「技能実習制度」が利用されてきました。

「技能実習制度」というのは、本来は外国から労働者を受け入れるというよりは、技術移転による国際協力が目的のものでした。最長5年の期限付きで外国人実習生を受け入れ、様々な知識や技術を身に着けた上で本国に帰国して役立ててもらうというものなのです。けれども、この制度を通じて実習生が農作業や工場での単純作業などの仕事をさせられ、実態は低賃金労働者として利用されるケースもありました。

約束されていた条件とは違ったり、職場環境が劣悪でも、実習生は転職の自由がないため逃げ場がありません。借金をかかえてきたために帰国もできず、なかば強制的に重労働を低賃金で続ける羽目になったり、妊娠したために一方的に帰国を命じられたりといった過酷な実習生の実態が明らかになって問題化しました。「技能実習生として来たのにだまされた」「もう二度と日本に来ない」という外国人の声も続出。

そこで、政府は新たに「特定技能」制度を導入し、技能実習生が在留資格を特定技能に変えることで、就労環境を改善したり、転職もできるようにしたのです。特定技能には「1号」と「2号」の2種類が導入されました。

「特定技能1号」は、建設、介護、農業、漁業、外食、宿泊など14業種で「相当程度の知識または経験を要する技能」をもつ外国人に与えられ、在留期限は最長で5年となっています。この制度下では、日本人従業員と同等以上の待遇にすることが雇用する事業者に義務付けられていて、同じ業種や業務であれば転職もできます。

「特定技能2号」は建設業と造船・船用工業の2業種で「熟練した技能」をもつ外国人に与えられ、在留期限を更新できます。条件を満たせば、長期の滞在や家族の同伴も可能となります。

政府は特定技能制度開始から5年間で最大34万5千人の受け入れを見込んでいましたが、コロナ感染拡大による渡航制限のため、外国からの新規労働者は思うように増えておらず、この2年間で入国した特定技能労働者は3.5万人です。現在の特定技能労働者の大半がコロナによる渡航制限で帰国できない技能実習生の在留資格の切り替えからとなっています。

今回の政策改定は、特定技能「1号」として指定されていた14業種を「2号」に加えることで、在留期限を更新したり、家族の同伴を許可するものです。

現在の外国人労働者の状況

外国人労働者は172万人

日本の外国人労働者の合計は172万人で、全労働人口の2%余りです。(ちなみに英国は全労働人口の16%が外国生まれ)

下記は厚生労働省が2020年10月末現在の外国人雇用状況についてまとめたものです。

外国人労働者

これを見ると、2008年に50万人以下だった外国人労働者は増え続け、2011年の震災で少し落ち込みましたが、その後また増加が続いています。

2019年から2020年にかけては増加率が落ち込んでいて、コロナの影響が見て取れます。

外国人労働者はどんな人たちか

従事産業

Industry Foreign worker

外国人労働者の従事産業別の割合をみると、多い順に「製造業」が 19.3%、「卸売業、小売業」が 18.1%、「宿泊業、飲食サービス業」が 13.9%となっています。

産業別の増加率をみると、「建設業」が前年比で 20.5%増加、「医療、福祉」が同 18.0%増加、「卸売業、小売業」が同 14.3%増加です。

けれども、2020年度の対前年増加率をみると、「宿泊業、飲食サービス業」が-1.8%、「製造業」が-0.3%、「サービス業」が 3.9%、「卸売業、小売業」が 9.2%と、いずれも前年と比較して低下しています。

国籍

外国人労働者を国籍別にみると、ヴェトナムが最も多く 443,998 人で、外国人労働者数全体の 25.7%を占めます。

次が中国 419,431 人(同 24.3%)、フィリピン 184,750人(同 10.7%)の順となっています。

ヴェトナムは、前年比で 42,672 人(10.6%)と増加し、ネパールも 7,858 人(8.6%)増えています。

事業所規模

外国人労働者の雇用者を規模別にみると、「30 人未満」規模の事業所が最も多く、事業所数全体の 60.4%を占めています。

この割合は年々増えていて、比較的規模が小さい雇用者が外国人労働者に頼っていることがわかります。

外国人労働者の賃金

厚生労働省によると、「特定技能」資格で働く外国人の平均賃金は2020年6月時点で月額17万4600円でした。これは主に製造業に従事する人たちの金額です。

この平均賃金は、外国人労働者全体の平均賃金である21万8100円より、およそ2割少ない金額です。どちらかというと、技能実習生の平均賃金である16万1700円に近いものです。

ちなみに、日本人と外国人を含む一般労働者の平均賃金は30万7700円なので、これと比べるとかなりの差があることがわかります。

「移民拡大政策」に反対の声


今回の外国人労働者「特定技能」在留資格拡大について、「移民解禁政策」だという声も上がっています。自民党の保守層からも懸念の声が上がっていて、実施するにあたっては政府内の調整も必要だとのことです。

一般日本人からも「移民が押し寄せて日本が日本でなくなる」「外人が犯罪に手を染めて治安が悪化する」「日本人労働者の賃金が下がる」などの声が聞こえてきます。

けれども、イギリスで「移民」として暮らし、働いてきた私にとっては、違う事が気になります。日本にやって来る外国人労働者たちが果たして幸せに暮らせるのか、日本社会が隣人として歓迎してくれるのかどうかということです。

労働条件や生活環境、日本社会による受け入れ状況は満足いくものなのか、異文化摩擦や人種差別などで問題が起きるのではないかと心配の種はつきません。特に、長く日本で暮らしたい、家族も連れて来たいという外国人労働者にとって、日本が受け入れ国として理想の地となるのかどうかを考えると、心もとない気がします。

というのは、今でも、日本で働く外国人だけでなく、長く日本に在住する在日韓国人などや外国人の親を持つ2世、3世でさえ、差別的な扱いを受けるという事例を見聞きすることが少なくないからです。

日本に住む外国人

今に始まったことではありませんが、在日韓国人や朝鮮人に対する差別は一部で根強いものがあります。また、「純日本人」ではない外見を持つ、外国人を親に持つ子供では、日本で生まれ育ったのにもかかわらず、差別されたり「自分の国へ帰れ」と言われることがあるということも聞きます。

さらに、外国人労働者や留学生、実習生に対する差別や、就業上での過酷な扱いも、ニュースなどでたびたび取り上げられます。先日も工場で働く技能実習生が妊娠したため、帰国か中絶かの2択を迫 られているという話を聞きました。コンビニでアルバイトをする外国人留学生が顧客から「まともな日本語を話せ」などと怒鳴られるということも聞きます。

また、入管施設での外国人収容者の扱いが過酷なことについても、もはや周知の事実となっています。名古屋入管でスリランカ女性が亡くなったことについては社会問題となったし、これ以外にも入管施設の「特高体質」とも呼ばれる冷酷な仕打ちについて非難する声は繰り返されてきました。

ここまで否定的なことばかり書いてきましたが、私は移民反対論者ではありません(自らもイギリスに住む移民ですし)。それは、日本政府の主な目的である労働力提供という理由で言っているのでもありません。日本のような単一民族国家にとって、多様性のある人々が暮らすことは、日本人にとって大きな恩恵があると思うからです。

移民を受け入れるということは、観光目的で日本に来る人を相手にするのとは大きく異なります。日本文化には興味がなく、自国の慣習や文化、宗教を持ち込みたい人達をも尊重する必要があります。様々な国からやって来る移民たちは、日本にいたら一生知ることのないような考え方、文化、習慣、食べ物などを紹介してくれます。それによって日本に多様性が生まれ、自分と異なる背景の人たちに興味を持ったり、顔かたちや言葉が違っても同じ人間なんだという理解が深まるというメリットもあります。

けれども、生活習慣や宗教が異なる人々と共生する中で、時には自分とは意見や考えが相いれないことも出てくるでしょう。

日本人は自国民だけをとっても、つい仲間内や職場仲間、小さなコミュニティでかたまって「よそもの」を受け入れない傾向があります。異なる意見や考えを尊重するということが苦手な国民性には「相手と考えが違うということを認める (agree to disagree)」の練習も必要です。

そのような違いを認めた上で、「外国人労働者」としてではなく、「隣人」として移民を受け入れる国になってほしいと願います。

下の記事にある英国グラスゴーの隣人のように、日本人はなれるでしょうか。

英国グラスゴーの隣人に助けられた移民たち

ゼノフォビア(外国人嫌悪)移民問題・コロナ鎖国で世界から見放される日本

 

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