Last Updated on 2022-05-21 by ラヴリー
最近、日本の友達が「ポテチの中身が減っている」と愚痴っていました。値段は変わらないのに、内容量が3分の2くらいになっていたそうです。これって実質値上げですよね、しかも気づきにくい。実はこのような現象は前からイギリスにもあって、「シュリンクフレーション」という造語まで作られています。
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シュリンクフレーションとは?
おなじみのお菓子などで、パッケージデザインなどは変わらないので外から見るとあまり気づかないけど、何となく軽くて、開けてみると量が少ないことに気が付いたことがありませんか。また、チョコレートが1箱に15個くらい入っていたはずなのに、数が減っているとか。
このような現象はイギリスにもあって、LSE出身の経済学者ピッパ・マルムグレンが2009年にこの現象を表すのに使った言葉が「シュリンクフレーション(shrinkflation)」です。
「縮む、小さくなる」という意味の「シュリンク」と「インフレーション」をかけた言葉なのです。
シュリンクフレーション(shrinkflation)
shrink(縮む)+ inflation(インフレーション)
値段は据え置きのまま、内容量を減らしたり、数を減らしたりして、値上げしたことを悟らせないようにという企業努力のことを指していいます。実質は値上げとなるため、「ステルス値上げ」などと呼ばれることもあります。
イギリスのシュリンクフレーション
イギリスという国はデータを重要視するところです。
今現在はこの国のコロナ情報データが英語ということもあるし、すべて一般公開されていることもあって、世界中から注目、重用されています。
これに限らず、他の統計についても同様で、イギリスでは様々なデータが集められ、誰でも簡単にアクセスできます。
この「シュリンクフレーション」現象についても、英国統計局(Office for National Statistics)が2012年から2017年にかけて調査したものを二度にわたって報告しています。
それによると、2012年から2017年では2,529の商品の容量が減ったということがわかりました。
その多くは食料品ですが、トイレットペーパーなども含まれます。パンやシリアル、砂糖、ジャム、チョコレートなどの菓子類が多かったようです。
この表が示す2015年から2017年の2年間では、206の商品が縮んだのですが、大きくなったものも79あります。
これを見ると、容量が減っても価格は同じものがほとんどでした。やはり、ステルス値上げのためにやったのではないかと思われかねませんね。
チョコレート会社などは「国民の健康的なダイエットのために量を減らした」などという理由をつけている企業もあるようですが。。
日本のシュリンクフレーション
ということで、このシュリンクフレーションは日本に限ったことではないのです。でも、話を聞いていると、最近になって日本の方がこの現象が広範囲にわたって起きているようです。
特によく聞くのがコンビニのいなり寿司の数が減った、おにぎりが小さくなった、お弁当容器が上げ底で量を減っているというものです。
また、お菓子類も量が減った、数が減った、それなのに値段は据え置きだし、パッケージが同じなので外から見るとそれとすぐには気が付かないといった声もよく聞きます。
日本の場合は、企業側が特に厳しい状況にあるのではないかと推測します。
というのも、ここ最近ずっと円安が続いていて、海外から輸入している小麦などの原材料価格が高くなっているはずだからです。最近では原油価格の高騰もあって、輸送コストも上昇し、それに追い打ちをかけているでしょう。
2021年9月のデータでは、素原材料で企業物価が52%上昇したのに対し、最終商品の上昇率は2.9%にしか及んでないということです。
企業側はコストが上昇しているため、同じ利益を維持するためには値段を上げざるを得ないのですが、そうすると消費者が離れてしまうのではないかとおそれているのでしょう。苦肉の策として、価格は据え置きで量を減らすという「ステルス値上げ」に走ってしまうというのも、仕方のないことなのかもしれません。
この背景には日本の賃金がここ数十年ずっと上がっていないという事実があります。
企業がコスト増を価格に反映できないのは、消費者の給料が上がっていないから。
日本人みんなが貧乏になっていっているということなのです。
日本人が貧乏になっている
OECDの2020年の平均賃金の国際比較を見ると下記のようになっています。(米ドル換算)
グラフ内で色がついているのがG7諸国で、これだけを見ると米国、カナダ、ドイツ、イギリス、フランス、の次の黄色が日本です。
日本はG7ではイタリアよりは少しいいけれど、下から2番目となっています。実は、2019年までは日本がずっとG7最下位でした。
アメリカの平均賃金は過去30年で2.5倍の約700万円、ドイツは約2倍の560万円、韓国でも約2倍の430万となっているのに比べ、日本は1991年で447万円だったのが2020年は433万と、逆に減少しています。
日本の1人当たり平均年収は、アメリカより約350万円、OECD平均より約120万円、おとなりの韓国に比べても約40万円ほど、低くなっているのです。
給料が低ければモノを買う余裕は生まれず、企業はコストが上がっても、何とか値上げをせずに企業努力で踏ん張っている状況というわけ。
値段はそのままでステルス値上げをするほか、企業内でさらにコストを下げる努力もしているでしょう。
さらには、従業員の数を減らしたり、昇給を止めたりという企業も出てくるでしょう。
働く人と言うのはそのまま消費者でもあるわけなので、人はますます貧しくなり、安いものを求めるという「デフレスパイラル」に日本は入ってしまっているのです。
ビッグマック指数でわかる「安い国、ニッポン」
私が若い頃はバブル期だったので、日本人は物価の安い国に海外旅行に行っていたものですが、今や日本は外国から見て「ものが安いお得な国」として見られるようになってきました。
各国の物価を比べるのによく使われるのが「ビッグマック・インデックス」です。
世界中で販売されているマクドナルドのビッグマックの値段を比べる事で、各国の物価格差を目安にするものですが、2020年のデータはこうなっています。
これを見るとやはり日本の物価は他の国と比べても安いですね。
私はイギリスに住んでいてコロナ以前は毎年数回日本帰国しているので、これが実感としてわかります。
上記は2020年のデータですが、2年後の2022年のビッグマック指数を見ると、このようになっています。
これはすべての国が入っているので長いですが、日本はずいぶん下に落ちています。(ちなみにこの表はもっと下に続きますが省略しています。)
ビッグマックの価格が日本は3.38ドルと2年前の3.54ドルより逆に安くなっています。
米国では2020年に5.67ドルだったのが2022年には5.81ドルに上がっています。
これは日本でのビッグマック価格が下がったというわけではなく、ドルに換算した場合の価格が下がったというわけです。
なので、外国から来た人にとっては日本の物の値段が下がっていると感じるのです。
私の感覚でも数十年前は、物によってですが「日本は高いな」と感じていたものですが、それから「イギリスとだいたい同じくらいかな」になり、今では「えっ、激安」となっています。
イギリスで働いたお金を日本で消費する私にはありがたいことです。
でも、これは決して日本にとって喜ばしいことではありません。
だって、安い価格で販売している以上、そこで働く人たちの賃金は他の国より安いということになるからです。
企業のせいではなく、賃金が安いせい
シュリンクフレーションやステルス値上げに気が付いた人、「こっそり値上げしてずるい」と企業を責めてはいけません。企業側もせいいっぱい努力しているのです。
そして、企業を追い詰めると、コスト削減のためにさらに働く人にしわ寄せがいきます。
では、どうしたらいいのでしょうか。
私は値上げしてもいいので、働く人の賃金を上げるべきだと思います。収入が上がれば人々に余裕ができて、それなりの値上げは許容できるはずです。
そうすることで日本全体が「デフレのスパイラル」から抜け出すしかないのです。