Last Updated on 2019-12-26 by ラヴリー
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)が2018年12月30日に発効されました。TPPについてはいろいろな報道がされてきましたが、簡単にいうとどういうものなのかをわかりやすく説明します。そもそもTPPはどんな目的でつくられたのか、どんな国が参加しているのか、日本への影響、メリットとデメリットにはどんなものがあるのかなどを見ていきます。
Contents
環太平洋経済連携協定(TPP)とは
環太平洋経済連携協定(TPP=Trans-Pacific Partnership)は太平洋を囲む国々の間で結ばれる自由貿易のための協定です。
輸出入の際にかかる関税をなくして貿易拡大を促し、規制緩和を通じてサービス産業、投資、電子商取引などにおいて国境を越えて事業展開できるようにするものです。
TPP加盟国は11ヶ国
TPP加盟国は日本をはじめとするアジア太平洋地域11ヶ国で、合計人口5億人超の巨大な自由貿易圏となります。参加国のGDPの合計は約1100兆円(世界全体の13%)になる経済連携協定です。
もともとは2006年にパシフィック4と呼ばれる4ヶ国(シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド)が発効した経済協定に米国、オーストラリアといった国々が参加に合意していき2013年には日本も参加方針を表明しました。
このように拡大していったTPPには米国を含む12か国が合意・署名して、上記の図が表すように、世界経済規模の4割を占める大経済圏となる予定でした。しかし、2017年1月にトランプ政権の米国がTPP脱退を発表。参加国のうち圧倒的な経済規模を誇る米国が脱退したことは波紋をよびましたが、その後は日本が主導して2018年3月に11ヶ国で協定の署名にこぎつけました。
今回、国内手続きを終えた6か国(日本、メキシコ、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア)でまず発効となりました。残る国々(ベトナム、マレーシア、チリ、ペルー、ブルネイ)も早期の発効を目指しています。
TPP発効で輸入品の関税が撤廃される
TPPによって加盟国産の農畜産物の関税がなくなったり引き下げられたりします。ということは、日本の消費者は輸入食料品をより安く手に入れることができるようにるのです。
加盟国全体で最終的には99%の品目の関税がなくなりますが、品目によっては暫定的に引き下げられるものがあります。日本の関税撤廃率は農林水産品で約82%、全品目で約95%となっています。
下記は主な農産物の関税がどうなるかを示したものです。
(毎日新聞)
これを見ると分かるように、ブドウ、キウイ、メロンなどの果物はすぐにも関税がなくなり、値段が下がりそうですね。牛肉豚肉なども暫定的に安くなっていきそうです。
他にも関税が即時撤廃されるものとして魚介類、魚介類加工品、生鮮野菜や果実、コーヒー、ひじき、落花生、くるみ、紙巻たばこ、コートやジャケットなどの洋服、織物類などがあります。
また発効6年後に関税がなくなるものとしては、マーガリン、トマトジュース、グレープフルーツなど柑橘類の果実、紅茶、ビスケットなどがあります。
食品以外では工業製品はすべての品目で関税がなくなるのですが、特に日本人消費者にとって関係がありそうな高価格商品としては革製品があります。輸入品の中でも革製品に16~30%の高関税がかかることは有名ですが、TPP発効後11年目に革製品の関税がなくなるのです。
これによって革のバッグや財布、靴、衣類の値段が下がることが期待されます。ヨーロッパとの経済連携協定であるEPAでもシャネルやエルメスなどブランドの服の関税が即時撤廃され、11年目に革製品の関税もなくなりますが、TPPでも同様なんですね。カナダグースのコートやアグブーツの値段が下がったらうれしいファンも多いのではないでしょうか。
TPPにより輸出品の関税も撤廃される
日本への輸入品の関税がなくなるのとは逆に、日本の物を他国に輸出するときにも関税がなくなります。この分日本商品がが安くなり他国の購入者が買いやすくなることで需要が増えることが予測されます。
日本の主要輸出品である工業製品は輸出拡大が期待されます。現在カナダが自動車にかけている6.1%の関税は発効後5年目で撤廃され、オーストラリアのバスやトラックの関税5%が即時撤廃となります。
また、現在カナダやオーストラリアは日本酒に関税をかけていますが、これが即時撤廃となります。メキシコやチリがかけている牛肉の関税も即時または10年後になくなります。
国内農産物生産者は安い輸入農産品による競争力の低下に対抗するためにも、高級路線の和牛や高級果物などにさらに力を入れてTPP参加国に輸出する取り組みをする必要があるでしょう。
TPPによる規制緩和
TPPによって変わるのは関税だけではなく、様々な分野での規制緩和やルールの整備が行われます。たとえば、電子商取引やサービス、人の移動などに関するルールは世界貿易機関(WTO)では整備されていないのですが、TPPでこのような取り決めをすることによって企業の海外展開が後押しされるのです。
たとえば、電子商取引の規制緩和により、インターネット上の動画をはじめとするデジタルコンテンツの売買に関税がかからないようになり、デジタル貿易が拡張することが見込まれます。
また、外資規制が緩和することでTPP参加国への海外進出が簡単になります。たとえば日本のコンビニエンスストアがマレーシアやベトナムなどに海外出店しやすくなるのです。
日本にとってTPPのメリット・デメリットは
TPPのメリット
輸出業者や輸出用の商品を作る業者は消費を他国に安く輸出することができるため、他国での競争力が増し、たくさん売れるようになります。これによって国内の経済や雇用増加につながります。
また、関税撤廃により日本の消費者も輸入食品を安く購入できることになります。
さらに、各国の規制緩和により、日本企業が海外進出しやすくなります。土地や労働コストが安い国で生産した方が企業にとって有利になるので外国に進出する企業が増える可能性があります。
日本経済全体に対するメリットとして、日本政府の試算ではTPPによる日本のGDPの押し上げ効果が14兆円になるとしています。
TPPのデメリット
デメリットとしては海外からの輸入品が関税分安くなってくると自国産の類似品の競争力が低くなり、売れなくなってしまったり、輸入品の価格に合わせて値段を下げなければならず利益が減ってしまう可能性があることです。海外からの農産物の関税がなくなったら、米、小麦、バターなど相対的に値段の高い国産農産物は太刀打ちできないと言われています。
こういう問題があるため、米など品目によっては関税撤廃から除外したり、すぐに関税をなくすのではなく数年にわたって少しずつなくしていき、セーフガードと呼ばれる緊急輸入措置を取り入れて、自国産業の保護にもつとめています。
またメリットにあげた日本企業が海外進出しやすくなるという点は逆にデメリットにもなり得るわけで、これにより日本での経済活動や雇用が減り国内産業の空洞化が進む怖れもあるのです。
ほかに考えられるデメリットとして、食品添加物や遺伝子組み換え食品などの規制緩和により、日本人が口にする食料の安全が脅かされる可能性があります。さらに医療保険の自由化や混合治療の解禁により、国保制度の圧迫や医療格差が広がる可能性も指摘されています
TPPの経済効果は
TPP加盟11か国のGDPは平均で1.1%押し上げられるという世界銀行の予想が出ています。効果が最も大きいのはベトナムの10%で、日本は2.7%ほどの増加が予測されています。
実際は関税をなくすことよりも外資をはじめとする規制緩和や税関手続きなどの非関税障壁をなくしたり、簡単にすることによる効果の方が大きいとされています。例えば、電子商取引やサービス、人の移動などに関する取り決めをすることによってTPP参加国間での国境を越えた貿易が活発化される事が期待されています。
TPPをけん引していた米国が脱退して暗礁に乗り上げたかも思われた協定ですが、日本をはじめとする参加11ヶ国は米国抜きでもTPPには意味があるとしています。というのも、近年経済的に力をつけてきた中国に対抗するには各国が協力して大きな貿易体制を作る必要があるためでもあります。
TPPはこれからどうなる?
近年トランプ政権が保護主義的な政策を進める中、TPPは自由貿易を通して国際的に経済活動を活発にする取り組みとして期待されています。
米国がTPPに復帰するかどうかは今のところ未定ですが、TPPは新たな国が参加する道も開かれており、これまでにもインドネシア、韓国、フィリピンやタイが関心を示しています。
EU離脱後の道を模索しているイギリスにさえ、太平洋から地理的に遠いのにもかかわらず、安倍首相が「参加を歓迎する」との見解を表明しています。
これまで中心的な役割を果たしていた米国が離脱した今、TPPは今後さらに参加国を増やし自由貿易の枠組みを広げる方針なのです。