イギリスでは選挙カーも掲示板もなく静か【英総選挙2019】①

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House of parliament

Brexitのごたごたで混迷を極めていたイギリス下院は解散し、12月12日に総選挙が行われます。選挙前になると日本では選挙カーの騒音に悩まされるのが常ですが、イギリスの選挙戦はとても静かです。選挙カーもないし、駅前で鉢巻をまいた候補者が道行く人にご挨拶といったようなこともありません。それでは、選挙活動はどのように行われるのでしょうか。


Contents

イギリス総選挙2019

イギリスは2院制ですが、上院(貴族院)議員は任命制であり、総選挙はより権限のある下院(House of Commons)、日本で言うと衆議院の議員を選ぶものです。

イギリスでは本来、総選挙は5年に1度行われるのが常です。

けれども最近はBrexitを巡って議会がまとまらないこともあり、解散を繰り返していて、2015年、2017年と総選挙が行われてきました。

メイ首相退任後、保守党を率いているジョンソン首相も国会でEU離脱法案を通すことができず解散総選挙が必要だとし、労働党もそれに同意したのです。

イギリスの選挙制度

イギリスは小選挙区制

イギリスは小選挙区制をとっており、有権者は各選挙区の立候補者の中から下院議員を1名選びます。下院の定数である650選挙区のうち、それぞれ最多票を得たものが1人だけ当選する「First past the post」と言われるやり方です。

得票数が過半数に満たなくても、極端に言えば1位と2位の差が1票しかなくても、1位が当選し2位以下は落選という単純なバトル。そのため、いわゆる「死票」が多くなります。

小選挙区制は比例代表制に比べると二大政党制になりやすいため、イギリスではこれまでも保守党と労働党とが政権交代を繰り返して来た歴史があります。

イギリスでは誰が投票できる?

イギリスの有権者は約4,600万人。18歳以上で、イギリス国民、アイルランド国民、イギリス連邦加盟国の国民でイギリス在住の人に選挙資格があります。

私のようにイギリスに長く住んでいる永住者でも外国籍だと選挙権はないし、イギリスに住む300万人以上のEU市民も、働く権利や移動、居住の権利はあっても総選挙での投票はできません。

有権者が投票するには事前に「Electoral Registration」と呼ばれる有権者登録をすませておく必要があります。

イギリスの選挙方法

有権者登録をした人は郵便投票をするか、選挙当日自ら投票所に行って投票するかを選ぶことができます。

イギリスではインターネットによるオンライン投票を導入することも検討していますが、セキュリティー上の懸念からすぐには実行は難しいようです。

大学生は大学のある選挙区で有権者登録をするか、実家の選挙区で登録するかを自分で選ぶことができます。

投票日当日は通常朝7時から夜10時までの間の好きな時間に投票できます。地元の学校やコミュニティーセンターなどが投票所になり、通勤前や仕事帰りに行く人も多いです。

各投票所では投票日の夜10時以降から翌朝にかけて開票され、選挙結果は翌日発表されます。

イギリス総選挙投票率

Turnout by age

Turnout by age 2017 (YouGov)

前回イギリスで総選挙があった2017年には、有権者の69%が投票しました。

日本の2014年の衆議院選挙は投票率が52.66%だったので、それに比べると高いといえます。

とはいえ、イギリスも日本と同じで若者は政治への関心が低いようです。

前回の選挙で70歳以上は84%が投票しているのに、18~19歳の投票率は57%、20~24歳は59%でした。

それでもイギリスの若者は日本人全体の平均よりも投票する率が高いわけで、全体的に政治への関心が高いことがうかがえます。

選挙区でのキャンペーン

7万円あったら出馬できる

日本の選挙は多額の供託金が必要になるため選挙に出るにはお金がかかると言われますが、イギリスの場合、選挙に出るのにかかる費用は500ポンド(約71,000円)だけで、それも票を5%以上得れば返金されます。

総選挙の立候補者は政党に属する人が多いのですが、無所属の人や少数のグループで政党を作って選挙活動をする人たちもかなりいます。

2017年にも「利益より人民党」「女性の平等党」「イギリス海賊党」と言ったような、中にはジョークのつもり?と疑ってしまいそうな名前の少数党が出馬していますが、議席をとるまでには至っていません。

日本のように代々政治家を出す家の出身者や政治家の秘書だったりするような人ばかりではなく、会社員や弁護士など普通の仕事をしている人が出馬して、落選したら元の仕事を続けるといったことも多いです。

いわゆる世襲議員と呼ばれる政治家はイギリスでは少数で、親の威を借るだけでは認めてもらえず、本人の業績や能力が重視されます。

世襲議員が地盤を継承するというような考え方もなく、親を国会議員に持つ子供でも別の選挙区に出馬するのが普通です。

こういう状況なので、イギリスでは政治資金がある人や家族親族のバックアップがなくても、「社会を変えたい」「国のためにつくしたい」と思う普通の人が国会議員になるチャンスが多い土壌であるといえます。

選挙カーがない静かな選挙戦

イギリスでは総選挙前の数週間といえども、メディアを見なければ選挙が行われるのに気が付かないかもしれません。日本でよく見る、候補者の顔写真ポスターが並ぶ掲示板というものはないのです。

日本だと選挙というととにかく「うるさい」というイメージですよね。選挙カーで意味もなくただ名前やあいさつだけを連呼したり、街頭演説があったり。

ソフィア・コッポラ監督の日本を舞台にした「ロスト・イン・トランスレーション」というアメリカ映画でも、選挙カーの騒音に登場人物がびっくりしていた様子がありました。

あのうるさい選挙カーは日本独自のものですが、焼き芋屋や竿竹屋の名残なんでしょうか。

イギリスでも、もちろん選挙カーはありません。特に禁止されているわけではないとは思いますが。

日本のようにただ名前を連呼したり「よろしくお願い致します。」のような無意味なメッセージを拡声器で叫ぶような選挙カーは意味がないばかりか、迷惑なだけとされ、逆に票をなくすでしょう。

有権者は自分が選ぶ党や立候補者の政策が自分たちの生活や国全体にとってどのような影響を及ぼすのかを具体的に知りたいのであり、名前や挨拶はどうでもいいのです。

うちに来たキャンヴァサー

それではイギリスの立候補者はどのようにして選挙活動を行うのでしょうか。

党首や党幹部などが全国の重要な選挙区に応援演説に来ることもありますが、650も選挙区がある中、その数は限られてきます。

立候補者は地元のコミュニティー集会や学校などでスピーチしたり質問を受け付けたりする選挙活動を行います。

とはいえ、わざわざ選挙集会などに出向く人はまれなので、基本的な活動は戸別に手紙やパンフレットを配ったり、戸別訪問して支持を訴えることです。

それぞれの選挙区内で立候補者や、キャンヴァサ−と呼ばれる支援者が家や会社などを一軒ずつ地道に戸別訪問して、有権者一人ひとりと対話するのです。

うちにも労働党と自由民主党から地元の党員らしいキャンヴァサ−がリーフレットを持ってやってきました。そのリーフレットには各党や立候補者の公約が具体的に書いてあります。

彼らは、その立候補者が当選し所属党が勝つと、人々の生活や国全体にどういう利益をもたらすかを説きます。さらに、候補者や党全体の政策についての質問にも答えたり、特定の課題について話し合ったります。

有権者は、立候補者の名前や顔だけを知るのではなく、具体的な政策を知り納得した上で自分の政治信条に近い党や候補者に投票するのです。

イギリスの選挙は政党の戦い

これまでは各選挙区における選挙戦活動について述べました。

けれども、イギリスの総選挙は伝統的には政党の戦いと言ってもいいものです。

有権者にとっては、選挙区の個別の立候補者だけでなく、支持政党の政策が重要になってきます。

次の記事で国全体での選挙戦について述べます。

【イギリス総選挙2019 】②争点と情勢、ブレグジットのゆくえ

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