東京入国管理局が11月20日、道路などに英語で「FREE REFUGEES」などと書かれた落書きの写真と共に「落書きは止めましょう」「少しひどくはないですか」などの固定ツイートを載せたことで反響を呼んでいます。入管に拘束されている収容者の問題についてずっと抗議を続けてきた支援者から批判の声が上がっている上、拡散されたツイッターはこれまで関心のなかった一般市民にまで広まり、ついには外国メディアが取り上げるまでになりました。これを機会に入管での収容者問題に焦点を当てていきたいと思います。
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東京入国管理局の落書き
港区にある東京入国管理局には難民などの外国人が多く収容されています。収容者の状況について人権問題であると指摘する声は以前から数多く上がっており、収容者を支持する運動も続いていますが、状況はなかなか改善されていないようです。
この背景のもと、東京入国管理局の周りの道路や横断歩道などにスプレーペイントで「FREE REFUGEES」(難民を解放しろ)とか「REFUGEES WELCOME」(難民歓迎)と落書きが書かれており、その写真を撮影したものが東京入国管理局の公式ツイッターアカウントに下記のコメントと共にアップされました。
~落書きは止めましょう~
11月19日早朝、港南大橋歩道上にて。
表現の自由は重要ですが、公共物です。
少しひどくはないですか。。。
~落書きは止めましょう~
11月19日早朝,港南大橋歩道上にて。
表現の自由は重要ですが,公共物です。
少しひどくはないですか。。。 pic.twitter.com/eHVO1f37jR— 東京入国管理局 (@IMMI_TOKYO) 2018年11月20日
このツイートは東京入国管理局のアカウントの一番上に固定されていて、それについて多数のコメントが上がっています。その数は22日現在で1万件を超えていて、落書きについて肯定する意見もありますが、収容者に対する人権侵害について批判する声も多く、「落書きなどより、入管の収容者に対する扱いの方がもっとひどい」などというコメントがたくさんみられます。
ツイートが削除される可能性もあるので、念のため下記にも同じものを貼っておきます。
入国管理局で何が問題なのか
入国管理局での収容者の扱いについてはかねてより問題視する声が多く上がっており、すでに社会問題となっています。戦争や人権侵害から自国を逃れ日本にやってきて難民申請する人や、在留許可を求める人々がその結果を待つ間数年にわたり長期的に拘束、収容されているからです。
2010年に法務省は収容が長期化しないように人道的配慮から収容を一時的に説く「仮放免」を導入すると約束したにもかかわらず、それが実行されていません。収容者をある入管施設から別の施設に移すことで収容期間を短く見せ長期収容の実態をごまかすことも行われてきたのです。
収容所内では拘束されたまま解放のめどがつかない外国人が自由のない生活を余儀なくされています。家族と引き離されたまま収容されている人も多く、東京入管外の路上で収容者の子供たちが泣きながら「パパを返して」と叫ぶ様子も報じられています。
トランプ大統領がメキシコ国境で難民の親子を引き離しているとして国際的に批判され問題になっていましたが、日本でも同じようなことが行われているのです。
収容所内では満足に食事もできず、健康にも害を及ぼしている収容者もいます。命にかかわる病気にかかっているにもかかわらず、医療を受けられないまま死亡者が出ることもあるのです。2006年以来合計で14人の収容者が拘束中に死亡しています。その上、拘束された状態に耐えられず精神的な問題を抱える人が少なくなく、自殺を試みる人も少なくありません。
このような日本の入管施設の状況は、国連の拷問禁止委員会や人権理事会からも、改善するように何度も勧告を受けているのです。
日本の難民受け入れ状況
他の国が難民を数万、数十万単位で受け入れている中、日本が受け入れる難民の数は年間で十数人程度にとどまり、日本の難民受け入れ状況は国際的にも非難されています。これは日本で難民を申請する希望者がないからではありません。年間1万人以上の申請がある中、受け入れる難民の数が30人以下という少なさなのです。直近の2017年には19,629人の難民申請があったのにもかかわらず、受け入れを許可されたのはたった20人でした。受け入れを拒否された人々は日本各地にある入国管理局の収容施設に拘束されたり強制送還されたりします。
入管収容所から仮放免されたとしてもその条件として働くことを禁止されるのですが、難民申請から認定までの手続きが長期にわたる中、申請者は生活保護などの社会保障もなく、厳しい生活を余儀なくされるのです。
海外の反応
英ガーディアンでは、11月22日「入国管理局が難民支援の落書きを批判して大炎上」という見出しでこの件について報じました。東京入管の落書きを批判するツイートについて述べ、その後「入管は難民に対する保護義務を怠っている」との批判が相次いだと記しています。
同紙は日本は難民をほとんど受け入れず、2017年には19,628の難民申請のうち受け入れたのが20人、人道上の理由で滞在を許可したのが40人に過ぎないことを指摘しました。また、入管での収容者の非道な扱いについて批判するものもあるとし2006年以来14人が死亡していること、そのうちの何人かは自殺によるものだとしています。
2016年には大阪の収容所で40人以上がハンガーストライキをして医療サービスの不備や生活水準について訴えたことにも言及しています。今年の4月には東京近郊の収容所でインド人収容者が自殺したあと同じようなストライキがあったことも。
さらに安倍首相を支持するというユーザーの意見として「収容所の状態がひどければ日本に難民申請をする人がいなくなる」というコメントも紹介しています。
ガーディアンの記事ではさらに、2017年に人権団体が難民の扱いについて日本を批判したこと、さらに安倍首相が2015年にシリア難民を受け入れるより自国民の生活水準を改善すべきと言って物議をかもしたことにも言及しています。
当局のねらいと違った反応?
東京入管のツイートはただ単に「落書きをやめましょう」という注意喚起が目的のものだったで、「難民を解放しろ」というメッセージそのものを批判するものではなかったようです。けれども、この何気ないツイートのおかげで燃え上がった反響はかえって入管収容者に対する問題についての一般の関心を集める結果となったのです。
私も入管局における収容者の人権侵害の問題に関しては数年前から気にしていました。けれどもこの件については収容者の家族、関係者、熱心な運動家や政治家、弁護士など知識人とごく一部の一般日本人の興味範囲内にとどまっていた印象です。そういう人たちが中心となって入管前でデモや反対運動が行われることも聞いていましたが、その声が当局の方針を大きく変えることはなかったようだし、一般国民の関心もあまりないように感じて歯がゆくも思っていました。けれども、今回の東京入管の「落書きをやめましょう」ツイートの件で一挙にこの問題について認知が広まり、外国メディアまで報道するようになったのには少しながら驚きました。東京入管としては予想外の展開だったのではないでしょうか。
まとめ
日本は先進国の中でも一番の難民受け入れ後進国と言えます。「アメリカ・ファースト」を標榜しメキシコ移民家族を引き離すことであれだけ非難されたトランプ大統領の米国でさえ、難民を何万人単位で受け入れています。ヨーロッパ諸国でも自国の一部国民の不満を引き出すほど難民や移民を受け入れています。そんな中、いまだに難民の受け入れを拒否する日本の態度は国際世論の批判を招いても仕方がないでしょう。
さらに、難民申請者や不法滞在などで入管施設に収容された外国人が拘束中、適切な扱いを受けることができるようにするべきだし、長期にわたる拘束が続くないような配慮も必要です。
今回の「落書きはやめましょう」ツイートのおかげで、この問題の認知が広まったことは偶然とはいえ、いい結果となりました。これを機会に難民や入管施設収容者の状況について関心を持つ人が増え、当局や政府の政策に少しでも影響を及ぼすようになればいいのですが。
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