ハーグ条約とは?親の子供連れ去り禁止をEUが日本に要請

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外国で幸せな国際結婚をして子供も授かったものの、結婚が破綻してしまったら子供をどうするか?日本人女性なら慣れない外国で子供を育てるより、子供と日本に帰って周りの助けも借りて育てたいと思うかもしれません。けれどもそれが国際問題に発展してしまうケースがあります。これは日本国内でも起きている問題で、日本政府が外国からの圧力を受けることもあるのです。


EUが親による子供の連れ去り禁止要請

2020年7月に、日本人の親が子供を許可なしで連れ去り、別れた相手と面会させないことを禁止する措置をEU議会が日本政府に要請する決議が採択されました。これは日本国内に居住するEU国籍者と日本人の結婚が破綻した場合などを対象としています。

日本は国際的な子供の連れ去りを禁止する「ハーグ条約」に加盟していますが、この条約は国内の連れ去りには適用されません。

日本国内でも日本人と結婚したEU国籍者を含む外国人が、離婚などで関係が破綻した場合に子供に会えなくなるケースがかなりあり、それについて日本政府が半ば容認していることについてEUは問題視しているのです。子どもの人権をことのほか重視するEUは日本政府の態度を「子供への重大な虐待」としています。

国際間の問題ならともかく、日本への内政干渉ともとれるようなこのような措置がなぜ決議されたのでしょうか。

ハーグ条約とは?

そもそも「ハーグ条約」とは何なのでしょうか?

1980年に採択された「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」は一方の親の同意なしで16歳未満の子供を国境を越えて連れ去ることを防ぐために締約国間が協力するための国際的な枠組みです。

ハーグ条約では、親の関係が破綻するなどで一方の親が子を養育することになった場合、子がかねてから生活していた国で解決するのが望ましいとの考えが基本です。そのため、親の一人がもう一方の親の許可なしで子供を国外に連れ去った場合は,原則として子供を生まれ育った国に返還することを定めています。これは国際結婚だけでなく、同じ国籍同士のカップルの場合にも適用されます。

ハーグ条約の締約国は今現在101か国ですが、日本はこの条約に加盟するのが遅く、長らくG7で唯一加盟していなかった国でもありました。日本人女性が離婚後子供を日本に連れ去ったことで、イギリスやフランスでも父親や市民団体が運動を起こして日本政府に呼び掛けるといったケースも何件もありました。フランスでは日本人による子供連れ去り問題についてのテレビ番組が放映され話題になったことも。さらに、米国では離婚後に子供を連れ去って帰国した日本人女性に巨額の損害賠償が命じられたケースさえあったのです。

このことで、日本政府には公式にも多くの外国政府から締約要請があり、日本は2014年にハーグ条約に加盟しました。その後の5年間で、ハーグ条約のもとに日本政府に提出された申請は400件を超え、各ケースについて友好的な解決、または裁判によって返還や面会交流などの措置が決められています。

このように日本がハーグ条約に加盟してからは、片親が国境を越えて子供を一方的に連れ去ることについては法律での解決が可能になりました。これは日本人が外国から無断で子供を連れ帰る場合だけではなく、外国人の親が子供を日本から国外に連れ去る場合にも当てはまります。

けれども、ハーグ条約は国内での連れ去りについては適用されないため、日本国内で問題となるケースが起こっているのです。

逮捕された父親も

日本を拠点に活動するオーストラリア人のフジャーナリスト、スコット・マッキンタイアが2019年11月末に逮捕されたというニュースはガーディアンの日本特派員による記事で知りましたが、日本メディアではあまり報道されなかったようです。

ガーディアン紙によると、彼は日本人女性と結婚して子供が2人いましたが、その年5月から妻が子供を連れ去って5か月間、妻子と音沙汰が取れなくなりました。

大きな台風があったことで子供が心配になり、彼は妻子の行方を捜すために妻の両親が住むマンションを訪れました。そこで、ほかの住民のあとについてマンションの共用部分に入ったところを見つかり、逮捕されました。その後拘置所で数か月過ごした挙句2020年1月に有罪判決を受けたのです。住宅侵入罪で懲役6か月、執行猶予3年という判決でした。

母親は彼が暴力をふるったと語っていますが、マッキンタイアはこれを否定しています。

マッキンタイアは留置所から出たとき「片親誘拐」というTシャツ姿で報道陣に訴えました。

「自分の許可なく子供を連れ去られ、もう250日も愛する子供たち会っておらず、とても苦しい思いをしている」

「これは自分の問題だけではなく、フランス、イタリア、カナダ、米国、南米、アジア諸国など様々の国籍の親が日本で同様の悩みを抱いている」

「しかし、この一番の被害者は日本人の親と子供たちだ。日本では10万人の子供が連れ去られ、面会を許されていないというのに、日本の裁判所や警察はこの状況を容認して何もしようとしない」

「自分と同じ境遇にいるすべての親と子供たちのために日本で共同親権を認めるべく戦いたい。日本はほかの先進国のように共同親権を認め、子供たちが両親から引き離されないようにするべきだ。」

共同親権

ここに出てくる「共同親権」についてよく知らない方のために説明します。

日本では離婚後の共同親権が認められておらず、子供の養育に両親2人でかかわってきたカップルでも離婚後はどちらか一方だけが100%親権を得る「単独親権」となります。日本の場合、親権は母親に与えられることがほとんどです。

親権のない親は子供と一緒に住めないだけではなく、その後子供の教育やしつけ、どこに住むかなどに口出しできず、面会についても、もう片方の親と協議の上で決められたルールに従うことになります。

面会はケースバイケースで週に一度とか月に一度というように取り決められるのですが、日本では別居する片親と子供は一切会わなくなるというケースが3分の2に上るということです。地理的、時間的条件で面会が難しかったり、どちらかの親または子供が面会を希望しない場合もあるでしょうが、別居している親が面会を希望するのに親権を持つ親がそれを拒否する場合もあります。家庭内暴力や虐待が疑われるケースなどもあり、答えは一つではないでしょう。

欧米では共同親権が普通

日本社会では今でも「子供は母親が育てるもの」といった考えが根底にあります。離婚後に母親が親権を取り、父親が希望するかしないかにかかわらず、子供から離れていくのは仕方がないという考えが許容されているようですが、これは今や国際的には普遍的とはいえません。

イギリスを含む欧米諸国では離婚後も親権は両方の親にある共同親権を認めています。離婚が成立する前に子供がどこに住むか、養育費はどのように負担するか、別居する親の面会はどのようにするかなど詳細な計画を提出する必要があります。そして、子供との面会もその取り決めに従って行い、一方の親がそれを守らないときは裁判に訴えることもできます。

イギリスでは結婚するしないにかかわらず、子供ができた後別れるカップルが増えてきています。子供がいつもは母親と暮らすが週末は父親と過ごすとか、その逆のケースが普通にあります。社会もそれを受け入れていて、そのような子供を特別な目で見ることもないし、子供たちもそのことについて屈託ない様子です。

新型コロナウイルスによるロックダウン中、外出が禁止された時期でもイギリスでは別居家庭に住む親に週末などに会いに行くことは通常通り許可されていました。

子どもの権利

親権などの話になると私たちは親の立場から問題を考えがちですが、一番大切なのは親の感情ではなく子供の気持ちとその将来です。子どもの人権を重視するEUが親による子供の連れ去りについて許容する日本政府の態度を「子供への重大な虐待」とするのもその表れです。

日本は1994年にユニセフの「子どもの権利条約」にも署名していますが、この条約には子供が親に会う権利も明記されています。子どもには親に会う権利があり、それは子どもの健全な成長にとって不可欠だという考えでに基づいているのです。

親同士の関係は破綻しても、親子の愛情はなくなりません。両親の離婚だけでも大きなショックなのに、これまで一緒に暮らしてきた親と急に引き離される子どもに残る傷は一生癒えないこともあるでしょう。同居する親に遠慮して本当の気持ちを表現できない子もいるかもしれません。

夫婦としての関係が破綻したあとも、2人の子どもの親として協力して関係を続けていくは親の務めであるはずです。

共同親権に反対する意見

ほかの先進国のように日本でも共同親権をと求める声は外国からだけでなく、日本国内でも広がっています。共同親権を求める人たちによって集団訴訟も起こっており、法務省でも共同親権の導入について検討をしています。

しかし、日本は戸籍制度とか夫婦別姓とか家族にまつわる制度について保守的な社会であり、国際標準から見ると時代遅れの感が否めません。父親が外で働き、母親が家で子供を育てるという伝統的家族観がそうさせているのでしょうか。離婚後、親権がほとんど母親に与えられ、父親が子供に会えなくなることも仕方がないとされる空気もいまだに幅をきかせているようです。

共同親権に反対する理由としては家庭内暴力やモラハラ、虐待を上げる人もいます。特に母親である女性が男性パートナーに自身や子供に暴力や虐待を受けたことを理由に、別居後面会を拒否するケースが多いようです。

けれども、これらの問題は別居せずに一緒に暮らす家庭内でも起こる問題であり、共同親権とは別に論じられなければならないものです。共同親権がないばかりに別れることができず、それゆえにこういう問題が続くということもあり、その場合は別居したほうがいいこともあるでしょう。

欧米諸国でも、家庭内暴力や虐待があるケースなどは家庭裁判所などがその状況を調べ、必要があれば子ども自身の考えも聞いてから親権や面会の詳細について取り決めをしています。

子どもには母親が一番?

日本では何かと「子どもには母親が一番」という思い込みが見え隠れし、それが時にはマイナスになることもあります。「母親だから」自分を犠牲にしても子どものために100%尽くさないといけないという見えないプレッシャーで心身共にへとへとになる女性も多いでしょう。

逆に子供をかわいがり、日常的に世話をする父親は何となく普通でないような思い込みがあり、そのような男性は一部では異常にもてはやされ、別のシーンでは変な人と思われたりもします。実際、日本の男性は子供の世話をしたり子供と一緒に過ごす時間が欧米の男性に比べると少ないわけで、それが標準となっているのは例えば半世紀前の欧米でも同じことだったでしょう。

けれども、男女の役割が固定化されていた時代から女性が社会進出し家事育児もカップルでシェアする時代になってきた欧米諸国では父親と子どもとの結びつきが強くなってきました。そうなると、親同士の関係が破綻しても両親とも子どもとの密接な関係を続けたいと思うのは当然です。

子どもがかわいいのは「自分のおなかをいためて生んだから」ではありません。自分がいないと命を落としてしまうようなもろい小さな生き物を、自分自身の欲求をも我慢して、手をかけて一生懸命世話をする毎日から生まれる感情です。眠いのを我慢して泣く子をあやしたり、おむつを替えたり食事や着替えをさせたり、初めて立ったり歩いたり言葉をはなつ瞬間をとらえたり、自転車に乗れるようになるまで一緒に練習したり。それには男も女もないし、血のつながりさえ関係ありません。

そのような濃厚な時間を共に過ごした親子を引き離すことは親にも子にも残酷なことです。子どもに対する父親の愛情を軽視する人はそういう気持ちが理解できないのかなと思います。それは、父親が子どもの世話をすることが少ない社会に根付く想像力の欠如なのかもしれません。

男も女も親であり人である

共同親権を認めるということは、ひいては男性を家計の稼ぎ手としてではなく、家族の大切な一員とすることでもあります。子どもを育てる苦労は、それにもまさる幸せと背中合わせです。男女にかかわらず、親としてのつとめも子どもとの関係から生まれる愛情や信頼関係もはぐくむことは、親にとっても子どもにとっても社会全体にとってもプラスになることではないでしょうか。

子育てというものは母親一人に任せておくべきではなく、両親が協力して、また周りの人や社会全体がサポートするべきこと。子どもを社会全体で育てる環境を整えるためには働き方、男女や家族の役割分担の在り方などを見直すことも必要です。共同親権についての議論はそのような取り組みの一環としても進めていくべきことでしょう。

(敬称略)

国際男性デー11月19日 International Men’s Day

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