Last Updated on 2022-03-07 by ラヴリー
英国スコットランドのグラスゴーで、インド系移民2人が移民法違反の疑いで連行されようとしたところ、住民が抗議して解放されたというニュースがありました。その出来事について紹介し、日本での移民難民問題についても触れます。
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不法移民取り締まり
5月13日イスラム教徒のラマダン明けのイードのお祭りの日の朝、スコットランドのグラスゴー、Pollokshieldsにあるアパートメントの一室に英国ホームオフィス(内務省)入国管理局の職員が突然訪れました。そして、そこにいたインド系移民2人を「移民法違法の疑い」で取り締まり、外に駐車していたヴァンの後部に収容して連行しようとしました。
けれども、そのヴァンを取り囲む住民が5,6人出てきて、車は立往生してしまいます。住民たちは「彼らはわたしたちの隣人だ。隣人を釈放しろ」と抗議したのです。
それを見た近所の人が次々にその抗議に加わり、ヴァンは多くの人に取り囲まれて身動きできない状態になりました。「われらの隣人を釈放しろ」と叫ぶ声を聞いて集まる人が次々に増えて、騒ぎは大きくなるばかりです。
入国管理局は地元スコットランド警察に出動を要請して騒ぎをおさめようとしました。
英スコットランドのグラスゴーで、不法移民を取り締まろうとする内務省職員が二人の男性を住居から連行しようと車に乗車させたところを、100人以上の住民に取り囲まれ立往生。
住民は「彼らは隣人だ。私たちは移民や難民を歓迎する」「不法な人間なんていない」と抗議。 https://t.co/TmuaKTGSKD— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) May 13, 2021
その間も抗議する住民は次々に増えていきました。抗議する人の数は100人とも200人とも伝えられています。中には、ヴァンが動けないようにと、タイヤとタイヤの間の路上に横たわる人までいました。
「隣人を釈放しろ」「我々は移民難民を歓迎する」「不法な人間なんていない」などと叫んだり、プラカードを掲げる人々で道路はいっぱいです。警察が騒ぎを収めようとしますが、双方が対立して、にっちもさっちもいかない状況が1日中続きました。
スコットランドはまだコロナによる行動制限中で、大勢の人々が集まることは野外でも禁止されています。とはいえ、この抗議活動は平和的に行われ、抗議者も警察もマスクを着用していたようです。
移民2人が乗せられたヴァンが身動きできないようにタイヤの間に横たわる人も出て、警察が出動して大騒ぎになったあげく、内務省と警察は「移民の連行はやめるので、みんな平和裏に帰宅してください。」と発表。https://t.co/uXEvIK00vV
— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) May 13, 2021
この騒ぎについては全国ニュースでも伝えられ、どうなるのかとイギリス中が見守っていましたが、その日の夕方5時過ぎになって2人は解放されることになったとの知らせが入りました。
スコットランド警察は「拘束された2人と抗議に参加するすべての人々の安全、公衆衛生と社会の安定のために2人は釈放されます。抗議に参加している人たちは速やかに帰宅してください。」という声明を発表しました。
ヴァンの後部ドアから8時間ほど車内に拘束されていた移民2人が出てくると、そこにいた住民みなが一斉に拍手しました。
グラスゴーの隣人たちに守られ、自由になった「不法」移民2人と祝福する人たち。https://t.co/sJdzVyggZT
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「イスラム教徒にとってはクリスマスのようなイードのお祭りの日に移民を捕まえに来るなんて、彼らには祈りをささげることさえ許されないのか」という隣人たちが、釈放された男性二人をモスクにエスコートしている様子。https://t.co/2hj8uD6eSj
— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) May 13, 2021
移民男性2人のうちの一人Lakhvir Singhが、英語とパンジャブ語で隣人たちに感謝の言葉を述べました。
移民の一人、Lakhvir Singhが自分たちを救ってくれたたくさんの人たちに感謝の言葉を述べる。
「人々の絆が深く仲間のために力を合わせてくれるグラスゴーのような街に住んでいることをとても幸せに感じている」https://t.co/kir7CDvmMH— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) May 13, 2021
今のところ、この2人の移民ステータスやホームオフィスが2人を訪問して連行しようとした理由、釈放の根拠やこれからの処置などについては明らかにされていません。
内務省は「英政府は違法移民の取り締まりに取り組んでおり、グラスゴーでの取り締まり行為も移民法違反の疑いがあるとして、公正に行われたものである。」という声明を出しています。
イギリスの保守党政権は最近、移民に対して厳しいスタンスを取り続けており、移民法をさらに厳しくする法律を導入しようとしています。これに対しては懸念する声も大きく「イギリス政府は人権や思いやり、尊厳に基づいた移民政策をとるべきだ」と反対する意見がイギリスには根強くあります。
けれども、このグラスゴーのような、移民を仲間として暖かく受け入れる隣人たちがいる限りは、政府も無理な移民政策をごり押しできないだろうということが明らかになった出来事でした。
日本ではスリランカ女性の悲劇
おりしも日本では、名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリが死亡した件が話題に上がっています。
この女性が収容中どのような状況であったのかという実態が解明されておらず、収容中に適切な扱いを受けていなかったのではないかという疑惑があります。
この件の詳細については下記の記事などをごらんください。
かたやこういうこともある:
「国際人権法さえ守っていたら、ウィシュマさんは今日も笑顔を見せてくれていたかもしれない」 Dialogue for People @dialogue4ppl https://t.co/Yg17aTqk4s— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) May 13, 2021
これまでも入管では収容中に死亡する人がいましたが、その真相が解明されず責任も明らかにされていないことが多いのです。
日本の入管制度については収容の在り方やその環境、難民申請制度そのものや難民申請者の扱いに対しても、国内外でかねてから疑問視されています。
刑務所よりもひどいと言われる入管施設での収容中にハンストをはじめとする抗議活動をする収容者もいるほか、国内外の関係者、人権団体、弁護士などから批判の声が上がっています。
入管法「改正」の動きも
さらに日本では今まさに、国連も「国際的な人権水準に達していない」と指摘する出入国管理法(入管法)「改正」案を導入しようとしています。
迫害から日本に逃れてきた人たちの難民申請を3回目以降は拒否して申請者を送還できるとか、強制送還を拒否した場合に刑事罰を課すなどの条項が盛り込まれた案が、国内外で反対があるにもかかわらず、ごり押しされようとしているのです。
これについての詳細は下記をご覧ください。
「困難な立場にある方々を人間扱いしない社会は、実は誰も人間扱いしていないのだと思う」
入管、難民問題に取り組む駒井知会弁護士インタビュー | Dialogue for People @dialogue4ppl https://t.co/M3CtgrCQvA
— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) May 13, 2021
日本における難民や移民
日本は長年の間「難民鎖国」として批判されてきました。他の国が母国から逃れてきた難民を数万、数10万人単位で受け入れている中、日本は10~40人程度とほとんど受け入れていませんでした。
下記にその詳細があります。
UNHCR(国連難民高等財務官)によると、日本の難民認定率は0.4%(44人)とほとんどゼロと言っていいような数字です。
アメリカの難民認定率は29.6%で認定者数が約45,000人、イギリスは46.2%で17,000人、ドイツは25.9%で54,000人などと比べると、その数がいかに少ないかがわかるはずです。
ちなみにこれは「難民」であって「移民」ではありません。
「難民」というのは母国で迫害されるなどして、命の危険があるために国を出ざるを得なかった人々です。だから、難民を保護するというのは単に外国に行きたい人を受け入れるというのではなく、倒れている人を助けるというような、人権上の問題です。
日本は国際難民条約に加入していて、難民を保護する義務があるのに、その国際的な義務を果たしているとは言えません。
「困難な立場にある人を人間扱いしない社会は、実は誰をも人間扱いしない社会」という言葉を今一度かみしめたいものです。
もちろん難民だけではなく、日本は移民や外国人一般に対しても寛大な国とは言えません。
日本では人手不足を補うために外国人労働者が増え続けていますが、その多くは「技能実習生」として働いている人たちです。
ずっと日本に住んでもらうために来てもらっているのではなく、日本で技能を習得したうえ母国に帰って活躍してもらうという建前ですが、実はていのいい低賃金重労働を課しているだけという実態も知られるようになりました。
イギリスをはじめ各国では、難民や移民に必要な教育や訓練を与え、市民社会の一員としてその才能を発揮して活躍してもらおうという姿勢が見てとれます。
基本的な生活を送るための経済的サポートを提供しつつ、家族の子供や大人にも語学や基礎的な教育環境を与え、自国文化や宗教を維持する姿勢をも尊重します。
長い年月を経て移民を受け入れてきた伝統があるイギリスでは、文化背景が異なる人たちがともに生きてきた歴史があって、違いを認めながら共存していこうと努力を続ける姿勢があります。
とはいえ、宗教や文化、モラルのちがいから溝ができたり、小さなコミュニティで急速に増える移民に危機感を抱く人たちがいることも事実です。
それでも、異なる文化や宗教を持つ人と何とか手を取り合い、困った隣人には手をさしのべるという環境があることを、イギリスに暮らす移民の1人として幸いだと私は日々感じています。
イギリスと同じ島国である日本も、このグローバル社会の中でいつまでも鎖国をしているわけにはいきません。文化背景が異なる外国から来た人たちを人手不足を補うための労働力とではなく、社会の一員として受け入れ、ともに生きていくことは国際社会の一員としての義務でもあります。
さらに、様々な面で井の中の蛙となってしまいがちな日本社会に多様性のある経験や才能、考え方を持つ人々を受け入れることは、日本にとっても有意義なことです。それによって日本という国が少しでも風通しのいいところになれば、近年何かといきづまっているような感のある社会状況に大きな可能性が広がるでしょう。
(敬称略)