Last Updated on 2022-03-07 by ラヴリー
ワクチン接種が進んだ各国でコロナによる入国規制が緩和されつつある中、厳しい水際対策を続ける日本政府の政策に、国内外のビジネスや日本への留学を待ち続けている学生、在日外国人やその家族などから批判や苦悩の声が増しています。
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五輪選手やセレブは例外?
先日、千葉県で行われた音楽イヴェント、スーパーソニック出演のためドイツから来日したZeddが、到着&隔離の様子をツイートしたのですが、そのリプ欄に批判的なコメントがたくさん寄せられました。彼は来日したことを知らせるツイートで3日半の「隔離」状況を動画で紹介していたのですが、「隔離」という言葉からは想像できないような、広々とした、豪華なスイートルームでご機嫌の様子。
JAPAN 🇯🇵!
I’m here!
Can’t wait to see you all at Supersonic Tokyo!!!! ♥️ pic.twitter.com/OHt5orj2jw— Zedd (@Zedd) September 14, 2021
このツイートのリプライを見ると、こんな感じのものがずらずらと出てきます。
14日間の隔離ではないの?私はワクチン完全接種していて、検査陰性でも入国できないのに。
日本で勉強するためなのに入国できない。それなのに、エンタメ目的のDJは簡単に入れるなんて不公平で、訳が分からない。日本政府は何を考えているの?
去年からずっと待っていたが、いつまで待てばいいのかもわからず、私の将来は閉ざされたまま。もう、日本に嫌気がさした。
ドイツDJ、Zeddが日本の「鎖国」入国制限の不公平さを露出。
彼が3日間「隔離」しているホテルスイートの豪華さを見せびらかす反面、在日外国人や、日本に仕事や留学、家族に会うためなどの理由で入国したいのにできない外国人・日本人が去年の春から我慢を強いられている。https://t.co/MxD6HfQKBD— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) September 18, 2021
外国から日本への入国は、日本国民や日本に在住権を持っている人でも、検疫宿泊施設での待機や入国後14日間の自己隔離が必要です。その間、国内線飛行機や公共交通機関を利用できないため、空港から自宅などの滞在先へたどりつくのが困難な人も多く、そのために帰国できないという人は多いのです。
さらに、留学生やビジネスマンなどその他の外国人は原則として日本に入国できません。2020年の春からの外国人入国禁止措置により、就学ヴィザや就労ヴィザを得て日本に入国予定だった人たちも、入国できないまま先がわからぬ不安の中で、入国緩和をずっと待っているのです。
1年以上続く日本の「鎖国」政策により、家族と離れ離れになっている人も多くいます。婚約者と会えない、結婚できない、外国にいる家族の死に目に会えなかった、逆に在外邦人が日本の親の死に目に会えなかったということもあります。これらの措置はコロナワクチン完全接種者でも例外ではありません。
このように、留学生やビジネス関係者、家族に会うためなどの目的で来日できない人がいる中、セレブDJは例外的に入国が許可されるだけでなく、自己隔離も豪華ホテルスイートで3日半のみという例外措置が炎上の理由。
とはいえ、Zeddに悪気はなく、単にこのように不便を強いられている人が多いとは知らなかっただけでしょう。彼が無邪気に自己隔離の様子をツイートしたことで、日本政府の水際対策の不公平さが可視化されただけです。
もちろん、特別扱いはDJだけではありません。東京五輪中、五輪関係者が特別に入国が許されていたことも、日本への入国をずっと待っている人たちにとっては、納得がいかないことだとして、様々な批判や嘆きを目にしました。#japantravelban #japanentrybanで検索すると、様々な意見を主に英語で、見ることができます。
これらの人々はほとんどが、日本が好きで日本に来たくてたまらない人たちです。留学予定があったのにずっと待たされ、将来の計画が立てられなくなってしまっている若者などの叫びは時に悲痛で、日本人として申し訳なくなります。 日本のコロナ水際対策によって、インバウンド観光はほとんどゼロとなっていますが、それだけではなく、外国人の親日感情もどんどん失われていくだろうと想像できます。
世界一厳しい日本の水際対策
台湾やニュージーランドなどの小さい島国は例外として、日本ほど水際対策が厳しい国はまれです。それも、日本国内で感染者が少ないわりに国外でコロナが爆発的に流行していた時期に、ゼロコロナを目指すために厳しい入国制限をするというのはまだ理解ができます。
けれども、現状として日本ではすでに国内の日本人の間に市中感染が広まっていて、濃厚接触者の追跡も追い付いていない状況です。それは五輪のせいだとか、外国からやってきたのだという人もいますが、日本はそもそも今に至るまであまり検査をしてこなかったので、実際の感染状況についてはよくわからないままです。
もちろん、コロナウイルスはどこからか入ってくるわけですが、いくら検疫を厳しくしてもすべての感染をブロックすることは至難のわざです。
さらに、日本への留学を待っている学生の多くは中国、韓国、台湾、香港など、日本より感染状況がひどくない国の人々であり、ワクチン接種済でさらに検査で陰性なら、感染させるリスクはワクチン未接種で検査もしていない日本国内にいる人に比べても低いと言えます。
日本への外国人留学生
コロナで制限、留学生の入国9割減。
認めないのはG7で日本だけ。
日本政府は昨春、外国人の入国を段階的に制限し、現在、国費留学生など一部が特例で認められているが、留学生の95%を占める私費留学生は入国できない。https://t.co/hjqJ36ntKj— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) September 18, 2021
日本へ入国予定のすべての留学生は公式スポンサー(学校)を持ち、誓約書に署名しなければ学生ビザを取得することができません。 この誓約書には下記のように、コロナ対策のために必要な検疫や検査を確実に行うことも含まれています。
・日本出発前72時間以内のPCR検査、入国前14日間の健康記録
・入国後、接触確認・位置情報記録アプリをインストールし、毎日健康状態を報告
・入国後15泊16日報告された宿泊先に滞在、学校指定以外の交通手段を使用しない
それにもかかわらず、新型コロナ感染拡大の影響で、昨年4月以降、日本への留学生の新規入国がほぼ停止状態となっています。
日本政府は去年の春から外国人の入国を制限し、10月にいったん緩和したものの、今年1月にはまた新規入国を停止しました。
現在は国費留学生は特例として入国を認めていますが、留学生の95%を占める私費留学生は入国できないままです。一方で、留学のための入国審査手続は通常どおり継続されており、査証発給のための在留資格認定証明書は交付され続けています。
2021年上半期における外国人留学生の日本への新規入国は、コロナ禍前の約9割減。留学のために新規入国した外国人留学生は2021年上半期は7078人で、19年上半期の61,520人の11.5%まで落ちているのです。
先が見えない入国制限で、せっかく得た学生ヴィザや就労ヴィザが使い物にならなくなったり、苦労して得た奨学金を失った人もいます。学費を払い続けながら今に入国できるだろうと待ち続けるうちに1年以上たってしまったという人。その間、仕事や教育の機会を失い、将来のキャリアの見通しがつかないまま、留学をあきらめたり、日本以外へ留学や就職を変更した人もいます。
外国のコロナ水際対策
コロナ禍にあっても、他の先進諸国では留学生を受け入れており、外国人留学生の新規入国を原則認めていない国はG7では日本だけです。他の国では水際対策(ワクチン接種義務や検査、隔離など)を徹底した上で留学生を受け入れているのです。
日本人留学生も海外への渡航をしています。日本が留学生を受け入れないのに、日本人が外国に留学できるというのは不公平です。実際、私もイギリスに留学が認められた日本人を知っていますし、他の外国人も、必要な手続きをした上で入国を認められ、イギリスに入国しています。
交換留学などの連携をしている国際的な取り組みも一方通行では不公平感が増し、日本の教育機関との関係を見直す大学などが出てくるのも自然でしょう。
その反面、日本に留学を予定していた学生たちは待ちきれず、中国や韓国など、他の国に留学先を変更する事例も多くなっています。若者にとっては留学できるタイミングは限られており、いつ開国されるかわからない日本をいつまでたっても待っているわけにはいかないのです。
G7における留学生受入について簡単にまとめると、各国の状況は次の通りです。
アメリカ:入国制限なし(常時入国可能)
イギリス:入国制限なし(常時入国可能)
イタリア:2020年6月より入国可能
フランス:2020年6月より入国可能
ドイツ :2020年6月より入国可能
カナダ :2020年10月より入国可能
日本 :現在入国不可(国費留学生を除く)
このように米国英国など、外国人留学生が多い国ではコロナ禍でもずっと留学生を受け入れてきたし、他の国でもコロナ被害が大きかった去年の春以降は受け入れを再開しています。受け入れ再開が遅れたカナダでも、日本人学生への就学許可証の発行がコロナ禍前の水準に戻ってきています。
一方で、ビジネスや旅行目的など一般向けの水際対策も、ワクチン接種が進むにつれて緩和されるところが多くなってきました。
フランスやイタリアでは、ワクチン接種証明で隔離を免除しています。フランスは接種証明があれば自己隔離や入国時の検査を免除。イタリアも日本や米国からの渡航者はワクチン接種証明があれば自己隔離が免除となります。シンガポールもワクチン接種を条件にドイツなどからの入国者を対象に入国時の隔離を免除。
米国は各州に判断をゆだねていますが、CDCの指針では、検査陰性であればワクチン接種済みの人には隔離は求めないとしています。
EUは7月から接種履歴などを証明するデジタルCovid 証明書の運用を始めています。EU加盟27か国やスイス、ノルウェーなどではQRコードを提示することで国境を超える場合の隔離や検査が不要です。
イギリスへの入国
イギリスは米国と同様に、世界中から留学生が集まってくる国であり、政府はコロナ禍でも留学生についてはずっと受け入れを許可してきました。検査や隔離などの検疫対策はその時の感染状況や出国地のコロナ流行状況によって決められていたものの。
とはいえ、去年は大学のキャンパスじたいがロックダウンで閉まっていて、多くの大学生は寮や自宅でオンライン授業を受ける状況が続いていました。けれども、行動制限が緩和された今では、イギリス人学生も留学生も無事に対面授業ができるようになりました。
9月の新学期を迎え、一般航空便が少なくなっている中、イギリスの諸大学が共同で特別にチャーター便を飛ばして中国から学生を受け入れたりもしています。
さらに今月、イギリスのシャップス運輸相は「世界中を旅行したりビジネスの出張ができるように」 水際対策を大幅に緩和する方針を発表しました。
この新方針により、コロナワクチンを2回接種していれば、日本を含む多くの国からの入国の際、隔離がいっさい不要に。 これまではワクチンの接種証明の適用をEU(ヨーロッパ連合)加盟国やアメリカなど一部の国に限っていましたが、ブラジルなどレッドリストとして分類される国を除き、ワクチン2回接種完了で、渡航前のPCR検査も自主隔離も不要となります。
経団連や商工会議所も水際対策緩和を要望
コロナワクチン接種について、日本は出だしは遅れましたが、接種スタート後は順調に進んできています。特に職域接種が進んで、大企業のビジネスマンなどはワクチン完全接種者が多くなっています。
この背景で、経済界から観光や国際ビジネスの観点などで、厳しい水際対策の緩和を求める要望が出てきています。海外のビジネス客や観光客が日本に来ないだけでなく、日本から外国に出張する際も帰国後の隔離があるため、難しくなっているという事情もあるのです。これでは、国際間のビジネスに支障が出て困るというわけです。
さらに、日本国内で就業する外国人労働者不足も深刻で、ワクチン接種済の外国人の入国を緩和してほしいという要望もあります。
このような問題をかんがみ、経団連はワクチン接種者を対象に隔離を免除すべきだと提言しました。この動きには、世界中でビジネス往来がだんだんと活発になっていく中、厳しい水際対策を続ける日本は取り残されかねないとの危機感が垣間見えます。
日本商工会議所も、国際往来再開に向けた入国措置の緩和を提言しています。ワクチン接種証明により自宅待機期間を免除するなど、帰国者、外国人留学生、外国人高度技術者への入国措置の緩和を推奨するものです。
出入国の制限は両国が同じ条件を課す「相互主義」が原則で、海外の水際対策の緩和は日本への入国にも影響してきます。逆もしかりで、日本が厳しい入国制限をしている限り、日本人が外国へ出張や留学目的で行こうとも、同様の入国制限が課されるというプレッシャーがかかり、それを拒否するとなると、国際関係もぎくしゃくしかねません。
日本の入国緩和
このような声にこたえ、日本政府は9月20日から、米国やフランスなどからの入国者を対象に、検疫所の宿泊施設での待機期間を10日間から3日間にすることを決めました。この施設を出たあとも、入国後14日間が経過するまでは、自宅などで待機するよう求めるということなので、空港から自宅が遠い人にとっては不便さはあまり変わりませんが。
入国規制を変更した理由について政府は「国内で感染力の強いデルタ株への置き換わりが進み、水際で流入を防ぐ意味合いが薄れたため」と言っています。感染力の強いデルタ株による市中感染がこれほど流行している中、政府の政策変更については科学的な観点からも理解できる考え方でしょう。
けれども、この発表があったのち、日本の一般国民から「外からウイルスが入って来るのをみすみす許すのか」と批判する声も上がっていました。すでに日本ではこれほどウイルスが出回っていて、無症状の「隠れ感染者」がかなりいると推測されているのにと、イギリスに住む私からするとその理由がぴんときません。
同じ島国でも、イギリス人と日本人の「外」に対するとらえ方には大きな違いがあると感じざるを得ません。イギリス人はかつて植民地を持ち、古くから移民を多く受け入れてきたこともあり、外の世界に関心があると同時に、世界というコミュニティの一員としての責任のようなものを持っている人が多いようです。
それに対し、日本人はおおむね内向きで、自国と自国民のことだけ考え、外国人はいつまでたってもよそ者、またはお客さんといった扱いのようです。ウイルスのような厄介者を持ってやってくる外国人は排除して自分たちだけ安全安心に暮らせればそれでいいと考えているように思えます。
これは、広い意味での「よそもの」問題に通じ、在日外国人の差別問題、入管施設の外国人の扱いに対する問題、移民難民の問題などにも共通することだと言えます。自分や自分たちの仲間のことについては関心があっても、自分とは所属が異なる人たちが抱えている課題や悩んでいることについては思いをはせない人が多いのです。
日本の国際的な信用失墜
日本がコロナ水際対策のために失った長期的な信頼はかなり大きいものですが、それに気が付いていない日本人がほとんどです。日本政府もそういう事に関心がないのは、国民にとって大した問題だとは思っていないからでしょう。大手メディアもこの件に関してはあまり取り上げておらず、ごく最近になってやっと大手新聞などでちらほらと記事になっているくらいです。
「でも、私たちの命にかかわることなのだから、水際対策を厳しくすべきということは当然だ」という声もあるでしょう。台湾、中国、ニュージーランドなどゼロコロナを目指している国でも厳しい入国検疫をしているのは事実です。
けれども、日本の場合、国内ですでにコロナが蔓延し(検査不足のため、実際に発表されている感染者データが信用できないということはもはや世界中に知られています)、ワクチン接種も今では普及してきたものの、少し前には外国の方がずっと進んでいました。なので、ワクチン接種済み、検査済みの外国人にしてみれば、日本人が外国人をここまで拒むことが理解できないのです。
さらに、日本は東京五輪を開催して、五輪関係者には特別な扱いをしてきました。コンサートのために入国するセレブDJと同様です。このような、ちぐはぐで不公平、不透明な例外措置を目にして、留学や重要なビジネス上の訪問、家族の再会やお見舞い、葬儀出席など、1人1人にとって重要な局面で入国できなかったり、多大な不都合を強いられる人たちはどうしても理不尽な思いをいだいてしまうのです。
日本の水際対策についての不満は、日本への留学生予備軍、在日外国人、在外邦人などを中心に、ここ1~2年でたくさん見てきました。私自身も、コロナ前は日本にいる老齢の母に会うために1年に2~3回は帰国していましたが、もう2年も帰国できていません。実家が空港から遠いので14日間の隔離が大きなハードルとなっているのです。
それでも、私の場合は自分のキャリアや人生がかかっているわけではありません。かたや、日本への留学のために数年もかけて準備をして勉強も続け、将来に期待を寄せていた若者たちが日本の「鎖国」政策のおかげで人生を台無しにされている悲痛な叫びを聞くと、日本人として本当に申し訳ない気持ちになります。
わざわざ日本を選んでくれた人たちをこのような形で裏切ることは、日本への国際的信頼を失墜させ、長期的には日本のためにもなりません。科学的な見地にもどついた現実的な水際対策を打ち立て、それを関係者に透明性のある形で伝えていくことが日本政府に求められています。
アメリカ在住ですが、全く同意見です。日本だけが良ければいいという島国根性で水際対策をしているとしか思えません。日本は確かに物理的には島国かもしれませんが、経済的には海外と地続き。海外に家族がいる人もたくさんいます。実質的には島国ではないのです。だから鎖国をしても全く根本的な対策にならないのがなぜわからないのか。私がいつも思っていたことを書いていただいてありがとうございました。