モハメド・サラーリバプールFC選手がイギリスをイスラム化する

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Salah

リバプールFCのFW選手として活躍しているモハメド・サラーがイングランドのプレイヤーオブザイヤーに選ばれました。エジプト人でイスラム教徒のサラーですが、イギリスではどう受け取られているのでしょうか。


プロフィール

モハメド・サラーはエジプト出身のサッカー選手で現在はイギリスプレミアリーグのリバプールFCに在籍しています。

名前:モハメド・サラー・ガリ Mohamed Salah Ghaly
生年月日:1992年6月15日(26歳)
出身地:エジプト バスユーン
在籍:リバプールFC サッカー選手
代表:エジプト代表
ポジション:FW
背番号:11
身長:175cm
体重:71kg

サラーは2010年に母国エジプトでプロデビューを果たして以来、バーゼル、チェルシー、フィオレンティーナ、ローマでプレイしてきました。2017年に英国プレミアリーグ、リバプールFCに移籍してからの活躍ぶりには目を見張るものがあります。

モハメド・サラーはムスリム

サラーはイスラム国エジプトで生まれ育った敬虔なムスリム(イスラム教徒)です。ラマダンの戒律も守る信仰の厚い信者であることも有名です。毎日イスラムの祈りをかかさず、サッカーの試合中でゴールを決めたときもアラーに感謝の祈りをささげることを忘れません。

イスラムの教えでは恵まれたものはそうでないものを助けるべきだとしており、サラーはチャリティーにも熱心です。故郷の街のスポーツセンター、病院、学校、モスク、浄水場などのために資金を寄付し続けています。また、薬物依存問題に取り組むキャンペーンにも協力し、彼が参加したキャンペーンビデオが流れてから3日間で中薬物毒治療を申し出る人が4倍に増えるほどの影響がありました。

サラーは自国エジプトでは他に類を見ないほどの大人気スターですが、世界中のイスラム教徒からも絶大な人気を誇っています。エジプト近辺の北アフリカはもちろん、パキスタン、バングラデシュなどのアジアのムスリムにとっても、非イスラム国のヨーロッパでも公然と宗教活動を行うサラーはお手本にもなり、誇りにもなる存在なのです。

イギリスにおけるムスリムと移民の扱い

イギリスは古くから旧植民地などからの移民が多く移り住み、非白人やイスラム教徒が全国的にかなり浸透している国です。とはいえイギリスはキリスト教圏であり、保守的な国民の中には他宗教の信者や言葉や外見、習慣が異なる外国人を自分たちの世界とは違うところに住んでいる人だと考える人も少なくありません。

右寄りメディアの移民排斥の傾向が拍車をかけ、移民流入を問題視する人の声も大きくなってくるし、保守党が政権を握ってから政府も移民に対して厳しい政策を導入しています。EU離脱の国民投票で離脱派が勝利したのも、これ以上の移民流入に反対する人の票が入ったのが大きな原因とされています。

さらに、2001年9月11日の米国のテロ事件以来、世界のあちこちで起こっているテロの結果、イギリスでもイスラマフォビア的な言動をする人がいることは否定できません。特に過去数年間のイスラム過激派によるパリ、ロンドン、マンチェスターのテロ事件はイギリスに衝撃を与え、2016年にはイスラマフォービアに関するヘイトクライムは47%増えました。

このような状況の中、イギリスで移民やその家族は差別を受けてきているし、ムスリムに対して否定的な感情を持つ人も少なくありません。

これはサッカー界でも例外ではありません。フットボール・スタジアムでも非白人選手に対して人種差別的な叫び声が上がることはしょっちゅうなのです。

モハメド・サラーとリバプール

そんな状況の中で2017年にリバプールFCに移籍してきたサラーは短い間にリバプールファンに受け止められただけでなく、今では熱狂的に愛されています。数年前のチェルシーでは芽が出なかったサラーがリバプールに来てからはめきめき活躍したことも大きな理由ですが、彼とリバプールの相性がよかったのかもしれません。

首都ロンドンと比べ、北部の地方都市リバプールはアンチ・エスタブリッシュメントの街だと言われています。港町リバプールは古くからアイルランド移民がたくさんやってきた町で「よそ者」を受けいれる気風があるのかもしれません。

リバプールやその近郊にはイスラム教徒も多く住み、イギリスで初めてモスクができたのもリバプールでした。とはいえ、2005年にロンドンでテロがあった直後にはリバプールの近く、バーケンヘッドにあるモスクが攻撃されたこともありました。

2012年から2016年の間、リバプールを管轄するマージ―サイド警察はヘイトクライムが75%増えたとしています。3年前にはアンフィールドのフットボール場の片隅でプレイヤーマットを敷いて祈っているムスリムの写真をツイッターにアップし「ムスリムがこんなとこで祈りやがって。」と苦言をはいていたリバプールファンもいました。

そんな緊張をモハメド・サラーがゴールを決めるたびにひとつずつ消していったのです。

今ではアンフィールド・スタジアムにはプレイヤー・ルームが設けられ、どんな宗教の人でも平穏に祈りをささげることができるし、ハラル・フードもメニューにのっています。スタジアムではリバプール・レッドのヒジャブをかぶって応援するムスリムの女性を見ることもできます。

そしてサラーの顔を配した旗を振り「彼がゴールしたら俺もムスリムになる」とサラーを称える歌声がアンフィールドに響くのです。

いかにもイスラム教徒らしくひげを生やしたサラーはイギリスで公にもサッカーの試合中にも自らがムスリムであることを隠すどころか、誇りを持って堂々と表します。彼がゴールを決めた後、アラーに感謝し地面にキスをして祈る姿は印象的です。

Embed from Getty Images

そして、この姿を見ることで、リバプールファンの、そしてイギリス人のムスリムに対する偏見が少しずつ消えていくのです。サラーはムスリム・コミュニティーと白人イギリス人の間に橋を架けてくれる存在と言っていいでしょう。これまでムスリムというとテロを起こすイスラム過激派を想像していたイギリス人にとってこれは大きな変化です。

そして、日頃偏見や差別の中で生きているイギリス在住のムスリムにとって、サラーの活躍は自身と自らの宗教や文化に誇りを持てる大きな要素となっています。イギリスだけでなく、リバプールの試合をテレビで見る世界中のムスリムにとって。

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スポーツとナショナリズム

ところで私はオリンピックのような行事が好きではありません。私が苦手な二つの要素が結婚したようなイベントだから。それはスポーツとナショナリズムです。

まず、自分が体を動かしてするのではなく他の人がスポーツをしているのを観るだけという行為があまり好きではありません。そして、それよりもっと苦手なのはナショナリズムです。

その二つが見事に合わさったものがオリンピックとか国対抗のスポーツ試合なんですね。こういう時になると過度にナショナリズムが高揚されるようで、がぜん「ニッポン、頑張れ」と叫んでしまうような。

ナショナリズムや愛国心が悪いことだとは思いませんが、あまりにそれが強すぎて違う国の人を憎んだり垣根を作ってしまいがちなことに違和感があります。

そんな私は、サッカーも同じようなものだと思っていました。最近はフーリガンという言葉はなりをひそめたようですが、サッカーファンと言うとパブでビールを飲んで酔っぱらって人種差別的発言を垂れ流しそうな先入観を持っていたのです。

それが、モハメド・サラーに熱狂する白人リバプールファンを見て考えが変わりました。サッカーで国や人種や宗教の垣根を越えて人が結びつけるのなら、スポーツも捨てたものじゃないなと。それをエジプトからはるばるやってきた26歳のムスリムが成し遂げたのだから、すごいことではないでしょうか。

願わくば、サラーがゴールを決め続けなくなったとしても、リバプールファンは、そしてイギリス人はサラーを、外国人を、イスラム教徒を、愛し続けてほしいものです。

でも、その心配は今のところは無用のようで、サラーは今期も快進撃を続けています。

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