Last Updated on 2022-05-13 by ラヴリー
日本では2019年10月に消費税が10%に上がりました。10%という税率は高く感じますが、ヨーロッパ諸国などは20%以上というところも少なくありません。とはいえ、すべての商品に高い税金がかかるわけでもないのです。多くの国で軽減税率が導入されているし、イギリスでは食品や子供服などの生活必需品や教育医療文化など社会的に重要だとされる分野の消費税はゼロです。ここでは、例としてイギリスの消費税の仕組みをご紹介します。
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日本の消費税10%に
日本では2014年4月に消費税が5%から8%に、2019年10月に10%に上がりました。
前回、消費税が5%から8%に上がった時には、直前の駆け込み需要が起き、その後の消費が鈍りました。このときの反省から、増税後の消費者の負担軽減策や景気を支える対策として軽減税率が導入されました。食料品や新聞の税率は8%に据え置くことになったのです。
外食には10%の消費税がかかることから、コンビニやファストフード店で食品の店内飲食と持ち帰りで税率が違うなど制度が複雑になっています。たとえばコンビニのおにぎりを店内の飲食スペースで食べれば外食とみなされ10%の税率が適用されるが、持ち帰る場合は8%になるなど。
軽減税率は諸外国の事例にならって導入されたと聞きます。
イギリスをはじめとする欧州各国でも消費税に代わるVATというものがありますが、どのようなしくみになっているのでしょうか。ここではイギリスの場合をご紹介します。
イギリスの消費税
消費税の税率は20%
イギリスの消費税はValue Added Tax、略してVAT(付加価値税)と呼ばれます。
今現在、税率は20%なので、日本の消費税の2倍となっており「高い」という印象を受ける人も多いのではないでしょうか。
でも、イギリスではすべての商品にVATがかかるわけではなく、食料品などの生活必需品にはかかりません。
これは生活に必要な最低限のものには、軽減税率どころか、税金をゼロにして、低収入家庭への負担を軽くする目的です。必要最低限の暮らしをしている限り、消費税を支払うことはほとんどないということなのです。
高いブランド品や外食などにお金が出せる人たちからは20%とるけど、毎日の生活に必要な食料品や医薬品、医療、介護、子育てにかかる費用には消費税がかかりません。つまり、消費税を通して「富の再分配」を目指しているとも言えます。
消費税ゼロの物品やサービスもある
VATの対象外(消費税ゼロ%)となるものには下記の物品が含まれます。
生活必需品のほか、教育文化スポーツなど、社会のために重要だとされる幅広い分野に及んでいることがわかります。
- 食料品(アルコールやチョコレートなど除外品あり)
- ベビー・子供用衣料や靴
- 本、雑誌、新聞など印刷物
- 文房具
- 教育やトレーニング
- スポーツ用品
- 文化イベント(美術館や演劇など)
- チャリティー(イベント、販売、広告など)
- 医療サービスや医薬品、器具
- 障がい者用の器具や工事
軽減税率は5%
上記は税金が全然かからないのですが、日本の軽減税率のようにVATが20%でなく5%しかかからない物品やサービスもあります。
たとえば、家庭用の電気やガス、女性の生理用品(これについては後記の「タンポン税論争」参照)などです。
線引きが難しい
このようにイギリスのVAT制度はかなり複雑なのと、税率が違う商品の線引きが難しくて現実にはいろいろと不便が起きています。
例えば通常は税金がかからない食料品にも例外があり、カフェやレストランで食べる外食にはVATが20%かかるのは当然ですが「贅沢品」とされる食品、例えばチョコレートにはVATが20%かかるのです。
なので、普通のビスケットにはVATがかからないのに、チョコレートがかかったビスケットには20%かかるという奇妙なことが起こります。さらにこんがらがってくるのはケーキにはVATがかからず、チョコレートがかかったケーキでもかからないということです。
チョコレートは贅沢品だが、ケーキは贅沢品でないのか、どうしてチョコレートがかかったケーキに税金がかからないのか。。こうなってくるともうわけがわかりませんね。
ジャファ・ケーキ論争
イギリスの老舗ビスケットブランドのマクビティ―にジャファ・ケーキ(Jaffa Cake)というお菓子があります。ソフトなビスケットにオレンジを挟んだものにチョコレートをかけたお菓子なのですが、これは通常お店ではビスケットの棚に陳列されています。
けれどもマクビティ―は「これはケーキである」と主張し、それが認められVATを免れました。
この写真の通り、見るからにビスケットなのですが、名前に「ケーキ」とつけたのが賢かったのでしょうか。
このビスケット、私は好きではないのですが、根強いファンがいるようです。もしかしたら、VATがかからないように画策した役人がティータイムに楽しんでいた「ケーキ」なのかもしれません。
パスティ税論争
また、VATについては有名なパスティ税論争というのもあります。
パスティ(Pasty)はコーニッシュ・パスティで有名ですが、様々な具をパイ生地で包んで焼いたあつあつのスナックです。イギリス中の街にあるグレッグズ(Greggs)というお店などが人気で、安くて暖かい手ごろなスナックとしてイギリス人に愛されています。この他にもソーセージロールとか、いろいろなバリエーションがあります。
2012年までこのパスティにはVATがかかっていませんでしたが、パスティは「ホット・フード」ということでVAT20%を適用するという決まりが導入されることになりました。
しかし、これが思いがけずイギリス国民の猛反対にあったのです。反対キャンペーンが繰り広げられ、署名が集まり、複数のメディアが扱い、グレッグズやコーニッシュ・パスティ協会などの販売団体も猛烈に抗議しました。
あまりの反対にあって政府はこの計画を断念せざるを得ませんでした。
タンポン税論争
VATというと、今だに論争が続いているのが「タンポン税」です。これはタンポンだけでなく生理用品にかけられるVATで、ナプキンも含まれます。「生理の貧困」はイギリスでも問題になっています。
女性の生理用品は生活必需品であり、税金の対象外にすべきだという論争が起こったため、この税率は2000年に軽減税率である5%に引き下げられました。本当はVATゼロにしたかったのですが、EUの決まりでそれ以下にはできないのです。
「EUの決まりのために自国の税制を変えられないとは何事だ」ということで、これを理由にEUを脱退するべきであるという声もあったほどです。EU離脱の国民投票で離脱に票を入れた人のうちには、タンポン税撤廃運動家もいたかもしれません。
イギリスの運動家はEU全体でタンポン税を廃止すべきだとの要望を今でも続けており、EUにはそれに賛同する声もあるのですが、今のところ実現していません。このためイギリスではテスコなどのスーパーマーケットが運動に賛同し、生理用品にかかるVAT5%分を値引きして店舗が差額をカバーするといった動きも出てきました。
タンポン税を廃止する運動はイギリスだけでなく世界中で広まっています。オーストラリアでは2018年に生理用品に課税されていた10%の消費税が廃止されました。カナダや米国のいくつかの州でもタンポン税が廃止となっていますし、インドでも2018年に12%の課税が撤廃されました。
【追記】イギリスのEU離脱が決まり、イギリスではタンポン税がゼロになると決まりました。ブレグジットに関しての数少ない、いいニュースといえます。けれども、本当はイギリスはEU内にとどまり、EU全体の制度を改善してほしかったと思います。
日本と外国との比較
日本の消費税は値上げされても10%なので、20%前後かかるヨーロッパ諸国に比べるとまだ比較的低率です。これを理由に日本の消費税ももっと上げてもいいのではないかという人もいます。
けれども、消費税の税率だけを比較するのではなく、その税制について詳しく理解し、その税金がどのように使われているのか、どういう人に負担が大きくなるのかまでを考える必要があります。
ヨーロッパの税制
ヨーロッパは一般的に高福祉高負担で、国民から税金を一定以上集めてそれを福祉や教育、医療、公的サービスに使うようになっています。誰でも税金を払うのは抵抗がありますが、そのお金が社会全体のため、特に援助が必要な子供、低所得者や何らかの理由で働くことができない人々のために使われるということで納得して払っているのです。
今は経済的に困っていない人でも病気になったりけがをしたりして働けない状況に陥ることもありうるので、セーフティーネットとしての福祉のために税金を払うのは保険のようなものです。さらに、経済的に余裕がある人がそうでない人々を助けるのは社会の一員としての義務であると考えます。
消費税についてもイギリスでは、貧しい人でも必要になる生活必需品は税金をゼロにして、余裕がある人が一種の「贅沢品」として消費するものには20%税金をかけるという方法をとって、不公平感をなるべくなくすようにしています。
国によって違いはありますが、ヨーロッパの他の国でもほとんど軽減税率を導入していて、生活必需品は消費税(VAT)が5%などになっています。
日本の税制
日本では何かと自己責任を問われたり、家族が助け合うことが期待されてきましたが、それには限界があり、生活に困窮する人が多くなってきている実情があります。消費税を上げることによってそのような人たちのための福祉が行き届くようになったり、医療や教育、保育や介護などの公的なサービスが充実するのなら増税には意義があるといえるかもしれません。
問題なのは、消費税増税分が本当にそのような支出に使われるのかということです。
自民党の公約によると、消費税増税分見込み5.6兆円の1/2は借金(国債)の返済に当てられ、1.7兆円を保育費などに、1兆円を社会保障に使うということです。幼児教育の無償化など少子高齢化の対応に重きをおいた政策となっているようです。
将来を支える子供のために財源をさくのはいいことですが、それだけで少子化に対応できるのかということも併せて考えることが必要ですね。子供を持ちたいと思える環境や仕組みづくりや子供を持つ親が働きやすい職場環境、労働条件がそろわないと子供を持つ人は減り続けるでしょう。
また、広く社会保障を充実させて低所得者層への支援を強化することも必要です。
さらに、軽減税率は食料品と新聞だけというのも納得がいきません。食料品を始め医療、子供衣料、教育関連費用、書籍などに対象を広めるべきだと思うし、生活必需品は8%といわず、消費税ゼロとすべきではないでしょうか。
消費税は公平か不公平か
税金というものは誰も払いたくはないものですが、充実した社会保障や公的サービスを提供するためには、必要不可欠なものです。その財源として累進課税になる所得税などは、収入が多い人ほど多く税金を納める制度ですが、消費税は誰にでも同じ税率がかかるので、低所得者層の負担が比較的に重くなります。
税金として支払う1000円は富裕層に取っては取るに足らない額ですが、低所得者にとっては家族が食べられるか食べられないかの違いとなるのです。だから、豪華な外食やブランドファッションなどに消費税がかかるのは仕方がないとして、生活必需品である食べ物や子供服、医療品などは消費税ゼロにすべきだと思います。
日本が消費税を導入する際に外国を見習って軽減税率も導入すると言ったとき、イギリスのような制度が導入されるのかと思いきや、軽減税率の対象になるのが食品と新聞だけと聞いてがっかりしました。
軽減税率は制度が複雑になり混乱をまねくという批判もあるし、この記事で紹介したように、イギリスでも一筋縄にいったわけではありません。でも、どうせ軽減税率を導入するのなら、対象になる「生活必需品」の範囲を広くして、税率もゼロにすべきでした。
人は食べ物と新聞だけで生きていけません。