Last Updated on 2021-08-23 by ラヴリー
新型コロナウイルスによる被害、ワクチン接種、アルファやデルタ株流行でも「先進国」といえるイギリスで、これからはコロナとずっと共生していかなければならないということが語られるようになりました。救いの星と期待されていたワクチンをもってしても、ゼロコロナを目指すのはもう無理なのでしょうか。
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これまでの状況
2019年末に中国で流行が始まった新型コロナウイルスは、その後何度も変異を繰り返してきました。そのうち、インドでデルタ株が今年の春大流行を起こしたのち、世界的に広まりました。
ワクチン接種が広がった効果もあって、アルファ株の流行が収まっていたイギリスでも、6月頃からデルタ株による感染が広まってきました。また、これまではコロナ被害がそれほどひどくなかったインドネシア、マレーシア、タイなどの東南アジアでも感染が広がっています。米国や他の欧州諸国、日本も例外ではありません。
感染者数が増加しているにも関わらず、イギリスをはじめとする欧米諸国では重症者や死者はそれほど増えていません。これはワクチン接種により守られているからでしょう。日本でも感染は増えているものの、65歳以上の高齢者のワクチン接種は進んでいたので、高齢者の重症化は比較的予防できているようです。東南アジアなどワクチン接種が進んでいない国では、感染増加と共に重症者や死者が増えており、ワクチンがコロナによる被害を防ぐカギとなっていることがわかります。
ワクチン義務化に踏み切る国
各国ではワクチン接種によってコロナを乗り切ろうとする努力が続いています。ワクチン接種が早い段階で進められたイスラエル、イギリス、米国、それからはじめは後れを取っていたものの、追い付いてきたEU諸国などでも、直近では接種ペースが落ちついています。というのも、ワクチン接種を希望する人はすでに少なくとも一度は打ち終え、後は接種を積極的に希望しない人やワクチン反対派を説得するしかない段階に入ってきているからです。
米国では様々なプロモーションを行ったり賞金まで出したりしているものの、ある一定以上は接種が進まず、せっかく確保したワクチンを大量に廃棄せざるを得ない地域もあります。
中には、ワクチンを実質上義務化する国も出てきました。例えばフランスでは公共交通機関や室内での飲食や娯楽などにヘルスパスポートが必要になりました。ワクチン接種済みまたは検査陰性を証明しなければならないものです。フランス人は欧米諸国の中でもワクチン忌避率が高い国ですが、この発表でワクチン接種予約が急増しました。半面、なかば強制的なワクチン接種に反抗するデモも全国各地で起こっています。自由を愛するフランスですが、マクロン大統領は個人の自由よりも公共の福祉が優先すると主張しています。
ギリシャやイタリアもフランスと同様の措置を導入するなど、EU諸国ではこれにならうところが多くなってきています。
ドイツはワクチン接種の義務化を躊躇していましたが、このほど感染者が多い地域に限って同様の措置を導入しました。同時にPCR検査を有料化することでワクチン接種を促すねらいだと言われています。
米国でも、民間企業や自治体では従業員にワクチン接種を義務付けるところも出ており、そのほかの国や地域でもそういう措置に踏み切るところがだんだん増えてきています。
イギリスは、ワクチン接種を希望する人の率が比較的高いのもあり、今のところワクチン義務化の動きはありませんが、高齢者介護施設の従業員に限ってワクチン接種を義務付けることを検討しています。
ワクチン希望率の国際比較
ワクチンを希望する国民の割合を国際的に比較したところ、イギリスは一番高く、フランや日本、韓国はかなり低いことがわかります。
下記は新型コロナウィルスワクチンについて接種をしたいかどうかを2020年12月と2021年2月に問いかけた調査の結果です。
青が「強く同意する」緑が「かなり同意する」赤が「強く同意しない」ピンクが「あまり同意しない」です。
日本(JPN)は「同意する」人が少なく、イギリス(UK)は一番高いことがわかります。
どの国も数か月の間に接種希望が増えているので、今はもっと希望者が多いのではないかと推測されます。
ワクチンで集団免疫は不可能
各国がこれほどワクチン接種に躍起になっているのは、国民の多くがワクチン接種をすることで集団免疫ができて、ワクチン接種をしない(できない)人たちも守られるという希望にもどついていました。これがどれくらいの確率なのかは不明ですが、人類が撲滅した唯一の感染症と言われる天然痘はワクチン接種が80%ほど普及して根絶に成功しています。
コロナについては専門家の意見も異なりますが、6割から8割程度のワクチン接種で集団免疫ができるのではないかと言われていたことで、各国はそれを目指していたのです。しばらく前までは。
けれども、今世界中で猛威を振るっているデルタ株は感染力が強く、人口の90%以上のワクチン接種がないと集団免疫はできないという見方が出てきました。ワクチン接種については希望しない人もいれば何らかの理由で接種できない人もいるし、子供もいることを考えると9割接種は現実的ではありません。
もしデルタ株を何とか抑えることができたとしても、新しい変異ウイルスが次々に誕生してくるだろうという状況を考えると、コロナの流行を完全に終息させることはむずかしいという見解がここに来て共有されるようになってきたのです。
with コロナで共存する
コロナを終息することができないのなら、これからはエンデミック(Endemic)として扱うしかありません。
Endemicとは、特定の地域で感染症が日常的にぽつぽつと表れる流行のことで、インフルエンザなどが典型的な例です。ちなみに、エピデミック(Epidemic)は特定の地域で特定の一時期に感染症が広がることで、これが国境や大陸を超え世界中で流行するとパンデミック(Pandemic)となります。
もちろん、新型コロナウイルスは季節性インフルエンザに比べると重症率も致死率も高くなるため、有効な治療法や治療薬が開発されない限りは、注意深く予防しながら共存していくことが必要です。
なので、定期的にワクチン接種をしたり、マスク着用やソーシャルディスタンス、換気、検査と隔離などの対策を継続して行うことは重要です。さらに、専門家はモニタリング調査や遺伝子解析なども続け、急な感染流行や変異株の発生などを警戒し続けることも必要でしょう。
ゼロコロナは可能なのか
一部の国でほぼ成功しているのだから、ゼロコロナは可能ではないかという声もあります。たとえば、ニュージーランドや台湾、韓国、香港、シンガポールなどはこれまで厳格な水際対策や感染が発生したときに徹底的に検査隔離をすることで、一時的に感染が流行してもその地域内に封じ込めて火消しに成功してきました。
こういう国々では重症者や死者も少なく、感染が流行していない時期や地域では比較的通常通りの生活ができています。どの国でも最初からこのようにできていればよかったのではないかという声もあります。
とはいえ、これらの国は島国だったり、小規模だったり、外国との出入りを厳しく制限できていたりといった背景もあります。オーストラリアや中国でも同様の対策をとってきましたが、国が大きくなるにつれ、すべての感染をもぐらたたきのようにつぶしていくのは難しくなることがわかります。中国のような中央集権的な国家ならまだしも、民主的な先進国では全国民が政府の方針に従うとも限りません。
日本も島国という地の利を生かしてかなり厳格な水際対策を行ってきましたが、それとても100%完全なわけではありません。検疫をすり抜けて入ってくるウイルスは気が付かないうちに市中に広まってしまいます。イギリスも島国とはいえ、フランスとトンネルで地続きと言ってもいいし、フェリーやヨットなどの出入りもあります。移民や外国人、留学生の出入りも多い国際的なハブでもあることから、水際対策は最初からお手上げ状態だったようなところがあります。
さらに、これまでゼロコロナでやってきた国もそれなりの問題を抱えています。昔のように、みながそれぞれの国、地域でずっと暮らすような時代だったら問題はなかったのですが、このグローバルな時代に外からやって来る人を完全にシャットアウトし、国民も外に出さないという「鎖国」政策は長くは続きません。観光や航空産業は破産状態になるし、ビジネスや留学、研究などの目的、または家族に会うために出入国を希望する人をもずっと我慢しているわけにもいきません。
ニュージーランドは厳しい水際対策が成功していますが、労働者不足や景気後退でビジネス界の「開国」コールは強く、失業者が出るなど、経済的に困窮する層にしわ寄せがいって格差が広がるという課題もあります。
検疫のハードルを高くしてワクチン接種者のみ、検査陰性証明、入国時の自己隔離をもうけるにしても、ウイルスはどこかからすり抜けて入ってくるものです。そのウイルスから脆弱な国民を守るために、ワクチン接種を進めようとしてもあまり希望者がいません。感染のリスクが低い状況では、外国に行く予定がある人でない限り、進んでワクチン接種をしようとは思わないからです。
全世界がゼロコロナにならない限り、一国、一地域だけゼロコロナというわけにはいかないのです。先進国だけでなく、ワクチン接種が進んでいない開発途上国など、世界中のどこかで常時コロナ感染は存在しています。世界中でコロナを根絶しない限り、ウイルスはどこからかすり抜けて入ってきます。
また、国民の中には長く続く「鎖国」に嫌気がさして文句を言う人が出てくるのも自然です。すでにオーストラリアやニュージーランドのような「自由民主」的な国では、そういう声が大きくなり始めていて、どれだけ長く鎖国状態を続けていくことができるかも疑問です。知り合いの在英ニュージーランド人やニュージーランドに住むイギリス人などは外国と行き来ができないことについてずっと不満を抱いています。
すでにEU、米国、英国ではワクチン接種済みの人々がお互いに出入国できる取り決めを進めています。これを見て、ゼロコロナ諸国で我慢できなくなる人々が多くなるのも自然の摂理でしょう。
こうなると、感染症対策に関しては、民主主義国家より中国のような中央集権的な国の方が強いと言わざるを得ません。中国は国土も広いし人口も多いので、観光もビジネスも国内だけでかなり回していけるでしょうし。
オーストラリアやニュージーランドのような民主国家では、なるべく早くワクチン接種を普及させた上で、様子を見ながら少しずつ「開国」していくことになるでしょう。日本もいずれそういう道をとるしかないと思います。
尊厳ある生き方とは
英国の人口の大半を占めるイングランドでは、7月19日からコロナ規制を解除していますが、これには専門家の間でも一般国民の間でも賛否両論があります。これ以上我慢するのは無理だと喜んでいる人もいれば、無謀な策だと批判し、個人レベルで行動規制やマスク着用で守りの態勢に入る人もいます。
幸い夏休みということもあり感染者数は減少傾向にはありますが、一部の人をのぞいて一般民はかなり慎重に行動しているように見えます。自分の身は自分の身で守るしかないということでしょうか。
私はゼロコロナは無理だとしても、ワクチン接種の上に、公共の場でのマスク着用や密を避ける、換気を促すなどの基本的な感染対策は続けていくべきだと思います。あとは、個々がそれぞれの生活スタイルを選択することで自己防衛するしかないでしょう。
例えば私などはもともと家にこもっていて、外に出るのは散歩と庭仕事くらいなのでリスクが少ないだけでなく、それが特に負担にもなっていません。けれども、パーティー好きな若者や仲間とパブに行くのが生きがいという人もいて、その人たちの気持ちも理解できます。
先日、社会学の宮台真司教授が「人間はどうしても死にたくないという理由だけで生に固執するのではなく尊厳ある生き方をすべき。それで多少死亡率が上がったとしても。」という趣旨のことを言っていましたが、結局そういう事なのだろうと思います。
(敬称略)