ホンダ英国工場閉鎖Brexitの影響で日本企業もイギリス撤退

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ブレグジットによる先行きが未だ昏迷状態にあるイギリスで日産が新車種の製造をサンダーランド工場から日本に切り替えると発表しましたが、今度はホンダが英南西部スウィンドンにある工場を2021年に閉鎖するというニュース。イギリスEU離脱期限3月29日前1か月少しになってのホンダの撤退発表はイギリス中に波紋を投げかけています。


ホンダ英工場生産終了

ホンダがイギリスから撤退するというニュースは2月19日の公式発表の前日にはイギリス各メディアで報道され、工場があるスウィンドンだけでなく、国中に波紋を呼びました。2月19日にはホンダの八郷隆弘社長が東京で記者会見を開き「グローバルなマーケット事情や自社の生産戦力などを検討した結果、イギリスでの生産を終了する選択をとることを余儀なくされた」と発表しました。

ホンダは1985年にイングランド南西部にあるスウィンドン(Swindon)に工場を設立し現在の生産能力は25万台。主力車はシビックで、2018年には約16万台を生産しています。同工場で働いている従業員3500人は解雇される見通しです。

ホンダは、この決断はイギリスのEU離脱(ブレグジット)には直接関係がなく、あくまでグローバルなマーケット事情や自社の生産戦略のためと説明しています。けれどもイギリスでは「日本人は礼儀正しいのではっきり言わないだけ」など、本当の理由はBrexitによるイギリスでの生産に対する不透明な先行きも影響しているだろうと受け止める人が多く、それを否定するのはEU離脱強硬派だけのようです。

ホンダ英国撤退の理由は?

ホンダは2025年にヨーロッパで販売する車の2/3を電動化する方針ですが、欧州での電動自動車生産は競争力などの観点で難しいと判断。グローバルマーケットを踏まえて検討した結果、生産の配置・能力の適正化の観点から、次期シビックの生産拠点を北米や日本に置く方針でいます。現在イギリスで生産されるシビックは55%が北米への輸出分ですが、今後はこれを北米で生産する予定だとのこと。欧州向けの電動車は日本・中国から供給するとしています。

ホンダはコスト削減のため、日本でも狭山工場を閉鎖、ブラジルでも工場を一本化するなど生産体制の整理を進めていました。トルコでも2021年に中東欧向けのシビックセダンの生産を終了することを決めました。このことからも、イギリスでの生産終了はグローバルな生産体制の見直しの一環と考えられます。

ホンダのヨーロッパでの販売シェアは1%未満で、イギリスで生産される自動車のうちヨーロッパ向けは約20%にとどまり、イギリストヨタの約9割、日産の約6割と比べてもかなり低く、ヨーロッパに生産拠点を持つ利点がもともとあまりなかったともいえます。それでもホンダはこれまでイギリスでの生産を継続する道を模索してきました。それなのに長く投資してきたイギリスの工場を今になって閉鎖するという大きな決断の背景には他にも複雑な事情が影響しているでしょう。

記者会見で八郷社長は英国のEU離脱がイギリス撤退理由ではないとしながらも「変化が読めなく、不透明だ」とも述べました。3月29日に予定されているEU離脱が合意なき離脱となればイギリスからEUへの自動車輸出に10%関税がかかることになります。さらに、EUとイギリスの間で通関手続きが発生するとなると、サプライチェーンが複雑になり混乱が予想されます。最近の自動車生産は部品の在庫を持たず、数時間単位で部品を供給する必要があるにでこれは致命的な問題なのです。

かたや、2月1日に日本とEU間で施行されたばかりのEPA経済連携協定により、日本からEU諸国への自動車の輸出はこれまでかかっていた10%の関税が8年目に撤廃となるほか、タイヤなど自動車部品の関税は即時撤廃となります。そうなると、ヨーロッパへの自動車輸出は日本国内工場から対応する方がよくなるのは明らかです。

下請けや他企業にも余波

ホンダ工場があるスウィンドンでは3,500人の従業員が解雇となる見通しですが、仕事がなくなるのはこれだけにはとどまりません。ホンダの生産終了に伴い、部品調達の物流管理の業務や自動車部品を生産する下請け企業も撤退や縮小などの判断を迫られます。ホンダ工場があるスウィンドンにある企業だけでなく、かねてから自動車産業が盛んだったバーミンガム周辺その他にもホンダ用の部品を製造する工場があります。その中にはホンダからの受注が100%の企業もあり、撤退を免れないところも出てくるでしょう。スウィンドンで4,000それに加え6,000の合計1万もの人が失業するという推定も出ています。

スウィンドンでは、ホンダの発表に大きな落胆の声が広がっています。ホンダ工場ではこれまで難しい時期でも雇用を何とか維持してきたこともあり、地元の人はホンダは安泰だと安心していたところがあるのは、日産工場があるサンダーランドと同様です。スウィンドンもサンダーランドと同じく、EU離脱国民投票では離脱が過半数を占めたところです。「まさか、こんなことになるとは」と言うのが従業員の正直な気持ちのようです。

このホンダ従業員は20年ホンダで働いており、家のローンを抱えていると心配そうに語っています。「とても、ショックだよ。時代の終わりだ。ホンダ工場だけでない。ライトやタイヤなどホンダ工場に供給する部品を作る仕事など、すべてに影響を及ぼすんだ。みんなとても心配している。」

同じくイギリスに進出しているトヨタ自動車からは今のところ撤退や縮小といった話はありませんが、EUから合意なき離脱をするようなことになった場合、部品調達の混乱を防ぐために工場の一時休止を検討するということははっきりと表明しています。これが一時的な生産休止にとどまらず中長期的な生産体制見直しとなる可能性もあるのではないかと、トヨタの従業員も疑心暗鬼になっていることが予想されます。

イギリスから撤退や縮小を検討しているのは何も日本の自動車会社だけではありません。ほかにも、ジャギュア・ランドローバーが4500人の雇用を削減し、ドイツのBMWはオックスフォード工場で生産するミニの欧州向けをオランダに移すことを検討しています。またソニー、パナソニック、東芝、日立、ダイソン、エアバス、P&Oなどイギリスでの投資を止めたり縮小したりする企業は後を絶ちません。

イギリス議会ではEUとの離脱協定案を承認する見通しがたたず合意なき離脱も現実味を増しています。離脱するならするで、EU離脱案が早めに確立しているのなら別ですが、未だに離脱を巡る混迷が続く中、民間企業が新たな投資に踏み切れないのは当然と言えば当然です。これまで「EU離脱は英国経済には悪影響を及ぼさない、逆にEUからの縛りが亡くなり、イギリス経済は大いに発展する」と国民に大ぼらを吹いてきたEU離脱強硬派の声は、この期に及んでは誰の耳にもうつろに響くでしょう。とりわけその言葉を信じて国民投票でEU離脱に票を投じたホンダや日産工場の従業員には。

イギリスの反応

民間企業・エネルギー・産業戦略担当のクラーク大臣はホンダの発表について「衝撃的な決定だ」と語りました。メイ首相もホンダ首脳に失望の念を伝えたということです。

けれども、ホンダイギリス撤退について「日本企業が裏切った」と言う声は思ったほど聞こえてきません。みんなわかっているのです、これまで日本企業がイギリスに何度も口を酸っぱくしてブレグジットによる経済的リスクの可能性を指摘してきたことを。それをこれまで強硬離脱派エリートは「Project Fear」(デマ、脅し文句)と一笑に付していたのですが、ここに来てそれが「Project Fact」(事実)となってきているのです。

イギリスの自動車産業の総売上高は820億ポンド(約12兆円)で輸出額はイギリス全体の13%を占める輸出の柱となっています。自動車産業は約90万人の雇用を提供し、かつての重工業の衰退や炭鉱の閉鎖で職を失った人々を支えてきました。ホンダの後を追って日産やトヨタその他の自動車産業が投資や雇用を減らすことがあるとしたら、イギリス経済や雇用への打撃は大きいものとなります。

まとめ

『イギリスEU離脱で日産工場に影響:Brexitで被害をこうむる人たち』の記事でも書いたように、ブレグジットによりイギリスから企業が逃げて行くというのは「Project Fear」(脅し文句)だと言い続けたEU離脱派エリートたちは、それが事実となり職を失う自動車工場の従業員には責任を持ちません。彼ら自身は職を失うわけではないし、私的財産も賢く投資しているだろうから安心です。それどころか、彼らがこれほどまでにハード・ブレグジットを急いでいるのは、今年施行されたばかりのEUの租税回避防止令(Anti-Tax Avoidance Directive=ATAD)タックス・ヘイヴンに預けている投資に及ぶことを阻止するためだと言われてもいます。そのためにイギリスがEUを離脱するとバラ色の世界が待っているようなことを労働者に吹き込んでブレグジットに投票させたとしたら、そしてその結果としてその労働者たちが職を失うことになるとしたら、こんな皮肉なことはないでしょう。

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