Last Updated on 2019-12-05 by ラヴリー
日本の女性が職場でヒールやパンプスをはくことを強制されることについて#KuToo署名運動が起き、強制を禁止するように政府に訴えましたが、その訴えが退けられる結果となりました。遠い日本の小さなニュースだと思いきや、そのことを取り上げたのは世界中の大手メディアです。このニュースはどのように伝えられ、どのような反応をよんだのでしょうか。(2019年12月更新)
Contents
#KuToo 運動とは
この署名の始まりは俳優、石川優実のツイートでした。
いつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたい。
パンプスで足がもうダメ
なんで足けがしながら仕事しなきゃいけないんだろう
このツイートには共感する人が多く「いいね」やリツイートがたくさんついて拡散しました。
そのうち、セクハラや性暴力被害の問題を訴えた#MeToo 運動にならい、「靴(くつ)」と「苦痛(くつう)」を掛け合わせた #KuToo (クーツー)というハッシュタグまでできたのです。
1万人を超えました!
メールアドレスとお名前だけで署名ができます。問題点:
①性別によって同じ職場で強制される服装が違うこと
②健康を害してまで強制されるマナーとは?「厚生労働省宛: #KuToo 職場でのヒール・パンプスの強制をなくしたい!」 https://t.co/q61K5E2TVw @change_jpより
— 石川優実@#KuToo署名中👞👠 (@ishikawa_yumi) 2019年2月21日
この理不尽なルールを変えようという署名運動がネット上で始まると、たくさんの署名が集まりました。その結果として、約1万8800人の署名が厚生労働省に提出され、ハイヒール強制を禁止するようにと求められました。
政府の署名への返答
この署名の提出を受けて、根本匠 厚生労働相は6月5日の厚労委員会で「業務上必要かつ相当な範囲」であれば、企業がハイヒールやパンプスの着用を強制することを容認するとしました。
尾辻かな子議員の「職場でのハイヒール着用義務は時代に合わないのではないか」という質問に根本大臣は「女性にハイヒールやパンプスの着用を支持する、義務付けることは社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲だろうと思う。」と答えたのです。
けれどもその後、尾辻議員が厚生労働副大臣である女性の高階恵美子に同様の質問をしたところ、高階副大臣は「業務の範囲で環境整備していくべきで、強制されるものではない。」と答えています。
厚生労働省の中でもこの点に関しては意見が分かれているように、日本の一般社会でも判批両論があるようです。ヒールを強制すべきではないという意見が女性の間に多いのは、ハイヒールやパンプスを履くことで足が痛い思いをした個人的な経験があるからでしょう。特に、ずっと立っていないければいない職場や歩いたり走ったりを余儀なくされる労働環境では疲労も大きいし、転倒など思わぬけがにつながることもあります。さらに、外反母趾になるといった長期にわたる健康上の被害を訴える人もいます。
#KuTooへの海外メディアの反応
日本で起こった #KuToo 運動は思いがけなく、またたくまに世界中に拡散されることになっています。米国のTime、AFP、ロイター、ニューヨークタイムズ、イギリスのBBC、ガーディアン、テレグラフ、香港のSCMPなど多くの海外メディアが取り上げたのです。
この件に関して世界中で関心が高いということがわかります。
ガーディアンに続き、テレグラフ紙も日本政府の対応を批判
「日本の政府は間違っている。
ハイヒールは必要ではないし、適切でもない。」https://t.co/a1aUM7VZYW @telefashionさんから— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) 2019年6月6日
英ガーディアン紙が遠く離れた日本の女性のたたかいに関心を持ってくれるのは頼もしい。
それだけ日本社会にあきれかえっているのかもしれない。https://t.co/GUEfHRehxW— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) 2019年6月5日
ガーディアンは一連の経過を説明した後、この問題は日本での根深い女性蔑視を浮き彫りにするものだと述べています。そしてその例として、去年日本の与党の加藤寛治国会議員が女性は子どもを3人以上産むべきだとか独身を選んだ女性はのちに政府の重荷になると言ったことも紹介しているのです。
海外でも同様の事例があった
遠い日本で起こった #KuToo 運動がどうして世界中で話題になることになったのでしょうか。それは、女性に対するハイヒール強要の問題がこれまで世界のあちこちで取りざたされたことがあったからです。
ガーディアンでもハイヒール着用についてイギリスでも同じような運動があったことを伝えていました。2015年12月ロンドンの大手金融企業PwCの受付係として派遣された女性がフラットシューズを履いていたところ、ハイヒールを履くように指示されました。この女性がそれを拒むと、報酬なしで帰宅を命じられたのです。
彼女がこの事実をフェイスブックに投稿すると、同じような経験をした女性たちが共感し、オンラインでの署名活動が始まりました。職場でのハイヒール着用強制をやめさせる請願に15万人以上が署名し、この署名は政府に提出されました。
イギリス政府はこれを受けて、職場でのハイヒール強要についての調査を行いました。そしてハイヒールの強制など性差別に基づく服装規定をする職場があることは違法であるとし、法律の見直しが必要であると発表しました。
ほかにも、2015年にはカンヌ映画祭でハイヒールを履いていない女性がレッドカーペットへのアクセスを拒否されたことが問題になりました。翌年クリスティン・スチュワートやジュリア・ロバーツは抗議の意味で裸足でカンヌに登場しましたが、カンヌはルールを変えていません。
2019年初めにはノルウェー航空が女性キャビンクルーがフラットシューズを履く場合には医者からの証明を提出するように要求したことを批判されました。同社には22ページにわたる服務規定があるということです。女性キャビンクルーは安全のため飛行中はフラットシューズを履いていますが、それ以外はハイヒール着用が義務付けられているのです。他の多くの航空会社でも同様のドレスコードやメイクアップ規定があります。
ノルウェー航空は批判を受けて服務規程を変え、女性キャビンクルーのハイヒール着用やメイクアップ義務を廃止しました。さらにこれまで禁止されていた男性キャビンクルーのメイクアップも許すことになりました。
このように、理不尽で性差別にもつながる服務規程への批判は世界中で起こっており、それを改善する動きも見えています。
2017年にはカナダのブリティッシュコロンビア州で企業が女性にハイヒール着用を強制することを禁止しました。州では、ハイヒール着用強制禁止の理由として危険であり差別的であるということをあげています。
ファッションのカジュアル化
これまでハイヒールは女性のファッションシンボルとして着用を期待されてきました。特に美しい女性を飾り物のようにして扱うシーンや華やかなパーティなどではハイヒールはなくてもならないもの。カンヌ映画祭ではクリスティン・スチュワートが抗議のため入り口で脱ぎすてたルブタンのスティレットがユニフォームの一部となっていたのです。
けれども最近はファッション界にも変化が出てきています。5年前、高級ブランド、シャネルのカール・ラガーフェルドはランウエイでカーラ・デルヴィーニュをはじめとするモデルにスニーカーを履かせました。
思えばかつてコルセットで締め上げて着るような女性のドレスをココ・シャネルが動きやすいものに変えたのがシャネル・スーツの始まりでした。窮屈なファッションから女性を解放するというシャネルの精神をラガーフェルドが現在において再解釈したともいえます。
それ以来シャネルは高級なスニーカーを売り続け、それに続いてルイ・ヴィトンやバレンシアガなどのブランドも女性向けにスニーカーを販売して人気を博しています。インスタグラムなどでファッショニスタやインフルエンサーが履くスニーカーを見て、それに続く人も増えました。
このような背景をもとに、一般女性のファッションもカジュアルになってきました。足元もハイヒールやパンプスではなく歩きやすいフラットシューズやスニーカーが増えています。少し前まではパンプスを合わせるべきと思われていたスーツやドレスにまでスニーカーを合わせる人もいます。ジーンズと同じように、今ではスニーカーはファッション界で市民権を得ていると言えるでしょう。
職場のドレスコードは?
ファッション界でハイヒールより歩きやすい靴が流行ってきているのに反し、職場などきちんとした服装が求められるシーンでは昔ながらの服務規定が幅を利かせています。
企業がその従業員にきちんとした身だしなみを要求するために何らかの服務規程をもうけることは「業務上必要であり適切」なのでしょうか。男性もスーツにネクタイ、革靴といった「ユニフォーム」を強制されているのだから女性だってハイヒールを履くべきだという意見もあります。
たしかに顧客対応をするポストでは、最低限の身だしなみは必要でしょう。けれども、女性だから、これまでの慣習だから、という理由で痛みを伴ったり、外反母趾や転倒の原因にもなり得るハイヒールをはくことを強要することは行き過ぎではないでしょうか。
ハイヒールをなくすべきというわけではなく、好んで履く人はそれでいいのです。これは「フェミニストだってピンクを着ていい」という考えと同じもの。
個人が自由に選ぶ権利を与えるべきなのです。それには男性も女性も関係ありません。
女性なら誰でもわかる世界共通の悩み
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ハイヒールで思い出したのがミシェル・オバマ前大統領夫人とエリザベス女王のエピソードです。
2012年、当時米国のファーストレディーだったミシェル・オバマがイギリス訪問時エリザベス女王と面会した時、2人は履いているパンプスで足が痛いということをこっそりお互いに打ち明けたそうなのです。
ミシェル・オバマは回想録で述べています。「私たちは靴のせいで疲れきった、ただの2人の女性でした。」
女性の悩みは世界共通、大統領夫人でも女王様でも。
足に優しいパンプス
友人にやはり日本の職場でパンプスを履かなくてはいけないという女性がいます。彼女はこちらのパンプスをすすめてくれました。
ヒールが太くて安定感があり「これなら走れる」と言っていました。彼女はストラップのないデザインを愛用しているそうですが、より安定感を求める人にはストラップで甲を覆うタイプもおすすめです。
石川優実BBC「100人の女性」に選出
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イギリスのBBCは毎年世界に影響を与えた功績をたたえて「100人の女性」を選んでいますが、2019年度は#KuToo運動を呼びかけた石川優実がその一人に選ばれました。
その功績は自らのつらい経験を発信したことで他のたくさんの女性たちの共感を誘い、#KuToo運動に2万人もの署名を集め、日本政府に提出したことです。
「#KuToo」2019年流行語大賞トップテンに
毎年話題になった言葉を選出する「現代用語の基礎知識選ユーキャン新語・流行語大賞」で2019年のトップテンに「#KuToo」が選ばれました。
この発表会でスピーチした石川優実はこう語りました。
「この運動はヒールの否定運動ではありません。職場で女性のみにヒールやパンプスを義務付けたり、マナーだとする風潮に対して異を唱える運動です。」
「(女性を)優遇してほしいわけではありません。同じ労働環境、同じ労働条件で仕事にチャレンジする機会をくださいという運動です。」
2/2 #KuToo pic.twitter.com/tW3SEPvTE7
— nzɐʞnzɐʞ (@jeveuxfumer) December 2, 2019
(敬称略)
パンプスで立ち仕事は、ほんとに足が痛いんです。フラットな靴でも足が浮腫んできますが、それの比ではないです。企業や政界に昭和のおじさんたちがいる限り、改善されないでしょうね。一度、パンプス履いて立ち仕事してみろって言いたいですね。
国民民主党が支持率0.7%だから「国民民主党がパンプス強制禁止をマニフェストにあげてくれたら、今まで自民党に投票していたけど、これからは国民民主党に投票します」って運動すれば、ホイホイ食いつくと思う。まじで党が消滅しそうだから。