イギリスの学校公立と私立の違い:私立は英語でパブリックスクール?

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Private school

イギリスの教育制度については以前に紹介した記事がありますが、今回は公立学校と私立学校についての説明をします。イギリスの学校には公立と私立がありますが、私立学校についてはかねてから野党労働党などから不公平だという批判がありました。今回の党大会で、労働党が私立学校を廃止して公営化するという方針を発表したことがイギリスでは話題になっています。


イギリスの教育制度

イギリスの教育制度について基本的なことはこちらの記事にまとめています。

イギリス教育制度のシステムと特徴をわかりやすく(幼児から大学まで)

上記の記事ではイギリスの教育制度全体に絞って書いたので、公立と私立学校の違いについてはあまり詳細を書いていませんでした。

そこで、この記事でそのことについて説明します。

イギリスの公立と私立学校

イギリスの子供は5歳から18歳までの初等教育、中等教育でほとんどが無料の公立学校に行きますが、全体の7%が私立学校に行きます。

ちなみに英語で「パブリック・スクール Public School」というと米国では公立のことですが、イギリスでは私立学校を指し、公立学校は「ステイト・スクール State School」と呼ばれます。

普通の私立学校は「プライヴェート・スクール Private School」または「インデペンデント・スクール Independent School」とも呼ばれます。私立学校はイギリス全国に約2,500校あります。

「パブリック・スクール」と言うのは私立学校の中でも、特にエリート校とされる「格が高い」学校です。たとえば、イートン、ハロウ、ウィンチェスターなど。

イギリスの私立学校

私立学校は幼稚園からあるところもあり、小中高と続いていて、その規模や構造はさまざまです。

共学のところ、男女別々のところ、寄宿舎つき、カトリックやプロテスタントなどの教会が設立しているところなど。エリート私立として有名なイートンなど寄宿舎付きの学校もありますが、多くは通学生だけを受け入れます。

これら私立学校の学費は高く、安いところでも年間15,000ポンド(約200万円)くらい、イートンなどの名門校となるとその数倍かかります。

なので、私立学校に通う子供は裕福な家庭出身が多いのです。もちろん、子供の教育に熱心な普通の家庭の子もいますが、この学費を捻出するのは結構大変です。

私立学校では学業、スポーツ、音楽などに秀でている学生に奨学金を出して学費を免除することもありますが、そのような生徒は少数派です。

これらの私立学校は概して教育水準が高く、有能な教師陣をそろえ、公立学校が手が回らない芸術、音楽、スポーツなどの分野にも力を入れています。

おまけにもともと教育に関心のある家庭出身なので、家でも学校でもよく勉強するため、公立学校の生徒に比べるとどうしても学業成績に大きな差が出てしまいます。

私学出身はエリート大学入学に有利

こういう状況なので、オックスフォード、ケンブリッジといった有名大学に入るのには私立学校出身の生徒が有利となります。そして、卒業後もエリートとして活躍する人々の中には私立出身の人が多いのです。

政治家や医者、法廷弁護士、ステータスの高いトップ・プロフェッショナルなどは私立出身が多く、そうでない人を見つけるほうが珍しいほどです。また、俳優や音楽家など芸術分野でも私立出身の人が少なくありません。

私立学校に反対する労働党の政治家でも自らが私立出身(ブレア、コービン)だったり、自分の子どもたちを私立学校に入れている人もいます。

こういう状況のため、すべての子供に公平なチャンスが与えられずフェアでないということで、大学側にもっと公立学校出身の生徒を受け入れるようにとプレッシャーがかかっています。大学側も成績で選ぶとどうしても私立学校出身の生徒になってしまうため、公立学校出身の生徒にはかなり下駄を履かせて一定数を受け入れたりもします。

それでチャンスを得て有名大学に入り立身出世する幸運な公立学校出身の生徒もいますが、中には大学に入っても学業についていけなかったり、富裕層のお坊ちゃま、お嬢さまに気後れして学生生活をエンジョイできずドロップアウトしてしまうという人の話も聞きます。

教育における政党マニフェスト

保守党と労働党の教育政策

イギリスでは保守党(Conservative Party)と労働党(Labour Party)という2大政党がおおむね、かわりばんこに政権を取ってきました。他にも政党があり、厳密にいうと連立政権にもなるのですが、ここでは話を簡単にするために保守党、労働党にしぼって話します。

シンプルにいうと両党の政策はこんな感じ。

  • 保守党は右寄り、保守的で中間層からエリート寄りの政策、自己責任を重んじる、小さい政府
  • 労働党は左寄り、庶民・労働者・低所得者層の味方、高福祉高負担の大きい政府

(とはいえ、イギリスは日本や米国に比べるとヨーロッパ的で社会主義的な傾向が強いです。保守党といえども、セーフティネットとしての福祉は必要であるとしているし、医療費無料のNHS国民健康医療サービスも維持しています。)

両党の方針が大きく異なる分野の一つが教育です。

保守党は自分の子供にどういう教育を与えるかを国民一人ひとりが選べる自由を保障するとしています。医療などと同様に、公共サービスは国が無料で提供するが、個人が自己負担で私立のサービスを使うのはかまわないというスタンスです。

労働党もこれまではそのスタンスを維持してきたのですが、ここに来てラジカルな方針を打ち出してきたのです。

労働党の私立学校公営化政策

2019年9月に行われた労働党大会で労働党は「私立学校を公営化する」方針を決議しました。

現在チャリティー・ステータスを受けているため、VAT(消費税20%)を免れている私立学校の学費に消費税を課すという労働党方針はすでに発表されていたのですが、今回の決議はもっとラジカルなものです。すべての私立学校を廃止して公営化する、現在ある私立学校の資産は売却して教育費として民主的に分配するという方針です。

そのうえで、大学に対しても公立学校出身の生徒をもっと受け入れるようにさせるという方針を掲げています。現在すべての生徒数における私立学校の生徒数の割合が7%なのであるから、大学が受け入れる生徒の割合も私学出身7%、公立出身93%(実際は外国人もいるので厳密ではないが)にすべきだということです。

イギリスの大学は現在でも30%とか40%とかの割合を独自に決めて、公立出身の生徒枠を特別にもうけてはいます。成績だけで選出すると私学出身の生徒が多すぎることになるので公立出身生徒用に特別枠を規定しているのです。それでも、このままではいつまでたっても格差がうまらないので、受入数をもっとラジカルに規制する必要があるというのが労働党の主張です。

私学廃止のメリットとデメリット

メリット

生まれてくる人間はすべて平等であるべきという理由からいうと、私立学校というものは不公平です。親が裕福か否かで子供の将来が左右されるからです。

私立学校がなくなってすべて公立になったらすべての子供にとって教育機会が原則としては公平にはなるでしょう。親が私立に行くお金を出すことができない子供でも裕福な家庭の子供と同等の教育を受けられるのですから。(そうなると塾や家庭教師が繁盛しそうなので一概にはいえないけど。)

また、私立学校がなくなると学業成績がよく、教育熱心な家庭からの子供も公立学校に行くので、公立学校全体の教育水準が上がることが期待されます。それによって、もともと公立学校に通っていた他の子供もいい影響を受けて全体の水準が上がるかもしれません。

さらに、現在私立学校で教えている教師が公立学校で働くようになると、教師の水準が上がるということも考えられます。

デメリット

私学廃止となると教育にかかる公的負担が増すというコスト面のデメリットがあります。

現在の公立私立共存システムの場合、私学に行く生徒がいるおかげで公立校の教育費が節約できているからです。2016年の調査によると公立学校で生徒一人を教育するコストは、小学生で年間約4,800ポンド(約64万円)、中学生で6,200ポンド(約83万円)と言われています。

逆にいうと、私立学校がなくなるとその生徒分だけよけいに税金でまかなわなければならなくなるわけです。これまで裕福な家庭の親が自分たちで払ってきたものを庶民も含む全員が負担しなければならなくなるとすると、金銭面から考えると逆に不公平になるともいえます。

過去の教育政策

労働党は私立学校がエリート意識のかたまりであり、格差を助長し、公平な社会を作るのを阻んでいるとします。とはいえ、これまでの労働党は私立学校が公立とともに存在することを許容していました。医療制度にも公営と私営があるように、個人の自由にまかせたのです。

ブレア時代の「ニュー・レイバー」労働党政権(1997-2010)では、私学は私学として残しつつ、公立学校の改善に取り組むために、教育出費を大幅に増やしました。親が子の教育について選ぶ自由を許容した上で、公立校のボトムアップをはかったのです。

けれども、その後2010年に保守党政権になってからは、経済の立て直しをはかるための緊縮財政が続き、教育分野でも予算削減が行われました。

UK Education spending

UK education spending (2016–17 prices) https://www.ifs.org.uk/publications/8937

公立学校は予算カットのせいで、必要最低限の教育に絞らざるを得なくなっています。例えばこれまで英語が第一言語でない生徒に特別につけていたアシスタントのスタッフポストがなくなったり、音楽やスポーツ、家庭科、理科の実験など比較的費用がかかる科目や学習内容を教えなくなるなど。

学校の校舎や施設も老朽化したままのところも多く、運動場は狭いし、プールは市民プールを利用するのが普通だったりするなど、ハリー・ポッターのホグワーツとみまごうような立派な建物でできた私立学校とは格段の差があります。

それにもまして近年、問題になっているのが多くの公立校の教育水準の低さです。さらに、公立校に通う生徒の中には真面目に勉強しないどころか、非社会的な行動をする者の割合も高く、いじめや校内暴力などが問題になっているところもあります。

本来は公立校に子供をやりたいと思っていても、地元の公立校の教育内容や環境に満足できないと感じる教育熱心な親は無理をしてでも私学を目指すということになりがちです。公立校といえども水準が高いところもあるのですが、そういう学校は入学試験や入学条件が厳しく競争率が激しくて簡単には入れません。

私学廃止は実現するのか

労働党の新しいマニフェストは私立を残すことを前提にした政策と私立を廃止する政策を両方合わせ持っています。なので、教育改革を段階的に行うつもりなのか、それともラジカルな政策を掲げたあと妥協案に落ち着くのを前提にしているのかのどちらかでしょう。

私学を廃止するというのはあまり現実的ではないだろうというのが大方の感想ですが、私もそう思います。私立学校を廃止するという政策はそれほど選挙のための人気取りにはならないどころか、強く反対する人が出るだけでしょう。

その理由は上記したように、公的なコストがかかるためと、それに見合うベネフィットが得られそうもないからです。それよりも、公立学校への投資や改善をして教育水準を上げるようにしたほうが得策でしょう。今、無理をして子供を私学に通わせている親の多くもそれを期待しています。

もう一つの理由は、自分の子供を私学に入れることなど眼中にない庶民にとって、私立学校があることはそんなに問題ではないということです。

イギリス人は良くも悪くも昔からの階級制度に慣れていて、庶民が自分とは違う世界にいるエリートがいることを受け入れているところがあります。自分たちがお気楽に働いてある程度の生活ができるのなら、難しいことはエリートに任せて気楽にやりたい、というわけです。その上で彼らはロイヤル・ファミリーとかパブリック・スクールなどの伝統にイギリス人としての誇りを持っていたりします。

またポリティカル・コレクトネスの側面からいっても「人はすべて公平であるべき」と思っている人でも、自分の子供のこととなると判断がくもってしまうこともありがちです。労働党の議員でも自分の子供は私学に入れている人がいるように。

やはり、私立は私立として残し、その一方で公立学校の水準を上げるようにするのが一番いい方法でしょう。そうしたら今無理をして子供のために教育費を絞り出して私立に行かせている親も公立を視野に入れるようになります。

まとめ

私立か公立かという学校選択の問題はイギリスで子供を育てている親にとっては大きな問題で、私も例外ではありません。

子どもがまだ赤ちゃんのときに住む家を決める際、何軒もの候補の家の校区(キャッチメント・エリア)にある小中学校についていろいろ調べてから決めました。それでもまた中学校選びの段階で、非常に頭を悩ませ紆余曲折を重ねました。

長くなってしまったし、個人的な内容になるので、これについてはまたいつか書く機会があったら記事にしようと思います。

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