日本は2019年6月30日に国際捕鯨委員会(IWC)から正式に脱退。7月1日には早くも捕鯨船が出港し商業捕鯨を再開しました。日本近海で持続可能な方法で捕鯨を展開する方針です。このニュースはさっそく世界各国で広く報道され、批判的な声も多く上がっています。日本での報道は「31年ぶり、悲願の捕鯨船出港」などというトーンなのに反し、海外の報道はおしなべて厳しいものです。国内外で報道されたニュースや反応をまとめてみました。
Contents
日本はIWC脱退し商業捕鯨再開
日本政府が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し商業捕鯨を再開するということは2018年12月に発表されました。
日本の捕鯨問題に関しての歴史や背景、国際事情や捕鯨反対派と賛成派の主張については下記の記事に詳しく書いていますので、ここではそれをわかりやすくまとめるにとどめます。
国際捕鯨委員会(IWC)とは
クジラ資源の持続的な活用のために1946年に設立された国際機関。
1982年に商業捕鯨を一時停止することを決め、1985年から商業捕鯨は禁止されています。
クジラを捕獲している国は
歴史的に見ると海外でもクジラを捕獲している国は多くあったが、今でも捕鯨をしている国は少数となっていて、グリーンランド、アイスランド、ノルウェーなどだけ。
アイスランドとノルウェーはIWC加盟国であるのにもかかわらず、商業捕鯨を再開していて国際社会から非難を浴びています。
日本の捕鯨の歴史
日本はごく一部の地域で捕鯨を行ってきた歴史がありますが、それは小規模なものにとどまっていました。
全国規模で捕鯨が広まったのは戦後の食糧難の時期ですが、その後他の肉類が普及してクジラ肉の需要は低迷しています。売れないまま冷凍庫に貯蔵されている鯨肉が大量にあるのです。
捕鯨の何がいけないのか:反対派の論点
絶滅の可能性
クジラの生存数が激減していて、捕鯨を続けると絶滅の危機に瀕している
海洋生態系へのダメージ
海洋生態系の頂点に立つ鯨を捕獲することで生態系全体のバランスをくずす
倫理的な問題
クジラには感情があり、捕鯨はクジラが死に至るまで長く苦しみを与えるため残酷だ
食文化
豊かな先進国である日本で鯨肉を食べなければならない理由はない。他にたんぱく源はあるし、クジラ肉の需要は少ない
伝統文化
歴史的に見て日本での捕鯨はごく一部の地域で行われてきたにすぎないし、その形態も小規模なもので現代の大型船による商業捕鯨とは全く異なるもの
調査捕鯨
鯨の生態系調査を目的とする「調査捕鯨」は商業捕鯨の隠れみのになっている
捕鯨擁護:賛成派の論点
絶滅の可能性
鯨と言っても絶滅の危険性が高いのは数種に限られており、生息数が豊富なものもある
食料確保
鯨の数を制限することにより鯨が食する魚が増える
食料の多くを輸入に頼っている日本で捕鯨をやめてしまうのは食料安全保障の観点から危険
食の多様性
国や文化によって食文化は異なり、多様性の観点から他国の食文化を批判するべきではない
伝統文化
日本では古くから捕鯨が行われ、食料だけでなく様々な方法で鯨を利用してきており、その文化が継承されなくなる
調査捕鯨
鯨の生態調査は資源管理において重要であり、調査に使われた後の鯨肉を利用するのは理にかなっている
海外の報道
去年日本がIWCを脱退し商業捕鯨を再開するという発表をしたのはクリスマス時期で海外の反応は少し出遅れました。今回、日本が正式にIWCを脱退しその翌日、待ってましたというように商業捕鯨を再開したニュースはすぐに世界に駆け巡りました。
イギリス、米国、オーストラリアなどをはじめとする英文での記事を下記にまとめました。
(最下部のTwitterモーメント表示をクリックすると日本語の記事のまとめも下部に出てきます。)
Japan resumes commercial whaling after leaving IWC:日本国際捕鯨委員会脱退し商業捕鯨再開
海外のニュース報道
海外の報道を見ると、客観的な立場で冷静に日本の捕鯨再開について伝えているのが見て取れます。
シーシェパードやグリーンピース、動物愛護団体などをはじめとする、一部感情的とも理不尽とも感じられる批判とは異なり、各国のジャーナリストは日本の立場や状況をも理解して広い観点から捕鯨問題を論じています。その中には前記事でも触れた「捕鯨議員」や「捕鯨官僚」の利権問題について説明しているものもあります。
日本で報道されている情報だけ読んでいると「どうして外国はこうまで日本の捕鯨を批判しているのだろう」と思いがちですが、さまざまな視点からの報道を読んでみると、日本の捕鯨の実態が浮き上がってきます。
日本の捕鯨産業は助成金でなりたっていること、日本の鯨肉の需要は長期的に低迷していること、商業捕鯨が長期的には成り立っていかないことは明らかであり、今回の商業捕鯨再開のニュースは日本の捕鯨産業の「終焉の始まり」を表すものであるという見解もみてとれます。
オーストラリアなど、自国に近い南極にまで「調査捕鯨」と名乗って遠征していた日本の捕鯨船が日本近海でのみ「持続可能」な数の制限をもうけて商業捕鯨を行うということについては、ある程度評価しているふしもあります。
海外の反応と反対運動
いっぽう、シーシェパードやグリーンピースなどの環境保護団体は日本の捕鯨再開を非難しています。
さらに、一般市民からも日本の商業捕鯨再開については厳しい意見が上がっており、ロンドンでは反対デモも行われました。
国家ブランドインデックスでトップを誇る日本がこれほど国際的に口をそろえて非難されるのは捕鯨問題くらいしかありません。戦時の行いについては過去の問題なのでそれほど現代の日本人を非難する人はいませんが、捕鯨は今起こっていることですから。
それに、捕鯨問題に関心があるのは比較的教養や道徳観がある人が多いのです。そういう人たちにとって他の分野では尊敬する日本人がどうして食べもしない鯨肉のために理不尽で不経済な捕鯨をしているのかが理解できないという意見をよく聞きます。
中には感情的な「鯨がかわいそう」的な批判もありますが、多様性を受け入れ、自らの肉食文化についても熟考した上での論理的な意見に反論するのは簡単なことではありません。
まとめ
IWCを脱退し商業捕鯨を始めるにあたって、日本は国際社会の一員として海外に論理だてた説明をしているようには思えません。ただ反捕鯨の風潮に反対して国際社会から孤立したまま我が道を行っているように見えます。
観光目的の訪日外国人がうなぎ上りに増え続け、ラグビーワールドカップや東京五輪も控えている時期です。日本は国家として外国に、さらに国民にも捕鯨問題に対する見解と説明を論理的に秩序立ててすべき時にきています。それとも、それができない事情があるのかもしれません。