イギリスの大学授業料

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University

最近お隣の家で窓を全部新しくしたり屋根の修理をしたりしています。この家私達が引っ越したときから老朽化が目立っていました。道路側からは見えない裏の窓ガラスにヒビが入っているのをそのままにしている状態が10年近く続いていたんです。このご夫婦には子供が2人いるんですが、どちらも大学生で家を離れていました。そして、このご夫婦は「大学の学費2人分を払うのが大変で困っている」と愚痴をこぼしていました。この度晴れて2人とも大学を卒業したので家の修理などに使うお金がやっとできたそうです。

イギリスの大学は1997年まで無料だった

イギリスの大学の学費は1997年までは全く無料でした。すべてを税金でまかなっていたのですから、今思えば随分太っ腹でした。かくいう私もその恩恵を受けた一人です。私は日本人国籍でしたがイギリスの住民であったため、大学の学費がただになったばかりかいくらかの奨学金ももらい、その上利息が低い学生ローンまで利用できました。その頃はこんなに恵まれているのにどうして他のイギリス人が大学に行かないのかと不思議でした。

当時政府からの補助金のほかに、大学の貴重なキャッシュポイントは外国人留学生で彼らは膨大な学費を支払わなければなりませんでしたが、その反面入学しやすく及第もしやすかったそうです。外国人留学生は大切なお客様だったんですね、もちろん今も。

イギリスの NHS (National Health Service・国民医療制度)もそうですが「ただより安いものはない」わけで、やはりすべてを税金で賄うには無理があり大学の質も落ちるし、政府もこれ以上教育予算を増やすわけにはいかない、また大学に行くことによってその後は行かない人よりも高い収入を得ることになるエリートのために国民の税金を使うのは不公平だという意見もあり、大学の学費導入が検討され始めました。大学生の入学者数も1980年に68,000人だったのが、2017年には500,000人と増え続けているのですから無理もなかったのでしょう。

1998年に大学の学費が有料化

まず、1998年に最初に導入された学費は年間1,000ポンドでした。これが2006年に3,000ポンドに上がり、2012年に9,000ポンドに上がりと、3倍ずつ上がってきたのです。そして今後はインフレーション率によって上がっていき、2017−18年は9250ポンドになります。

この金額は大学が学費として学生に請求できる最大額であり、異なる大学やコースによって違うレベルの学費が設定されるというのが当初の考えだったのですが、76%の大学が最高額の学費を設定しています。というのも安いコースを選んでも高いコースを選んでも返済金額は変わらないかもしれない(下記参照)というローン返済の仕組みも関係しています。

学生ローン制度

大学の学費がかかるといっても大学生(の保護者)は入学時に学費を支払う必要はありません。必要な学費や生活費を賄うローンが政府から支給され、卒業後にそのローンを利子とともに返済するシステムになっているからです。とはいえ、はじめRPI (Retail Price Index・小売物価指数) レートだった学生ローンの利息は今は6.1%に上がり、しかもそれは入学後すぐつき始めます。大学を卒業するときには学生の平均の借金額は50,800ポンドになるそうです。

ではイギリスの大学卒業生は働き始めるとせっせと借金を返さないといけないのでしょうか。それがそうではなく、すぐ返済する必要はないんですね。年収が21,000ポンド(約316万円)になるまでは返済義務がないのです。この年収額はインフレによって上がると言われていましたが、今のところ2021年までは凍結されています。年収が21,000ポンドを超えると、その超えた金額の9%を返済していくことになります。たとえば、年収が22,000ポンドなら22,000−21,000の1,000ポンドの9%ですから90ポンド。同じく年収が31,000ポンドなら900ポンドという具合です。そして、卒業後30年たったらローンの返済義務はなくなります。なので、年収が21,000ポンド以下のまま30年を過ぎたら1銭も返さなくてもいいということになります。

ということは、この制度は学生ローンというよりも大学を卒業した高所得者に対する税金のようなものですね。ある計算によると、大学卒業生のうち学生ローンを全額返済するのは1/4にすぎず、3/4の卒業生が借金を全額返さないだろうという予測になっています。

ところで、この21,000ポンドというのはイギリスだとどんな人の年収になるのでしょうか。イギリス人全体の平均年収が27,600ポンドだそうですが、これではピンときませんね。具体的な職業でいうと、例えば小学校の教師や資格を持った看護士になるとこの21,000ポンドを超えることになりますが、郵便局の事務員レベルだと年収が20,000ポンド弱なので大学卒業生でも返済義務がないようです。

物価が安いところでのんびり暮らしたい大学卒業生が安月給の仕事について50,000ポンドの借金を踏み倒すということが横行したらこのローン制度はどうなるんだろうとちょっと心配になってきますね。

大学の学費無料化案

さて、大学の学費を再び無料にするべきだという案を労働党のコービン党首がうたい若年層から大きな支持を受けています。コービン党首は68歳、地味で冴えないおじさんという風貌でカリスマ性がないと不評だったのですが、じわじわと人気が上がり始めました。特に若者に人気でグラストンベリー(サマーミュージックフェスティバル)に招かれてスピーチをしたほどです。

先のイギリス総選挙では当初保守党が圧倒的優位とされていたのに労働党が予想外に票を伸ばしましたが、大学の学費を無料にするという政策への支持が大きく若年層(と多分その親)からの票が多かったということです。

でも、お隣のご夫婦は愚痴をこぼしていました。「これから大学が無料になったとしても、私達の子供の世代の若者はすでに膨大な借金を背負っている。」 「子供は学生ローンを借りて学費を支払ったが、2人も家を離れて下宿していたので生活費を払うのが大変だった。」と。

大学入学者数

大学の学費が導入されたり増加された年には大学入学者が減ってきたという記録があります。今までは無料だったのに/安かったのに、そんなにお金を払ってまで大学に行く(行かせる)必要があるのかという疑問を持つイギリス人が多かったのでしょう。でも、全体的に見ると入学者数は増え続けています。1980年の初めには大学進学率が6人に1人だったのに今では女子学生の半分は大学に行ってるのです。大学の学費高騰によって貧困家庭からの大学入学者が減るのではないかとの懸念もありますが、確率としては富裕層家庭からの子供のほうが進学率は高いものの、どの層からの進学率も一様に増えています。

大学卒業者はそうでないものよりも収入が高い職業に就く割合が高く、一生の収入計算をしてみたら大学の学費はペイするということなのでしょう。

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