性差別問題(英語でセクシズム)日本での具体例とイギリスの法規制

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先日家族3人で日本に一時帰国しテレビ見ていた時、イギリス人の連れ合いが「日本のテレビ番組はとてもセクシストだ」と言います。具体的にどういうところかと聞くと「男性はみんな外で働くサラリーマンで、女性が子供の世話とか家事とかしているシーンばかり」。そういえばそうだけど、現実が概ねそうだから仕方ないし、見ている人もそれが当然だと思ってるのではと日本人の私は思います。でもそれってイギリス人から見たら変なのだということ、それがどうして問題なのかについて書いてみたいと思います。


Contents

テレビでのセクシズム

まず白状しておきますが、うちの家族はイギリスでも日本でもテレビを観ません。私は日本にいるときはテレビを観ていたし、イギリスに来てからも観ていたことはあります。でも忙しい生活の中でいろいろなことをしたいというのが理由で過去20年くらいはテレビのない生活を送っていました。イギリス人の連れ合いも同じ状況。今年で14歳になる息子もテレビなしで育ちました。なので私たちはあまりテレビ番組に詳しくないのです。

たまに帰る日本でもほとんどテレビを観ないのですが、空港の待合室に大きなテレビスクリーンがあって否応なしに流れてくる映像を観ていた連れ合いが「日本のテレビ番組は実にセクシストだ」と言ったのです。そういえば、今どきイギリスのテレビ番組で現代の生活を表すのに男は外で仕事、女は家で家事育児というシーンは出てこないだろうなと思います。もちろん、昔の生活を表す時は違うし、イギリスといえども未だに中高齢者層では女性が家事を受け持つことが普通であるということはありますが、日本ほどではないでしょう。

そして、男女の役割をあまりにステレオタイプに押し込めて表現するような番組はドラマであれ、バラエティ番組であれ、作り手も避けるし、視聴者からの指摘もあるに違いないと察します。これまでがそうだったし、現実も未だにそうである家庭があるのだからそれを表現するのがどうしていけないのかという見解もあるでしょう。でもイギリスでは社会一般が理想とする倫理に基づいてテレビ番組構成をすることで、まだ自分で善悪の判断ができない子供たちに悪い影響を与えないようにと努力していると言えます。盗みをしたり暴力をはたらくのは悪いことというメッセージと同じように。これについてはテレビ番組だけでなく、ほかの様々なメディアや書籍などについても同様です。

英語のセクシズムとは性差別のこと

ここでこの問題について語るにあたって、まず「セクシズム」(sexism)という英語の定義からしておく必要があるかと思います。セクシズムは性差別のことで、職業、教育、社会慣習などにおいて、男女の生きる機会を限定するさまざまな差別のことを指します。一般的にはとりわけ女性への社会的構造的抑圧の批判から起こったものです。

一昔前に比べると女性差別はずいぶん解消したように見えます。日本でも戦後女性に参政権や教育の機会が与えられ、1980年代には男女雇用機会均等法によって職場においての男女平等が義務付けられました。けれどもこの分野において欧米諸国では当たり前のように考えられている常識が日本では通用しないことも多いのです。日本では男女差別に関することで「どうしてそれがいけないのか」と男性のみならず女性にも言われることがあり、無意識のうちに社会に根付いている先入観というものが揺らぎないことがわかります。そういう私自身も日本にいたときは疑問に思わなかったことでイギリスに来てから気が付いたこともあるので、これは自分も含めて自戒すべきことでもあるのですが。

性差別の具体例

一般的にセクシズムと言われることには下記のことが含まれます。

  • 男女の固定観念を押し付ける言動
  • 女性の行動や態度を制限する言動
  • 女性の能力や社会的地位を男性より劣ると見なしたり正当に評価しない言動
  • 女性の容貌や体型だけを取り上げて侮蔑、または賞賛する発言
  • 女性を男性の性欲を満たす「物」と見なす言動

こう書いていくとなるほどと思われるでしょうが、私たちは日常このような言動に慣れきっていて、それが差別とは気が付かないことがあります。たとえばテレビ番組で男性がいつも外で働くサラリーマン、女性は家で家事育児をしているというのは「男女の固定観念を押し付ける」表現ですが、日本にいるとそれが当たり前と受けとめがちではないでしょうか。

ほかにも「女なんだからもっとお化粧してきれいであるべき」とか「女のくせに言葉遣いが生意気」と言ってしまうのもセクシズム。逆に「めそめそして男らしくない」とか「男なんだからもっと頑張って」というのも同様です。

子どもを育てるときにも「男の子なんだから泣くな」と言ったり、女の子にサッカーや野球をさせずバレエやピアノをさせたがるのもセクシズムということになるのです。

広告における性差別

Baby Formula Ad

ベビーミルクの広告 (aptamil)

イギリスではテレビ、ラジオ、公共空間のポスターなどの広告において、ASAという広告規制団体が性差別広告を禁止しています。たとえば、家庭で他のみんなが団欒しているのに女性一人が家事をしていたり、男性が赤ちゃんの世話に慣れていないために困っている様子を見せたり、男の子には「男の子らしい」女の子には「女の子らしい」とされる遊びやおもちゃ、将来の仕事をすすめたりといったことを規制しているのです。

たとえば、少し前に粉ミルクの広告で男の子は将来エンジニアに、女の子はバレリーナになりたいと描いたものが問題になりました。男女の職業選択のステレオタイプをおしつけるものだという理由です。この手の広告はほかにも指摘を受けたものがたくさんあり、たとえばGAPの広告で男性は学者に女性は「社交界の花」として表現されてるものにも苦情がよせられました。

Are You Beach Body Ready (PA)

また、プロテインドリンク会社の広告でビキニを着たモデル写真に Are you beach body ready? (あなたの体はビキニになる準備ができていますか?)と書かれたものについて、ビーチに行くにはスリムな女性でないとだめだというメッセージが込められているとして苦情が相次ぎました。このポスターはイギリスだけでなくアメリカなどで国際的に非難されたのです。

セクシズムはどうして規制されるべきなのか

こういった性別に基づく固定観念は無意識のうちに社会に根付いてしまっていて、当たり前のように受け止められていることも多いものです。けれどもメディアで表現される女性像が差別意識を助長させ、当の女性もそれに気が付かないままに押し付けられた役割や期待を受け止めてしまうことにつながるのです。

女性の職場進出が進んではいるものの、今でもメディア業界などで働く人には男性が多く、テレビ番組や広告が男性目線で作られているのもこうした問題が起きる理由となっているかもしれません。男女差別や性別におけるステレオタイプの原因がメディアだけにあるわけではもちろんないのですが、多くの人の目に触れるメディアはそうした意識を助長させる影響を与えることはまちがいないでしょう。それを自らが気が付いて修正していくことが理想ですが、それが難しいなら何らかの規制によって取り締まることが必要だとの考えからイギリスの広告規制は行われているのです。

ここで上げているような例の中には少し前までは特に問題にならなかったものもあります。でも、欧米諸国ではLGBTや人種問題などと同様に、さまざまな理由をもとにする差別について急速に意識が変化してきているので「知らなかった」「悪気はなかった」では済まされないことが多いのです。男性は日常のさりげない会話にこれまで気にしていなかった意識的、無意識的な女性蔑視、差別の考えが隠れていないかを考えるべき時に来ていると言えます。女性も当たり前と思って何となく容認していた言動や態度の数々について今一度考え、セクシズムの要因を取り除くべき努力をすべきです。なぜなら、それを見て育つ子供たちはそれを当たり前と思って育ち、男女差別は世代を通じて継承されていくからです。

性差別禁止法による規制

イギリスでは1975年に「性差別禁止法」が制定され性別による差別を禁止、2010年には雇用法によって性別だけでなく、年齢、人種、障害、宗教などの理由による差別を禁止しています。

とはいえ、保守的なお国柄であることが影響しているのか、伝統的な男性優位社会の風潮が全くなくなったわけではなく、女性の進出については北欧諸国などに比べると多少遅れを取っているように感じます。それでも、少しずつでも社会の男女間格差をなくすための取り組みをさまざまな場面ですすめていて、性差別広告を禁止する動きもその一貫というわけです。

メーガン妃はフェミニスト

今年ハリー王子と結婚したメーガン妃は自他ともに認めるフェミニストですが、そのきっかけは11歳の時に見た女性差別的なテレビコマーシャルだったそうです。メーガンがまだ米国の小学生だった時、洗剤のテレビコマーシャルで「アメリカ中の女性が油まみれのなべと格闘している」と言っていることに疑問を持ったのです。どうして女性だけが鍋を洗わなければならないのか。男性は家事をしないでいいと決めつけているコマーシャルではないかと感じました。それで、そのことについて当時のファーストレディーであるヒラリー・クリントンや洗剤会社に手紙を書いたのです。

すると、その後一月もしないうちにそのテレビコマーシャルは「女性」という言葉を「人々」に変えたそうです。そのときにメーガンは子どもでも正しいと思うことについて声をあげることで、社会を少しでも変えることができるのだということを悟ったのです。その後彼女は発展途上国で若い女性が生理のために教育や就業機会を阻まれる問題に取り組んだり、国連の女性分野の機関UNウィメンに参加したりしています。世界中の女性が性別によって教育や仕事、社会進出の機会を制限されることがないようにという願いを行動に移しているのです。

彼女はハリー王子と婚約した時も「ハリーもフェミニストです。」と言っており、イギリス王室メンバーになることでハリー王子と共に自分が正しいと信じる活動を続けていきたいと思っていると述べています。日本の皇室に比べると革新的とはいえ何かと保守的なイギリス王室ですが、米国人の元俳優、黒人の血を引く離婚経験者かつフェミニストという異例のプリンセスを迎えて、さらに風通しがよくなっていくのではないかと期待しています。

まとめ

近年#metoo 運動に見られるように、女性がこれまで黙っていたさまざまな体験について声を上げる風潮が広がってきます。日本ではその波はなかなか大きなうねりとはなっていませんが、少しずつ女性の声が聞こえてくるのを感じます。けれども女性が声を上げるべきなのはセクハラや性暴力といった明らかに犯罪である行動だけではありません。日常の生活に潜む性差別、男性支配的な風潮、女性を卑下する言動や態度をも変えていくべきなのです。

日本では、一見当たり前に、自然に思える言動でもよく考えてみるとセクシズムに当たる例がメディア、職場、日常生活などに満ち溢れています。男女とも特に悪気はなく意識もしていないのに、それまでに育ってきた家庭環境や現在の職場や社会で、性差別がもはや空気のような存在となってしまっているのです。

男性なら、これまで当たり前と思ってきた男女の扱いの差異について、それが差別ではないか、偏見が混じっていないか、考える習慣をつけましょう。

女性で自らが公平に扱われていないと思う人がいたら、泣き寝入りせずに声をあげましょう。それには勇気がいるかもしれませんが、忘れないでください。50年前に比べ、100年前に比べ今、女性の地位が少しでも向上しているとしたら、それは先輩である女性たちが勇気をもって声を上げてきたからです。あなたの後に続く妹たちのために、娘たちのために今の私たちができることをしていきましょう。すぐに状況を変えることは難しいかもしれませんが、それぞれの問題について家庭や職場で地道に話し合ってみることがその第一歩です。

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