伊藤詩織さん事件 New York Times 記事翻訳 「彼女はレイプについて日本の沈黙を破った」

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伊藤詩織さんのレイプ告発については、海外メディアでもあちこちで取り上げられていますが、2017年12月30日New York Times紙がこの事件について“She Broke Japan’s Silence on Rape”「彼女はレイプについて日本の沈黙を破った」というタイトルで第一面に取り上げました。この英文の翻訳を掲載します。

伊藤詩織さんの事件

ここ最近、さまざまな性的暴行やセクハラ事件が表に出てきて話題になっていますが、これはそういう事件が急に増えたからではないでしょう。これまでにもそういった事件が後を絶たなかったのに、被害者が名乗り出ることがなかったので明るみに出なかっただけではないかと推測されます。

欧米諸国や韓国などでは近年#me too 運動が盛り上がっていましたが、日本ではなかなか火がつきませんでした。その発端となったのがジャーナリストの伊藤詩織さんのレイプ告発です。伊藤さんの事件は不起訴処分となっていますが、国内外で報道されています。

外国ではイギリス、アメリカ、フランス、スウェーデンなどで取り上げられましたが、2017年12月にはニューヨークタイムズで第一面に掲載されました。伊藤詩織、山口敏行ほか警察関係者や研究者などへも取材をした上の詳しい記事です。日本の皆さんにもぜひ読んでいただきたいと思い、翻訳しました。

なお、著作権は The New York Times(Motoko Rich)にあり、この翻訳は2017年12月29日付けのオンライン記事を元にしました。

誤訳、法律用語の間違いなどがあればご指摘いただければ助かります。

敬称はすべて略させていただきました。

「彼女はレイプについて日本の沈黙を破った」

東京:春のある金曜日の夜、日本の有名なテレビジャーナリストが詩織を飲みに誘った。彼女の東京のニュース局でのインターンが終わろうとしていたので、彼のネットワークで何かインターンができないか聞こうと思っていた。

2人は東京市内のバーで焼き鳥とビールで乾杯してから食事に行った。彼女が後に警察に語ったように、最後に記憶があるのはめまいがしてトイレに行き、そこで気を失ったことだった。

その夜彼は自分のホテルの部屋に彼女を連れていき、彼女の意識がないときにレイプしたと彼女は主張する。

山口敬之は当時TBSワシントン支局長で安倍晋三首相の伝記作者であった。彼は罪を否定し、2か月の捜査の結果、告訴が取り下げられた。

そして、伊藤は日本の女性のほとんどがしないことをした、告発したのだ。

5月に記者会見、10月に本を出版して、警察がホテルの防犯カメラの映像を入手していたことを伊藤は語った。その映像は山口が無意識状態の伊藤を支えるようにしてホテルのロビーを歩いている様子を映していた。警察はタクシー運転手からも事情を徴収していて、運転手は伊藤が無意識状態であったことを証言した。警察は山口を逮捕すると言っていたのに、なぜかそれが急に取りやめになったのだ。

他の国ならこのような疑惑は大騒ぎになっただろう。でも日本ではほとんど注意をひかなかった。

米国では議会、ハリウッド、シリコンバレー、ニュースメディア、どこでも大問題として取り沙汰されている性的暴力の事件だが、それとは対照的に、日本ではそういう話題はいまだに避けられる。レイプの被害者が警察に届け出るのはまれだし、もしそうしたとしてもそれが逮捕や起訴につながることはほとんどない。

公式の記録を見る限り、日本では性的暴行があまりおこらないように見える。しかし、2014年に行われた日本政府の調査によると、15人に1人の女性が一生のうちに一度はレイプされた経験があると言っている。アメリカでレイプを報告している女性はは5人に1人となっている。

学者によると、欧米の女性と異なり日本では同意のないセックスをレイプと言わないことが多い。日本の強姦に関する法律には「同意」という言葉が見当たらない。デート・レイプは外国の概念であり、性的暴力に関する教育はほとんどされていない。漫画やポルノ雑誌でレイプはセックスの楽しみの一環として扱われている。そして、日本社会ではそういう媒体が性教育の一翼を担う役割をしているのだ。

警察や検察官もレイプを狭い意味でとらえており、肉体的な暴力と自己防御が認められない限りは事件を取り扱うことをしない。加害者、被害者のどちらかが飲酒している場合は告訴をやめさせようとする。先月横浜の検察は大学生6人が女子学生に酒を飲ませ性的暴行を加えた事件をを起訴しなかった。

レイプ加害者が起訴や逮捕されとしても懲役が執行されないこともある。統計によると、10%は執行猶予となるのだ。

例えば今年、千葉大学で酒に酔った女性をギャングレイプした事件で、被告の何人かは懲役刑が科されたが、2人の学生が執行猶予となった。去年の秋の別の事件で、東京大学の学生が性的暴行をした時も同様だった。「『嫌というのは嫌ということだ。』ということが言われるようになったのはつい最近のことだ。」と上智大学の政治社会学教授三浦まりは言う。

内閣府の調査によると日本でレイプを経験した女性のうち2/3以上が誰にも打ち明けていないと答えている。友達や家族にさえもだ。そして警察に届け出たのはわずかに4%だった。米国ではレイプ被害者のうち約1/3が警察に届け出ている。

早稲田大学ジェンダー法の谷田川知恵講師は「女性に対する偏見は根が深く深刻だ。性犯罪から受ける被害は深刻にとらえられていない。」と語る。

28歳の伊藤は山口に対して民事訴訟を起こした。そして日本で性的暴力の被害に合っている女性が直面している課題について認識を深めるために彼女の経験の詳細を話してくれることになった。

「もし私が話さなかったら、このような性的暴力が許されるおぞましい環境は変わらないから。」と彼女は言う。

山口(51)も取材に応じると同意した。彼はレイプをしたことを認めていない。「性的暴力はなかった」「あの晩、犯罪にあたることは何もなかった。」と言う。

「勝つ見込みはない」

2015年4月3日に会う前、伊藤はニューヨークでジャーナリズムを勉強しているときに山口に会ったことが2度ある。

彼女が東京で彼に連絡した時、彼の局内で彼女が仕事を得る手助けができるかもしれないといったと彼女は語る。彼は飲んだ後、恵比寿にある喜一という寿司レストランに誘った。彼女は2人っきりであることを不思議には思ったが、ビールと酒を飲み食事をした。しばらくして彼女はめまいがしたのでトイレに行き、トイレのタンクに頭を置いたまま意識がなくなったと語る。

目が覚めたときはホテルのベッドで裸になっていて、山口の体がその上にあり、痛みを感じたと言う。

日本の法律では女性が意識を失っているときや抵抗ができないときに女性と性行為を行うことを「純強姦」と定義される。米国は州によって法律が異なり、このような行為を「セカンドディグリーレイプ」とか「性的暴行」と定義される。

警察は2人をホテルに連れて行ったタクシー運転手を探し出して事情聴取をした。運転手によると伊藤は最初意識があり、地下鉄の駅に連れて行ってくれと言っていた。しかし山口はホテルに連れていくようにと言った。

運転手によると山口はもっと仕事のことで打ち合わせがあるというようなことを言っていた。また「何もしないから」というようなことを言っていたようだと語った。

ホテルについたとき伊藤は5分間くらい沈黙を続けた。ふと見ると彼女が後部座席で嘔吐しているのが分かった。

「男性は女性をドアの方に動かそうとしたが彼女は動かなかった。それで男性は自分が先に降りてかばんを地面に置き、自分の肩を彼女の腕の下に滑り込ませ車から出した。女性は一人では歩けないように見えた。」

警察が入手したホテルの防犯カメラの映像でも伊藤は動けないようだった。ニューヨークタイムズが確認した映像によると、夜11時20分ごろ山口が彼女を支えながらロビーを通り抜けている。

伊藤が目を覚ましたのは午前5時ごろだった。山口の体の下から這い出てバスルームに入った。彼女がバスルームか出てきた時「彼はベッドに私を押し倒しました。彼は男性です。彼に強く押し倒されたので、私は悲鳴をあげました。」

彼女は彼に何が起きたのか、またコンドームを使ったかどうか聞いた。彼は彼女に落ち着くように、そしてモーニングアフターピルを買ってやると言った。

しかし、彼女は服を着てホテルから逃げ出した。

伊藤は薬を盛られたのだと思うが、それを裏付ける証拠はないと言う。

山口は彼女が飲みすぎただけだと言う。「寿司屋では彼女は早いペースで飲んでましてね、『大丈夫なの?』とこちらから聞いたんですよ。」と彼は語った。「彼女は『私はお酒に強いんです。それにのどが渇いちゃって。』と言ったんです。」

彼はこう続けた。「彼女は子供じゃない。彼女が自分をコントロールすることができたら何も起こらなかったはずです。」

山口は彼女が一人で家に帰れそうもないと思い、ホテルに連れて行ったという。彼はワシントンの仕事があったのでホテルにすぐ戻る必要があった。

彼は伊藤を部屋に連れて行ったことは「適切ではなかった」と認めるが「かといって駅やホテルのロビーに残すわけにもいかなかった。」と言う。

弁護士のアドバイスに従って、彼はその次に何が起こったのかには言及しない。伊藤の民事訴訟の書類には彼は彼女をきれいにするために服を脱がせ、部屋にあったもうひとつのベッドに寝かせたとある。そのあと彼女は目を覚まし彼のベッドに膝まづいて謝った。

書類によると、彼は彼女にベッドに戻るように言い、彼女のベッドに腰を掛けセックスを始めたと言う。彼女には意識があり、抵抗はしなかったと彼は言う。

しかし、その夜の後、2人が交わしたe-mailでは彼は違うことを言っている。彼女が彼のベッドに入ってきたと言っているのだ。

2015年4月18日のメッセージで「だから、あなたの意識ががない時にセックスをしたなんて事実ではありません。」「僕は酔っぱらっていて君のような魅力的な女性が裸同然で僕のベッドに入ってきたので、ああなってしまったんです。」

別のe-mailでは山口は伊藤のレイプ疑惑を否定し、双方が弁護士に相談すべきだと言った。「もしあなたが準強姦だと言い張ったとしても勝つ見込みはないでしょう。」とも。

e-mailについて質問された時、山口は「伊藤さんとの会話ややり取りの記録は、自分の地位を利用して彼女を誘惑しようとする意志などなかったということを証明するものだ。」と語った。

そして「私のほうが、彼女から問題を被っているんです。」と付け加えた。

恥とためらい

伊藤はホテルから家に帰り体を洗った。今考えればそれは間違いだったと言う。「そのまま警察に行けばよかった。」と彼女は言った。

彼女がそれをためらったのは日本人女性としては自然なことだろう。御茶ノ水大学ジェンダー研究の戒能民江名誉教授は「性的暴行を受けた日本人女性の多くは自分自身を責めるのです。」と話す。

東京の性暴力救援センターのレイプカウンセラー田辺久子はホットラインに電話してくる女性に警察に行くようにアドバイスしても、信じてもらえないからと言って警察に行かない場合があるという。

「自分たちが悪いことをしたと言われると思っているんです。」と彼女は語る。

伊藤は自分を恥ずかしく思い、何も言わずにおこうと思った。男性上位のメディアの世界で成功するには、我慢するしかないかもしれないと思ったのだ。でも事件の5日後に警察に届けることを決心した。

「もし私が今、真実に立ち向かわなかったら、これからジャーナリストとして仕事をして行くことはできないだろう。」と考えたと思い出した。

警察に行くと、はじめ告訴はやめた方がいいと言われ、事件について話しても信じてもらえなかった、彼女が話すときに泣いていなかったという理由で。「山口の地位から言って事件の追及が難しいだろう。」という警察官もいた。

けれどもホテルの防犯カメラの映像を見てくれと彼女が訴えた後、警察は本気になった。

2か月間捜査が行われ、彼女がベルリンでフリーランスの仕事をしていた時に警察から電話があった。タクシー運転手の証言、ホテルの防犯ビデオ、彼女のブラから見つかった山口のDNAテストの結果に基づいて山口氏を逮捕する準備をしているというものだった。

ワシントンから東京に戻ってくる山口を2015年6月8日空港で逮捕する予定なので、調査に協力するため日本に戻ってきてほしいと言われた。

しかしその当日に、刑事から電話があった。刑事は空港にいるが上司が先ほど彼に電話をしてきて逮捕するのをやめるように指示したという。

「どうして」と聞いたが刑事は何も言えなかった。

伊藤はその刑事を守るために彼の名前を公表しない。警視庁は山口を逮捕する計画をやめたかどうかについて何も言わない。「われわれはすべての法律の下、可能な限りの調査を行い、すべての文書と証拠を東京地方検察庁に送りました。」と広報は言った。

「強くあらねば」

日本政府の最新の調査である2016年の統計によると、日本で警察に届け出があったレイプ事件は989件これは100,000人の女性につき1.5件の割合になる。FBIの統計によると米国ではレイプは114,730件で100,000人(男女合計)のうち41件の割合となっている。

学者によるとこの違いは犯罪率の違いではなく、日本では実際に報告する被害者が少ないこと、また警察や検察の態度による違いだという。

今年の夏国会は性犯罪に関する法律を110年ぶりに変更した。レイプの定義にオーラル、そしてアナルセックスを含め、男性も被害者として認めるようにした。また、懲役の最短期間を長くした。しかし、この法律はいまだに「同意」について触れておらず、裁判官は執行を猶予付きにすることができる。

そして、最近の事件にもかかわらず、大学で性犯罪についてほとんど教育がされていない。千葉では新入生のためのコースで、最近起こったギャングレイプは「不幸な」事件であり、犯罪を犯さないようにと漠然と言うだけにとどめている。

伊藤の事件の場合、山口が首相と関係があることで、見逃してもらったのではないかという疑惑も残る。

伊藤が事件について声を挙げてから、日本のジャーナリスト田中あつしはこの事件について警視庁に質問した。

安倍首相の元内閣官房長官秘書官の中村格は調査官が山口を逮捕する準備をしていたことを認めた。そして、彼が逮捕をやめさせたのだと、田中は週刊新潮で報道している。

この事件では、TBSにおける山口の立場に影響はなかった。しかし、去年議論の対象になった記事が発表されたことでネットワークからの圧力があり、山口はTBSを辞職した。彼は今はフリーランスジャーナリストとして働いている。

伊藤は10月にこの経験についての本を出版した。しかし、日本の主なメディアではあまり取り上げられなかった。

この事件について調査した数少ないジャーナリストの1人望月衣遡子はニュースルームで男性記者からの反発を受けたと言う。伊藤がすぐ病院に行かなかったという理由で彼女の話を信じない同僚もいた。

彼女は「性的暴行についてプレスは取り上げない。」と語る。

伊藤は「だからこそ、告発したのだ」と言う。

「強くならねばと思いました。」と彼女は語る。

「こんなことは許されない、そしてそれはなぜかということを訴え続ける必要があるのです。」

参照記事

#MeToo Japan: What happened when women broke their silence (BBC 2018.4.25)

Japan’s education minister apologises for using ministry car to visit ‘sexy yoga’ studio (The Telegraph 2018.4.25)

Japan’s #MeToo: senior bureaucrat resigns over sexual misconduct allegations  (The Guardian 2018.04.19)

She Broke Japan’s Silence on Rape (The New York Times 2018.12.29)

 

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