Last Updated on 2019-12-26 by ラヴリー
ジャーナリスト伊藤詩織が元TBS記者山口敬之から性暴力を受けたとして損害賠償を求めた民事裁判で勝訴したことは日本でも報道されましたが、イギリス、アメリカをはじめとする海外メディアでも同時に大きく報じられました。遠い外国の性暴力事件がどうして世界のニュースになったのでしょうか。海外メディアでの報道はこの事件に関与する背景なども詳しく説明されており、日本メディアでは報じられていない情報も語られています。
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伊藤詩織性暴力事件
2015年4月に伊藤詩織が山口敬之に性暴力を受けたと訴えたケースははじめ刑事事件として扱われ、警視庁は準強姦罪の容疑で山口を書類送検しました。結局、嫌疑不十分のため不起訴となったこの事件に関しての詳細は下記の米ニューヨークタイムズ紙の記事を参考にしてください。
民事裁判勝訴がなぜ海外ニュースに?
この性暴行事件が刑事裁判で不起訴となったあと伊藤詩織は民事訴訟に踏み切ったのですが、勝訴となった結果が12月18日に東京地裁から発表されました。
このことは日本でもニュースになりましたが、日本の社会面で扱われる事件としては珍しく、英米をはじめとする海外メディアでも瞬く間に広く報道されました。国際的な重大事件でもないのに、どうして海外でこんなに関心が高かったのでしょうか。
実はこの事件については数年前からニューヨークタイムズやBBCをはじめとする海外メディアが取り上げていて、国外でも関心が高かったのです。逆にいえば、このように海外で報道されたことで「外圧」によって国内世論も変わって行った経緯があります。
事件のあと、伊藤詩織が性暴行事件として山口敬之を告発し刑事事件として逮捕直前までいったのに、逮捕が取り消された経過がありました。山口が有力者であり強力なコネがあったのがその理由ではないかと取りざたされており、その経過は海外のメディアで報道されています。
そんな中、告発した彼女に対するメディアや一般の反応は厳しいものでした。特に女性議員や漫画家などが公然と彼女を批判したこともあり、伊藤詩織はさまざまな中傷を受け、その被害は彼女の家族や近しい人々に及びました。
それで彼女はこれまで通りの生活をつづけることも難しくなり、イギリスにわたることになったのです。
BBC番組「日本の秘められた恥」
イギリスのBBCは彼女の事件についてのTVドキュメンタリー番組「日本の秘められた恥」を作りました。
これはイギリスのメインTV番組として報道され、動画も拡散されましたが、日本では未だに報道されていません。
この番組では事件の事情や背景、刑事事件として捜査されたのに、なぜか直前で逮捕が取り消されたこと、伊藤詩織に対する中傷があったこと、彼女が自宅で盗聴の心配までしていたことなどに加え、性暴力事件の背景となる日本社会や慣習、司法や制度の仕組み、政治の在り方などに鋭く切り込んでいました。
この番組は日本では報道されなかったし、YouTubeなどにアップされた動画も削除されたのにもかかわらず、日本でもでかなり話題になりました。それについては下記の記事に紹介しています。
勝訴についての海外メディアの報道
上記のテレビ番組を作ったBBCは今回の勝訴ニュースについて速報で伝えました。
BBC
「日本人ジャーナリスト伊藤詩織レイプ事件で山口敬之に3万ドルの賠償金」https://t.co/WCZJiumu7P— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) December 18, 2019
さらに、BBCワールドニュースで大井真理子記者はかなり切り込んだ情報を交えて伝えています。
山口敬之は安倍首相と関係が深い。
日本ではレイプについて報告する人が4%しかいないが、 伊藤詩織はあえてそうしたことでひどい中傷を受けた。
日本の性暴行事件に関するあり方には様々な問題がある。
女性警官は8%しかいないし、 伊藤詩織は起訴をしない方がいいと忠告された。
Shiori Ito became the face of 🇯🇵’s #metoo
Today, in a landmark case, @photograshiori won a civil case against high-profile journalist Noriyuki Yamaguchi.
伊藤詩織さんと元TBS記者の山口敬之さんの民事訴訟を伊藤さんが勝訴。@BBCWorldでも速報でとりあげました。 pic.twitter.com/IMFrV8RvFz
— Mariko Oi 大井真理子 (@BBCMarikoOi) December 18, 2019
ほかにも、英米をはじめとする各国のメディアがこの勝訴ニュースについて事件の詳細と共に次々と報道しています。
多くのメディアはこの事件が日本のMeToo運動の勝利であるととらえ、女性の地位向上が立ち遅れている日本での画期的な出来事であるとしつつも、性暴力に関する日本の警察や司法などの問題を批判しています。
レイプ事件の取り調べの際に女性警官が担当せず、複数の男性警官の前で等身大の人形を相手にレイプ現場を再現しなければならないことについてはセカンドレイプにあたると指摘。
さらに、この事件で刑事訴訟が不起訴になったことについて、山口敬之の安倍首相との関係がその理由にあると示唆する記事もあります。
英ガーディアン紙
「日本の MeToo運動を代表する伊藤詩織がレイプ訴訟に勝利」https://t.co/cVO0AvdjiQ— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) December 18, 2019
AFP
「日本のジャーナリストが有名な #MeToo 訴訟で勝利」https://t.co/vCOLa7HgHE via @YahooNewsTopics— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) December 18, 2019
英サンデータイムズ紙
「日本の #MeToo 事件で安倍首相の伝記著者が年下の同僚伊藤詩織をレイプ」https://t.co/u3YyuKFhtu
— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) December 22, 2019
米ワシントンポスト紙
「日本人ジャーナリスト伊藤詩織が有名なレイプ事件で勝訴」https://t.co/HFEtHpTlT3
— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) December 22, 2019
— ラブリー@news from nowhere (@1ovelynews) December 18, 2019
12月19日に行われた日本外国特派員協会での記者会見でも、海外メディア特派員ら約100人が出席し関心の強さをうかがわせました。
山口敬之への質問では
「意識のない就職活動中の女性に性行為をすることがパワハラに当たるのでは」とか
「刑事捜査で逮捕状が取り下げられたのは上級国民扱いではないのか、首相官邸への何らかのはたらきかけがあったのではないか」などというものもありました。
また、世界経済フォーラムの男女格差指数で日本が121位になったことを挙げて、「安倍首相は女性を輝かせようとというが、口ばかりで何もしていない」と批判する記者もいました。
日本メディアの報道
このニュースに関しては日本メディアでも報道されていましたが、外国メディアに比べると通り一遍の情報にとどまっているようです。
それには、様々な思惑や忖度が背後にあることがうかがわれます。
例えば、TBSでは「報道特集」の金平茂紀キャスターが「いつの日かこの問題を取り上げたい」と語り、今の段階ではできないという制約があることがわかる表現をしています。
それでも、勝訴前の報道に比べると日本メディアの報道姿勢が変わりつつあることは感じ取れます。
この事件だけでなく、#KuToo運動や日本の職場で女性がメガネを着用することを禁止する問題も海外ではニュースになっています。海外、特に欧米諸国から見ると、日本は「先進国」のはずなのに、女性が貶められ人権を尊重されない後進国だと驚きと軽蔑の目を持って見られています。
このような事例に加え、世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップの低さでもあらわになった日本の闇に世界中が憤っていて「何とかしろ」と言っているのです。
これらは本来、日本社会やメディアが取り組まなければならない問題です。けれども日本が自ら変わろうとする動きがいつまでたっても加速しない中、「外圧」はたしかに追い風になってくれるでしょう。
あとはその風にのるだけ。
(敬称略)